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地球外生命体が魔法を持ち込んだ世界線  作者: 月影魁斗
第一章:魔導大会編
9/36

Ep.9 天音の危機

授業内容とお昼です!

それと、学園モノで100%あると言っても過言ではないテスト回です!(要望あったので書きました)

試合結果を踏まえて、波鈴が個人個人を采配した。

朝奈は同じ精霊持ちの玲華が、月夜と大樹は波鈴が見ることになった。

天音と雷人の二人はおとなしく瞑想である。

波鈴が『不思議な世界(ワンダーランド)』で二人を閉じ込め、

「そこで大人しく瞑想してなさい」

と放った。

最初は文句ばっかり言っていた二人だが、いざ集中するとまったく微動だにせずに瞑想している。

「あの二人、集中すればすごいですね」

朝奈が少しよそ見している方向をを玲華は向いた。

「天音ちゃんは魔法のセンス高いし、雷人の雷もお父さんに匹敵する物を持ってるからね。宝の持ち腐れよ」

玲華は軽くため息をつくと、朝奈に向き直った。

「さて、精霊持ちになった朝奈ちゃんには、精霊持ちの先輩として色々教えることがあります」

珍しく真面目に話す玲華に、朝奈も真剣モードになる。

「まず、仲良くなること。これが大前提よ。その次にお互いの力を理解しあうの。以上!」

「…あの、それだけですか?」

「ええ、そうよ」

朝奈は拍子抜けた顔になってしまった。

どんな難しい課題が来るかと思えば、既に出来ていることばかりだと感じた。

「じゃ、呼び出して」

「はい。『精霊召喚:水神(アクア)』」

朝奈の呼び掛けに答え、アクアが姿を現した。二人は目を合わせ無言で頷く。

どんな修行だろうと二人なら超えられる覚悟はできている。

「よし、そのまま二人で二人三脚ね」

「…え?あ、はい…え!?」

「…朝奈。ににんさんきゃく、とは一体?」

朝奈は思わず聞き逃しそうになってしまった。

アクアは二人三脚を知らないようだ。

元々、神であったアクアだが、長い間水神龍の中にいたので、外の知識に乏しい。

「二人の片足を紐とかで結んで走るのよ」

「へえ。簡単そうね」

アクアの返事に朝奈は少しだけ不安になる。

「距離を縮めて、力を合わせる手っ取り早いやり方よ?ユグ!」

ユグドラシルが玲華の後ろからひょこりと現れ、二人の脚を蔓で結んだ。

「ユグドラシルお手製の蔓よ。簡単には斬れないから、止めというまで走ってなさい」

「えー…」


波鈴は月夜と大樹にそれぞれ魔導書を渡した。

「これを読んで魔法のバリエーションを増やしましょう。大樹くんには土の魔導書を。月夜さんには私の魔導書(アカシックレコード)を」

「「了解です」」

大樹と月夜はさっそく魔導書を開き、魔力を注いだ。

魔導書は全て白紙で出来ている。

魔導書に魔力を注ぎ、属性が一致すれば、その魔力に合わせた魔法が文字として浮かび上がる。魔力が高いほど、その種類は増え、ページが進むにつれ高度な魔法が並ぶ。

大樹の魔導書には、最初の数ページ分しか現れなかった。

「ふむ。見る限り基礎的な魔法ばかりですね」

それは『魔力球(マジックボール)』などの基本的な土魔法を大樹は使えないことを意味する。

「村で独学で身に付けた魔法ばかりっすからね」

だからあんな無茶苦茶な魔法ばかりだったのですね。

大樹は派手好きなわけではなく、単純に魔法を知らなかっただけだった。

戦いの中でその事に気付くとは…そこだけは玲華を見習わなければ。

心の中で玲華に感心し、波鈴は大樹にメニューを告げる。

「わかりました。とにかく現れた魔法を出す練習をしましょう。魔導書を介さなくても出せるようになるまでですよ?」

「了解です」

大樹が練習を行い始めたのを見届け、月夜のもとに向かった。

波鈴が魔導書(アカシックレコード)を覗いてみるが、何も現れていなかった。

「やはり現れませんね」

波鈴の持つ魔導書(アカシックレコード)は全ての魔導書と原本として存在している。彼女が持つ魔力特性も重なって、魔導書に記されている魔法を全て使うことができる。彼女自身、光属性や他の変わった属性は少しだけだが見つけることが出来たのだが、月属性の項目を見つけることが出来なかった。

