小話 眠り姫争奪戦
アデルリアが倒れてからフィラルド王国に着くまでの王子二人のお話です。
この話は小話なので大幅改稿に伴う変更はあまりありません。
アデルリアが倒れた日の翌日、二人の王子は眠っているアデルリアと共にフィラルド王国へと旅立つこととなった。
しかし、その旅路は最初から衝突ばかりで……
王都から転移装置でフィラルド王国との国境に近い都市まで転移した二人は、今から馬車で国境を越えようとしていた。
「なっ……何をやってるんだい、リューン王子」
「何って、アデルリアを馬車に乗せるために抱えているのですが」
「そういうことはオレがやるから。リューン王子は乗っているだけで大丈夫ですから」
「いえ、お気遣いなく。好きでやっていることですので」
「気遣いとかじゃなくて……ってもう居ないし‼︎」
リューン王子は、アデルリアを抱えてさっさと馬車に行き乗り込んだ。
既に座っているので、仕方なくカイナス王子も乗る。
次に馬車から降りる時はオレがアデルリアを……‼︎そう意気込んでいると、馬車は出発した。
馬車が出発して数時間。カイナス王子はイライラしてきた。
最初は眠っているアデルリアを眺めて楽しそうにしていた。婚約する予定だったとはいえ、頻繁に会えていたわけではない。しかも、顔をジッと見つめるなんて出来るわけがない。だが、今はそれが出来る。
眼を閉じると睫毛が凄く長いな、唇がぷっくりしていて可愛いな、とか色々思いながら存分に眺められるのだ。何て至福のひとときなんだと楽しんでいた。
それはリューン王子も同じだった。アデルリアを膝の上に乗せ、嬉しそうに眺めて堪能していた。
しかし、途中で二人の間に差ができる。
そう、リューン王子はアデルリアを膝の上に乗せているのだ。簡単に触れられるのだ。
リューン王子はアデルリアの髪や頬などを大事そうに撫でた。そう、例えるなら子供を膝の上で寝かしつけている感じだ。
カイナス王子はだんだん腹が立ってきた。
「リューン王子、そろそろ足が痛くなりませんか?オレが代わりますよ」
「カイナス王子、お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。寧ろアデルリアの側にいられて嬉しいくらいです」
「はははっ、オレにもその幸せ、分けてもらいたいですねー」
「それは難しい相談ですね」
暫し沈黙が流れた。カイナス王子は腹が立ってきた。リューン王子ばかりアデルリアを独り占めしていてずるいと。
カイナス王子は良いことを思いついた。
「リューン王子、一つゲームをしませんか?アデルリアを誰が膝枕するかを賭けて」
「ゲームですか?」
「簡単なゲームです。アデルリアの良いところやアデルリアとの思い出を一つずつ言っていきます。それでネタが尽きた方が負け」
「良いですよ」
カイナス王子は心の中でガッツポーズをした。思い出に関しては、一緒にいる年月が長い自分に部があると踏んでこの勝負を持ちかけたのだ。
そしてアデルリアを膝枕する権利を賭けた戦いが幕を開けた。
「美しい」
「可愛い」
「高潔」
「厳しいが優しい」
最初は二人ともアデルリアの良いところを言い始めた。二人とも速いテンポで言い続ける。しかもなかなかネタ切れにならない。
そして、国境を超え、夜になったので宿屋に泊まることとなった。もう遅いので勝負は一旦中止し、また明日馬車の中で行うこととなった。
「リューン王子、今度は自分が」
「勝負で決めるのでしたよね?ならこのまま勝負がつくまでは私が運ぶ時も抱えますよ」
そう言いリューン王子はさっさと歩いて行った。
アデルリアが心配な二人は部屋で夕食を取った。そして、一人で寝かせるのが心配なため三つベッドを並べてもらい真ん中に寝かせた。
これには旅に同行している従者たちも呆れている。
「寝ているアデルリアに指一本でも触れたら……」
「女性にそんなことするわけないじゃないですか。カイナス王子こそ、何かしようとしたら、生きて朝を迎えられませんので」
こうして紳士な王子二人は眠りについた。
次の日の朝、出発の準備をし、馬車に乗り込むと早速昨日のゲームの続きをした。
そして良いところを上げ終えたカイナス王子は、アデルリアとの思い出話をし始めた。
「あれはオレがアデルリアを初めて意識した日のことだ。十歳の時ウェルメール公爵家を初めて訪れた。その日は他の有力貴族の子供たちもいた。庭でボールを使って遊んでいたのだが、王子に怪我をさせてはいけないと、皆オレにだけ本気で投げてはくれなかった。しかし、アデルリアだけは身分に関係なく接してくれて、誰に対しても本気でぶつからないのは失礼よと、他の者たちに言ったんだ」
「へえ。それは素敵ですね」
「だろ?あの瞬間、オレは恋に落ちたんだ」
「では、次は私が話しますね」
カイナス王子渾身の話を、笑顔でさっさと切り上げるリューン王子。カイナス王子はムスッとしている。そんなことには御構い無しにリューン王子は話し始めた。
「では、私がアデルリアに恋した瞬間を話しましょう。まずは一目惚れです。あの美しい容姿、凛とした姿を見て一目で心を奪われました」
「……ん?それだけ……ですか?」
「はい。あっ、もう着いたようですね。残念ながら決着はつきませんでしたね。まあ、ずっと抱えていた私の勝ち…という所でしょうか」
「えっ⁈えぇっ⁈」
