Ep.6 魔導大会 3
前回、朝奈が怪しい感じで終わりましたね!
今回は、ボス戦を書いてみました!
「...まずいな」
氷牙が席を立つ。
「黒い魔力に取り憑かれかけてしまっている。あのままじゃ...」
魁も合わせて席を立った。
氷牙が直ぐにスタッフ達に通達する。
「観客の避難させろ!試合は一旦中止だ!繰り返す!一旦中止!即刻観客を避難させよ!魔導師には避難誘導の護衛を!」
「ねぇ、ちょっとやばいんじゃない?」
神奈が二人を見る。
「...神奈、『渦』の準備を。座標は指示します」
「ええ、わかったわ」
波鈴が神奈に指示し、彼女は作業に移る。
一人、映像を見据えてる玲華。
「...何かがいる。あの子の中に」
「ええ、レベル測定の時は奥深くに眠っていたようですが、負の感情に影響されて出てきたみたいですね」
「あれではまずいですね、天音!」
月夜が天音に指示を飛ばす。
戦いながら、天音は答える。
「わかってる!!ちょっとやり過ぎたかな...」
「いいから距離を取りなさい!」
月夜がこれだけ警戒してるのか...
「大樹、梨絵、お前らは下がってろ。正直、守れるかわからねぇ」
雷人は二人に告げるが、大樹は納得していない。
「俺は残るぞ!朝奈は幼馴染で...」
「そんなことはわかってる。だが今の彼女ににその感情はない」
辛いだろうが、言うしかない。
今の『あれ』はそれほど危険な存在だ。
「そんな...」
大樹は今にも泣きそうな顔だ。
絶望の表情と言うのが正しいか。
「いいから、避難誘導手伝っておけ。お前の魔法で守るんだ」
「...わかった。朝奈を...頼む」
大樹は悔しそうな顔で避難誘導へ向かった。
「雷人...」
梨絵はまだ残っていた。
「心配すんな、俺は負けねぇよ」
雷人は彼女の頭を撫でる。
「うん...頑張ってね...!」
梨絵も大樹のあとについていく。
幼馴染だし、今ので伝わるだろ。
「雷人のお父様達は観客の護衛に行ってます。ここは私達3人で止めなければいけません」
月夜が伝えに来た。
確かに父さん達は主催者側だ。責任問題になりかねない。
とは言え、あれを三人か...
「ああ...やろうか!」
心なしか、わくわくしている。
「アリエナイ...ワタシガ...ワタシガアアアアァァァァ!!!」
朝奈は悶え苦しんでいる。
明らかに魔力が『黒い』。
一定の距離を保ち、雷人が尋ねる。
「月夜、どう見る?」
「...内に眠るものが目覚める。といった感じでしょうか」
月夜が『衛星』を動かしながら答える。
最適な位置を探っているようだ。
いつの間にか、数も先ほどの戦闘の倍の数を配置している。
「今まで負けたことない、みたいなこと言ってたもんね...私のせいかな?」
天音は光装を解き、二人の側にいる。
流石に後悔の念が強い。
「本人の心の弱さが原因です。気持ちが分からないわけではないですが...」
「ああ、全力で答えることに間違いは...くるぞ!」
雷人が話してる途中で魔力が増大した。
三人が構える。
「ウアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!」
朝奈を中心に、水が一帯に弾け出す。
三人はそれぞれ防御障壁を作り、防いだ。
朝奈が居たところから、巨大な水柱が現れ、徐々に生き物のようにうねりだす。
巨大な龍が現れた。
全身鱗で覆われ、辺りには、魔力球が無数に浮いている。
「あれは...」
「魔素生命体...!」
人々の強い信仰心や思いなどが、魔素に影響を与え、魔素生命体を作り出す。
思いの強さがそのまま魔素生命体の強さになる。
「あいつらの村で祀られてるのは『水神龍』らしい」
三人が魔力感知で感じる魔力の強さは、村人達の信仰心の強さがわかる。
「すごい魔力ね...月夜、朝奈の位置は?」
天音が問い掛ける。
月夜の高感度な魔力感知は意図も容易く位置を看破する。