「魔力を注げば現れるかもと思ったのですが…」

「ごめんなさい」

月夜が悲しそうな顔をして謝る。

「月夜ちゃんは悪くありませんよ…しかしどうしましょうか」

過去の記録がないとなると、自らの力で魔法を作り出すしかない。

「…星座を使った召喚魔法が出来るんですよね?星座の中に武器があるのでは?」

月夜の星座を使った召喚魔法は、衛星(サテライト)で星座を造り、魔素が人々の記憶や思いに反応するのを応用した魔法だ。星座の知名度でそれぞれの力が異なる。

「はい。射手座の弓なんかが代表的ですね。ですが、維持する魔力の消費が多いので、効率が悪いんです」

十二星座ともなれば、たとえ一部の召喚でも消費魔力が多かった。

さらには攻撃の度に追加で魔力を消費してしまう。

「となると、『月の煌めき』を派生させる。のが近道ですね」

「…簡単に言わないでくださいよ…」

『月の煌めき』の派生は、月夜も何度か試しているのだが、上手くいっていない。

衛星(サテライト)からの援護射撃も可能だが、貯めの必要な魔法なので位置を特定され放つ前に破壊されてしまう。

この事を波鈴に伝えると、少し思案顔になった後、笑みをこぼした。

「…なるほど。でしたらこんなのはどうでしょう?ちょっといいですか?」

そう言うと波鈴は、魔導書(アカシックレコード)に魔力を込める。

出てきたのは、ハンドガンタイプの銃だった。色も一般的な黒色で、見た目は普通の銃だ。

「魔導銃です。魔力を貯めれる弾倉に変更して、持ち手も少し月夜さんに合わせてカスタマイズしました」

月夜は銃を受け取ると、それをまじまじと観察する。

「…これを今作ったんですか?」

「ええ、勿論」

とっさの判断で魔導兵器を作成して、最適化させるとは。

魔導兵器は、天音や朝奈の持つ武器とは異なり、魔法と機械を合わせた武器だ。主に遠距離武器や特殊な機構を持つ武器に使われる言葉である。

月夜は銃を構えた。普段『月の煌めき』を放つ際は、片腕を構えるのだが、しっかりと両手で構えている。

「『月の煌めき』を銃に貯めるイメージで良いんですよね?」

銃を構えながら月夜は尋ねた。

「そうです。貯めれる魔力には限界があります。後は照準を合わせて撃つだけです」

波鈴が少し離れたところに魔力で出来た的をいくつか配置し、撃つように促す。

月夜が引き金を引くと、『月の煌めき』を圧縮した魔力弾が発射された。通常の銃のようにレールが稼働し、リコイルの衝撃もある。

弾は見事命中し、的は小さな爆発を起こした。

「すごいです!あんまり魔力込めなかったのに想像以上の威力が!」

月夜は構えを解いて、あっけにとられた。

魔力の大きさ自体は魔導大会で放った『月の煌めき』には及ばなかったが、圧縮されたことにより威力は同等だった。

「込めた魔力を自動で8等分しますから、しっかり残弾把握を。魔力が無くなるまではチャージは出来ません。魔力感知や魔力視を併用すればもっと強力に出来るでしょう。的は自動で復活するので、いくらでも撃ってください」

