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リリーのイメージアップ作戦

今朝の朝食には、お父さまやお母さまそれにセディ、公爵一家が勢ぞろいを致しました。

 

 それはそうだろうとロッテだって思います。

 いくら高貴な方々だって、昨日の王太子の一件をぜひ聞きたいと思うでしょう。


「お母さま、ミリーを私に付けて下さってありがとうございました。おかげでリリーと王太子殿下が、仲直りできましたわ」


 ロッテがお礼を述べると、お母さまはすこしだけうんざりをしたような雰囲気で言いました。


「ミリーはいつもああなのよ。不思議なくらいメイドや雇い人のことを良く知っているの。いいえ、そうじゃないわね。人間観察がとてもうまいのよ。それでいろんな難題を解決しちゃうのよねぇ」


 お母さまの言い分だと、まるでミリーが何かいけないことでもしたみたいですね。


「ネビィルお兄さまは、けっこうまだ根に持っていますからね。アリもこれから大変な思いをすることになるでしょうね」


 おやおや、おとなしいと噂されるマクギネス公爵はどうやら根に持つタイプみたいです。


「兄上は喜んでいたがな。なんでも最近王太子についてよからぬ噂をするものがいたそうだよ。王太子がリリーとの婚約を破棄するとかなんとか。ばかばかしい! 昨日の睦まじい二人の姿にそんな噂も吹っ飛んだそうだ。世の中にはおかしなことを言うやからがいるから困る」


 お父さまのお話にセディが相槌をうちました。


「そりゃ、そうですよ。いくら馬鹿だってリリーとの婚約を破棄すれば、自分の首を絞めることくらいはわかるでしょうよ」


 ロッテは思わず王太子をかばってしまいました。


「でもセディ、リリーは王太子はきちんと考えることができる人だって言ってましたよ。リリーがそう言うならそこまで馬鹿って訳でもないかも知れませんよ」 


「リリーがかい? 聡明なリリーも恋するとあばたもえくぼに見えてしまうんだねぇ」


 もうセディにとっては王子=馬鹿って構図になってしまっているようです。

 がんばってくださいませ、王太子殿下。

 汚名返上には時間がかかりそうですからね。

 ロッテがひとしきりそんな事を考えていると、お父さまが口を開きました。


「しかしドリューはどうしたのかね。最近はやけに肩に風切って歩いていたと思ったら、夕べなんぞはすっかり縮こまって、いるのもわからなかったぞ。あれの娘はリリーの侍女に抜擢されたんだろう。たかが男爵家の娘が次期王妃の侍女なんぞ大出世だろうに、どうしてあんなに急に大人しくなりおったのじゃ」


 お父さまが不思議そうに何度も首をひねるので、ロッテと公爵夫人は顔を見合わせて噴き出さないようにするのに必死でした。


「よろしいんじゃないんですの。アンドリュー男爵は分不相応な出世をさせてもらったのです。そんな人は目立たず、懸命に働かないと何が起きるかわかりませんもの」


 お母さまの言葉にお父さまがそうかと頷いていますが、やっぱりこの公爵家の影の魔王はお母さまじゃないかと思っていたロッテは正しかったようです。

 お気の毒にアンドリュー男爵には、心休まる日がなくなったのではないでしょうか。


「そう言えばロッテ、君、新しいメイドを雇ったんだってね」


「ええ、セディ。ジャンヌというのですけれど、私将来はミリーみたいに腹心の友になれるんじゃないかって期待しているんです」


「それは無理だね。だってジャンヌは平民だろ。メイドにはなれても侍女にはなれないよ。高位貴族の侍女は下位貴族の未亡人や子女がなるもんだからね」


 そうなんですか? ロッテは驚きました。

 だってジャンヌはとても賢そうなので期待していたのです。

 ちょっとミリーに似ている気がするのですが……


「ロッテはジャンヌを気に入っているの?」


 お母さまが質問を挟みました。


「はい、お母さま。昨日少し見ただけですが、かなり賢そうな娘でしたわ」


「それならロッテ。リリーの代わりにジャンヌと一緒にロビン先生の授業をお受けなさいな。他の先生ならそんなことはできませんが、ロビン先生は才能のある若者が好きですからね。ただし他の使用人の目がありますから表向きはメイドとして付き添う形になりますよ」


 それでは授業が始まれば、一緒に学べるんですね。

 素敵だわ。

 ロッテは嬉し気に質問しました。


「ではお母さま。ジャンヌに才能があれば侍女に抜擢することも出来ますか?」


「気が早いわねロッテ。もしもそうなったらその時に考えましょう。ミリーならジャンヌを養女にしてくれるでしょうからね。あなたはジャンヌをミリーの後釜に据えるつもりでしょう?」


 お母さまにはかないません。

 なんでもわかってしまうんですから。

 それに確かにジャンヌがどこまで成長するかわからないのに、気が早過ぎたようです。

 ロッテはリリーみたいに一緒に勉強できる人ができただけでもよしとしました。。


「ねぇロッテ。明日は休みなんだ。一緒に出掛けようよ。王都を案内してあげる」


 いきなりセディがそんなことを言うので、ロッテは嬉しくって飛び上がりそうになりました。


「まぁセディ、ありがとうございます。明日はデートですのね。嬉しいわ」


 デートという言葉に照れたんみたいで、セディはさっさと仕事に行ってしまいました。

 でもいいんです。

 うっかり忘れてしまいそうになりますけれど、セディとロッテは婚約者同士なんですもの。

 たまにはデートもいいもんですわ。

 事件なんか、もうお腹いっぱいですもの。



 そして夕べからこの館に勤めることになったジャンヌをベッキーに紹介すると、この2人はあっという間に仲良くなってしまいました。

 2人とも骨惜しみしないし、熱心に働くので気があったみたいなんです。

 ロッテは再度、ベッキーとジャンヌに聞きました。

 