「頭部です。正確な位置は、衛星で情報共有します。あと、分かっているでしょうが、文字通り化け物です。レベルで換算すると、600は超えてるでしょう」
三人が戦ってギリギリ勝てるかどうかである。
だが、天音は表情を変えることなく、返事をする。
「わかった!雷人!『雷装』は残ってる?」
『雷装』。天音がが使用する『光装』と同じタイプの魔法だ。
「梨絵との戦いは脚だけ着けてたから、まだいけるぜ」
それにもう試合ないし。
「私の『光装』はリミット近いから、手足だけの簡易版で、月夜の援護に回るね!攻撃は雷人だけになるかもだけど...」
「ですね。魔力感知に集中することになるので、攻撃は自己防衛しか出来ませんし、正直、全て捌けるか自信ありません」
月夜は攻撃手段が限られる。
空間が水神龍の魔素に侵食されつつあり、魔力感知が妨害されている。
座標固定は月夜にしか出来ない。
「心配いらねーよ。俺は負けねぇ」
雷人は構える。
「すぅー...はぁー...」
魔素が集まったのを感じ、自身に定着させる。
「雷魔法『雷装:雷綱』!」
雷で出来たスニーキングスーツのような魔装具が体を覆う。
『光装』ほど派手じゃないが、攻撃防御共に期待できる。
「来ます!」
「っしゃおらぁ!」
『雷装』を纏った状態なら、『鉤爪』などの攻撃魔法を即刻発動できる。
雷人は両腕に『鉤爪』を纏い攻撃する。
「少しは効いてるみたいだな」
「オオオオオオオォォォォォォ!!」
水神龍は、全身を使い暴れる。
尾の部分が、観客席を破壊した。
「まずい!会場壊されちゃう!」
「任せなさい!『衛星』配置変換」
月夜は何かの形を型どるように手を動かす。
月夜の『衛星』は、ある法則に配置することで、特殊な効果を持たせることができる。
それは、星座。
「化け物相手は怪物を!」
神話では、神が使わした石にされた海の怪物。
「月魔法『召喚:くじら座』!!」
くじら座といっても、一般的な鯨とは似ても似つかない容姿の怪物。
神話の通り、螺旋模様の鱗を持ってる四足歩行の怪物。
水神龍ほどの大きさはないが、拘束するには十分の強さだ。
「グオオオオオオオオオオ!!」
と、大きな鳴き声と同時に、水神龍の尾を押さえ込む。
「尾は捕らえました!」
「ナイス月夜!あとは斬り刻むのみ!」
雷人は、水神龍の全身をを鉤爪で次々に斬っていく。
斬りながら朝奈のいる頭部まで昇っていく。
水神龍も魔法を出しながらそれを妨害する。
浮いている魔力球から水が出てくる。
「くっそ!ただの水なのになんて威力だ!」
時には避けたり、斬ったりしながら昇っていく。
「くっ...!集中しなきゃ...!」
『くじら座』のような召喚された魔素生命体は主に従うが、魔力である程度制御が必要だ。
勿論強い分消費量と集中力が必要だ。
さらには、魔力感知で二人のサポートも行っている。
月夜に攻撃に対応する余裕はない。
そんな彼女に水が襲いかかろうとする。
「させないよぉ!」
天音が月夜と水の間に割って入る。
「『武器召喚:グングニル』!」
天音が槍を手にした。
魔素を利用して武器を呼び出す魔法だ。
予め武器を魔素と同化させ、体内に魔力として収納するのだ。
収納した後の出し入れは簡単だが、最初が一番難しい高度な魔法だ。
「せいっ!」
天音が槍を突き、魔法を破壊する。
「感謝します、天音!」
「御安い御用!」
あの二人なら安心だ。
と、雷人がチラッと見て思うとほぼ同時に感じた悪寒。
「オオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!」
水神龍の叫び声と同時に魔力球から、小さい龍達が無数に現れた。
「何あれ!?」
「分身体...というよりも、水神龍の子供というほうが正しいでしょうか」
月夜もよう分かっていないようだ。
完全に未知の魔法。どう対処したものか。
「取り敢えずまあ、『子龍』とでも呼ぼうか」
子龍達は三人に襲いかかる。