「ありがとうございます!」

月夜は再び銃を構えて、射撃練習に入った。

「ふふ、まだまだ成長出来ますね。私も色んな魔導銃を作ってみましょうか」



「ちょっとアクア!ペース早い!」

「朝奈が遅いのよ!ににんさんきゃく、奥が深いわ!」

二人は二人三脚のスタートラインにも立てていなかった。

二人の脚のタイミングも、歩幅も合っていない。

玲華とユグドラシルは木陰でその様子を見ていた。

「ねえレイ、あの二人あんまり仲良しに見えないのに、何で精霊呼び出せるの?」

玲華の膝の上に座るユグドラシルが玲華の方に振り向いて尋ねる。

「そうねー、喧嘩するほどってやつね」

玲華はユグドラシルの髪を溶きながら答えた。

ユグドラシルはよく分からないのか頭を傾けた。

「私達とは少し違うのよ」

ユグドラシルは精神的には幼い。人間の複雑な感情を理解するのは難しかった。

戦いに関しては玲華の考えをすぐさま理解し、対応してくれたりと意外と勘がいい。

「いい?1,2で合わせるよ?」

「分かってるわよ」

朝奈のせーのっの掛け声でゆっくり足を動かしいる。

「「1……2……1……2……」」

まだまだ遅いが、スタートラインには立てた。

「やっとね。さて、どのくらいまでいくかしらね」



「「……………」」

天音と雷人は『不思議な世界(ワンダーランド)』のなかでの瞑想を続けていた。

「……だー!くそ!」

雷人が叫びながら倒れた。

「ふーっ…また私の勝ちだね!」

天音がドヤ顔で雷人を見た。

瞑想…もといイメージトレーニングで戦っていた。

魔素を媒介することで、イメージを共有させることが出来る。ただし、魔力消費は現実で魔法を使うよりも増えてしまう。

二人は玲華に言われたように猪突猛進な戦い方ではなく、将棋や囲碁のような冷静で緻密な作戦を立てながら戦いを行った。二人にとってはかなり神経を使う行為だ。

そんな中、持ち前の魔法センスで天音はみるみる上達した。雷人も奮闘するのだが、慣れない魔法と光魔法のせいで後手に回る一方だった。

「亜光速の動きのせいで罠魔法が意味ねぇんだよなー」

魔力を感知して発動する罠魔法を設置しても、発動する頃には天音は移動してしまう。

「そっちこそ雷で徐々にダメージ与えれるなんて聞いてないし!」

雷人は撃ち込んだ雷を相手に留めさせ、徐々にダメージを与える魔法を編み出していた。だが、天音相手には精々魔装具にヒビを入れる程度だ。

二人があーだこーだと言い合っていると、波鈴がやって来た。

「その様子だと、色々発見があったみたいですね」

波鈴は『不思議な世界(ワンダーランド)』を解いて、二人に尋ねた。

「普段やらないことだから疲れちゃったよ」

「『不思議な世界(ワンダーランド)』のせいで集中するのもきつかったっすよ」

魔素を支配することにより、二人の繋がりを切れやすくするよう制限をかけていた。普段なら手を繋ぐ場面で、指一本で繋いでいるような感じだ。

「二人にはこの修行を暫く続けてもらいますよ?」

「「えー!!!」」

波鈴の言葉に天音と雷人は頭を下ろすのだった。



「はい!そこまで!」

玲華が手を叩きながら二人に近寄った。

朝奈は崩れるように座り込んだ。アクアも立っているが、疲れの表情を隠せてない。

「つ、疲れた…」

「こんなにも外にいると…魔力が…」

精霊を維持するのにも魔力が必要だ。精霊側にもある程度の負担がかかってしまう。

「もう、だらしないわね」

「だらしないわね!」

玲華の後に続いて、蔓を解いたユグドラシルが真似するように腰に手を当てながら言う。

「そんなこと…言われても…」

息を切らせながら朝奈は言い返すが、説得力が皆無だ。

「暫くはこの修行ね」

「そ、そんな…」

玲華の言葉に朝奈はうなだれる。

「アクアもだよ?お外で遊ぶだけで疲れちゃだめ!」

「…遊んではいないのですけど…」

ユグドラシルにとって、外にいることは玲華と遊ぶレベルなのだ。

力の差を感じ、アクアはユグドラシルに思わず敬語で話してしまった。



「ふーっ…8発中2発…まだまだでした」

月夜はひたすら撃ち続けていた。周りの被害を抑えるため、『不思議な世界(ワンダーランド)』の中で撃っていたので、外れた弾は壁に当たり消えている。

「やってれば身に付きますよ」

武器召喚を使えない月夜に代わり、波鈴が魔導銃を預かった。

「どうですか?」

その後、波鈴は大樹のもとに向かった。大樹も同じく『不思議な世界(ワンダーランド)』の中で訓練を行っていた。

「『魔力球(マジックボール)』くらいならなんとか!」

大樹は土属性を使うので、『魔力球:土(クレイボール)』が正しい表現だ。

「魔導書介さなくても?」

「…ギリギリ」

波鈴の質問に少し間がある。取り敢えず、出せてはいたようだ。

「ふむ…まあいいでしょう。明日以降も二人はこの修行です」

「「はい!」」




「おっ昼ーおっ昼ー」

天音が四人を連れて購買部へ向かう。お昼限定ショップが開くからだ。

「いらっしゃいませ!剣ベーカリー魔法学校支店へ!」

剣ベーカリー看板娘の梨絵と姉の梨亜が、五人を出迎える。

「いつものやつを頼むわ。あとこの二人にも」

「りょーかいしたよ!」

雷人の注文に梨絵が答えてくれた。

現状、出張販売している唯一の食品系のお店なので、売り切れるのがとにかく早い。五人は終了ギリギリまで授業を行うので、パンはほとんど残っていない。いつも梨絵が取っておいてくれている。

「はい、朝奈ちゃんに大樹くん!お近づきの印に、私の試作品!」

二人が来るのを予想していたのか、梨絵は用意していた。雷人達三人に用意しているのは、大抵梨絵の試作品なのだ。勿論味は保証できる。たまに変なパンも混じっているのだが。

「お、旨そう!ありがとな!」

「どうもありがとう」

二人がお礼を言って受け取る。見たところ普通のパンのようだ。

「梨絵ー、一緒にお昼食べよー」

天音が梨絵の手を握って誘う。自分達が基本最後の客なので誘うのだ。

「パパから『ちゃんと接客しなさい』って言われて離れられないの」

しょんぼりした顔で梨絵は答えた。魔導大会無断出場の罰である。

「行きな梨絵。内緒にしとくからさ!」

梨亜が梨絵の頭に手を当てながら答える。

「いえーい!」

すぐさま準備をして、梨絵は五人に付いていった。

それを見届け、梨亜は片付けを始めた。出張店舗なので、長机を用意してもらって、商品を並べている。前は梨絵が戻ってきてから一緒に行ったのだが、一人で始めたのには訳がある。

