Ep.4 魔導大会 1
今回は待ちに待った月夜の魔法解禁です!
それと、少し変わった方々が出られます...
会場は既に観客で埋め尽くされていた。
魔導大会は、世界中の魔導師達が、トーナメント形式で競い合う大会だ。
ルールは簡単。魔法を使って勝つ、それだけだ。
オリンピックの正式種目とまではいかないが、世界各国に生中継されるなど、規模としてはかなり大きい。
「うわー広ーい!」
我先にと駆け出した天音はテンション爆上げ状態だ。
「特設会場とは思えない広さね」
朝奈も心なしか興奮してるようだ。
「そら、エントリー行くぞー」
魁が呼び掛け、彼らはそれについていく。
「エントリー頼めるか?」
「あ、はいかしこ...って『雷獣』様!?」
周りのスタッフ、選手がざわつき始めた。
「ああ、俺は出場しないよ、出るのは彼らだ」
受付が目をやると、思い出したかのように
「あ、特別枠で出られる方々ですね!かしこまりました、案内いたします!」
特別枠?と雷人が疑問に思うと、月夜が代弁した。
「先生、特別枠とは?」
「主催者が昔の知り合いでね、作ってもらったんだよ。本来は予選があるんだがな」
それって軽くズルなのでは?と少し雷人は思った。
「そら、控え室に行ってこい。俺は別室で見とくよ」
魁に言われ、彼らは会場に入っていった。
見送った魁に向かって歩いてくる女性が一人。
「まさかあんな餓鬼共を出場させるとはな、『雷獣』」
軍服を身に纏った、水色の髪の女性。
見た目も勿論、オーラが周りの人間とは次元が違う。
「久々だな、『氷牙』」
男性待機室にて。
「わくわくしてるか?雷人」
大樹が雷人の横に座ってきた。
「どうかなー?お前ら以外大した奴らいないぞ?」
大樹が慌てて自らの口に人差し指を当てながら、
「ばかお前!あんまそーゆー事言うなよ!?」
と小声で話す。
実際、他の選手はレベルで言うと、160くらいしかないだろう。
あくまで感知出来る限度なので、差違はあるだろうが。
「ま、トーナメント的にお前とは3回戦目か?楽しみにしとくわ」
雷人が拳を前に出す。
「おう、負けねぇよ」
大樹も拳を差し出すのであった。
女性待機室にて。
男子二人が男の友情を見せてる中、天音と朝奈は女の戦い真っ只中。
「天音さん?上手くいけば2回戦で戦えるわね、上手くいけばだけど」
「朝奈さんこそ、私が手を出す前にやられたら、その程度ってことで」
お互い笑顔で話してるのだが、漏れ出てる魔力からは殺気しか感じない。
周りの魔導師は関わるまいと距離をとっている。
月夜はやれやれ、と頭を抱える。
「二人とも、ここで争っても無駄です。ちゃんと戦いなさい」
「わかってます!!」
「わかってるよ!!」
ある意味似た者同士なのね...
月夜は大きくため息をついた。
「そういえば、先程から月夜さんは何をしているのかしら?」
朝奈が月夜に尋ねた。
少しだけだが、魔力を感じたのだ。
「ちょっとした仕込み、です」
……さらっ……さらっ……
紙と紙がこすれる音だけが、この部屋に鳴っている。
魔法学校の図書室。普通の学校と何ら変わりない本が置いてある。
ただ一つ違うところがあるとすれば、奥にあるやたら豪華で分厚い本たちだろうか。
魔導書。魔族が持っていたものを、伝説の5人が持ち帰り、覚醒者が魔力をコントロールするために様々な属性ごとに複製した。魔法を記すことで、他の魔導士がその魔法を扱うことが出来るようになる。ただし、自らの属性のみに限られる。
「…………」
カウンターで本を読んでいる女性が一人。
万屋波鈴。この魔法学校で図書室の管理、正確には、魔導書の管理を任されている。
なぜ彼女が管理を任されているのか?