たが、子龍自体は大した強さはない。
「!!あの子龍達は魔力に惹かれます!避難誘導してる魔導師達の方に!」
月夜が魔力視で性質を見抜く。
精度が上がれば魔法の特性も見極めれるようになる。
「てことは、攻撃が当たれば魔力が吸われる的な!?」
天音が月夜と自分、二人分の子龍を対処しながら言う。
「くそっ!流石に全部はやれねぇぞ!このままじゃ観客に被害が!」
観客に魔力を持った人がいるかもしれない。
「なら心配ないよ!大樹くんもいるし、それに『あの人達』が!」
「まずい!攻撃がくる!」
「魔導師は早急に対処しろ!」
出場選手や警備の魔導師達が観客を守るため奮闘している。
子龍達は一体につきレベル50程度だが、数の暴力で戦線を押している。
「こうなりゃ...」
大樹が両手を地面に着け、魔力を流し込む。
「土魔法『岩弾の大砲』!」
5門の大砲から次々に魔力球が発射される。
当たればそこを中心に爆発し、周囲の子龍も倒せる。
「おぉー!」
「何者だあの魔導師は!?」
他の魔導師は雷人達の試合を見てたので、大樹の実力は知らなかった。
当たった地点に穴は開いてるが、戦線は押されている。
「くそ、処理が追い付かない!!」
魔導師達の士気が下がりつつある。
「観客の誘導が終わり来てみれば、押されているではないか」
後ろから威圧感のある女性の声。
「貴女は!」
伝説の5人の一人、氷牙だ。
「大樹と言ったか。見事な魔法だったぞ」
「あ、ありがとうございます!」
大樹は無意識に敬礼していた。
彼女が軍服を着ているのが影響してしまったようだ。
「ふっ。雷獣の生徒じゃなければ、部下に欲しかったな」
氷牙が大樹の前に出た。
「だが」
氷牙が魔力を溜める。
周り一帯が肌寒くなる。
「範囲攻撃とは、こういうものだ!」
氷牙が手を前にだし、魔力を一気に解放する。
「氷魔法『猛吹雪』!!」
氷牙より前の地面が凍っていく。
子龍達を吹雪が覆い、真っ白になる。
「な、何が!?」
「まあ見ておけ、これが伝説の5人の力だ」
周りの魔導師が戸惑う中、氷牙は前を見据えている。
視界が晴れると、子龍達がほとんど凍って、動けなくなっている。
それどころか、次々に落下していき、割れていく。
「一撃で、全滅!?」
大樹や他の魔導師も驚いている。
軽く腰を抜かしている者もいるようだ。
「ふん。他愛もない...だが、諦める様子はなさそうだな」
会場から再び子龍達が迫ってくる。
「まだ来るのか、懲りないみたいだな」
魁がいつの間にか駆け付けている。
「先生!」
「さぁ、これからだぞ大樹くん!」
伝説の5人が二人いて、先程の魔法。
魔導師達の士気は一気に上がる。
それを感じた氷牙が声を張る。
「魔導師諸君!あの龍をこちらに来させるな!自ら持てる力全てを使え!」
「おらああああ!」
雷人は子龍を産み出す魔力球を壊しながら、頭部を目指す。
子龍が避難誘導している魔導師達にほとんど惹かれている。
「さっき氷牙さんがバカみたいな魔法使ってたから、そいつを奪おうとしてるな!」
おかげで、雷人達への攻撃はかなり軽くなった。
月夜も一人で対処し始めている。
「天音!ここは大丈夫ですから、雷人の援護を!」
「わかった!」
天音は上空の衛星を足場にして、飛び上っていく。
「くっそ!」
雷人は既に頭部にたどり着き、攻撃を仕掛けている。
元々かなりの魔法防御力なのだが、朝奈の周囲だけやたら防御が固い。
つまり、弱点なのは正解なのか。
だが、本気の雷を当てると、朝奈にダメージが入ってしまう可能性がある。
「万事休すだな」
「雷人どう!?」
天音が雷人に追い付く。
衛星で月夜が最適なルートへ導いてくれていた。
「防御力が高過ぎる!だからと言って強い魔法当てると朝奈さんにダメージがいってしまう。現状少しずつ攻撃するしかない!」
「わかった!合わせてね!」
天音の方が速いから、俺に合わせるべきなんだけど...
