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婚約破棄事件の裏側

 お母さまのお兄様というのがネビィル・マクギネス公爵でその娘がリリーです。

 つまりリリアナはリリアナ・マクギネス公爵令嬢だった訳です。


 いったい王太子殿下は、なんでまたリリアナをそこまで目の敵にするのでしょうか?

 お母さまの説明を聞くと頭が痛くなりました。


 孤児であったエイミーと慰問のために訪れた王太子との出会いの場面に、どうやらドリュー男爵が居合わせたらしいのです。

 そこでドリュー男爵は騎士道精神に突き動かされた王太子殿下の『きっとエイミーの両親を探す』という言葉を聞いてさっそくエイミーの親として名乗り出た訳です。


 もちろん性質の悪い使用人に誘拐されたとか、探し続けていたとかのお涙ちょうだいものの話をでっちあげてね。

 エイミーはさぞかし驚いたことでしょうね。

 両親はとっくに亡くなっているわけですもの。


 こうして孤児のエイミーは無事にエイミー・ドリュー男爵令嬢になった訳ですが、王太子はすっかりエイミーのナイト気取りになってしまいました。

 ドリュー男爵としては嬉しいでしょうが、エイミーにはこの展開はあまりにも荷が重すぎました。

 

 貴族の娘って言うのは嘘なのですからなんとか王太子と距離をおこうと、婚約者のリリアナを引き合いにだしたわけです。

 けれども逃げれば追いかけたくなる道理で、今や王太子はエイミーに夢中のようです。

 そうなると愛しいエイミーがリリアナに義理立てしているようなのが面白くありません。


 もしかしてリリアナに虐められているんじゃないかという話になります。

 残念ながらエイミーが同じ下位貴族の令嬢たちから嫌がらせを受けていたのは本当のようで、王太子はそれを全てリリアナのせいだと思い込んでしまった訳です。


 このままでは愛しいエイミーがリリアナに虐め殺されてしまう。

 その前にリリアナをなんとかしなくては! って思い込んでいるんだそうです。


「それでお母さま、いったいどうするおつもりなんですの?」


 温厚で知られるマクギネス公爵もかなり不愉快だと表明していますし、お父さまも今回の姪の一件だけでなく、ロッテを取り込もうとする動きを見せたことなどでかなり怒っています。

 ここまで親族である高位貴族を敵にして、王太子は無事に即位することができるのでしょうか?


 それでも国王陛下は、なんとか廃嫡は避けたい考えのようでした。

 なにがあったにしろ正当な王位継承者を廃して即位した王には、どうしても影が付きまとってしまうからです。


 確かにこの物語は平民からすると、とってもロマンチックに思えるはずです。

 孤児が王子さまの恋人になるなんて歌劇とかでも取り上げられそうですし、ましてそのせいで王位を失ったら、それこそ王冠をかけた恋ってことになりますもの。


 ロッテのいた世界でも『王冠をかけた恋』と騒がれた事件がありました。

 結局王はその位を弟に譲り愛を取ったわけで、映画にもなっています。


 お母さまはリリアナに問いかけました。


「リリー、あなたはどうしたいの? こんなことがあった後でも王妃として彼を支える気持ちが残っているかしら?」


 リリーはしばらく真剣に考えこんでいましたが、きっぱりと言い切りました。


「もしも王太子をこのまま王位につけるとおっしゃるなら、王妃としてこの国を守れるのは残念ながら私しかいませんわ」


 どうやらそれはまごうことなき事実のようで、お母さまも渋い顔をします。


「お母さま、まずは王太子のお気持ちを確認するのが一番ではありませんか? 王位を望むのか? 恋を選ぶのか? この場合この2択を選んでいただくしかないではありませんか」


「ええ、それしかないのはわかってましたけれどねぇ。さすがにそれを言うと我が家は王位簒奪を疑がわれてしまうのよねぇ……」


 えっ?

 えっ?

 まさか!


「お母さま、まさか国王陛下には他にお子様がいらっしゃらないんですの?」


 そんな筈はありませんよね。

 

「残念ながらその通りなの。お姉さまは王太子を出産なさったあとの産後の肥立ちが悪く、その後はもう二度どお子を授からなかったのよ」


 お母さまと王妃さまは姉妹だそうで、国王と弟のクレメンタイン公爵は揃ってマクギネス公爵家から嫁を迎えていた訳です。

 そうなるとお兄さまであるエルロイは国王にとっても王妃さまにとっても甥というわけですから、王太子殿下に次ぐ王位継承権を持っているのはなんと宰相閣下であるエルお兄さまなのです。


