第16話 二度目の冤罪
リューン王子殺害容疑で逮捕された私は、フィラルド王国の王宮内の地下にある一室で軟禁されていた。
牢屋とは違うが、窓はない部屋。部屋の中には魔法陣が描かれており、そこから外へ出ることが出来なくなっている。
完全手詰まりだ。
ただ、スカートの下に隠し持っている短剣には、気づかれなかった。まあ、公爵令嬢がそんな物を所持しているとは誰も思わないだろう。
これは、もしかしたらどこかで役立つかもしれない。大事に持っておこう。
私は何か冤罪を晴らす手掛かりがないかと、リューン王子の私室で起きた事件について思い出していた。
確かリューン王子に呼び出されたのよね。部屋にいたリューン王子は、途中で急に顔色が悪くなり、手が震えていた。
心配になった私は、リューン王子の手に触れようとしたが、手を振り払われてしまった。
次の瞬間、リューン王子は叫んだ。
「アデルリア、逃げろ‼︎」
私はビックリして固まっていると、リューン王子は帯刀していた剣を抜き、私に向けた。
しかし、剣を向けていた右手を止めるように左手で抑えている。
そして剣先を自分に向けて刺した。
その瞬間自分の中で何か異変を感じた。私は震える手でリューン王子が自分で刺した剣を引き抜いた。そしてリューン王子は床に倒れこんだ。
まずは、事件を整理してみよう。
Q.そもそもリューン王子は死んだのか?
A.分からない。夥しい量の血は流れていたが、生死の確認を取る前に私は連れて行かれた。
ただ、あの量の出血では……生きている可能性は低い。
私は保険をかけて連れて行かれる際、兵に気づかれないように魔法でマーキングをした。魔力が高いものだけが分かる印をつけた。これを辿れば、私が軟禁されている場所まで来れるように。
リューン王子の魔力なら気づけるはず。リューン王子が生きていればの話だが。
それに、ここは王宮だから他にも魔力の高い人はいる。その人が騒ぎを聞きつけて、これを見つけてくれるかもしれない。
ただ、犯人に見つかりマーキングを消される可能性もあるが。
でも、やらないよりはマシだろう。助かる確率は少しでも上げたい。
Q.私たちは操られていたのか?
A.可能性は高い。
リューン王子は手で剣を抑えようとしており、まるで誰かに操られているみたいだった。そして私も。体が勝手に剣を引き抜いた。
Q.では、何によって操られたのか?
A.毒……の可能性は低いわね。私の知る限りではそんな毒は聞いたことない。
魔法……の可能性はあるわ。人を操る魔法は存在する。一定時間の行動をその者の意思とは関係なく操ることが出来る。
ただ、これを行うには予め相手に魔法を施さなくてはならない。
Q.では、いつ誰に掛けられたのか?
A.魔法の効力はせいぜい一、二日くらいが限度だ。じゃあ、一昨日から事件が起こるまでの間に施されたことになる。
「痛っ……‼︎」
一昨日からの出来事を思い出そうとしたその時、急に強い頭痛が私を襲った。頭の中に映像が流れ込む。
**********
ここは……軟禁されている部屋。
私は部屋の真ん中に座っている。
暫くすると、部屋のドアをノックして兵が入ってきた。
「アデルリア=ウェルメール。貴殿の刑が決定致しました。どうぞこちらへ」
兵は魔方陣を解き、私に縄をかけて歩き始めた。
連れてこられた部屋には二人の男がいた。貴族と思しき男が一人と、医者のような格好をしている男が一人。
私は一番奥にある椅子に座らされた。座ると背もたれと体を縄で括り付けられ、足も縛られた。
「あっ、あの。これは一体…」
すると貴族と思しき人が一人前に出ていて言った。
「今回の事件は大変痛ましい事件だ。しかも他国の貴族が我が国の王子を殺すという。国際問題に発展しかねない。しかし、我が国としてはメイルディーン王国とは良い関係でいたいんです。そこで今回の事件は隠蔽することにしました」
「隠蔽?」
「ええ、リューン王子は事故により不遇の死を遂げたことにします。そして貴方は公には裁かれない。これで、メイルディーン王国は我が国に一つ貸しが出来ました。今後のやり取りに有利に働きます。しかし、貴方をこのままにしておくことは出来ない。ですので、ここでひっそりと死んでいただきます」
貴族の男は下がり、医者のような男が私の前に現れた。持っていたケースを開けると、中身の入った注射器が複数入っている。男はその中の一本を取り出すと私の腕に触れた。赤い液体の入った注射器だ。
「いっ、いやっ……」
「大丈夫ですよ。すぐに死にますから」
「⁈」
毒殺だ。私はその注射針を打たれて殺される。私は必死で動こうとした。しかし、身動きが取れない。
そして、私は注射針を打たれた。
「あっ…あっ……あぁあああーー‼︎あぁあああーー‼︎‼︎‼︎」
痛い痛い痛い痛い
全身が焼けるように痛い
苦しい苦しい苦しい苦しい
呼吸が出来なくて苦しい
私は踠き苦しんだ。私の苦しむ様子を見て、医者のような男はため息をついた。
「はぁ、これは失敗ですね。こんなに煩く叫ばれては困る。暗殺ようには不向きですね。まあ、それが分かっただけでもよしとしましょう。人体実験のご協力感謝致します」
そして私は死んだ。
************
「いやあぁああああーー‼︎………はあ……はあ……生き……てる……」
今のは一体……。私は、死んで……いない。軟禁された部屋で、事件について考えていたら、急に頭が痛くなって……。頭に映像が流れて……。
私は息を切らして汗を拭う。
「うっ……。おえっ……うぐっ………」
先程の映像を思い出し、私は吐いた。苦しくて痛くて気持ち悪かった。早く殺してと思う程に、時が長く感じた。
なんてリアルな映像なんだろう。最初の場面はここだった。
もしかしてこれから起こることの予知夢みたいなもの?