「さてと。久々だね、二人とも」

車にトレーやお金を戻し終わると、梨亜が腰に手を当てながら二人を見る。

「梨亜、元気そうで何より」

「ご無沙汰です、梨亜さん」

玲華と波鈴だ。前日は波鈴だけ顔を出して軽く喋っている。実は、『玲華を教師に』と言い出したのは梨亜だったりする。

「私らと話したくてあの子を追い出したんでしょ?」

少しにやけながら玲華が梨亜に近寄る。

「まあねー」

梨亜が微笑みながら話す。

「しかし食べようと思ったのに残念です。完売御礼のようで」

余った商品を買って食べるつもりだったので、二人は何も用意していなかった。

その言葉を待ってたかのように、梨亜はパンを車から取り出した。

「あんた達の分、残してるよ?」

「…そういう姿を見て梨絵ちゃんが真似してるのかもね」

玲華は少し皮肉りながら、パンを受け取った。

梨亜が車からキャンプ用の椅子を取り出す。本来は出張販売の休憩用で持ってきているのだが、()()()()四つ用意している。

「ここで食べましょ、神奈は…」

梨亜の言葉を聞いて、波鈴が答えようとする。

「あの子なら協会の活動を…」

「いるわよ!」

『渦』から唐突に現れた神奈。梨亜が事前に連絡していたのだ。折角だから皆で食べよう、と。

「「帰りな(さい)」」

「ヒドイ!」

「相変わらずねー」

超越者の漫才のようなやり取りが好きな梨亜だった。



雷人達は梨絵と合流し、昼食をとっていた。昨日の同じ木陰だが、人が多いだけで賑やかだ。

「いいのか?昼飯食べても」

雷人が梨絵に尋ねる。手伝わなくて大丈夫なのか?という意味で言っていることを、梨絵は理解する。

「言い方!まあ、お姉ちゃんも話したかったんだと思うよ?」

「先生達とお姉さんは知り合いなの?」

朝奈が梨絵に尋ねた。高校以前の関係性を朝奈と大樹は知らない。

「玲華お姉ちゃんとお姉ちゃんが幼馴染なの。雷人と私みたいなね」

「高校で神奈さん、波鈴さんと知り合ったんだよ」

梨絵の説明に雷人が付け足す。

玲華梨亜は同じ小中高校に進学したのだが、玲華の魔力が強大だったので、高校を転校することになり、神奈と波鈴に出会った。

「そこは私達と似てるね!」

「まあ、強さは比較になりませんが」

天音の言葉に月夜はツッコミを入れる。

当時から超越者は規格外の強さを持っていたからだ。

「そんなことより!今日は二人の話が聞きたい!」

梨絵が話題を無理矢理変え、朝奈と大樹に話題を振った。

「私達?同郷ってだけの腐れ縁よ?」

朝奈はあまり話したくないのか、簡単にまとめようとする。

「どんなところか聞きたいじゃん!」

「確かに、魔素が濃い村というのは気になりますね」

梨絵の言葉に月夜が同意する。朝奈と大樹の実家がある水神村は、魔素が濃い村だ。25年前の魔導大戦よりも前から濃かったらしい。

「んー…水神様への信仰が高かった結果論だと思うぞ?まぁ今は朝奈の中に居るわけだけど」

濃い原因は未だに分かっていない。あくまで推測の域をすぎない。

大樹の答えを聞いて、梨絵は別のことに食い付いた。

「水神がいるの!?ほんと!?会いたい!」

目を輝かせながら梨絵は朝奈にお願いした。朝奈も折れたのか、脳内会話を行う。

(だそうよ、アクア)

(無理。疲れたので次回)

即答だった。

「疲れたからまた今度って」

「そっかー残念」

梨絵が落ち込むのを見て、もう一度聞いてみたが、同じ結果だった。




時は流れ、一週間が経過した。

その間に魁が学校に戻ってくるも、その顔は疲れきっていた。

「…上から校長として活動しろと言われた」

と嘆いていた。

結局、特別クラスの講師は玲華と波鈴が受け持つことになった。

朝奈とアクアは相変わらず二人三脚で走っていた。だが、初日とは違いかなりの速度で走っている。

ユグドラシルのいたずらで障害物が突然置かれたりもしていた。最初こそつまずいたりしていたが、今や悠々と乗り越えている。その事にユグドラシルがムキになって突破不可能な障害物を置いては、玲華に怒られていた。

月夜も波鈴から作ってもらった魔導銃の射撃練習を続けていた。今や命中率70%を叩き出している。たまに的が動いたりするので、その分外しているのだが、止まっている的は基本外さない。少しずつだが、衛星(サテライト)を使いながらスポットする方法も練習している。

大樹は魔力球(マジックボール)を完全にマスターし、その応用に入っている。マスターしたことで、魔導書のページが増えたのだ。元々器用なので、飛翔魔法も少しだがコツをつかんでいる。自分なりの戦い方を見つけたようだった。

天音と雷人は相変わらず瞑想だった。お互い勝ったり負けたりを繰り返し、その間に様々な魔法を身に付けた。あくまでイメージ内なので、現実で出来るかは別だが、二人は問題ないと波鈴は見ている。

その日の授業も終わり、五人は波鈴と玲華のもとに集まった。

「はい!今日もお疲れさま!皆、レベル200も見えてきたわね」

五人は驚いた。一週間でレベルが20も上昇するなど、今の自分達では到底信じられないでいた。朝奈にいたっては、一度ほとんどの魔力を消してしまったにも関わらず、レベルがもとに戻っている。

