第一話 魔王と勇者の求婚
「やっと邪魔なしに君と戦うことができる・・・。今日こそ決着をつけよう、マーガレット!」
「そうね、愛してるわ!ハインツ!私に勝ったら私と結婚しなさい!」
「僕の方が君を愛してる!僕に勝ったら結婚してくれ!」
その日、5つの町が消え、5つの町分の面積、それ以上の平原ができた。
この平原が出来た理由を説明するには歴史を遡る必要がある。
約一年前。
それまでになかった大陸が一日の内に誕生した。
その名も「魔大陸」。その大陸からの接触はなかったが、魔大陸から最も近い国の王は魔大陸から漏れ出てくる魔力に怯え、その時世界を騒がせていた勇者と呼ばれている男に魔大陸の魔力をなんとかしてほしいと頼んだ。
勇者の名はハインツ。
剣の道を極めた者として勇者と言われていた。
その戦力は一人にして王国の兵を一瞬で全滅させ、山を破壊することができるというものであった。
そのため、ハインツは自分より強い人物がいないということで退屈しており、暇つぶしとばかりに魔大陸に行くが、そこで一人の強者と出会う。
その人物は魔大陸の民たちからは「魔王」とよばれている女性であった。
魔王、その名はマーガレット。
魔法は全属性が使え、応用力もある。
その一撃は戦闘能力の極めて高い魔大陸の者達の頂点に立つ者としてふさわしい、海を一瞬で凍らせ、沸騰させることも簡単だったという。
二人は魔大陸で毎年開催される力だめしという名の魔王を決める戦闘大会で出会った。
ハインツは魔大陸の住民になりすましていたため、この大会で強いと噂の魔王と戦うことが出来るのなら、と出場していた。
マーガレットは毎年行われる大会でも自分より強い者が現れず、魔王になってからの毎年連戦連勝を記録していた。
当然のように出場者全員に勝ったハインツは魔王に対戦できるという権利を獲得することができ、マーガレットは久しぶりの強者に胸を躍らせていた。
そして大会の最終決戦では、お互いは初めて全力を出し切れる相手に出会ったことに歓喜していた。
激闘の末勝ったのはマーガレットであったが、マーガレットはそのままハインツを返すつもりはなく、ハインツもまた、マーガレットともっと戦いたいと魔大陸に住民票を提出し、魔大陸の住民となった。
それから二人は何度も戦ったが、200回戦い結果は100勝100敗。
いつもギリギリのところでどちらが勝つかは分からない戦いであった。
いずれハインツとマーガレットの戦いは魔大陸の住民たちの娯楽のようになってしまった。
そして201回目の戦い。
魔大陸の住民たちはすっかり、どちらが勝つのかと盛り上がっていた。
「やはりマーガレット様だろう。あの美貌に反して激しい攻撃!俺の顔の傷はマーガレット様のために取っているんだぜ!」
「おい、ハインツも馬鹿にならんだろう。俺、この前あいつに挑んだけど、瞬殺されたぞ?」
「ああっ!私、この戦いが終わったら、ハインツ様に求婚しようと思うの!」
「頑張れっ!恋は弱った所を一気に、よ!」
そんな住民達とは離れたところで戦う二人は戦う中で自分が相手に惹かれているということを自覚していき、いつしか戦いのなかで勝ったほうが相手に求婚するということに決定されていた。
「ふふっ、貴方もやるわねえ。さっき風の魔法で聞こえたけど、貴方この戦いが終わった後求婚されるらしいわよ?」
「君以外の女性になんか色気のかけらも感じないね。だけど君にまだ風の魔法を使う力が残っていたとは驚きだよ。もっと強くしてもいいかい?」
「あら、私はもっとやれるわよ?」
「奇遇だ。僕もだよ」
戦いがよりいっそう激しく、早くなる。
激闘の末勝ったのは、またしてもマーガレットであった。
「勝った・・・、貴方に勝ったわよ。」
「ふふふ、やっぱり君は強い。最後の氷魔法と火魔法には足下をすくわれたよ」
「貴方だって、貴方の剣の余波で山が薄く切れたわよ。この私の特別結界を張っていたのにね」
「あの戦いで結界まで張っているとはね。惨敗だよ、マーガレット」
倒れこんでいたハインツは起き上がり、マーガレットに向かって優しくほほえんだ。
「約束、忘れてないよね」
「ええ、忘れてなんていないわ」
マーガレットは微笑み返し、起き上がっていたハインツをまた地面に倒させ、壁ドンならぬ地面ドンをした。
「勇者ハインツ、この私、第12代魔王マーガレットと結婚しなさい」
「ああ、よろこんで、奥さん?」
『ああああああああーーーー。うそおおおおお!!!』
戦いが終わったか、と近寄ってきていた住民たちは悲鳴をあげていた。
女は絶世の美貌のいい男、ハインツが取られたことに血の涙を流し、男は魔大陸では絶対の強さ、つまり魅力を持つマーガレットが他の男に取られた、と泣き叫んでいた。