すると扉が開く音がした。
「アデルリア=ウェルメール。貴殿の刑が決定致しました。どうぞこちらへ」
この兵は先程見た映像に出てきた兵。セリフも同じだ。
このまま連れていかれたら、私はあの映像のように……。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
あんな目には遭いたくない‼︎
しかしそんな思いも虚しく、兵士は魔方陣を解き、私に縄をかけた。
私は椅子から立ち上がり歩き始るとよろけて棚に飾ってあった花瓶に激突した。
花瓶は床に落ちて砕けた。
「すっ、すいません」
「……そのまま立て。歩くぞ」
私はさっと立って歩き始めた。
連れてこられた部屋には二人の男がいた。貴族と思しき男が一人と、医者のような格好をしている男が一人。先程と全く同じだ。
私は先程と同じように、一番奥にある椅子に座らされた。座ると背もたれと体を縄で括り付けられ、足も縛られた。
私は先程倒した花瓶の破片で、気づかれないように縄を切り始めた。
すると貴族と思しき人が一人前に出てきた。そして先程と同じことを言った。
言い終えると貴族の男は下がり、医者のような男が私の前に現れた。持っていたケースを開けると、中身の入った注射器が複数入っている。
このままでは私は……‼︎
すると巻かれていた縄が切れた。
私は素早く動き、太ももに装着していた短剣を取り出す。その短剣で足の縄を切り、私は医者のような男に斬りかかる。
医者のような男は驚き尻餅をつく。そして咄嗟に、手に持っていたケースで私の短剣を受け止める。中に入っていた注射器は床に散らばった。
すると貴族の男が私を後ろから羽交い締めにした。
振り払おうとするが、解けない。いくら鍛えていない人といえど男は男。私の力では太刀打ち出来ない。悔しかった。悔しくて涙が出てきた。
医者のような男は立ち上がり、近くにあった注射器を一つ拾い私に向かってくる。
「いっ、いやっ……」
ダメだ。殺される。私は必死で動こうとした。しかし、身動きが取れない。
ヤダ、あんな運命なんて受け入れたくない。
誰か……助けて‼︎
私は目を瞑り祈った。
すると急に扉が大きな音を立てて開いた。私はビックリして目を開けると、目の前にいた医者のような男は伸びている。
上を見上げるとリューン王子がいた。王子は肩で息をしており、お腹には血痕が付いている。
貴族の男は私を離し、リューン王子に向かって殴りかかる。それをリューン王子は軽くかわし貴族の男を気絶させる。
リューン王子は私の前に来て、私の肩に手を置いた。
「間に合って……よかったよ」
「リューン……王子……。わっ、私……王子は死んでしまったと……」
「心配かけてすまない。説明は今出来ないが、この通り今は無事ですよ」
「うっ……うわあぁあああーー」
私はリューン王子に抱きついてボロボロ泣いた。震えながら泣いた。
温かい。ちゃんと生きている。よかった。あのままリューン王子が死んでしまっていたら……私……。
するとリューン王子は私の背中に手を回し、やさしく撫でた。
「よく頑張ったね」
「わっ、私……頑張って戦ったけど、全然歯が立たなくて……ううっ、ううっ……」
「そんなことはないよ。君が頑張って立ち向かったから、オレは君を助けられた。君の頑張りは無駄じゃないよ」
「ううっ……うわあぁあああーー」
嬉しかった。私のしてきたことは無駄じゃないと言われて、嬉しかった。
撫でられていくうちに、私の震えは収まり泣き声も止んだ。
顔を上げて離れたいが、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃで、顔を上げれない。どうしよう。
するとリューン王子は、片手を離しそっとハンカチを差し出した。私はそれを受け取り広げて顔を覆う。
流石、リューン王子。モテ男は違うな。
「ありがとうございます、リューン王子」
「いえ。アデルリアも無事で良かったですよ」
「しかし、後一歩遅かったら危なかったな」
ふと横を見ると、カイナス王子がいた。側には気絶した貴族の男と、伸びている医者のような男が縄で縛られていた。
「カイナス王子どうしてここに⁈今は各地を訪問中では……」
「リューン王子にアデルリアが危ないって知らせを受けてね。たまたま転移装置のある場所の近くにいたから、なんとか間に合ったよ」
「そうだったのですね」
「オレはまずリューン王子の私室に行った。そうしたら驚いたぜ。まさかリューン王子が血溜まりの中、立ってるんだからな」
「すいません、驚かせてしまいまして」
「オレはリューン王子に事の経緯を聞いて、二人で部屋を出たらリューン王子が、魔法の痕跡を見つけてね。軟禁部屋に向かったら、アデルリアがちょうどこの部屋に移動するところで……本当に間に合って良かったよ」
カイナス王子は、優しく微笑み私の頭を撫でた。
「ところで、この床に散らばっているものが、貴方を殺すのに使われたものですか?」
私はリューン王子が指している方を見た。そこには注射器が落ちていた。
そう、あの男は映像の中で私を人体実験って言ってた。もしかして、他にも罪を重ねているんじゃ。
私は急に怖くなり震えた。
リューン王子は私の異変に気付き、倒れないように肩を抱いた。
「今回の件については、色々とこの男たちに聞きたいことがありますが、ここだと兵士が来るかもしれないですね。カイナス王子と手分けしてこいつらを運びますか。取り敢えず、情報を整理して対策を練らないことにはこの事件は解決出来ませんね」
「ああ。リューン王子とアデルリアを嵌めた犯人を探して懲らしめてやる」
「ええ、行きましょう」
こうして三人は、事件解決に向けて動き出すのであった。