「玲華さん!ほんと!?」

「ええ、皆レベル190台に到達してるはずよ?まあ、普段のレベルはそんな変わってないだろうけど」

玲華が笑いながら答えた。

「あの、月夜さんは既に190なのですが、まさか…」

朝奈が玲華と波鈴に問いかけた。

レベル測定の時に既にレベル190だった月夜がどのくらいまで到達しているのか。

「月夜さんはレベル200までもう少しって感じですね。魔力自体は伝説の5人(クインテット)と同等と言って良いでしょう。経験の差がありますけどね」

「ほんとですか!?」

波鈴の答えに珍しく喜んでいる月夜。五人のなかでは圧倒的に魔力が高くなっていた。

「だからと言って他の四人が劣ってる訳ではありませんよ?」

「『新世代伝説の5人(クインテット)』って言ったところね」

玲華と波鈴は満足そうに笑う。

「まあ、あの人達にはまだ敵わないだろうけど」

「確かにな、経験値もあるわけだし」

雷人が苦笑いし、大樹も同じような表情で同意する。

「いいんだよ!いつか追い越すから!」

天音は自信満々のようだ。朝奈と月夜も頷いている。

「お、そいつは楽しみだな」

声のした方を向いてみると、魁がこちらに向かって来ていた。玲華と雷人を除く五人は挨拶をする。

「お父さん?どうしたの?」

玲華が尋ねる。魁は校長の激務をこなしている最中だが、暇ができたので様子見して回っていた。

「魔導大会の日程が決まった。明後日だ!」

明後日は土曜日。氷牙が少しだけ雷人達のことを考えてくれたのだ。

「やっと決着つけれる!」

天音は相変わらずのハイテンションだ心から嬉しいのだろう。

「朝奈ちゃんも出場することは出来るが…どうする?」

魁が朝奈に尋ねる。天音との試合は中止扱いなので、再戦可能だ。

「私は棄権します。あんなことした後なので…」

首を横に振る朝奈だが、表情は曇っていない。寧ろはっきりと先を見据えてるような感じを魁は感じた。。

「よし、本人の決めたことだ。そう伝えておこう」

魁は微笑み、話題を変えた。

「その前に、今日の午後にちょっとしたテストがあるんだが…合格しないと再テスト、それでも不合格なら補講に参加しなければならん」

雷人達は何となく察してしまった。唯一能天気なのは天音くらいだ。

「まさかと思うけど…」

雷人が切り出す。ただただ苦笑いするしかない。

「ああ、補講は明後日。見事にダブってる」




小テストの結果発表が放課後に貼り出された。。

テストの内容は、期末テストの問題作成の参考にするためのもので、さほど難しい内容ではなかった。学校的な問題があるので、再テストや補講があるのだろう。

テスト結果がクラスの掲示板に貼られていた。五人は上から名前を追っていく。

「さすがだな月夜。学年一位か」

「普通にやった結果ですよ」

月夜は中学校の時から成績優秀だ。生徒会への誘いもあったのだが、魔力コントロールの訓練のために蹴っている。

「お、朝奈も3位じゃん!」

「あんな基礎的な内容でつまずけないわよ」

朝奈もまた村で一番の魔導師としてのプライドからか、勉強を怠ったことはなかった。

「真ん中くらいか、妥当だな」

雷人が一人で納得しているのを、大樹が異議有りと訴えてくる。

「ちょっと待て。お前授業中寝てるか外見てるかだよな?何で俺より上なんだよ!」

雷人は勉強が嫌いなので、興味のないことは完全にスルーしていた。しかし、流石にテストはまずいと感じたらしい。

「テスト前に教科書適当に読めばいけるぞ?」

いわゆる『やれば出来る』タイプだ。それも天才型の。

大樹は不安になる。ほぼ勉強していない雷人でも合格しているテストに落ちてたらどうしようと。そろそろ彼は勉強が得意ではないのだが。

「大樹さんは合格ギリギリのようですね。一番下に名前が」

月夜の一言に大樹は救われた。本気で安堵した。

「あーよかった!ダメかと思ったー!って、あれ?俺で終わり?」

横にある不合格者貼り出しに一人だけ名前が書かれている。それは、見覚えのある名前だった。

『光井天音 以上は再テストとする』

四人が一斉に振り向き、天音を見る。彼女に特に落ち込んでいる様子はない。

「…てへぺろっ☆」




昼休みになり、天音は一人図書室に向かった。

いつもなら剣ベーカリーのパンを買いに行くのだが、それどころではなかった。

「…はぁー」

「これは…前代未聞ですね」

玲華は呆れ返り、波鈴は苦笑いを浮かべている。

「ねえー私は魔導大会があるので、って言ってよー!」

天音は二人に直談判しているのだ。

玲華と波鈴は、職員室に席がない。正確には、急遽講師をすることになったので、空きがなかった。代わりに、波鈴が管理している図書室を部屋代わりにしている。

「こればかりは私にも…」

「自分を恨むことね」

二人に天音の救う手立てはなかった。

魔法を教える教員と、勉強を教える教員は区別されている。連絡係的な立場として兼任している教師もいるのだが、基本的には互いの教育に干渉しない。

「ひどいー!そんな二人はどうだったのー!」

二人は全く悪くないのに、天音は八つ当たりのように二人の過去を聞こうとした。あわよくば弱味を握るつもりだったのだろう。

「私は今日の雷人くらいで、波鈴は朝奈ちゃんくらいだったわよ」

「普段寝てるか外眺めてるかなのに、教科書読めばいけるって言ってましたね」

天音は悔しがった。玲華が雷人と同じ事を言っていたのを聞いて、姉弟似るんだなとも少し思った。

しかし、もう一人いることを天音は忘れていない。自分と同じ空気感を漂わせる彼女のことを。

「神奈さんは!?あの人ならわかってくれる!」

味方を付けようと必死だった。

実際、図書室に来る前に四人から「自己責任」と説教を喰らっている。最後の希望は神奈だけだった。