「お前もな!」
二人は斬ったり突いたりを繰り返す。
水神龍も、攻撃の人数が増えたことで、攻撃を激しくする。
「だめ!びくともしない!」
一度距離を置いて、衛星に着地した。
「状況は?」
天音が乗っている衛星から、月夜の声がした。
「え、何それ!これって会話も出来るの!?」
「今はそんな場合じゃないでしょう!!」
天音に月夜が突っ込んだところで、雷人も戻ってきた。
「さっきから攻撃はしてるんだが、少し傷が付いたくらいだな」
「貴方達の攻撃を耐えるとは...相当ですね」
二人の攻撃力は決して低くない。
寧ろ、伝説の5人とほぼ同等と言ってもいい。
その攻撃力が通じていないのだ。
「雷人ー!!!」
と、試合で使われていた巨大なディスプレイの上から声がする。
その声は、梨絵だった。
「梨絵さん!?何をしてるのですか!」
近くに配置していた衛星を梨絵に近付け、話す。
月夜の衛星でも捉えてなかったようだ。
「あのバカ...!」
雷人もすぐ梨絵の方に向かった。
「魔力持ってないから、私に攻撃は来ないの!」
「そりゃそうかもだけど、それでも危険だよ!早く避難を...」
天音も衛星の通信に入り込んで、話す。
「そうだぞ、ほら捕まれ」
雷人が手を差し出す。
「それより、これ使って?」
梨絵が手渡そうとしたのは、あの木刀だった。
「『魔力無効化』の木刀...これを届けるために?」
雷人が梨絵に尋ねると、月夜が意図に気付く。
「!魔素生命体なら、『魔力無効化』で斬れます!」
魔素で生成されてる魔素生命体だからこそ出来る特効技。
「でも...」
「梨絵さんは逃げる間は、衛星で守りますから」
月夜が話した後、梨絵が木刀を渡す。
「早く朝奈さん、救ってあげてね?」
「わかった!任せろ!」
梨絵から木刀を受け取り、雷人は水神龍の方へ向かう。
雷人が天音の元にたどり着いた。
「天音、わかってると思うが...」
「うん!いくよ!」
会話を衛星越しに聞いてた天音が返事をする。
ふたり再び水神龍を攻撃し始める。
隙を見て木刀で斬る。
「...くじら座!」
月夜の声に応じるように、くじら座が押さえ込む力を強くする。
「オオオオオオオォォォ!」
一瞬水神龍の動きが止まった。
「今だっ!!」
雷人が一気に近付き、木刀を一太刀。
今までの攻撃が嘘かのように水神龍の頭部が裂け、朝奈への道が開けた。
「っしゃ!届いた!...けど!」
裂けた時の衝撃で、雷人は吹き飛ばされた。
「私が行く!」
天音がすかさず朝奈まで向かう。
「朝奈!」
「...天音...?」
『魔力無効化』の影響もあり、意識ははっきりしてないが、いつもの朝奈に戻っていた。
手足は水神龍と一体化しており、動ける気配はない。
朝奈は天音の傷や半壊の会場を見た。
「...!私は...なんてことを...」
「いいから!!」
天音が朝奈の手足の周りを少しずつ削っていく。
自分が何をやったのかを見て、今にも泣きそうな朝奈。
「天音..」
と朝奈の言葉を聞く前に、天音は水に押し出された。
「くっ!再生した!」
「だったらもう一度だ!」
再び三人は攻撃を始めた。
何もない暗い世界。
水の中にいるような感覚が朝奈を包む。
そんな朝奈は、既に生きる気力を見いだせていなかった。
私はやってはならないことをした。
魔力に取り憑かれ、水神龍を目覚めさせてしまった。
村人の信仰心がいかに強いか理解している。
それなのに力を求めてしまった。
制御が利かない神の力。
今の私に還る資格はない。
お願い。
『私を殺して。』
「...!水神龍の魔力が増しました」
月夜が衛星越しに告げた内容に、二人は驚く。
「バカな!『魔力無効化』を喰らったのにか!?」
「恐らく、朝奈さんが意識が戻った時ににこの惨劇を見て、生きる気力を無くしたのかと」
それを聞いた天音は怒っている。
「あのおバカ!雷人!もう一回斬って!」
「言われずとも!」
何か察した雷人は、隙が出来ていないにも関わらず斬りに行った。
少し攻撃を受けながらも、水神龍の頭部に辿り着き、木刀で斬り裂く。
「斬った!...けどまたぁ!」
雷人は再び吹き飛ばされるが、月夜の衛星に助けられ、先程より飛ばされなくすんだ。
「朝奈!!」
天音がすかさず飛び込み、呼び掛ける。
「天音...お願い...私ごと...殺して」
朝奈は泣きながら訴える。
彼女の表情に、生気はなかった。
そんな顔の朝菜を、天音はひっ叩く。
「このおバカ!友達を殺せるわけないでしょ!」
朝奈は驚いた。
叩かれたことではなく、言われたことに対して。
「友..達?」
「あんたとは何かこう、張り合ってたけど!仲良くなりたいし、好敵手でいたい!強い人と戦うの好きだもん!朝奈は強いし、そのー...」
天音は少し顔を赤くした。
「とにかく、友達だから助けるの!」
彼女なりの説得だった。
「天音...」
「ああ、再生しそう!」
徐々に再生し始めており、押し出されるのも時間の問題だ。
「一度しか言わないよ!この龍の魔力、自分のものにして!」
そう言うと天音は押し出されてしまった。
友達。
そう言われて嬉しかった。
今まで勝つことが正解だった。
負けは認められない、と。
村の皆は、水神龍の加護を受けた偉大な魔導師として接してくる。
誰も朝奈自身を見てくれなかった。
だが、負けることで得るものがあるということを学んだ。
『友達』が教えてくれた。
『友達』は私を認めてくれる。
その『友達』が望むのなら...
