主人公補正の発覚
歩いて大体五分くらいだろうか。雫の指示通りに進むと、ホントに大きいのがあった。
東京ドームでよく大きさを例えるけどそんな規模じゃない。
県一個分くらいの街を囲むように設置されている高さ五十メートル程の壁と、それに相応した大きさの門を構え、奥に大きな城が建つ街があった。門は今は完全に開かれている。
多分夜になると閉まるのだろう。
検問所は一応あるようだが、ぺこりと、会釈をして中へ入った。
雫を降ろし周りを見ると、石畳で舗装された道に、軒並みが立ち並ぶ、商店街であった。
賑わいを現す商店街はどの店の看板は木彫りの絵がのみが描かれているもので、その店の前にいる人達は皆、甲冑やら旅装束を着て、その人々も獣の耳や尾がある者までいる。所謂、亜人や獣人だろう。
「日が暮れる前に、宿や探さないとヤバイよ。宿屋全部日暮れ前に閉まるっていうから。」
と、雫ほ真後ろにその宿屋があることも知らずに言う。
本当に周りを見てから言ってほしいものだ。
「あぁ、真後ろにあるけど?」
はっ、と後ろを振り返り、驚きと羞恥の赤く染まった顔を隠すように有無も言わさずに中へ入っていった。ようやく口を開いたのはドアを開け、宿屋のカウンターの前に立った時だ。
「そういえば此処と役所が合致してるっていってたよ。あっ、そうそう。これ。」
手渡したのは真っ白なカードだった。
「これね、ギルドカードって言うらしくてさ、これがあれば。クエストを受けられるって。あとは自分のステータスが見れるようになるんだって」
そんな話をしながら少し奥に進むと金属のような光沢のあるドアに着いた。
「ここが役所の入り口。とりあえず中、入ろ?」
こちらへの同意を求める雫に対し、頷きで返す。それと同時に中へ入っていった。
中は明るい雰囲気で、壁や天井は暖かみのある木製、壁には小さな照明が取り付けられている。その奥には横長の窓があるカウンターとなっている。雫はそこへ駆け寄り、そこにいる赤い帽子を被った受付嬢に話しかけてた。
「ご用件は何ですか?」
笑顔で質問を聞いてくる雫は迷わず答えた。
「登録とステータスをお願いします!」
それを聞いた受付嬢は腰を折り、律儀に御辞儀をし、
「カードのご提示をお願いします。」
雫の後に続いて自分もカードを出す。すると、奥から古めかしい石盤を出し、お手を、と、手を触れさせた。すると隣の機械から乳白色の紙が出でる。そこには、こう、書かれていた。
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体力 958757
攻撃 944948
防御 545955
素早さ 704558
魔力量 157565
職業 剣士
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これをみた受付嬢は驚愕していた。
「こ、これは…これが機械の故障でなければと言うかこの機械は魔力による動力供給のため壊れることは…ブツブツ」
少し俯きながら考えに考えながら受付嬢はブツブツと独り言をいい始める。
「あ、あの~だ、大丈夫ですか?」
声をかけるとハッ、と直ぐに、にこやかな笑顔に戻り、
「妹様もですね?」
と、すぐさま、半ば無理矢理にも見える様な感じで、妹にも石盤を触れさせた。すると、またしても機械のから乳白色の紙が出てきた。それには、こう書かれていた。
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体力 1978482
攻撃 264879
防御 554864
素早さ 457645
魔力量 999556
職業 魔法使い
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この紙を見て受付嬢は頷いた。
「うん。やっぱりだ。これは機械の故障なんかじゃない。この人たちは、【英雄】だ。」
と、今度の独り言にはゲームでは聞き慣れた【英雄】という言葉が聞こえた。
「英雄?」
その言葉に食いついたのは雫も同じだった。
「はい!古来から言い伝えられている伝説のひとつで、この世界を蝕んでいる魔王に唯一対抗できる手段なのです。」
成る程な。つまり、この世界では主人公ってことか。
「しょうにぃ、そろそろ宿屋いこ?」
此処に来る前から眠そうにしていた雫は今にも寝てしまいそうな程になっていた。
今まで熱に語っていた受付嬢が慌ててカードを渡してきた
「では、カードをお渡しします。これはギルドカードといって、ギルド、つまりこの街のホールでクエストを受けることができるようになるんです!」
それを貰って受付嬢が、一礼したのを見送り役所をでた。
宿屋の受け付けに、お金を置き、部屋へ向かった。
そこには、ベッドひとつとテーブルとイスがひとつだけある五畳位の部屋だった。となりには二畳ほどのシャワールームがあった。
「しょうにぃ、いっしょにシャワー浴びる?」
首をかしげ訊く。
「そうだな、丁度汗かいてたし行くか。」
シャワールームはホントにシャワーしかなく二畳というスペースもかなり狭い。勿論二人で入るとなると流石に狭いので、交互に入ろう。と、提案したが、即却下された。服を脱ぎシャワールームへはいった。
高さ30センチ程のイスに雫を座らせ備え付けてあったシャンプーで髪を洗った。流石に髪が長いこともあって大変だった。
俺からただ、雫にしてあげられることがこれ位しかないから。
いや、これ位しか、出来ない、こんなに少しの事しか。今まで苦しい中、自分も苦しいのに、辛いのに、雫は俺の心の安らぎで居ようとしてくれた。
それが、俺が今、此処にいられる理由だから
存在意義だから
大好きだから
俺も何かをしたい、雫が望むならば、何でもしてあげたい
「しょうにぃ?顔が怖いよ?」
こちらを心配そうに見る妹、
「大丈夫。心配すんな。…よし!出るか!」
心配から安堵の表情へと変わった雫が笑ながら言った。
「じゃあ、ジュース奢ってね♪」
「はい、はい」
やはり、雫は最高の妹だとおもう。
「ねぇねぇ?しょうにぃ、一緒にベッド入ろ」
既に、服に着替えて、髪をタオルで拭いている雫が天使の様な、否、天使の笑顔で、そう、言った。妹に押されベッドまで行き、先に雫をベッドに入れ、次に俺も入った。
流石に今日、色々ありすぎたな。
「お休み、雫」
「お休み、しょう…に…ぃ」
そこで完全に二人とも眠りに着いた
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