理由はただ一つ。彼女が「超越者」の一人だからだ。
「超越者」とは、最強と謳われる伝説の5人を遥かに超える魔力を持っている規格外の魔導士。
現在、超越者は世界に3人。彼女はその一人である。
「…あら?」
彼女の手元に置いてある魔導書が輝きを放ち、ひとりでにページがめくられていく。
その動きが止まると、本の中から光が差し、人の姿を形作る。
「意外と早い帰りですね、玲華」
波鈴が本を読みながら、尋ねた。
「なんか外で面白いことやってるみたいだから、さっさと終わらせてきたわ」
玲華と呼ばれた女性は、気だるそうに答える。
霧島玲華。雷獣こと霧島魁の娘で、霧島雷人の姉である。
「よく本の中で外の魔力を感知できましたね。あの空間は完全に隔離された世界なのに」
「私を誰だと思ってるの?」
「…そうでしたね」
お互い笑みを浮かべながら、静かに談笑する。
玲華も超越者の一人である。そう、実の父より強いのである。
「さて、そろそろ第三者目線の語りは止めてもらえるかな?」
…あれー?
二人の近くに黒い渦が現れ、そこから女性が現れる。
「んもう、いつから気づいてたの?」
「本を出てすぐ」
玲華がため息まじりで答える。
「私は最初からですよ、神奈」
波鈴も本を読みながら答える。
松楼院神奈。彼女陰陽師で、最強の存在『神子』と呼ばれている。
魔素で地球が覆われ、覚醒者と呼ばれる魔導士が生まれたことにより、陰陽師、エクソシストなど霊的要素を生業としていた者たちは、本物以外、排除されていた。
魔素を媒介して、能力を発動させることが証明されたからだ。
陰陽師が使う「呪術」は、自らの呪力を用いて、魔素を利用する。このことから陰陽師は、呪術属性を扱う魔導士として分類される。
神子である神奈は、呪力が他の陰陽師と桁が違う。
彼女もまた、超越者の一人でもある。
霧島玲華、松楼院神奈、万屋波鈴。この3人が、超越者と呼ばれる魔導士である。
さらには、高校生時代の同級生でもあるのだが、それはまた別の話。
「超越者の3人が集まるなんて、世間的には重大事項ですね」
波鈴はそういうが、心配している様子は見えない。
「別にそんなの、関係ないじゃない?」
「お父さんたちも、昔は結構頻繁に会ってたみたいだし、問題ないでしょ?」
二人も全く心配していない。
「…何度も言ってると思いますが、一人でも手を付けられない強さを持つ超越者が、3人同時にいるんです。私達が万が一反乱でも起こしたら、人類はいとも簡単に制圧されてしまう。国の偉い人たちはそう考えますよ?一応、私は超越者の管理も任されているんです。本来ならこのように集まっているのなら、上の方々に報告しなければならないのですが」
波鈴が淡々と話しているが、二人は興味がない様子だ。
「世界征服なんて、そんなことしてる暇があったら玲華と遊べないじゃない」
神奈が腕を組んで話す。
「確かにそうね。神奈とじゃないと本気が出せないもの」
いかにも一触即発な空気。
「…二人とも。さっきの説明、聞いてました?」
笑っているが、明らかに怒っていることを、魔力が語っている。
「じ、冗談よ!?今すぐ始めようなんて思ってないわよ!?」
「そうそう。勝手に始めて、それでお父さんに何回怒られたと思ってるのよ」
二人は慌てて発言を撤回しようとする。
「…まぁ、いいです。二人が世界征服なんてそんな小さいことに興味ないのは分かってますから。報告も全くしてませんよ」
笑いながら話す波鈴を見て、二人は安堵した。
「それより、はやく見ましょうよ!二人のところに来た本来の目的を忘れかけてたわ!」
「やはりそれが狙いでしたね」
そう言うと波鈴は手元の魔導書を手に取る。
「ちょっと中継してもらいますね、『共有』」
