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王太子殿下との対決

 午前中はいつも通り授業を受けましたが、親友のリリーと一緒だと勉強も楽しいものです。

 ベッキーはいつの間にかメイド服のまま、静かに授業に聞き入るスタイルになっていました。

 それでも真剣に授業を受けていますから、ベッキーなりの線引きが出来てしまったのでしょう。

 

 でも授業が楽しい一番の理由はロビン先生の授業スタイルにあります。

 ロビン先生は、先生とすら呼ばせて下さいません

 授業は教えるっていうより、考えるってことを中心にしていました。


 自分で考えた答えならばそれがどれだけ荒唐無稽でも、ロビンはとても嬉しそうに褒めてくれました。

 ですから安心して自分の考えを深めていくことができます。

 とても楽しいのですが、その分暗記科目はほとんど宿題になってしまうのが辛いところです。


 午後はいよいよ図書館でエイミーと接触を図る時間です。


「じゃぁリリー。行ってくるわね。なんとかエイミーの本音を引き出してみるわ。うまくいけばアリスト王太子殿下の本音も聞けるかもよ」


「無理しちゃ駄目よ。アリはプライドが高いから一度口に出したら引けなくなってしまうの。くれぐれも気をつけてね」


 もちろん十分気を付けるつもりです。

 ロッテとしても断罪に巻き込まれるなんてまっぴらなのですから。


 「ミリー、ミリー、シンクレア男爵夫人、どちらにいらっしゃるの?」


 ロッテが出発しようとすると、付き添い役のミリーの姿がありません。

 どうしてしまったんでしょう?

 ロッテが探しているとなんだかみすぼらしい服装をした娘を連れて、ミリーがやってきました。


「遅くなっちゃったかしら? いえねぇ。家にやってくる八百屋のオリバーが言うには、金物屋のボブのところの雇い人のジャックが最近ジャンヌにあったっていうじゃありませんか」


 もしもし男爵夫人。

 いったいなんの話をしてらっしゃるのかしら?

 ロッテはミリーが一体なんの話をしているのか見当もつきません。


「それでミリー。そこにいるのがそのジャンヌなのかしら?」


 ロッテが頭を抑えながら聞いてみると、嬉しそうにミリーは笑いました。


「まぁ、やっぱりロッテは聡い子ねぇ。それでも図書館にいくならジャンヌも一緒じゃなきゃいけませんでしょ。それで連れて来たんですよ」


 お母さまはこんな人とずっと友達をやってきたんですわよね。

 尊敬しますわ。

 しみじみとロッテは遠い目をしました。


「ベッキー、すぐにジャンヌを見られるようにしてちょうだい。公爵家のお仕着せを着せてね」


 とりあえずはジャンヌはベッキーに任せて、ロッテはその隙にこの煮ても焼いても食えないご婦人から、事情聴取を試みることにしました。

 ついでに御者には少し出発が遅れると伝えてもらい、お茶の準備をお願いします。


「ミリーお疲れ様。急いだら咽喉が乾いたでしょう。とりあえず咽喉を潤してくださいな」


 「まぁまぁ、そういう気がきくところもアンに似ているわね」


 とにかくミリーにとってお母さまに似ているっていう言葉は、どうやら褒め言葉みたいです。

 ロッテとしてはかなり微妙な気分にさせられてしまうのですけれども。


 騒ぎを聞きつけてリリーもやってきましたが、ミリーをみると黙ってお茶席に座りました。

 さすが公爵令嬢、ミリーについてもいろいろご存知のようです。


「それでミリー。図書館にジャンヌを連れていく理由を教えて。あのジャンヌって娘はエイミーとどういう関係なの?」


 ロッテはさっそくミリーに聞いてみました。

 わざわざこのタイミングでミリーが探し出してきたのです。

 エイミーの関係者だってことはわかりますが、いったいどういう関係なんでしょうか?


