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第1話 私が悪役令嬢だからって、こんな仕打ちは酷すぎませんか⁈

 ここは牢獄。そう、私は捕らえられたのだ。

 ある者に嵌められて、無実の罪を着せられた。今日は17歳の誕生日。最悪な誕生日だ。


 何度も私はやっていないと叫んだが、誰も聞く耳を持ってくれない。

 それもそのはず。私は悪役令嬢なのだ。

 私がその事実を知ったのはつい先程。捕らえられた時に前世の記憶が蘇った。


 私は前世では聖女だった。皆から慕われ、愛されていた。そんな私が人から『皆から嫌われ、家族からも呆れられている残念な令嬢』と噂される人になってしまった。

 誰かが『貴方は"悪役令嬢"だから〜』って言っていたのよね。誰だったか覚えてないけど、私の状況にしっくりくる言い方ね、と思ったので自虐的にそう言う呼ぶ事にした。

 前世の記憶を取り戻す前の私は、正直それ程酷い人物では無かった……はず。少しキツイ言い方をする人ではあったが…。

 でも皆には嫌われていた。なんでそんなに嫌われるの⁈と言いたくなるくらい嫌われていた。どんな業なのかしら。

 そんな私が罪を犯しても、当然誰も可哀想とは思わない。寧ろいなくなってせいせいすると思われているに違いない。

 なので、無実だと叫んでも誰も聞く耳を持たないのだ。


 私の罪は、王様を殺した罪。無論、そんなことはしていない。ただ、呼び出されて王様が死んだ直後に出くわした。多分犯人が私を犯人に仕立てる為に呼んだのだろう。

 呼び出しの手紙の差出人は、婚約者であるカイナス王子だ。青い短い髪と瞳で爽やかな王子だ。

 しかし残念な事に、前世の記憶が蘇り、自分を客観的に思い出すと、王子は私を避けていた。

 私もバカだ。その時の私は前世の記憶はなく、王子に嫌われているとは思っていなかった。ただ純粋に王子に恋していたのだ。だから、王子からの呼び出しの手紙に心浮かれて行った。

 しかし、行った場所では王様が死んでいた。そしてその後、すぐに近衛兵がきて囚われた。

 牢に入ってから兵士から王子との婚約破棄が言い渡された。まあ、親を殺した人と婚約は普通しないしね。当たり前だ。


 しかし、そもそもその手紙は本当に王子からのだったのか?メイドから手渡されただけなので分からない。確かに筆跡は似ていたが、犯人が似せたのかもしれない。

 もし、本当に王子だった場合、王子は本当に酷くて怖い人だ。

 実の親を殺し、その罪を嫌っている婚約者に擦りつける。冷酷非道な人だ。


 どちらにしても犯人にとって嫌われ者として有名な私は、罪を擦りつけるのに好都合な相手だったのだろう。

 現に、誰も疑わない。助けようとしない。


 しかし、困った。こんな詰んだ状態で今更思い出しても何も出来ない。こんな事なら何も思い出さずにいたかった。

 何故なら私はこの後処刑される。王族殺しは極刑だからだ。


「出ろ。時間だ」


 牢屋の扉が乱暴に開かれた。処刑の時間がやってきたのだ。

 私は兵士に乱暴に縄を引っ張られ、その反動で転んだ。


「グズグズするな‼︎ほら、さっさと行くぞ」


 私は縄を引っ張られ強制的に立ち上がらせられた。薄暗くて細い廊下を歩くと明るい開けた場所に出た。


 そこには処刑台があり、たくさんの人が私の処刑を見にきている。たくさんの罵声が聞こえる。皆、王様を殺した嫌われ者の令嬢が死ぬ瞬間を待ちわびているのだ。

 自慢だったピンクの艶やかな長い髪もすべすべな肌も今はボロボロ。緑の瞳は涙で濡れている。

 ボロ布を纏い引きづられている私の姿を見て、皆が喜んでいる。


 足が竦む。



 死にたくない死にたくない死にたくない。



 体は震えて歯はガタガタ鳴る。


 しかし、兵士は私を引っ張り処刑台に顔を押し付けた。



 怖い怖い怖い怖い。



 さっきより震えは酷くなり顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。


 なんで何もしていないのにこんな目に遭わなくてはいけないの?こんな目に遭うのはもうたくさん‼︎


 そう思った瞬間、首の後ろに痛みが走り私は意識を手放した。










「痛い…」


 私の顔は青白く、冷や汗が止まらない。先程痛みを感じた首の後ろに手を添えた。


 ある。首がある。私、生きている。


 もしかして、私また転生した?