唱えると、本からプロジェクターのように映像が壁に映し出される。
「強い魔力が何人も集まっていると思えば、魔導大会だったのね」
「いいわね、いいわね!というより、この視点はどうやってるの?」
「あの子の『魔法』がいいところに配置してありましたので」
波鈴がそう告げると、二人とも何か察したようだ。
「試合前にもう闘いの仕込みをしてるのね。あの子らしいわ」
いつの間にか、3人は肩を並べて座っている。
「見せてもらうわよ、雷人、天音ちゃん、月夜ちゃん、そして…」
「さあ、第五回魔導大会が始まろうとしています!今回は記念大会として、特別枠『雷獣の推薦枠』を設けました!あの伝説の5人の一人である雷獣氏が自ら選んだ猛者達も参戦します!!今年は超豪華です!!」
あの『雷獣』が推す魔導師。
観客も納得する算段。雷獣の無駄遣いである。
予選無視で急遽参加するには一番の理由だ。
魔導大会は、男女混合で行われる。
女性の方が魔力の適正が高い傾向にある。
身体強化魔法の類いは、男性の場合、体への負担が大きいので、普通は使わない。
よって、女性が勝つことも珍しいことではない。
「それでは、早速第一試合から、スタートだ!!」
早速、二人の魔導師が激闘を繰り広げている。
50m四方の正方形のステージで戦い、気絶、場外になると負けだ。
また、負けを認めることも可能だが、基本シラケてしまうので、誰も行わない。
「ふーん、普通に強そうな魔導師多いね」
天音がステージの方を見て感心している。
「呑気ね。貴女の相手は前回準優勝した魔導師よ?」
三試合目に出る朝奈も一緒に待機している。
「知ってるよ?あんたと戦うために適当に流して勝つつもりだから」
天音がそう言うと、強面の巨漢の男が声をあらげた。
「おいおい嬢ちゃん!『グリズリー』と呼ばれる俺様に手を抜いて勝てるってか?」
グリズリー。前回大会準優勝者の魔導師。
魔導師というよりも、レスラーな容姿だ。
大会で本名を名乗る必要はない。
参加には身分証が必要になるのだが、選手名は自由だ。
朝奈がグリズリーを見て、魔力感知で鑑定した。
決して弱くない。準優勝しただけはある、と思った。
だが、相手は光属性を使うレベル187の魔導師。
申し訳ないが、結果は見えている。
朝奈がそう考えてると、天音が言ってはならないことを言う。
「あんたみたいな悪人面なら、すぐに倒しても問題ないよね?」
わざとか!こいつはわざとなのか!と朝奈は頭を抱える。
明らかにキレている。
「第二試合を始めます!選手は入場してください!」
司会者が裏で何が起こってるのかも知らずに呼ぶ。
「女だから優しくしようと思ったが、やめた!ボロボロにして痛め付けてやる!」
先に、グリズリーがステージへ向かった。
「いいのあんた?怒ったときの魔力相当だったわよ?」
朝奈は負けてほしくない。
次の試合で、天音と戦いたいだけなのだが。
「大丈夫だよ!一瞬で終わらせるから」
天音はウィンクしめ、ステージに上った。
「そう...一瞬で、ね?」
「ライトサイド!前回大会準優勝!熊のような圧倒的パワー!土属性!悪役上等、グリズリー選手!レベル175!」
大きなディスプレイに選手のプロフィールが表示される。
「対してレフトサイド!『雷獣の推薦枠』から出場!属性は秘密!魔法少女アマネ選手!レベル178!」
会場が、先程と同じく歓声が上がる。
「ふんっ数レベル高いだけか、大したことないな」
「手を抜いても勝てるってことよ」
お互い挑発の嵐。
「それでは二回戦を始めます!レディー...ゴー!」
審判の掛け声と同時に、ドゴーン!と大きい音が鳴った。
会場が一気に静かになる。
ステージに立ってるのは、天音ただ一人。
「おっと!開始早々、選手がいない!どこへ行ってしまったのか!?」