「それなんですがねぇ。エイミーはジャンヌの家で育ててもらったようなものなんですよ。エイミーの母親はエイミーがまだ3歳の時に亡くなりましたからね。それから8歳になるまでは、隣人のジャンヌの家に預けられたんですよ」


「まぁ、それなら父親はなぜエイミーをわざわざ孤児院に連れていったの。そのままジャンヌの家に預けておいてもよかったのに」


 ロッテがそういうと、ミリーに呆れた顔をされてしまいました。

 リリーまで出来の悪い子供を見るような目でロッテを見ています。

 ロッテは地味に凹んでしまいました。


「いいですか、お嬢様。父親は犯罪者仲間を裏切ったんですよ。エイミーをそのままジャンヌの家に置いておけば、あっという間に犯罪者仲間に売り払われてしまいますよ」

 

 なるほどとロッテは感心してしまいます。

 そういった犯罪者の心理とか掟みたいなことは、全くわかりませんでした。

 けれども同じようにそんな世界とは縁のない筈のリリーは、どうしてそんなことを知っているのでしょう。

 リリーって底がしれないところがありそうです。


「ありがとうございます。よくわかりました。それでタイミングを見てエイミーにジャンヌをぶつければいいんですね。ジャンヌはどうして協力してくれるのかな」


 ミリーはちょっと自慢そうな顔になりました。

 それを見るとなんだかイラっとしてしまったロッテですが、おとなしく教えを受けます。


「ジャンヌはエイミーが男爵令嬢になったって聞いて、肝をつぶしてしまったんですよ。なんか面倒ごとにならないうちに逃げだした方がいいんじゃないかって心配なんですね」


 そりゃそうですよ。

 ロッテだって親友が王位継承者を巻き込んで詐欺まがいのことをやっているって知ったら卒倒してしまいます。


 「ロッテ、こうなれば私が参ります。着替えてきますから少しお待ちになって」


 そういうなりリリーが着替えるためにすごい勢いで部屋に戻っていきます。

 ロッテは慌てました。

 まさかこのタイミングでリリーが王太子と直接対決してしまうなんて!


「どうしましょうミリー。さすがに今リリーを王太子殿下にあわせるのはまずいんじゃ?」


 小市民であるロッテは、あまりの展開にわたわたしてしまいました。

 目の前で断罪イベントなんて絶対に嫌ですからね。

 だというのにミリーは涼しい顔をしています。


「まぁリリーはアンの姪っ子ですからねぇ」

 

 男爵夫人の行動基準は全部お母さまなんですか?

 お母さまっていったいミリーの中でどーゆー評価になっているんでしょう。

 ロッテは私室に飛びこんで、いままでこっそりため込んできた魔方陣を点検しました。


 そして様々な場面をシュミレーションしてみます。

 ロッテはまるで戦いに行く準備でもしているみたいに万全の準備を整え始めました。


 大丈夫。

 とりあえずどれだけの騎士がやってきても、返り討ちにできるだけの玉は揃えました。

 どんとこい!ですわ。

 納得できるだけの魔方陣を準備できたらしく、ロッテは密かに勝利を確信しています。


 リリーはたしか王太子殿下を愛していたはずですし、今からお話合いをはじめるはずなのになぜかロッテは斜め上方向に舞い上がってしまったようです。



 図書館に向かう馬車の中では、それぞれが全く違う表情を見せていました。

 ジャンヌは公爵家のお仕着せを着せられてビクビクと小さくなっています。

 ミリーはいつも通り飄々としていますし、リリーはいかにも公爵令嬢らしく毅然と座っています。


 そんな中小市民のロッテは、とても緊張していました

 リリーはいったい王太子殿下に何を言うつもりなんでしょう。


 ロッテは図書館に入るなり、全員を幽霊の間に案内しました。

 ここなら目立たずに、話ができる筈です。

 そうしてロッテはひとりで図書館に入り浸っているというエイミーを探しにいきます。

 

 目印は金髪・青い目・小動物みたいというのがエイミーの目印でした。

 少しリリーに似ていて、リリーを儚げにした感じがエイミーだそうです。

 隠れたい筈ですから1階とか2階のような人の多いところにはいないでしょう。


 すると3階かしら?

