第4話「夕食」
僕は家に帰ってきたあと、玲奈のことを思い浮かべた。
「怜斗」
そう呼ばれた声を思い出す。
なんだか胸が切なくなる。
吸血鬼のこととか恋人の玲奈のこととか様々なことが頭に思い浮かぶ。
「お兄ちゃん」
妹の奏が僕にリビングから声をかけてきた。
「ご飯出来たから降りてきて」
僕はリビングへ降りて行った。
リビングには奏のエプロン姿があった。
今日両親は外で外食をしているらしい。
両親はなかなか仲がよく、二人で美術館とか劇場によく出かけていた。
僕は妹の奏と二人でテーブルに座って、食事を食べる。
奏はただ僕の目をじっと見ていた。
そこにどんな意味があるのか僕にはわからない。
ただ過ぎていく時間。
カタカタと響く皿の音。
奏の作ったハンバーグはおいしかった。
「お兄ちゃんは学校どう?」
僕より二歳下の高校一年生の奏がそう聞く。
「どうって別に普通だよ」
「そうなんだね」
奏は僕にそう言って食事を続ける。
家族の中で僕一人だけが魔法使いだった。
僕は魔法使いの知り合いを知っているが、みな暗黙のうちに人間たちにはその存在を隠している。
僕はおそらく曾祖父にあたる人物が魔法使いだったんじゃないかと今までの父親や祖父の話から推測していた。
そんな風にして僕らは生きていた。
奏は夕食を食べ終えて、僕の分の皿もまとめて洗ってくれた。
まだ大人と子供の間くらいなのにすごく大人びていて優しい。
僕は奏のそういうところが好きだった。
「お兄ちゃんは彼女と仲いいの?」
「別に普通だよ」
「私も彼氏ほしいな」
そんなことを奏ではリビングのソファに座りながら言っていた。
テレビ番組は相変わらずくだらないことをやっていた。
僕は特に興味もなかった。
奏は時折テレビを見ながら笑っていた。
「奏」
「何? お兄ちゃん」
「なんでもない」
なんとなく僕は自分が魔法使いだと言いたくなってしまう。
もちろんすべて秘密にしていた。人間たちがまた魔女狩りとかをはじめかねないからだ。
そして僕自身今すぐにでも少し魔法を使えば奏を瞬間に灰にできるなんて考えて怖ろしくなったりする。
平凡な日常。そしてそこに住む吸血鬼と魔法使いと人間。なんとも奇妙な世界だった。魔法使いとして生まれた僕はなんだかそのことをただずっと怖ろしく思っていたのだ。
そして幼いころから無意識に吸血鬼を殺していた。
なぜだろう。それが生命の神秘なのだろうか。まるで動物のように反射的に吸血鬼と出会い、そして殺す日々が続いていく。
そんな感じの日常だった。