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アプリのアップデート

 しかし、次の瞬間、剣客たちが異変に気付いた。消えて行ったかのように見えた光の粒が再び集まって見知った影を形成したからだ。


 影が完全な形を持つ前に、賽子だいすが手に握っていた半分のキーボードで殴る。

 影は少し欠けたものの、じわじわと元の三代目魔王のような形を取り戻そうとしていた。

 他の剣客たちも追い打ちをかけていくが、相手の復活を止められない。


 やがて復活した三代目魔王が剣を振るうと、先ほどのように全員の元に刃が向かってきた。

 キーボードが折れて防御性能が落ちた賽子だいすは、塚原つかはらに腕を引っ張られて何とか事なきを得た。


「七人揃ってようやくぼくと対等に戦えるようになる剣客の一人が剣を折ってしまったということは、パワーバランスが崩れたってことだよね? これでぼくの勝利は揺るがぬものとなったということだ。大人しく斬り殺された方が楽だよ?」


 しかしながら、その程度で抵抗を止めるほど賢い連中ではなかった。


「フン、足手まといが一人減って、逆に戦いやすくなったわ!」


 向日葵ひまわりが真っ先に突撃していく。


「拙者も先ほどよりキレのある技で無限に攻めていきますぞ!(オタク特有の不屈の闘志)(推しの初めてのライブの物販で苦労して買った思い出のペンライト)(指紋でベタベタの眼鏡)(アディダスの財布)(瞬足)(コーナーで差をつけろ)」


 言葉尻に妙な想いを乗せつつ太田おおたも三代目魔王に肉薄していった。


「馬鹿野郎お前、オレは勝つぞお前」

「ここであなたを食い止めないと、普通の兵士さんたちにも被害が出るから、それだけはさせない!」


 男木おぎ見鶴みつるも追撃に向かう。その間にも各人に迫り来る刃を面積の小さなキーボードで受け止めながら、賽子だいすは塚原と黒菱くろびしにも前線に向かうようにアイコンタクトをする。


「私ぐらいのレベルの美人剣客ってほとんどいないと思うから、存分にこのナイフを味わって逝きなよ!」


 昨日見たアニメキャラのコスプレとは違う、金髪で魔法少女というには少し大人びたキャラのコスプレをした黒菱が空中浮遊をしながら突っ込んでいく。そのキャラこそが黒菱の《プリナイ》での推しキャラ――ディアナだった。

 黒菱も参戦したが、塚原はまだ三代目魔王の方に向かわない。飛んでくる刃をギリギリのところで受け流している賽子だいすを見ながら、時折手助けをしている。


「おい、爺さん。俺のことは気にせず向こうの助っ人に行け! 奴の言葉を肯定するのは癪だが、今の俺では戦力になれん。奴らが元気な内にアンタが加勢しないとジリ貧で負けるぞ!」

「うむ。それは分かるが、お前さん危なっかしいからのう。しかし、ここまでハッキリ言われて断るわけにはいかんな。ワシらが勝つまで死ぬなよ」

「うるせぇ、くたばる気なんざ毛頭ねぇよ」


 一瞬睨み合うと、次の瞬間には塚原は魔王の背後まで移動していた。

 勢いそのままに三代目魔王を物量で押し切っていく。

 塚原と見鶴が三代目魔王の動きを抑えた刹那、


「拙者の秘剣、ムラマサを受けてみよ!」

「神武一刀流、弐の太刀――イーヴン・プライム!」


 太田がキレッキレのオタ芸を放ち、三代目魔王を挟むように向日葵がローマ数字のⅡを描くように剣を振るう。弐の太刀とか言いながら剣を振る回数が四回ってこれもうわかんねぇな。

 賽子だいすが他人の技を適当に眺めている間に、再び三代目魔王が消滅した。

 しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、三代目魔王が消える時にまき散らされている粒子は別の場所で集合し、再形成を図ろうとしていた。


「滾れ、聖水斬ッ!」

「魔法剣――≪ライトニング・フォルティッシモ≫!」


 そこに男木の聖水斬と黒菱の魔法少女アニメにありがちな何かよく分からない金色の魔法がぶっ刺さる。

 しかし、魔王は別の場所で再起を図ろうとしていた。


「ぐっ、コイツ何度復活するつもりだ? ラピュタか何か? 流石の我でもあと数回殺すのが限界だぞ」

「十二回殺せばいいってパターンじゃない? でも、復活するたびに強くなるパターンだけは嫌だねぇ」


 向日葵と黒菱がぼやきながらも剣を撃ち合う。若干のスタミナ切れを見抜いた三代目魔王が周囲に大技を放つ。


「最THE低……ヴォイ泣き不可避」


 致命傷を受けた者はいなかったが、魔王の動きを押し込めていた状況が解消されてしまった。

 自由に動けるようになった魔王が高らかに手を挙げる。

 すると、地中から無数のモンスターたちが湧き出てきた。四天王クラスのモンスターは出現していなかったが、数は膨大だった。


「うん。即席の軍団だけど、悪くない。でもまあ、普通のモンスターでも、これだけの数を呼び出すのは苦労するね。……さて、君たちはどう動くかな?」

「むぅ……面倒なことをしてくれる……!」


 剣客たちの動きが阻害されるだけでなく、普通の兵士たちも戦闘に巻き込まれるようになり、戦場は混戦の様相を呈してきた。


「うっ……恐れていたことが……みんな大丈夫かな?」


 弱々しく呟いた見鶴に対し、すかさずキリが答える。


「はい。昨日太田さんが策を練っていたので大丈夫でしょう。それよりも、我々は魔王に一般兵を攻撃するような隙を与えないことが重要だと考えます。この剣の機能を拡張しましょう。見鶴さん、≪グラム≫を起動してください」


 見鶴がキリの言う通りにスマホ内の写真投稿SNSアプリ≪グラム≫を起動すると、剣から光が溢れ出た。


「これ、何がどう変わったんだろう?」

「まあ、≪グラム≫という歴史に名高い魔剣の名称を借りて来たという程度ですね。ただ、名は体を表す、とも言いますから」


 ふーん、と聞き流しながら見鶴が剣を振ると、振る度にパシャパシャとシャッター音が鳴っている。


「何でこれ写真を撮っているような音がするんですか?」

「あぁ、それはアプリが斬撃を記録している時の音ですね。アップロードすると剣を振らなくても斬撃が出るようになります。勿論、デジタルデータなので使い切りの消耗品ではありませんよ。何度でも使用出来ます」

「凄い! 試しにやってみよう」


 柄の部分を適当に弄ると、剣を振らなくても斬撃がヒュンヒュン出現した。その数は膨大で、もう剣を振るのがバカらしく思えるようなものだった。


「最初から教えてくれれば良かったのに……」

「アプリの更新に時間が掛かっていたので申し訳ありません。もう少し時間があれば編集ソフトも更新して斬撃の数や距離までコントロール出来るようになるのですが……」


 キリと雑談を交わしながら魔王とも剣を合わせていく。手数は完全に圧倒しているので、魔王の顔にも余裕はない。

 しかし、見鶴にもまだ心配事が残っていた。


「魔王さんが召喚したモンスターたちをどうにかしないと、普通の兵士の皆さんの被害が増えていくなぁ……」

「見鶴さんの気持ちも分かりますが、それは他の人に任せましょう。私たちが魔王の意識リソースを奪うことによって他人の行動の幅が広がるのですから、私たちのやるべきことはこのまま魔王を抑え続けることです」

「うん、そうだね。じゃあ、もっと頑張ろう!」


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