そもそも、神奈の弱味を握ったところで何も出来ないのだが、本人は気付いていない。

「ああ、あの首席入学・首席卒業の生徒会長さん?」

わざと強調し、嫌味満開の笑顔でに玲華は言った。

波鈴はやれやれといった表情で頭を抱える。

天音はただただ絶句した。




学校が終わり寮へ戻ると、天音の猛勉強が始まった。講師は月夜と朝奈のトップ二人だ。

因みに、男子陣はほぼ女子寮と化してる三人の寮に入るのを遠慮した。だが、手伝わないのも何だか悪い気がしたので、ネットでビデオ通話をしている。

「どうだ?天音は」

「ダメダメね。授業起きてるのに理解してないのよ」

画面越しからの雷人の問いに朝奈がため息を混ぜながら答えた。

「それは逆にすげえな」

画面の向こうで大樹は軽く笑っている。大樹も似たようなものなのだが。

「だな、ある意味器用だわ」

雷人もそれに同意する。

「月夜も優勝候補が減るからって必死なんだけど…」

朝奈が二人に目をやる。今は物理をやっているようだ。

「Aのほうが遅い!」

「その理由は?計算式を書いてください」

「え?感覚でわかるよ?光魔法だし、速さを見るのは得意だもん!」

「…はぁー…」

月夜はうなだれる。これは重症のようだ。

天音の答えは合っているのだが、「感覚でわかる」「え、それが普通じゃない?」というような感じで埒が開かない。

「いいですか?普通は天音みたいに感覚で速さがわからないんです!だから計算式で証明して答えないといけないんです!」

「終わり良ければ全て良しじゃないの!?」

天音の返事に月夜は再びうなだれた。

「兎に角、基礎から少しずつです!」

「うえーん!」

月夜のスパルタ勉強に天音は涙を浮かべながら根を上げかけている。

「お母さん?頼まれたもの買って…って、勉強会やってるのね」

玲華が咲から頼まれていたおつかいから帰って来た。

「ありがとう玲華。さあさあ!少し休憩しましょ!」

咲が天音のことを思ってか、休憩を促した。

「わーい!お菓子ー!」

「こら天音!勉強を…」

「まあまあ月夜ちゃん。私に任せて」

怒る月夜を止めて、咲は玲華にある指示をする。

「あの子、呼べばいいんじゃない?」

「…ああ、なるほどね」

玲華は不適な笑みを浮かべ、スマホでメッセージを送った。




「よーし、やるぞー!」

休憩を終え、甘いものを食べた天音はやる気満々だった。

「そんだけやる気あるならもう少し理解しようと努力を…」

朝奈が言いかけたところで、ある声が玄関の方から聞こえた。

「さあ、迷える子羊ちゃん。私が指導してあげようぞ!」

女性教師を演出するためか、スーツを来ている神奈だった。

「神奈さん!どうしてここに…」

「玲華に呼ばれたの。天音ちゃんヤバいから手伝ってって。首席の私に!」

月夜の問いに神奈は伊達メガネを強調しながら答えた。

「まさかと思うけど、それの用意のために遅かったの?」

いつもは呼んでも呼ばなくてもすぐ現れる神奈が今回に限っては遅かった。

「勿論よ!何事もまずは形から!」

玲華は神奈の返事を聞いてため息をつく。

「こんな人が学年トップって…どんな学校だよ」

雷人は皮肉を混ぜながら言った。

「私も流石にちょっと…」

朝奈がそれに同意する。大樹も苦笑いだ。

「さっ、勉強を始めましょ!」

神奈がこっそりと呪符を用意しているのを玲華は見逃さなかったが、他のみんなは気付かなかった。

「さて、天音ちゃん!どこがわからないの?」

「んー…過程?」

天音のざっくり回答に全く驚かない神奈。

「よしわかった!それじゃこれを問いてみて?」

神奈が頭をポンポンと優しく叩き、天音に問題を解かせる。

途中途中に神奈が解説を混ぜながら、なるべく一人で解くようにさせた。

「…やってることは至って普通ですね」

その様子を見ていた月夜が呟いた。

「ええ、特にこれといって違和感は…」

朝奈もそれに同意する。

雷人と大樹も同意見のようで、黙って眺めていた。

「よし!やれば出来るじゃない!」

神奈は天音を誉めちぎっている。

「えへへー。そう?」

天音が照れるように笑っている。さっきの顔が嘘かのようだ。

「よし、それじゃ似たような問題を一人でやってみなさい!」

「はーい」

天音はそのまま一人で問題を解いた。すらすらとかなりのスピードだ。

しばらくして、天音の答え合わせを行った。

「ほら!やれば出来るじゃない!全問正解!」

神奈の発言に信じられないと月夜と朝奈は回答を見る。

それを雷人と大樹にも見せた。

「おお!やれば出来るじゃないですか、天音!」

「この短時間でやるなー」

「この調子でいけば、合格ラインね」

「あと一歩頑張れ!」

月夜、雷人、朝奈、大樹は天音を応援する。

「よーし!そのまま他の教科も!」

天音はやる気に満ちていた。

「少し席を外すね?そのまま他の好きな教科をやっててね」

神奈はそう告げると、飲み物を取りに冷蔵庫に向かう。

寮の広間はダイニングキッチンのような造りになっていて、寮生が簡単にキッチンや冷蔵庫を使えるようになっている。

神奈が飲み物を探していると、玲華が寄ってきた。

「神奈。何をしたの?」

「特にこれといって?ただ…」

神奈は呪符を取り出し、ひらひらと動かす。

「『おまじない』はしたかな?」

神奈は笑って答えた。

「某猫型ロボットの暗記できる食パンみたいなやつよ。あくまでも『記憶に残りやすく』しただけだけど」

神奈は呪符をしまうと、二つのコップにジュースを注ぎ、片方を玲華に渡した。

「ほんとにそれだけ?てっきり呪符で無理矢理頭に覚えさせたのかと…」

「勿論それも可能だけど、天音ちゃんのためにならないでしょ?あの子は『解ける喜び』を教えれば勝手に覚えるタイプよ。今日の勉強を深く記憶に刻む呪術をかけて、思い出として残るだけで充分」