司会者の言葉を聞いて、天音が指差す。
「あそこで寝てるよ?」
指差した方向には、グリズリーが気絶している。
壁には大きなヒビが入っている。
「あの、これは一体?」
審判が天音に尋ねた。
「別にちょっと押し出しただけだよ?」
観客は何があったんだとざわざわしている。
「い、一旦審議に入ります!」
「ほう、面白い魔法だな」
氷牙がステージを見据えながら魁に言った。
「だろ?光属性だ。魔族にも使い手はいなかったからな」
二人は特別な観覧席で試合を観戦している。
「光魔法は光速だ。ただの魔力を放つ「魔力球」ですら光速で放たれる」
「相手は自分に何が起こったか理解できてないだろう。気付いたらベッドの上というわけか」
魁が氷牙に解説した。
「氷牙さん!先程の試合ですが...」
審判が審議を尋ねに来たのか。
確かに未確認属性の魔法を、彼らだけでは判断できないか。
「彼女の勝利だ。光魔法で飛ばされた。アナウンスは任せる」
氷牙がそう告げると、審判は会場に戻っていった。
「随分とすんなり受け入れんのな」
「試合が始まった途端、魔力が一瞬強まった。おそらくレベル190近いだろう。光速の魔法など、魔力視を持ってなければ、止めるのはほぼ不可能だろうな」
流石だな。あの一瞬でほぼ的確なレベルを感知している。
バトルセンスに関しては、俺より上だからな。
と、魁が思っていると、氷牙が尋ねた。
「お前の推薦枠は、そういう奴らばっかりか?だとすると、今回は荒れるぞ」
「俺の息子含め3人は普通の属性だ。ただ、一人だけちょっと違う」
そう、ちょっとだけな。
「審議の結果、魔法少女アマネ選手の勝利となりました!彼女が使ったのは、世界で彼女のみが使える光属性の魔法です!」
光属性というワードは、会場を盛り上げるのに十分だった。
選手達には、少し苦悶の表情が残っている。
「光属性。想像以上ね。まさか文字通り光速の魔法とは思ってもなかったわ」
朝奈がステージから降りた天音に問いかける。
「光なんだから、仕方ないじゃん?どう?この私に勝てるかな?」
天音がニヤニヤしながら朝奈に言う。
「勿論よ。勝って見せるわ」
「レフトサイド!『雷獣の推薦枠』から出場!水属性の使い手!汐朝奈選手!」
「魔力球・水!」
朝奈がそう唱え、水の塊が相手選手を押し飛ばす。
「場外!汐朝奈選手の勝利です!」
会場が盛り上がっている。
朝奈は堅実に戦い、勝利した。
「魔力使いすぎよ!私と戦ってるときにバテないでよ!」
天音は朝奈はを心配している。
次の試合で戦いたいだけなのだが。
「まさか。ちゃんと手を抜いてるわ。あんた用に取ってあるわよ」
朝奈は不適な笑みを浮かべる。
「二人ともお疲れ様です」
月夜がステージ袖にやってきた。
「ええ、余裕です。ですが月夜さん、貴女の相手は前回大会優勝者。油断は出来ませんよ?」
朝奈がそう言うと、月夜は笑って答える
「仕込みは終わってます。負けるはずがありません」
ちゃくちゃくと試合が進む中、氷牙が異変に気づく。
「雷獣よ、なんだ、あの魔導師は?」
指差す先には、月夜がいた。
「ん?ああ、あの子はちょっと変わってるって言った子の一人だ。それがどうかしたか?」
「あいつだけ他の魔導師とは格が違う。我らに匹敵する...下手するとそれ以上か」
氷牙が一目見ただけで警戒するか。
「25年前の戦いの最終決戦地は覚えてるな?」
「月の裏だったな。その戦いの余波が地球にまで及んだ」
「その時の『月の因子』。その全てがあの子の中だ」
試合が近い雷人と大樹がステージ袖で試合を見ている。
ほか二人は、待機室にて休憩中だ。
「そういえば、月夜さんの属性ってなんだんだ?」
と、大樹は雷人に尋ねた