 そうなら、今度は悲惨な運命じゃないといいな。首に当てていた手を離し両手を見つめる。手は薄汚れていた。

 あたりを見渡すと目の前には鉄格子がある。


「まさか…」


 そう、ここは牢屋だ。

 私は慌てて自分の体を確かめる。この髪、この体つき、分かる範囲の私は紛れもなく殺される前の私だ。

 私は転生ではなく、時間が戻ったのだ。それも殺される直前の。そう分かった瞬間、私は吐いた。またあの恐怖を味わうのかと震えが止まらない。


「出ろ。時間だ」


 乱暴に扉が開き、先程私を処刑台へ連れて行った兵士が来た。


 ああ、また殺される。


 なんで、一度ならず二度までも殺されなければならないのか。

 一度体験したから、先がリアルに分かる分余計に怖い。

 私は先程より震え、胃液を吐きならが処刑台に着いた。






 そして二度目の死がやってきた。






 二度も処刑され、死ぬ恐怖といつまで繰り返されるか分からない恐怖で、私の心はすり減り、壊れる寸前だった。


 私、前世で何か酷いことしたかな?

 ……いや、特に思い当たらない。

 私は、この世界の随分昔の時代を生きていた。家族は父と母と双子の姉と四人家族。小さな村で暮らしていた。ある日、村が盗賊に襲われ、村は炎に包まれた。

 そんな中唯一生き残り、その日を境に聖女の力に目覚めた。

 そして王都で修練を積み、聖女としてその力を行使していた。


 ある日、一通の手紙が来て、私は出かけた。

 そこから先が思い出せない。多分その後の出来事がきっかけで転生したのだろう。

 その出来事がなければ、私は転生なんてしなかった。私は街の皆と笑いあって過ごす平凡な日常が好きだった。そんな些細で大切な日常はある日突然崩れた。


 大切なものは失って初めて気付くものだと痛感した。


「出ろ。時間だ」


 乱暴に扉が開き牢屋が揺れた。


 ああ、またこの時間が来てしまった。

 最初は震え、吐き、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった私だが、二度も体験し、心が擦り切れおかしくなっていた。

 何も感じない。何も見えない、何も聞こえない。先程の兵士の声も聞こえておらず、牢屋が揺れて兵士が来たことに気がついた。

 縄で引っ張られているので、別に歩ける。多分兵士は私が目が見えず耳が聞こえないとは思っていないだろう。


 私はまた処刑台に押さえつけられた。


 お願いだからもう繰り返さないで。このループが止まらないのなら、せめて忘れらせて。これ以上は耐えられない‼︎


 誰か‼︎お願い‼︎助けて‼︎‼︎‼︎


 暫く時間が経った。おかしい。もう処刑されててもおかしくないはず。すると地面が揺れた。


 なっ、何?