神奈は小さい頃から陰陽師の神子として、様々なタイプの人間をを取りまとめるだけあって、人の見る目は信頼できる。

「そういう所、ちゃんとしてるのにね」

性格が馬鹿なのよね。

玲華は心でそう思いながら、ジュースを一口飲んだ。

その後も神奈の助けもあり、天音はテスト範囲を網羅した。


しかし、再テストの結果は『ギリギリ』合格だった。

四人から散々文句を言われたのは言うまでもない。




魔導大会当日。

緊張からか、月夜はいつもより早く目覚めていた。

「朝4時…どうしましょう」

外はまだ少しくらい。やっと日が出始めたくらいだ。目が覚めきってしまっていた月夜は部屋着のまま広間に向かう。

「あらおはよう月夜ちゃん。今日は一段と早いわね」

「咲さん!?こんな時間から!?」

咲がゆっくりとコーヒーを飲みながらくつろいでいた。

「ごめんね?いつも通りの時間だと思って朝ごはん用意してないわ!すぐ用意するわね」

「いえ!お構い無く!そのコーヒーで充分です!」

咲と月夜は、コーヒーを飲み始める。

「月夜ちゃん。ブラックでいいの?すごいわね」

「そうですか?」

コーヒーの好みの話から始まり、お互い一口飲むと、咲が切り出す。

「…緊張してるの?」

「…どうなんでしょうか。魔力のない梨絵さんと戦うことに少し戸惑いはあるかもしれません」

魔装具を身に付け、魔力感知と魔力視を使えるとはいえ、梨絵は一般人だ。魔法をぶつけていいものなのか不安があった。

「雷人は遠慮なく攻撃してたでしょ?」

「それは…幼馴染だから出来たことです。出会って約三年の私がやっていいものか」

雷人と天音より付き合いが短い分、躊躇していた。

「…梨絵ちゃんは気にしないと思うわよ。初めて手合わせするから楽しみなんじゃないかしら」

咲は微笑みながら答える。

「だといいですけど…」

月夜はまだ吹っ切れなかった。

「きっと、ステージで向き合えばわかるわよ」

咲は月夜の頭を軽く撫でた。




梨絵は庭で素振りをしていた。前回玲華に作ってもらった魔装具を身に付けている。既にかなりの汗をかいていた。

木刀に持ち替え、案山子に連続で斬撃を与える。

「すぅー…」

居合の構えを取り、魔力感知に集中する。何か感知出来るわけではないが、実戦同様の感覚を掴むために行っている。

「はぁ!」

勢いよく振り抜き、案山子に一撃を与える。案山子は激しく揺れている。これも魔装具の『身体強化』の効果のおかげだ。

「んー…やっぱり斬れないよねー」

梨絵は揺れる案山子を見ながら呟いた。

「朝から頑張るわね」

「玲華お姉ちゃん!」

声がした方を振り向くと、玲華が荷物をもって立っていた。

「新しく新調した魔装具よ」

玲華が鞄を下ろすと、梨絵がすぐに寄ってきた。

「ありがとう!どれどれ~…!これって…」

「梨絵ちゃんにはこれが一番似合うわ」

それを聞いて梨絵は笑みを浮かべた。

「ねえ玲華お姉ちゃん。月夜ちゃんは強い?」

顔を上げずに玲華に尋ねた。

「…少なくとも雷人よりは、ね」

梨絵は返事をしなかったが、どんな顔をしているか用意に想像できた。

きっと…

「あら玲華ちゃん。来てたのね」

「お邪魔してます」

梨絵の母親がやって来た。

「面倒見てくれて本当にありがとね」

「いえいえ」

やはりこういうやりとりはむず痒い。お礼を言われることにあまり慣れていないのだ。

「梨絵、朝ごはんできたわよ」

「うん!玲華お姉ちゃんも一緒に食べる?」

梨絵の誘いに玲華は首を横に振る。

「この後用事があるから」

「そっかー残念。じゃぁまた後でね!」

梨絵が手を振りながら家の中に戻った。

それを見送ったあと、玲華は案山子に目をやる。

よく見ると、細い蔓が周囲に巻き付いている。ユグドラシルの蔓だ。

「『斬れない』、ね?」

玲華が指を鳴らすと、蔓が消え、案山子は崩れ去った。




雷人達五人は学校の校門前に集合していた。

土曜日なので、他の生徒はいない。

「んー皆とやるのは決勝かー!」

天音が体を伸ばしている。

「もう勝った気ですか」

と月夜は取り敢えず言ってみるが、現状それで間違いはない。

天音のブロックには、レベル180超えの魔導師は残っていない。精々175程度だろう。とても天音が負けるとは思えなかった。

「いいよなーお前らは。俺と朝奈さんはただ見てるだけだぞ」

雷人がつまらなさそうに答える。二人は一回戦敗退となっている。

朝奈に関しては、自責の念で辞退なのだが、雷人は梨絵に負けている。

「まあまあ!お前の分も戦ってやるよ!」

大樹が雷人の肩を叩いた。

「仕方のないことよ。応援してるわ、三人とも」

天音と月夜と大樹はそれぞれ返事を朝奈に返した。

「おや、皆さん早いですね」

「やる気があるのはいいことよ!」

波鈴と神奈が『渦』から現れた。

「あれ?神奈さん?どうして?」

「休みを取れたし、近くで見ようかなってね」

天音の問いかけに神奈が答えた。

神奈は普段、陰陽師協会で神子として活動している。お祓いから祈願など。神子としての力を買われるのだ。

「さてと、『渦』で送ってあげるわ」

「ちょっと待ってください。姉さんと梨絵は?」

雷人が神奈を止めに入る。

「座標固定ついでに先に送っておいたわよ」

神奈が一ヶ所に集まるように指示する。

「さて、いざ行かん!」

彼らは『渦』にのまれ、消えた。




いつのまにか会場が目の前に広がっている。

「うおっ!?一瞬で!?」

「これほど便利な呪術があるなんて…」

朝奈と大樹は『渦』を体験したのは初めてだった。

「座標固定必須だから、いつでも使える訳じゃないのよ?」

神奈が言うには、距離に関係なく座標固定が必要で、普通の陰陽師は戦闘に組み込んで使うことはほぼ無いと言う。単なる長距離移動や緊急回避の手段となっているようだ。神奈は戦いに組み込んで使うこともある。