レベル測定の時、『不明』と診断されている。
勿論、雷人は知っているのだが、
「んー説明が、難しいなー」
はぐらかした。面白くないからだ。
「ま、見てればわかるよ」
「ライトサイド!前回大会優勝者!風属性のエキスパート!ハート伯爵選手!レベル182!」
流石優勝者。盛り上がり方が違う。
黄色い声援も心なしか多いようだ。
「貴女は強いと私の勘が言っています。申し訳ないですが、本気で行かせてもらいますよ」
「その感知力は誉めます。ですが、貴方の攻撃は当たりません」
月夜はそう告げたが、ハートはわかっていないようだ。
「レフトサイド!『雷獣の推薦枠』から出場!属性は不明!黒部月夜選手!レベル180!」
会場は盛り上がる。
先程、天音が属性不明から光属性がアナウンスされた。
それと同等の新しい魔法が出るかもしれないとなると、期待せざるをえない。
「それでは第五試合を開始します!レディー...ゴー!」
会場は静かになっている。
というよりも、どよめきのほうが強い。
「おいおい...まじかよ」
大樹が驚いた表情で試合を見てる。
「月夜さん、やばくね?」
「あれがあいつの魔法だ」
雷人は大樹の質問に答え、試合に視線を戻した。
確かに、始めてみるなら異様な光景か。
何せ...
「何故だ!何故攻撃が当たらない!」
ハートは、既に肩で息をしている。
「貴方の攻撃は全て見えています。魔力感知と魔力視で」
月夜は余裕の表情で答える。
ハートは相手の動きを予測して攻撃をしている。
だが、ハートの攻撃は月夜にかすり傷一つどころか、触れることさえ出来ていない。
「くっ...!ならば!」
が距離を取り、魔法を唱える。
「無数の刃!」
月夜のあらゆる方向から無数の風の刃が押し寄せてくる。
「全方位からの攻撃だ!避けれるはずが...」
「それが何か?」
月夜は一つ一つ、触れることなく完璧に回避している。
「馬鹿な!ありえない!いくら感知力が高いと言っても、精度が高すぎる!」
ハートは、拳を握りながら、叫んでいる
「何故避けきれるのだ!」
ハートが月夜に問う。
「『衛星』。私の魔法です」
月夜が手の上に拳くらいの大きさの衛星を出す。
「この子達を上空に配置することで、魔力感知と魔力視の精度を上昇させることが出来ます。簡単に言えばGPS衛星です」
指を鳴らすと、今まで透明で不可視状態だった衛星を見せる。
「本来、GPSは2~4つの衛星を使いますが、私は13個使ってます。貴方の位置、魔法の行き先、全てが見えます」
ハートは、冷や汗をかきながら叫ぶ。
「馬鹿な!そんな魔法聞いたこともない!さっきの奴みたいな新たな属性か!」
どうやら、怒りでで口調が変わるタイプのようだ。
「私の魔法は属性で区別できません。強いていうなら」
「『月属性』、ですかね」
月夜が少しずつ距離を摘める。
ハートが、魔力球で応戦するが、やはり触れることが出来ない。
「くそ!こうなったら、最終手段!」
が構えると、竜巻が発生する。
それは徐々に大きくなり、ステージの一辺の大きさほどになる。
「さあ、逃げ道はない!くらえ!暴風!」
月夜に徐々に迫ってくる竜巻。
「...どんなに巨大な魔法でも、脆い部分を突くことで...」
手を銃の形にして、狙いを定める。
「簡単に消せる」
指先に魔力が集まり、徐々に光が増していく。
「月魔法『月の煌めき』」
人差し指から、魔力のレーザーを放つ。
レーザーが竜巻にぶつかると、一瞬で竜巻が消滅した。
「ありえん!俺の最強の術が、こうも簡単に!」
レーザーはまだ生きてる。
目に入ってきたディスプレイの数字を無意識に読む。
「れ、レベル190...」
ハートは、レーザーにより、場外に飛ばされてしまった。
「勝者!黒部月夜選手!」
