3、二歳児の一人称が急に僕から私になったら誰でも驚く
今回は別視点からです。
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私はジュリア・フォン・ソーダライト。皇太子殿下付きの侍女だ。
最初、この役目を仰せつかった時には舞い上がった。帝位継承権第一位という大層な地位を持つお方の御世話が任せて貰えるほど、自分は期待と信頼を得ている。そう思ったのだ。当時、私が聞かされていたのは殿下の母君に当たる皇后陛下がお病気であること、そのため殿下に注意を払う者が不足し、少し我が儘な性格に育ったということ、それで前任者が音を上げたこと、だけだった。
それだけを聞かされた私は深く考えず、前任者の忍耐が足りなかったのだと結論付けた。そもそも幼子というのは多少我が儘な物だとも思っていた。歳の離れた弟の世話をした経験があるから、自信があった事もある。
しかし、事態は私の予想の範疇を越えていたのだ。
天使のような見た目とは、文字通り正反対な言動。
投げつけられる絵本や玩具。人を傷つけるような行為をしてはいけないと諌めても、そもそもこちらの話に興味を持って下さらない。
かと思えばいつの間にかいなくなっており、近衛兵を巻き込んで宮殿を捜索する事に。
あれをしろ、これをしろ、と言い付けられる意味もない命令。
従わなければ物を投げつけられる位ならまだマシな方。どこから手に入れたのか、小さな鞭で打たれることも度々。
へとへとになってベットに倒れ込む日々。日課のお祈りさえ忘れることもしばしば。
たった数週間で、私は疲れはててしまった。
たった二歳の幼児の世話をしただけで、だ。
あれほどあった自信も打ち砕かれてしまった。
殿下の御世話係を辞めさせてもらい、暫くの間暇をとろうとさえ思っていた時。
殿下が体調を崩された。
驚く程の高熱に、このまま亡くなってしまうのでは、と心配した。常日頃から祈っている神に、彼を助けてくれるよう祈った。これまでされた数々の仕打ち以上に、幼い子供を案じる心が勝った。
そして。私の祈りが天に通じたのか、それとも典医に処方された薬が効いたのかは定かでないが、奇跡的に殿下は回復した。
その後の殿下の変わり様は驚くべきものだった。我が儘な性格や乱暴な行為は鳴りを潜め、それどころか足しげく図書室に通い読書をなさる毎日。また、一人称も「僕」から「私」に変わり、言葉遣いも意気高だかな物言いから丁寧な話し方になった。ちょっとした事にもお礼の言葉を下さるようになり、驚いたのは最初のうちだ。
今では「どういたしまして」と笑顔で答え、以前は目が合うと何か言われると背けていた顔を向け、ふわっと笑う殿下の笑顔を見つめる余裕もある。
気が付くと、私はこの小さなご主人様が大好きになっていた。
この間までは慰めの言葉を掛けてきた同僚から、羨望の眼差しを送られるようになった。
実家に手紙を送る余裕もできた。
殿下の護衛の騎士さんとも話す時間もできた。
自由な時間、新たな友人。殿下の変化は私に沢山の物を与えてくれた。