 びっくりしていると私は誰かに担ぎ上げられた。


 えっ、えぇえっ⁈


 そして私を担いだ誰かは走った。

 走って走って走って走って、それは長いこと走り続けた。


 私は嗚咽を漏らして泣いた。助からないと思っていた。だから私は次に願いを託した。それがまさか助かったのだ。こんな奇跡が起きるなんて…‼︎


 目が見えなくて、耳が聞こえないのがとても悔しい。私を助けてくれたこの人は誰なのだろう。


 暫くするという動きが止まり、降ろされた。


「……か?い……な……か?」


 微かに声が聞こえた。男の人の声だった。目と耳は精神的なものだから、助けてもらえたことにより回復しているのかもしれない。

私は声を振り絞って話した。


「わ……た………は……」


 しかし、なかなか思うように話せない。すると助けてくれた男の人は、私の手を取り、手に文字を書いた。


【耳が聞こえないのか?】


 私は頷いた。


【目は見えるか?】


 私は首を横に振った。


【君は無実だ。必ず助ける】


 嬉しかった。今まで誰も信じてくれなかった。まさか信じてくれる人がいるなんて思ってもみなかった。


 すると、周りの音が騒がしくなった。耳が聞こえるようになったのだ。しかし、残念な事に兵士が私を探している声が聞こえる。


 折角信じてくれる人が現れたのに、どうしたら…。

 すると男の人はまた私を担いで走り始めた。しかし、暫くすると兵士の声がどんどん近づき私は地面に落ちた。


 視界がうっすら晴れてきた。まだ霞みがかっているが、目の前で何が起きているかは分かる。

 私を助けてくれた男の人が兵士に剣で斬られたのだ。


「いっ、いやあぁあああーー‼︎」


 私は必死に彼の元へ駆け寄った。すると兵士が私に向かって剣を向け、私も斬られた。



 二人の血はだいぶ流れている。多分もう助からないだろう。兵士もそう思ったのだろう。それ以上斬ってこなかった。


「ごめん……なさい。わたし……の…せいで」


「話せるようになったんだね。すまない、君を助けたかったが、助けられなかった」


「ううん。私を信じてくれただけで、もう十分」


 貴方は誰なの?声は聞き覚えがあるけど、色々あったからよく思い出せない。せめて顔が見えれば。早く、私の視力、戻って‼︎


「貴方は…だ……れ…?」


 ダメだ、上手く話せない。意識が……。

せめて貴方のことを知ってからじゃないと…。


「オレは………」


 それっきり彼の声は聞こえなくなった。視力が回復し見えるようになると彼は目をつぶっていた。

 私は彼の正体を知って驚いた。

 彼は隣の国のフィラルド王国のリューン王子だ。何故彼が…。

 そう考えていたら辺りが暗くなり、私の意識も途絶えた。














「リューン王子‼︎」


 私は思いっきり彼の名を叫んだ。

 目を開けると真っ白な天井が見えた。見覚えがある。ここは、私の部屋だ。


 今までのループは毎回処刑前の牢屋だった。それがどういう事か自分の部屋にいる。

リューン王子が現れた事と関係があるのだろうか。


「うっ…」


 先程の出来事を思い出し、気持ち悪くなった。私は暫く床に座り込み近くにあった桶に吐き続けた。


 だいぶ時間が経ったが、落ち着いてきたので洗面所に行き、顔を洗い身なりを整えた。

顔を上げて鏡を見ると見慣れた姿が映っていた。

 ピンクの艶やかな長い髪に緑の瞳。すべすべな肌。あのボロボロになった私とは違いとても綺麗だ。

 特に年齢に劇的な変化を感じないからそんなに前の時間ではないのかしら。

 どれだけ猶予があるのか早いところ知る必要がある。


 すると部屋をノックする音がした。


「お嬢様、今よろしいですか?」


「ええ。良いわよ」


「そろそろパーティーの準備をしませんと」


「パーティー?」


「ええ、お嬢様とカイナス王子との婚約パーティーですよ」


 婚約パーティー。それは私の16歳の誕生日に行われたパーティーだ。つまり一年前。彼との婚約は破滅への第一歩。絶対にしたくない。

 でも、このパーティーにはリューン王子も来る。国が違うし、この機会を逃せば彼には会えない。これはある意味チャンスだ。彼に会いに行こう。


「ええ、分かったわ」


 こうして私は支度をし、パーティーに出掛けた。


 会場に着くと婚約者であるカイナス王子がいた。


「やあ、待っていたよ」


「すいません。ちょっと用事がありまして…」


 私は苦し紛れな言い訳をして、走って逃げた。走るのなんて淑女として如何なものかと思うが、どうせ皆に嫌われている。

 今更変な行動をして、おかしな奴と思われても別に構わない。まだ幼い頃に戻れたなら良かったが、一年前ならもう皆への印象を変えるのは難しい。

 カイナス王子は何故そんな私と婚約を?怪しい…。


 今はそんな事より、リューン王子だ。早く見つけなければ。

 私は会場内を隈なく探した。しかし、見つからない。来ているはずなのに一体何故。

 途方にくれてバルコニーに出ると、庭にリューン王子がいた。


「リューン王子‼︎」


 王子は、私の叫び声に気づき振り向いた。

 銀色のさらさらな髪に紫の瞳。彼の元気な姿を見たら涙が出てきた。


「君は…」


 その時、後ろでカイナス王子の声がした。もう階段を降りてリューン王子の元へ行く時間はない。その前にカイナス王子に捕まってしまう。


「ごめんなさい、受け止めてください」


 私は意を決してバルコニーから飛び降りた。暫く経っても痛みは感じない。恐る恐る目を開けると、リューン王子が受け止めていてくれた。


「君がこんなにお転婆だとは思わなかったよ。良かった…無事で。本当に良かった」


 彼は震えながら私を強く抱きしめた。その目にはうっすら涙が浮かんでいる。


 私が飛び降りたから?それにしては…

 もしかして…

 考え事をしていると、リューン王子は私の前に跪き、手の甲にキスをした。


「アデルリア=ウェルメール。君に結婚を申し込みたい。君をここから連れ去って良いかい?」


 これは私、ウェルメール侯爵家の令嬢、アルデリア=ウェルメールの新たな始まりの物語。


 私の未来に初めて光が見えたのだった。

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