会場に歓声が広がる。
「まじかよ、マジで一発も当たらずに勝ちやがった」
大樹や他の選手が驚愕している。
仮にも前回大会優勝者。ここまで一方的に倒されるとは思っていなかっただろう。
「月夜の奴、手抜いてたな」
雷人がそう言うと、大樹が振り向く。
「はあ!?嘘だろ!?あれで本気じゃねぇのかよ?」
「天音や俺と修行してた時は、衛星を倍以上使ってたからな。それにあのレーザーも術を壊すための最低限の威力。本来の威力なら、道筋に何も残らない」
つまり、天音もあれで手を抜いているということだ。
「というか、衛星なくても魔力感知と魔力視だけなら、伝説の5人の遥か上の精度だ。1対1であの程度の相手なら使うまでもない」
「まじかよ...じゃなんで使ってたんだ?」
「ウォーミングアップだろ。感覚を思い出すってやつ?」
雷人がそう言うと、大樹は笑った。
「まじか...震えが止まんねー」
笑いながらも、汗をかいている。
「どうした?勝てる気がしないか?」
「いいや、むしろわくわくだわ!それでこそ戦い甲斐があるってもんよ!」
「それは良かったです」
月夜がステージから降りてきた。
「お疲れ。どうだった?」
「いい勝負でしたよ?準備運動くらいにはなります」
月夜に疲れの様子は全く見えない。
「雷人、貴方の対戦相手ですが、気を付けてください。嫌な予感がします」
月夜が雷人に耳打ちする。
月夜がそんなこと言うとは、珍しい。
「...わかった。本気でやる」
「さあ第七試合です!」
試合を終えた3人と大樹は、ステージ袖で様子を見ている。
「ライトサイド!『雷獣の推薦枠』からの出場!霧島雷人選手!レベル178!」
相手はローブで顔を隠している。まるでジェ○イの騎士みたいだな。
「対してレフトサイド!経歴一切不明!謎の戦士!剣聖選手!レベル...1!?」
会場が再びざわつく。
月夜が言ってた嫌な予感はこれのことか。
レベル1で勝ち抜くということは、他の魔導師よりも警戒しなければいけないな。
だとすれば、決して手を抜かない。全力でいく。
雷人が構えると、剣聖も木刀を構える。
魔力で生成した武器以外は、一つまで持ち込める。
「木刀か、そんなんで勝てるとでも?」
雷人が少し挑発してみるが、剣聖は黙ったままだ。
「さあ、試合スタートです!レディー...ゴー!」
一瞬で身体強化を施し、距離を詰める。
相手は動いていない。絶好のチャンス。
捕らえた!
「『雷虎の鉤爪』」
そのまま相手に術を叩き付ける。
だが、目の前にはあり得ない景色が見えた。
「なっ...!」
光速とまではいかないが、仮にも雷の速度。普通は捉えられない。
たが、剣聖は自らの木刀で受け止めている。
「そんな!どういうこと!?」
天音が驚く。
「俺、普通に見えなかったぞ?感知してもぎりぎり...」
大樹が驚いていると、、月夜が言う。
「天音みたいに、光速に目が慣れてるなら別ですが、本来なら魔力視が使えなければ、あれに反応するのはほぼ不可能です」
「月夜さん以外に魔力視を使える魔導師が?そんなの伝説の5人や超越者くらいしかいないだろうし、ましてやレベル1となると...」
朝奈がそう言うと、天音が気づく
「...!まさか!」
「そう、私達は魔力視を持ってて、レベル1の存在を一人知っています」
一瞬理解できなかった。
だけど、その返しの癖。すぐわかった。
「そういえば、お前には剣で一回も勝ててなかったな」
雷人が距離を取り、術を解く。
「その太刀筋、なんで参加してるんだ?梨絵」
フードを取ると、見慣れた幼馴染の顔があった。
「力試しだよ、雷人」
いかがでしたでしょうか!?
超越者3人揃えました!今のところ強くすぎて活躍できません!ww
(今回の対戦相手は、全員モブです)