朝奈は魔力視と魔力感知に集中させる。
力が一番集中している場所を探す。
どこだ?どこにある?
流れを辿っていくと、核のようなものを感じた。
この核を支配できれば!
核に触れ、魔力が逆流するのを取り込む。
私は強いんだ!
友達のために!
水神龍!私に従え!!!!
突然、核から流れ込んできたのは、何となく見覚えのある景色。
誰かが立っている。
誰なの?
次の瞬間、朝奈は核に飲み込まれていった。
「グオオオオオオオオオオォォォォォォ!!」
水神龍の雄叫びと共に、徐々に体が魔素に戻っていく。
「やった!?」
「とにかく、月夜のとこに行くぞ」
お互い光装と雷装を解いていた。
「くじら座、お疲れ様です」
月夜もくじら座を魔素に還す。
「お疲れ、月夜」
天音と雷人が月夜のところに着いた。
「皆ー!」
梨絵も三人のもとに駆けつける。
「梨絵、これ返しとくな」
雷人が木刀を渡す。
「うん!お疲れさ...!!」
「...!、そんな...!!」
木刀を受け取ると、梨絵と月夜が何かを察知した。
「二人とも?どうした...!」
天音も気付いたようだ。
さっきまで水神龍がいたところに何者か立っている。
その姿は朝菜ではない。
少しだけある龍のような名残と、先程より大きな魔力。
「...えらく小さくなったと思えば、強くなりやがったな」
雷人も既に臨戦態勢に入っている。
「おい!朝奈さんはどうした!?」
「あの娘は完全に取り込んだ。我が魔力の糧として大いに役に立ったぞ」
今回のは会話が出来るらしい。
というよりも糧?
完全に吸収したようだ。
「友達を餌扱いするのは許せないなぁ!」
「同感です!」
二人もかなり怒っているようだ。
しかし、雷人も天音もほとんど魔力が残っていない。
月夜は余裕そうだが、残り3割くらいだろう。
それを察してか、月夜が作戦を告げようとする。
「ですが、光装、雷装ともに使えない今、厳しいのは変わりま...!!」
「...!まずっ...」
月夜と梨絵が反応したが、わずかに遅かった。
天音と雷人は感知すら出来なかった。
水神龍が魔力感知を掻い潜り、梨絵に一撃入れたのだ。
魔力視を使えた月夜と梨絵は辛うじて攻撃を読めた。
木刀で防御は出来たが、衝撃で吹き飛んでしまう。
「梨絵ー!!!!」
雷人は残った魔力をすべて使って、梨絵を助けいに行く。
「間に合った...けど魔力が!」
防御魔法を使う魔力の余裕すらなかった。
梨絵と庇いながら、壁に衝突する。
「ぐはっ!」
激しい痛みと同時に、雷人は気を失う。
「雷...くっ!」
心配した天音が二人のところに向かおうとするが、水神龍に止められる。
「天音とやら。貴様にようがあるのだ。外野は退場を願おうか」
水神龍はいつの間にか用意した刀を天音に向ける。
「月夜!雷人のところに!」
天音に言われるが、月夜は動こうとはしない。
「ですが天音の今の魔力じゃ...」
魔力視や魔力感知が鋭い分、見えてしまう敗北のイメージ。
「いいから!」
天音は覚悟を決めている。
月夜は腹をくくるしかなかった。
「...わかりました。ご武運を」
月夜が雷人と梨絵のほうへ向かった。
「これで一対一だよ!」
天音はグングニルを構えて、水神龍と対峙する。
「我の刀と貴様の槍。どちらが強いか決闘といこうか」
「ねぇ雷人!しっかりして!死んじゃだめ!!」
雷人は辛うじて息している。
「梨絵さん!雷人は!?」
月夜は駆け付けて直ぐ顔が青ざめる。
雷人の下には赤い水溜まりが出来ている。
「月夜ちゃん!!血が止まらないよぉ!」
梨絵は泣きながら月夜に訴えかける。
「十二星座が水の乙女よ、我らに癒しを」