 まぁそれで言えばセディが王位継承権3位ということになりますけれど、そう考えれば頭が痛くなりますね。

 セディが王になるなんて王太子よりもずっと酷いことになりそうです。

 エルロイお兄さまがいて下さってよかった。


 そこまで考えてロッテは、はっと気が付きました。

 それはダメです。

 絶対に却下です。

 なんとしても王太子には王位についてもらわないと……

 だってお兄さまが王位につけば、あのセディがクレメンタイン公爵を継ぐことになってしまう訳です。


 ロッテがこの問題に本気になったのがわかったのでしょう。

 お母さまが、なんだかざまあみろって顔をしています。

 確かについさっきまではロッテには他人事でした。

 けれどもこの事件を穏便に解決することは、ロッテの未来に関わってくるのです。


「まぁ、アン。やっぱりロッテとあなたは良く似ているわね。ロッテたらあなたが国王陛下に王位を押し付けた時と同じ顔をしているわよ!」


 お母さまの腹心の友、ミリーが楽しそうに言いました。

 お母さま、いったい何をやらかしたんでしょう。

 時々ミリーは不思議なことを口走ります。


「リリー。悪いけれどあなたには絶対に王妃になってもらうわよ!」


 ロッテの決意表明をリリアナはにこにこと聞いています。


「かまわないけれどねロッテ。私とあなたは親友よ! わかってるでしょうね」


 そう言ってリリアナはいかにも悪そうな顔で笑いました。

 もしもリリアナが王妃になったら、ロッテは王妃の親友になってしまいます。

 もしもお兄さまが国王になったら、ロッテはクレメンタイン公爵夫人になってしまいます。


 どちらの立場も厄介事を抱えてきそうでロッテはリリーを恨めし気に睨みましたが、益々リリーは楽し気な様子になってくるではありませんか!


 ロッテはとりあえず王太子にはエイミーを忘れてもらうことにしました。


「お母さま、私はエイミーと友達になろうと思うのですけれど、どこかエイミーと自然に知り合いになれる場所はありませんか?」


「エイミーは、どうやら図書館に逃げ込んでいるみたいよ。自宅にいると王太子殿下の突撃を受けるらしくてね。さすがに図書館で騒ぐわけにもいきませんからね」


 言外に『いかに王太子がおバカでもね』と付け加えてお母さまはおっしゃいました。


「お母さま、さっそく明日から、午後は王立図書館に通いたいのですが」


 お母さまはため息をついて言いました。


「貴方には教えないといけないことが山程あるんだけど……」


 そこにリリーが助け船を出してくれました。


「おばさま、私がしっかりと教えますわ」


「そうねぇ。未来の王妃さまから学べる機会なんて早々あるものじゃないわね。リリーお願いね」


 助け船じゃなくてスパルタ教師がついたのかもしれません。

 ロッテは満足そうなリリーの顔を見てそう思いました。

 だってリリーは好物のミルクを前にした子猫みたいな顔をしていたのです。


「まぁまぁ。ホントにアンとロッテ、やることなすこと似ているわねぇ。アン! リリーがロッテの先生役をするんなら、私は少しおやすみしていてもいいかしら。なにぶんもう年ですものねぇ」


 ミリーがさりげなく厄介事から遠ざかろうとするのを、お母さまは笑顔で却下しました。


「あら、それは無理よミリー。だってリリーは外には出られないもの。図書館にはあなたが付き添ってねミリー。それに忘れているみたいだけれども、あなたは私より3つも若いのよ」


 ばっさりと切り捨てられたというのに、ミリーは平気な顔をしています。


「あら、そうだったかしらアン。あなたってばとっても記憶力がいいのね」


 さすがはお母さまの腹心の友です。

 にこにこした優しそうな叔母さまだと舐めてたら大やけどを負いそうです。

 どうしてロッテの周りにはこんな一筋縄ではいかない人ばかりが集まるんでしょう?


 お茶会が終わるとさっさと窮屈な服を着替えて、ロッテはリリーとプライベートルームに籠りました。

 ベッキーはもう帰宅しましたから、ここには2人しかいません。


「ねぇ、リリー。本当のところどうなのよ。王太子殿下のことホントはどう思っているの?」


「うーん、アリはそんなにもおバカってほどでもないのよ。」


 出ましたよ。

 ほんとはいい人なの発言。

 リリーはほんとは王太子が好きなのかも?


「王太子殿下ってアリっていう名前なの?」


 ロッテの質問に目を丸くしたリリーはロッテの出自をおもいだして、優しく教えてくれました。


「この国の王太子の名前ぐらいは憶えておきなさいね。アリスト・カートライトというのよ」


「アリはすこし真面目過ぎるのね。だから少し視野が狭くなることがあるけれど、悪い人じゃあないのよ」


 うーん。

 かなり苦しい言い訳かなぁ。

 王様が無能なのはかまわないけれど、思い込みが激しかったり視野が狭いのは問題な気がするんだけど。


 ロッテが黙り込んだのを見て、ロッテの考えを察してしまったのでしょう。

 リリーはこんな風にいいました。


「そうねぇ。聞く耳がないってのは致命的かも知れないわね。でもね、アリは理解するのに少しばかり他人より時間がかかるの。それで馬鹿にされまいと話をぶち切ってしまう癖がついたのよ。ゆっくりと納得いくように説明すればちゃんと正しい判断ができる人よ」


 

 すごいなぁ。

 リリーが、私でないと王妃が務まらないって言ったのは、きっとこのことだったんだ。

 リリーほど王太子のことをよく理解している人はいない。

 きっと王太子は、何でもできるリリーといるのが、ちょっとばかり重荷だったのかもしれません。


 それでなくとも王国って重荷を背負う運命なんですもの。

 それならその重荷を半分背負えるのは、リリーだけだって知っている筈なのに。


 明日、エイミーとしっかり話してみようとロッテは考えました。

 なんだかこの問題、解決する糸口はエイミーが持っている気がするのです。


 でも王太子殿下って幸せものですよ。

 親友のリリーみたいに素敵な人と結婚できるんですものね。

 早くそれをわかってもらいえるといいなぁー。

 ロッテはそう願っていました。


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