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第14話 王子のお忍び

 パーティーの翌日から、私は早速トレーニングに励んでいた。

 剣の素振りやストレッチは部屋で出来るが、走ったりは出来ない。しかし、屋敷の敷地内で走っていたら怪しすぎる。侯爵令嬢はそんなことはしない。それにミーニャに怒られる。

 自分を鍛えるのには中々に難しい環境だった。

 そこで私は屋敷に出入りしていた行商人に「この都を訪れた記念に、この街の人たちが着るような服が欲しい」と言い、購入した。

 変な侯爵令嬢と思われただろうが気にしない。


 こうして街の人と同じような服を手に入れた私はこっそり抜け出し、近くの川沿いの遊歩道で走り込みをしていた。最初はすぐに息切れして全然走れなかったが、数日経ってだいぶ走れるようになった。少しは体力の底上げ出来たかしら?


 勿論この数日、走っていただけではない。

 ちゃんとエレメア領内の街を色々見てきた。ただ、私の体調を気遣っていただき、全てに同行はせず、近くの街だけ同行した。だから案外私は暇だったりするのだ。


 私は今日は一日予定がない。しかし、カイナス王子は仕事で忙しく、リューン王子は今日は屋敷にいるはずだが見当たらない。

 なので今日は、外でトレーニングをしようと思う。勿論ミーニャに見つからないようにしないといけないから短時間だが。


 昼食を食べた後、部屋で読書をする、今日はおやつはいらないとミーニャに伝えて出かける準備をした。


 人がいないか確認し、こっそり部屋を出る。そして屋敷の庭に出た。屋敷の庭の隅に外との境目の柵がある。その柵は一箇所壊れているが、草木で覆われているので誰も気づいていない。

 何故そんなことに気づいたかというと、トレーニング出来る場所がないか人気の少ないところを探していたら偶然見つけたのだ。


 その柵の側に行くと一人の男の人がいた。その人はラフな格好をしており、帽子を被っている。困った、どうしよう。

 私は近くの茂みに隠れて暫く見ていた。


 その時急に突風が吹き、男の帽子が取れた。


「えっ⁈」


 私は思わず声を上げてしまった。


「アデルリア?」


「リューン王子?」


 そう、私たちは同じようにお忍びで出かけていたのだった。


 私たちは屋敷の敷地内でこんな格好をしているところを見つかると問題なので、取り敢えず外に出た。

 そして近くの公園のベンチに腰掛けた。


 リューン王子は綿で出来た簡素な長袖の服に、麻のゆったりした七分丈のズボンを履いている。海の街の住民に溶け込んでいる姿だ。


「リューン王子、その……」


「オレはたまに、息抜き兼街の声を直に聴きたくてこっそり街にきているんだ。王宮でもここでも」


 リューン王子は笑いながら答えた。意外だった。城を抜け出し、変装して街に出掛けるなんてする王子は、普通いないだろう。真面目でエレガントなリューン王子にこんな茶目っ気があったとは。


「アデルリアは?どうしてそんな格好で街に行こうとしてたのかい?」


 私はトレーニングの経緯を話した。それを聞いたリューン王子は目を丸くしている。


「ふっ、アデルリアは面白いね。なかなか貴族の娘が考えつくことじゃないよ。考えついても、普通は行動に移さない」


 ……ですよね。リューン王子に呆れられちゃったかしら。


「ああ、でも確かに君に何があるか分からない。自分の身を守る術を身につけることはとても良いことだと思うよ。ちょっと一緒に来て欲しいところがあるんだけど、いいかい?」


「?」


 私はリューン王子に連れられて、街の外れにやってきた。


「ここは……孤児院?」


「ああ。そうだ、ここではリーンと名乗っているから、アデルリアもそう呼んでほしい。勿論、敬称はなしで、呼び捨てで」


 そう言い、リューン王子は私に入るように促す。リューン王子が中に入ると、子供たちがわらわらと寄ってきた。


「リーン、久しぶりー」


「リーンお兄ちゃん、絵本読んでー」


「リーン、オレと剣術の稽古してくれよー」


 寄ってきた子供達は皆、おもいおもいに話している。

 すると、一人の子が私を見つけ指をさした。


「ねえ、あのお姉ちゃん誰?リーンの彼女?」


 かっ、彼女⁈

 私はいきなり言われた言葉に赤面した。


「ははっ、そうだったら良いんだけどなー。今は残念ながら口説き中なんだ」


 リューン王子は笑いながら話している。


「リーン、もっと頑張れよー。じゃないと誰かに取られちまうぞー」


「お姉ちゃん、リーンはとっても良い人だから……。えっと……お買い得?なの‼︎」


 子供達は言いたいことを言っている。


「お姉ちゃん、お名前は?」


 えっと、なんて答えたら良いんだろう。リューン王子もリーンって名前を変えて名乗ってるし。

 私が考えていると、リューン王子が言った。


「このお姉ちゃんは、アーデルって言うんだ」


「アーデル姉ちゃんも一緒に遊ぼうぜー」


「遊ぼ遊ぼー」


 私たちは子供達に引っ張られながら孤児院の庭へと移動した。


「せいっ、やあっ‼︎」


「うん、なかなか筋がいいよ。もしかして素振りの練習とかしてたのかな?」


 私は子供達に混ざって剣術の稽古をつけてもらった。

 前世で私は聖女としてモンスターと戦ったりした経験があったので、多少は剣も使えた。

 その時の記憶を頼りに部屋で素振りをしていたが、なんとか形になっていたようで良かった。


 一頻り遊び、私は庭のベンチに腰掛けた。子供やリューン王子の体力は凄い。最近鍛え始めたけど、全然ついていけない。

 リューン王子は子供達に剣術の指南をしている。その顔は凄く楽しそうだ。

 あんな表情初めて見た。王子としての彼とは全然違う。


 すると急に頭痛がした。まただ、また頭の中に一気に流れ込んでくる。


**********


 ……これは前世の私の記憶ね。

 子供たちがたくさんいて、私と一人の男の子が剣術の稽古をしている。


 そう、ここは孤児院。私はこの孤児院にきて子供達と遊んでいた。


「やあっ‼︎とおっ‼︎」


「くっ……やあっ‼︎」


「またオレの勝ちだな」


 私は小さい男の子に負けていた。濃紺の髪の男の子。あれ?この子前にも出てきたような……。

 覚えていないけど、きっと親しい間柄だったのだろう。


「相変わらず強いわね。私も頑張って剣術の稽古してるけど、一度も勝てないわ」


「お前に負けるようじゃおしまいだよ」


「なっ、なんですってー‼︎」


 私は怒ってむくれている。髪や服は汚れており、肌には擦り傷がいっぱいだ。そりゃ小さな男の子に、こてんぱんに毎度負けてたらムキにもなりたくなる。


「次はぜーったいに勝ってみせるんだから‼︎」


「オレが負けるわけがないだろ。……好きな女に負けるなんて恥ずかしくて出来ないし」


「えっ?なんて言った?最後の方聞こえなかったんだけど」


「なっ、何でもない‼︎」


「そろそろ、お昼の時間ね。行きましょう、ーーー」


「ああ、ーーーー」


 こうして二人はお昼を食べに建物の中に入っていった。



**********

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