 3階は専門書のコーナーになっています。

 いました!


 事務官やメイド、女官や書記官、速記者など、女性が働くための書籍を集めているコーナーのすみの椅子に腰かけてひっそりと本を読んでいるのがエイミーのようです。


 それほど上昇志向が強い娘にはみえません。

 どちらかと言えば生真面目な印象です。

 読んでいる本も係累がいない娘がなんとか手に職をつけたいと思っていることが感じられます。


「ミス・エイミー。少しお邪魔してもよろしいですか?」


 エイミーは不信そうな顔をして振り返りましたが、ロッテの姿を見ると泣きそうに顔をゆがめました。

 なにか意地悪でもされると思ったのでしょう。

 それでも素直に立ち上がりましたから、ロッテは丁寧に幽霊の間まで来てくれるように頼みました。


 どうしても引き合わせたい方がいるのですが、他の人に知られない方があなたの為だと思いますよって、脅しながら。

 これじゃぁ、まるっきりロッテの方がは悪人みたいです。

 エイミーはこういうことに慣れてでもいるようで、しおしおとついてきました。


 幽霊の間に入ったエイミーは、部屋に入るなりエイミーに飛びついて泣き出したジャンヌを見て真っ青になりました。

 しばらくはジャンヌやエイミーのすすり泣きと、会いたかったという小さな声が聞こえるだけでした。


「ジャンヌ、せっかく会えてうれしいのはわかるけれど、後でゆっくりお話できるから、少しこちらで待っていてくださる」


 ロッテは適当なところでジャンヌをミリーにお任せしました。


「さぁエイミー、お掛けになってね。お茶をお入れするわ。」


 そうしてエイミーとリリーの近くに座らせました。

 リリーならきっとエイミーの心を救いあげてくれる筈ですから。


 しゅんしゅんとお湯が沸く音やロッテがお茶を入れる音が響いてしまうぐらい、幽霊の間は静かでした。

 全員にお茶が配り終わったとき、どたどたと騒々しい音がして幽霊の間の扉がどんどんとたたかれました。


 どうやら王太子がやってきちゃったみたいです。

 ロッテは扉を開けるときっぱりと宣言しました。


「こちらは幽霊の間。私が正式に借り受けている部屋です。随分騒々しいですわね。先ぶれも寄越さずいきなり扉を殴打するとは、それでも貴族の一員ですの」


 冷たいまなざしでねめつけられて、王太子は口をパクパクさせています。

 こういわれてしまえば、いまさら身分を明かすこともできないでしょう。

 どうせお忍びの行動なのでしょうから。 

 

 ロッテは言い終わるとにこやかに最上位の礼を取りました。

 いかにも全てを極秘にすると言わんばかりの目くばせをします。


「これは王太子殿下。知らずにご無礼をいたしました。この幽霊の間には大声をあげたり、暴力を振るおうとすると、その者を外に放り出す術式がかけられております。なにぶん私も妙齢の乙女ゆえ」


「さ、さようか。それは当然の処置であるな」


 王太子は鷹揚に頷いてみせました。


「この術式は恐れながら相手を選びません。お入りになって不敬があっては申しわけございませんから、私がそちらに出向かせていただきますわ」


「それには及ばん。私は王太子である。女性に大声をあげるようなことはせぬ。まして暴力などもっての他じゃ」


 はい、言質いただきました。


「かしこまりました。それではこちらは女性の間ゆえ、お伴の方は扉の前で待機願えますか? 扉は開け放しておきますので」


「フン、面倒なことよの。皆ここで待つように」


 そういうなり王太子は部屋に入りましたが、リリーを見るなり大声をあげようとして必死になって自分を抑えています。


 さすがにいきなり部屋から放り出される愚は避けたかったみたいです。

 そのかわり怒りのあまり真っ赤になっていますけれど。

 大丈夫なのでしょうか?


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