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第2話 我がまま金持ち女とガリ勉貧乏女 ♯1

「何で、何でまたあの女なのよっ!!」

 肩にかかったブロンドの髪を手で高々と振り払いながら、大声で叫ぶ。

 それが廊下を伝って、学校全体に響き渡ろうと彼女は気にしない。

 どこか近寄りがたい雰囲気を纏った、堂々とした彼女は、橙宮とうぐうあやめ、富豪、橙宮家の一人娘で、ここ、有名私立高校である、私立酒折宮さかおりのみや高等学校に通う一年生だ。


「と、橙宮さん、で、でも、学年順位、2位だ、だよ」

 何人かいる彼女の遠巻きの一人がおずおずと言う。

「そ、そうよ、あやめ。

あやめは体育も家庭科も音楽も先生のお墨付きだし、ピアノだって上手いし・・・・・・中間が2位ってすごいじゃんっ」

「そうよ、そうよ、私たちなんて、50位にも入れないから、張り出しなんかに乗らないし!」

 一人が言いだすと、みんなが言いだす。

 だが、どれも全部、彼女にとっては慰めにもなってないようだ。

「当り前よっ!

わたくしとあなた達の頭の出来を一緒にしないでっ!」

 彼女はそう言い放つと不機嫌な顔でツカツカと教室に帰っていく。

「ちょっ、ちょっと、あやめ!!

待ってよー」

 彼女の遠巻き達が急いで、彼女について行く。

 彼女がなぜ怒っていたのか、すべては彼女が今見ている中間考査の結果の張り出しにある。




 橙宮がいなくなった場所に、今度は別の人が張り出しに見にきた。

「ねぇ、陽一」

「んー?」

 すみれと陽一だ。

「何で、私の名前はどこにも載ってないの?

そして、何で、20位のところに「1‐A 高嶺たかね陽一」って名前が載っているの?」

「んー、あっ、本当だ。

俺の名前、あった。

そんで、すみれの名前はっと・・・・・・ないな」

「それは何で?

何でなの、私と陽一は毎日同じように過ごして、毎日同じ量しか勉強できる時間がないのに?」

「どうしてでしょうね。

ただ単に、すみれさんがバカなんじゃないんですかねー・・・・・・ってイってぇー」

 そう言った陽一の足のひざ辺りをすみれが思いっきり蹴ったようだ。

「なっ、何すんだy・・・「What?」」

 すみれが急に出来もしない英語を使って、陽一の言葉を遮った。

「えっ、何って、すみれがバカ・・・・・・」

 ドスッ

 すみれがもう一発、陽一に蹴りをくらわす。

「陽一、何で私の名前はないの?」

 すみれからの攻撃に痛がりながらも、陽一はもう半ば諦めた感じに答える。

「ホントですね。

すみれ様の、「朱音あかねすみれ」様のお名前、ナイデスネ。

これはもう、学校のミスではナイデショウカ?」

「そう。

じゃあ、陽一の名前が載っているのもミスなのね?」

「はい、ソウデショウーネ」

 陽一は「はぁー」と小さくため息をつく。

 すみれは昔からこうだと陽一は思った。自分のことで納得がいかないことがあれば、周りを巻き込んでも納得しようとする。

「それにしても、今回の中間は、またもや一位が山本静子しずこさんで、二位が橙宮あやめさんなんだね」

 もう、自分の名前が載っていないことに対して、何も思っていないすみれが、張り出されている紙の中でも、もっとも自分にとって縁がないだろう場所を見た。

 そこには、はっきりと他の子の名前と区別するように、大きな太文字で、「一位 1‐A 山本静子」・「二位 1‐A 橙宮あやめ」と書かれている。

「あー、あいつらって、入試でも、学期始めの学力テストでも、一位二位争ってる奴らだろう?

そして、いっつも、一位がびんぼー人の山本で、二位が金持ちで我儘なおジョー様の橙宮なんだろう?

二人とも、ま逆な奴らだから結構有名なんだぜ」

 それぐらい、同じクラスなんだから知っているだろう?

 そう言いたげな陽一に「それぐらい知ってるわよ」という風な視線をチラッとすみれは陽一に向け、言う。

「いや、ちょと橙宮さんで思い出したことがあってね。

それが、仕事のことなんだけどー・・・・・・」

 急に仕事の話をし始めたすみれの口を慌てて陽一が塞ぐ。

 そして、さっきよりも小さな声ですみれに言う。

「おっ、おいっ!

学校こんなとこで仕事の話なんかすんなよっ!!」

 慌てた様子の陽一。そんな陽一と対照的にすみれは静かに、普通の声の大きさで喋る。

「平気よ。

ねぇ、陽一、私たちは別に高校に通ったって、通わなくたって、将来は決まってる。

高校は将来を選択するために学ぶ所だとしたら、私たちは何のために高校にわざわざ通っているの?」

「そ、それは・・・・・・」

 何だかすみれに責められているようで、少しビクッとしながら答えようとした陽一。でも、すみれは聞いといて、自分で答えてしまう。

「それはね、修行をするためよ。

自分の気配をいかに消せるか、仕事のことをばれないようにどう行動したらいいか・・・・・・」

「それぐらい、分かってる」

 そう言った陽一の方にすみれはいきなり向きなおり、陽一の顔面すれすれの位置に指をさす。

「甘いよ。

分かってる、自分はちゃんと修行をやって来た・・・・・・そう思えるなら、自身を持ちなさい!

今の陽一には自信がないっ。

ちゃんと修行をやって来たのなら、自分は気配を消せている自信があるはず。

そして、自信があるならば、学校で堂々と仕事の話が出来るはずっ!!」

 そうビシッと言ったすみれ。

 最後の方は、ほぼ叫んでいただろう。

 だけど、みんなそんなすみれを気にしてはいない。

 すみれはちゃんと、自分の気配を消せているのだ。

「す、すまん」

 すみれに本気で軽く説教され、少し気を落とした陽一がすみれに謝る。

「でっ、すみれ。

仕事の話って何だ?」

 今度はちゃんと自身を持ててる。

 そう思ったすみれは、さっきまでの真面目な顔から笑顔になる。

 そして、くるりと体の向きを自分の教室の方向にかえ、少し歩いてから、陽一に振り返り、言った。



「実はね、今日の仕事。

今日の仕事の依頼人、橙宮さんのお父さんなんだ」



「ただ、それだけー」

 そう言いながら、すみれは教室へと帰っていった。

「何だ、間をあけるから、もっと深刻な話かと思った」

 陽一もそう言うと、教室へと帰っていく。




 すみれと陽一にとっては、ただ、それだけのこと。




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