月夜が手を動かし、詠唱を始める。
「月夜ちゃん!その魔法使ったら魔力が...」
詠唱が必要な魔法は、威力効果ともに大きいが、その分消費魔力はかなり増える。
「今の私に出来るのはこれくらいです!」
衛星が星座を型どる。
「月魔法『水瓶座の回復液』」
瓶からエメラルドグリーン色の回復液が流れる。
徐々に雷人の傷が塞がっていく。
「う...もう...!」
月夜の魔力が尽きた。
「月夜ちゃん!」
力が抜けるように倒れかけた月夜を梨絵が支える。
「ごめんなさい...傷を塞ぐくらいしか出来なかった...」
月夜は少し目に涙を溜めている。
自分の不甲斐なさを悔しむ。
「そんなことないよ!今はとにかく、天音を見守ろう!」
魔力を持たない梨絵には、かける言葉が思い付かなかった。
「...っく、この!」
天音のグングニルは空を突いた。
途端に後ろからくる斬撃。
それを天音は避け、すぐさま距離をとった。
「...流石は光魔法の使い手よ。我を目で追うとはな」
光魔法を使う天音は、魔法を見るため、自身が亜光速で動くため、動体視力が常人の遥か上を行く。
さらに魔力で強化されるので、ほとんどの魔法を見て対応できる。
だが、魔力がほとんど残ってない天音は、身体強化をするのでやっとだ。
動体視力を上げれるほど、魔力に余裕がない。
「ふん!遅すぎて当てる気にもならないのよ!」
強がるが正直厳しかった。
カウンターを何度か試みてるが、全て見切られていた。
「こうなったらもう...」
一か八かの一撃にかける!
天音は先程と同じ状況を、作り出す。
突きが避けられ、後ろからの斬撃。
かかった!
天音は身体強化していた魔力で脚部だけ光装を展開し、亜光速で水神龍の後ろに回る。
水神龍は気付いていない。
「これで最後だ!」
天音は渾身の一撃を水神龍の頭に入れる。
しかし、天音の攻撃は避けられた。
頭を傾けて、最低限の回避をしたのだ。
「そんな...読まれて...」
「なにか狙ってることは分かっていたのでな」
驚く天音に水神龍が告げると、刀で斬りつける。
天音は咄嗟に防御しようとグングニルを構える。
「...!グングニルが...!」
だが、今までの攻撃のせいか、グングニルが耐えれず、折れてしまう。
水神龍が斬った勢いのまま、蹴りを入れてくる。
天音は防御魔法でダメージを軽減するものの、飛ばされてしまう。
「ああっ...!」
天音は三人のところまで勢いよく転がった。
「うっ...」
「天音ちゃん!」
梨絵が言葉をかけるが、天音は動けなかった。
天音の魔力も尽きてしまった。
「もう終いか。意外と呆気なかったな」
水神龍は刀をしまい、魔力を溜める。
「まさか...ここまで計算されていた?」
四人は一ヶ所に固まっている。
大きな魔法を当てれば、容易く殺される。
そんな絶望的状況のなか、梨絵が三人の前に立つ。
「私が...」
梨絵は木刀を構える。
「止めて梨絵...貴女だけでも逃げて...」
「いやだ!友達を置いて逃げるなんて!」
天音はか細い声で話すが、梨絵は動かない。
「我の前に立つか、震えているようだが?」
「う、うるさい!」
梨絵は恐怖で震えている。
「梨絵さん、ダメです!...っく...」
月夜は止めに入ろうとするが、体が上がらない。
魔力を溜め終えた水神龍が手を構え、術を放つ。
「仲良く消えるがいい。水魔法...」
水神龍が魔法を出そうとした瞬間、声が聞こえた。
「そこまで」
いかがでしたか?
朝奈が見た情景の正体は?
最悪の状況の中、最後に現れた人物は?
因みに、最初の予定では、この後の展開が少し続き、倒しきる予定でしたww
長いのは違うなと思い、切りましたw