「ベッキーは知っていいるけれども、午前中はロビン先生がきてお勉強を教えて下さいます。良ければベッキーやジャンヌも一緒に勉強しないかしら? 他の使用人にバレないように、メイドとして付き添う形にはなるけれども、ロビン先生は分け隔てなく勉強を見てくださいますよ」


 ジャンヌはぱっと顔を輝かせてから、慌ててベッキーの顔を見ました。

 ベッキーはそんなジャンヌの様子を見て観念したようです。


「ありがとうございます。お嬢さま。ジャンヌと一緒にお勉強させていただきます」


 ベッキーの言葉を聞いたジャンヌは、それは幸せそうな顔をしてお礼を言ってくれました。

 それまでベッキーは授業の邪魔にならないように、そっと授業を聞いているだけでしたから、これからは積極的に授業に参加してくれることでしょう。



 そしてそのロビン先生はと言えば、新しい生徒がメイド服を着ていることなど、全くきにする様子はありません。

 ベッキーは控えめだったのが嘘みたいに楽しみましたし、ジャンヌは、自分でしっかりと考えることが大好きなことがわかりました、


 そのうえ暗記科目や、貴族年鑑を覚える時も、3人で競争するように一緒にするようになったら、ロッテの勉強もどんどん進むようになったのも嬉しい誤算でした。


 午後からのお母さまの社交のお勉強には、なんとリリーも一緒でした。

 お母さまのお茶会に今日は、未婚の女性ばかり招待したので、メインゲストがリリアナ・マクギネス公爵令嬢だったのです。


 そうしますと当日になって病気になってしまうご令嬢が続出する事になってしまいました。

 というのも、ドリュー男爵令嬢に王太子の寵愛が移ったという噂が出ていらい、少しづつリリーと距離をおいた令嬢たちは、王太子の婚約破棄騒動がおきると、雪崩をうつように、反リリアンナの動きに同調してしまったのです。


 そんなわけで、さすがに堂々とリリアンナの顔を見ることができない、脛にキズを持ったご令嬢たちが、急遽欠席となったのでした。

 それに実はこのお茶会、ここまで早期に問題解決するとは思わなかったお母さまが、主に反リリアンナ派閥を集めたお茶会だったという事情もあります。


「ようこそいらっしゃいました。リリアナ・マクギネス公爵令嬢」


 ロッテがことさらすました挨拶をすると、リリーもそれを受けて


「本日はお招きありがとうございます。シャルロット・シンクレイヤ侯爵令嬢」


 そうして2人そろって大笑いをしてしまいました。

 私たちが大笑いをしているのに、お母さまは渋い顔です。


「どうかなさいましたか?叔母様」


 リリアンナが不信そうな顔で聞きますと、お母さまは考え込んだような顔をしています。


「リリー。貴族たるもの少しぐらいバツが悪い思いをしても、上位貴族からの誘いを断ることがあると思う?」


 お母さまの問いかけにリリーもはっとしたようです。


「おっしゃる通りですわ。では一体何があって今日は全員がお誘いを断ってきたのでしょう?」


「考えられるのは反王家の貴族が、次期王妃からリリーを廃し自分達の都合の良い娘を送りこむことを狙っているってことかしら」


 反王家というか王族を中心とした世襲貴族に対して、最近実力をつけている新興貴族が政治の中枢を狙って手っ取り早く王妃を新興貴族派閥から出したいようなのです。

 今まではそれが表面に現れることはありませんでしたが、ドリュー男爵令嬢事件以降、堂々と世襲貴族に抗い始めたようです。


「困りましたね。このような派閥争いは国力を削いでしまいますのに」


 次期王妃としてリリーもすっかり悩み込んでしまいました。


「お母さま、少し新興貴族にもうまみが渡るようにしてはいかがです?」


「ロッテ、あなたの欠点は考えが甘いことです。こちらが引けば相手は図にのりますよ」


 なるほど

 では、民衆を味方に付けてしまうのはどうでしょうか?

 オペラ。演劇。タブロイドに歌

 すべてでリリーの愛らしさと王太子の凛々しさを褒めたたえるのです。


 ついでに2人の純愛もね。

 民衆が支持すれば、めったなことでリリアンナを攻撃できなくなります。

 ロッテが提唱した『リリーのイメージアップ大作戦』は公爵夫人に大うけしました。


 お母さまは大乗り気ですから、王太子プロマイドやリリアンナのお気に入りのリボンなんかのいわゆるアイドルグッズを作るってこともできますしね。

 町娘たちがリリーのファッションを真似るようになれば、リリーの人気もうなぎのぼりになる筈です。

 

 お母さまはお兄様である宰相閣下をこのプロジェクトの最高責任者にしてしまいました。

 ふふふ、この次のリリアンナ主賓のお茶会はプレミアチケットがでますことよ!

 ロッテはこっそりほくそ笑むのでした。


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