リューン王子はアデルリアを抱えてさっさと転移装置へと向かった。
「オレの負け⁈まだいっぱい言いたいことあるのに……チクショー‼︎」
カイナス王子は、悔しがりながらリューン王子を追いかけた。
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学園に入学して暫くたったある日のこと。
放課の時間にクラスメイトが外で遊んでいる。リューン王子やカイナス王子はクラスの皆に囲まれている。
アデルリアはベンチに座りその光景を眺めながら読書をしていた。
すると先程まで輪の中にいたリューン王子が隣に座った。
「ここに座っていてよろしいのですか?」
「ああ、皆楽しそうに遊んでいる。私がいなくても大丈夫だよ。カイナス王子もいるしね」
「リューン王子は人との間に壁をお作りになるんですね」
「えっ?」
「不躾な物言いすいません。いつも人の輪の中心にいるのに、一歩引いて皆を見ている。一緒にいるのに一人でいるみたい。まあ、私はそもそも一人ですが」
「君は…皆の輪に入らないのかい?」
「入らないじゃなくて、入れないです」
「どうして?」
「嫌われているから。だから人に好かれるのは凄いことなんですよ」
「そうかな……」
「すいません。余計なことを言って。王子というお立場ですしなかなか難しいですよね。ふふっ、私たち思われ方が全然違うのに、今こうしてポツンと一緒に皆を眺めている。それが不思議に思えて」
「君は嫌われてなんかいないよ」
「えっ?」
「少なくとも私は君のことを嫌っていない。寧ろ君のことが……」
オレは彼女の頬に手を添えようとした。しかし、触れる前にいきなり彼女は倒れた。
「アデルリア‼︎」
彼女は気を失っている。彼女の側にはボールが落ちていた。このボールが頭に当たって気を失ったのだろう。
しかし、気づけなかった。いくら気が緩んでしまっていたとはいえ、オレなら普通気づけたはず。一体どこから……
「ごめんなさーい。ボールがこっちに行ってしまいまして……。ああっ‼︎アデルリアさん‼︎すいません。私の投げたボールが当たってしまって」
遠くから駆け寄ってきたのはリアだ。彼女が投げたのか。このボールは普通に投げられたわけではない。多分投げたボールを途中で瞬間移動させて、彼女の側で出現させたのだろう。確実に彼女を狙っての犯行だ。
しかし、側にいたオレも目で追えてないし、茂みの向こうから来たということは、その奥でボールで遊んでいたのだろう。
なら遊んでいた仲間は茂みに消えたところまでしか見ていないはずだ。誰もみていない。
恐ろしい女だ。何故こいつが人気なのか不思議で仕方がない。
オレはアデルリアを抱えて医務室へと向かう事にした。
「リア。休み時間にボールで遊ぶ時は、あまり全力で投げない方が良いと思うぞ。たくさんの人が外で遊んでいているからな」
「はあーい。すいません、リューン王子」
「アデルリア、大丈夫か⁈」
「ああ、カイナス王子。ボールが当たって気を失っているので、今から医務室に連れて行きます」
「なら、オレが……」
「大丈夫ですよ。私が運びますから」
そう言い、オレは医務室に運んだ。
アデルリアをベッドに寝かせ、横に腰掛ける。するとボールをぶつけた頭が痛いのか眉間に皺を寄せている。
オレは氷魔法と回復魔法を組み合わせ、冷やしながら腫れを引かせていった。
すると優しい顔つきに戻った。
オレは彼女の頭を撫でた。長い髪をひと束すくい、口づけをする。
愛おしい。こんな感情は初めてだ。初めは一目惚れだった。だが、それは本当に好きになるためのキッカケに過ぎなかった。正しいことは正しいという。少し融通はきかないが、真っ直ぐで芯が強い女性。
でも寂しがり屋。嫌われるのは仕方ないと思いつつも、皆の輪に入りたい。
人が好きなのだろう。だからなのか、人をよく見ている。
オレのことも……。あんな風に見透かされたのは初めてだ。うまくやっているつもりなのだが、まさか言われるとはな。
正直、人とは表面上の付き合いだけで構わない。深入りすると、碌なことにならない。オレは今まで生きてきて、そう学んだ。
この容姿と甘い言葉で大抵の女性は、好意的に思ってくれる。謙虚にし、角が立つ事をしなければ男性にも嫌われない。
オレは器用な方だから、そうやって上手く生きてきた。
なのに……。
本当に不思議な女性だ。
初めて欲しいと思った。アデルリアにオレを見て欲しい。こんな気持ちは初めてだ。
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オレはアデルリアを抱えながら、恋に落ちた日のことを思い出していた。先程、カイナス王子とアデルリアについて話していたからだろう。
だが、この話はカイナス王子にするつもりはない。
オレはこう見えて強欲なんだ。オレとアデルリアの思い出だ。他の誰かには話したくない。二人だけの思い出だ。
ただ残念なことに、アデルリアは頭を打った衝撃で、その出来事を忘れてしまったのだ。
アデルリアにはいつか話そう。
話をしたらどんな顔をするだろうか。こんな出来事で好きになったの?と言われるかもしれない。
でも、オレにとっては大切で大きな出来事なんだ。
話す時が今から楽しみだ。
こうしてリューン王子は、軽やかな足取りで転移装置でフィラルド王国の王都へと赴いたのだった。