第一話 朝の日常
そう、例えるなら“ハナ”。
“華”のように煌びやかで、“花”のように純粋で無垢。
中でも、“白いハナ”は綺麗。
だけど、注意して。
“白”は何にでも、染まっちゃうから。
“白”は“シロ”のままでいるとは限らないから。
例えば、そーね、茜色とかに染まっちゃうわ。
血の色に似た、茜色に。
そしたら、その“ハナ”は“すみれ”だね。
血塗られた“すみれ”だね。
時は、現在、200X年。
舞台は、表と裏が互いに成立しあっている世界。
表のものはただ何も知らずに生き、裏のものは朽ち果てて死んでゆく。
そんな世界でも、表と裏が混ざり合ってしまう時がある。
そんなときは、彼らが動いている。
そう・・・・・・、暗殺者たちが。
ピピピピピピーーーーー!!
目覚まし時計がけたたましく鳴る。
「すみちゃん、陽ちゃん。
朝ですよ〜、起きて〜」
台所では母親と思しき人が朝ごはんを作りながら叫ぶ。
すると叫んだ方向にある階段から、ドンドンドンッとものすごい音を立てながら二つの足音が駆け降りてくる。
「もぉ、また遅刻間近じゃん、陽一のせいで!!」
学生服を着た黒髪の女の子が自分の髪をツインテールに結びながら降りてくる。
「うるせー、俺のせいじゃねーよ。
お前だって昨日、一緒に夜中まで仕事してたじゃんかよ、すみれ」
その女の子の後ろから、女の子と同じ学生服を着た癖っ毛ある茶色の髪の毛がボッサボッサになっている男の子が大きな欠伸をしながら降りてきた。
その男の子が言った言葉を聞いて、玄関で靴を履きかけていた女の子が一瞬動きを止めて、反論する。
「そうよ、してたわよ!
でもね、陽一がヘマして一人殺すのに手間取ったせいで遅くなったのよ!!」
女の子の口から穏やかではない単語が出てきた。
だが、そのことについて誰も突っ込まない。
男の子は女の子の言葉に言い返せないのか「うっ」と言葉を詰まらせながら寝ぐせを水で直しているし、台所にいた女の人は、「今日も、朝ごはん食べないの〜?」と聞いている。
「ごめんなさい、今日も遅刻しそうだから・・・・・・って、陽一、あんたのそれはちょい天パ入ってるから、水なんかで取れないっていっつも言ってるじゃん!!」
「もうちょっと待ってくれ、あと、少しで・・・・・・」
「もー、私、先行っとくよっ!!
陽一のそれには付き合ってらんないっ!!」
そう洗面所の方に向かって叫びながら、女の子は玄関のドアノブにてをかける。
「ちょっと、待って、すみちゃん」
それを台所にいた女の人が止めながら、パタパタとスリッパの音をならせながらかけてくる。
「はい、お弁当」
そう言いながら渡したのは、紫の布に包まれた一つのお弁当。
「あっ、いつもすいません、彩香さん!」
「いいのよ〜、私、家事好きだし。
それにしても大変ねー、高校生なのに学業とお仕事の両立なんか。
お仕事のせいで、いつも睡眠時間、満足にないんでしょう?」
「まぁ、仕方ないんですけどね・・・・・・」
女の子と女の人が話していた間に男の子が洗面所から出てきて靴を履いていた。
そして、二人で玄関を出る。
玄関を出て、二人は家の中にいる女の人に振り返り、笑顔で言う。
「だって、私(俺)たちは、“暗殺者”ですからねぇ」
これが、すみれと陽一の毎朝の日常である。