「いいなー私も覚えたい」

「呪力を持ってないでしょう?そんなことより受付に行きますよ」

天音の願望を月夜が一蹴し、大樹と天音をつれ受付に向かった。

「敗者復活戦とかねぇのかねー、朝奈さん」

「…確かにアクアとの力を試したいけど、まだ勝てないだろうから」

朝奈は水神龍の加護を消したことで、レベルが一気に落ちた。アクアとの修行もあり、取り戻せたものの、体が精霊召喚の負担に追い付いていない。

「…ま、今回は刀を閉まって、次のために研いどこうぜ」

朝奈に笑いかけ、雷人は三人のあとを追う。

「…普段はクールぶってるけど、人の気持ちは理解できるのね」

朝奈は少し微笑んで後を追った。

一連の様子を見ていた波鈴と神奈。

「いいチームじゃない。お互いがライバルで支えあってて」

「貴女と玲華みたいですね」

神奈の言葉に波鈴は笑って答えた。神奈は「腐れ縁よ」と照れ隠しか顔を見せない。

「さてと、氷牙さんにちょっと交渉しようかなー」

神奈が腕を伸ばしながら会場に向かおうとする。

「まさかとは思いますが、本気ですか?」

「五年前以来本気でやれてないから、今日くらいはいいんじゃない?」

波鈴は頭を抱えた。




月夜、天音、大樹はステージの袖にいる。雷人と朝奈は出場選手専用の観戦席にいる。

「やっほー三人とも!」

魔装具に着替えた梨絵が三人のもとにやって来た。

「梨絵ー!」

天音が梨絵に飛び付き、月夜と大樹も後からやって来た。

「その剣道着が魔装具ですか?よく似合ってます」

「ありがとね月夜ちゃん!」

玲華が新調した魔装具は梨絵が着なれている剣道着だった。

腰には木刀を携えている。

「梨絵さんか月夜さんと当たるのは準決勝?俺やべぇなー」

大樹は苦笑いする。あまり自信がないようだ。

「でも私も月夜ちゃんと戦うし、よろしくね!」

「…ええ」

二人は握手を交わす。ほぼ同時に会場に歓声が上がる。前回の事件が嘘のような盛り上がりようである。

「お、始まったかな」

「こっからは敵同士だね!負けないよ?」

「挑むところです」

「私は決勝で待ってるね」



特別な観戦部屋、いわゆるVIPルームで、氷牙と魁が座っている。

「よくもまあ、この短期間で会場を修復できたな」

「型を取って我が固めた。それだけだ」

彼女いわく、岩属性を持つ部下に型を作って貰い、そこにコンクリートを流し込み、自らの氷魔法で固めたらしい。

「相変わらず無茶苦茶だなー」

魁が笑いながら飲み物を一口飲んだ。

ワイングラスに入っているが、酒ではない。ただのジュースだ。一応引率で仕事中だからだ。

「貴様の方こそ教え子を超越者に丸投げしたそうだな」

氷牙も一口飲む。彼女は普通にお酒だ。結構強めの。

「俺の娘達の方が適任だと思ってな。それにほら、俺校長だし」

「管理職というやつか。お互い苦労するな」

氷牙は米軍の魔導師部隊の総司令に務めている。彼女が戦闘に赴くことはほとんどなく、指導することがほとんどだ。有能な魔導師をスカウトしたりなども行う。

実際のところ、魔導大会の運営を行うのは、そのスカウトのためでもあった。

「聞いたぞ?大樹くんをスカウトしようとしたんだって?」

「奴が入隊すれば、即精鋭部隊入りだろう。他の奴らも同じくな」

氷牙は酒のおかわりを頼む。

「本人の希望次第では、俺からの推薦状付きで送り出すさ」

魁もジュースのおかわりを頼んだ。同時に、扉を叩く音が聞こえた。氷牙が入るよう促す。

「こんにちは氷牙さん。私は…」

「知っている。超越者の松楼院神奈、だろう?」

氷牙は振り向かずに背中越しで答えた。

「あれ、神奈ちゃん?どうしたんだい?」

「玲華のパパさんではないですか!ご無沙汰です」

神奈が軽く会釈をする。魁と会うのは久々だった。

「それで、用があるのだろう?」

氷牙が振り向く。内容が分かっているのか、どことなく笑っている。

「優勝者が決まった後、エキシビションマッチを開いていただきたい」

神奈が笑顔で話す。

「対戦カードは『松楼院神奈対霧島玲華』。どうですか?」

「分かってるのかい?それは世界的にかなりの問題が…」

魁が立ち上がって止めようとする。

前回の水神龍の事件は、勇敢な魔導師三人の活躍で鎮圧したことになっていて、名前は公表されていない。だが、参加していた魔導師の中で『光属性と月属性の魔導師が避難誘導時にいなかった』と噂されている。

「氷牙さんのお尽力もあり、押さえ込めてはいますが、帰国後に二人が目立つのも時間の問題でしょう。ですので、私達が水神龍を討伐したことにしようかと」

神奈は真剣な表情で話している。

確かに理にかなっている。あの子達や学校に迷惑はかけられない。それに万が一世界が超越者を排除しようとしても不可能だ。それほど彼女達の力は強大だ。

魁は顎に手を当てながら考えている。

「…面白いものを見せてくれるんだろうな?」

氷牙が神奈に尋ねる。微塵も表情を変えず、睨むように見据えている。

「勿論。楽しませますよ」

神奈が笑う。まるで当然かのように。

その返事が来るのを分かっていたかのように氷牙が笑った。

魔導大会再開です!

果たして、優勝者は誰になるのでしょうか?

神奈VS玲華…どうなるのでしょうか?

この二人の5年前の戦いも実は執筆中です。

同時進行で書くことで、少し違いを書き分けれたらと思ってます。

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