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オフ会8人

「あれ、俺らがそれなりに力入れて攻撃してもびくともしなかったのに、結構簡単に開いたな」


 全くの無防備のまま、賽子だいすが扉をくぐっていく。何かトラップがあったとしても、命に別条がないため、自然とこのような役回りになる。


「ういいいーっす! どうもー、剣客でーす」


 賽子だいすの挨拶が虚しく響いた。

 特に罠が仕掛けてある様子もない。三代目魔王が玉座に座っているだけだ。

 安全を確認した賽子が残りの面子を手招きする。

 全員が揃うと、三代目が座ったまま口を開いた。


「いやはやお見事。ぼくの優秀な四天王たちを見事に倒したね。サキュバス以外は本気を出し切れていたようで良かったよ。サキュバスは……相手が悪かったみたいだね」


 男木おぎ太田おおたが苦笑する。それを三代目が手で宥め、


「相手が悪いと言う言葉は、君たちにも当てはまることだけどね」


 その言葉に、全員の動きが凍り付いた。


「君たち七人の力が、ようやくぼく一人の力と釣り合うようになっているのに……残念だ。不完全な君たちを一方的に倒すのは残念だけど、魔王としての宿命を感じるね」

「ちょっと。私でシコるのは構わないけどそういう可能性と私との可能性は感じないでほしいんですけど」


 黒菱くろびしの放った言葉に、太田が目ざとく反応した。


「ムムッ、今の言葉は現役女子大生美人コスプレイヤー、オナツ氏の名言のオマージュでござるな! 素直に射……アレ? やたら再現度の高い変身能力と、昨日の話によるアニメ系趣味の女子大生発言……まさか!」


 同じくアニメ系の趣味を持つ向日葵ひまわりも驚きで目を見開いていた。


「あー、何か色々察しちゃった人もいるみたいだけど、まあいいか。みんな、向こうの世界に帰っても私の個人情報ばら撒かないでね。三倍にして返しちゃうから」


 それが常識であるという風に頷く男木、塚原つかはら見鶴みつる

 彼らに対して、賽子だいすは笑いながら親指を立てていた。


「大半忘れたっつーか全然わかんねーし、話す相手もほとんどいないから安心しろ!」

「まあ、一部の界隈以外は知名度ないから当然かな……」


 少し寂しそうに黒菱が呟いたところで、三代目が咳払いをした。


「まだ元の世界に戻れると考えているなんて、楽観的だね。……まあ、彼我の戦力差なんて、じきに分かる事か」


 ようやく立ち上がった三代目が異空間から剣を取り出す。

 一振りで、全員の元に刃が届いた。

 これを見逃すような者はいなかったが、太田が作っていたペンライト大車輪がバラバラになり、普通に剣で受け止めた賽子だいすのアバターが刃に触れた瞬間に消し飛んだ。

 太田はすぐさま、バッグから在庫のペンライトを取り出した。


「は? またこの現象かよ。バグってんじゃないの?」


 愚痴をこぼしながらアバターをリスポーンさせる賽子。


「私のナイフの能力はあまり効いていないみたいね……」

「いやいや、かなり厄介なものだと思うよ。君のその能力に対抗するために魔力のリソースを割かなければならないのだから」


 二撃目が来るまでに距離を縮める。

 その二撃目で、太田のペンライトは再び折られたが、賽子はキチンと回避した。


「むう……どれが奴に通用するものなのだ……? 多すぎて分からん」

「まあ、そこの二人が戦力として機能していない以上、厳しいものがあるよね。……さあ、もっと速くいくよ。どこまでついて来れるかな?」


 剣戟による、だるまさんが転んだ状態になり、最も速く三代目の元に辿り着いたのは、賽子だいすのアバターだった。

 焦り一つ見せない三代目の心臓部目掛けて突きが放たれたが、剣が三代目の服に触れた瞬間、アバターの方が自壊した。


「またそれか!」


 今度の叫び声は、リスポーンしてからのものだったので、魔王の部屋に響いた。

 向日葵と太田は魔術による攻撃も始めているが、直撃しても全くダメージを受けている気配がない。

 三代目は何も言わずに笑っている。次第に実剣の間合いに数人が到着し、近接戦が始まった。

 多人数相手に全く不利を感じさせない。そもそも、誰かが三代目と撃ち合っている間にも、三代目が剣を振るうたびに剣客全員の元に剣戟が届いているのだから。

 その隙を見て賽子だいすが攻撃するも、三代目はそちらに視線を向ける事すらしなかった。

 例の如く、アバターが自滅したからである。


「またそれか、オラァッ!」


 操作をしていた賽子だいすが、キーボードを机に叩きつける。キーボードは思っていたより頑丈で、逆に机の方が傷ついていた。

 メアリも、他の誰も、賽子だいすに掛ける言葉を持っていなかった。

 痛いほどの静寂が張りつめる中で、荒い呼吸をしながら再びアバターの操作を開始する。

 その頃、太田はようやく運命のブレードを見つけ出すことに成功していた。


「やはり拙者が最初にライブに行って物販で買ったものでござったか……やはり、これだけは思い入れと思い出、そして輝きが違いますな」


 それは一本のペンライト。この世界に来てからは、複数のものを同時に運用してきた太田が、初めて一つの得物に切り替えた瞬間であった。


 この辺りから、塚原が三代目の剣筋に慣れ始め、剣客側の攻撃回数が増えていく。

 向日葵が三代目と魔術対決を始め、見鶴とキリも攻勢に転じ始めている中、ただ賽子だけは、三代目に攻撃しても、攻撃されても一撃で消え去るというループを繰り返していた。


「中々やるね……だが!」


 劣勢に立たされていた三代目が力を一気に開放すると、全員が吹き飛ばされ、だるまさんが転んだが仕切り直し状態になった。


「これからは各個撃破に移ることにしよう」


 その言葉が聞こえるかどうかという所で、またしても賽子だいすのアバターは消滅した。

 ついにアバターが殺される回数が二桁に届いたため、おもむろに立ち上がった賽子だいすはメアリから水を無言で奪い取った。

 そのまま、マウスとキーボードを抱えて歩き始める。


賽子だいすさん、どこに行くのですか?」


 チラリと振り返って、


「決まってんだろ? 魔王城だよ」


 と小さく吐き捨てた。


「ま、待ってください。私も……」

「邪魔だ。死にたいのか」


 短く呟かれた言葉に込められたプレッシャーに押され、メアリは言葉を失いかける。


「そ、そんな……でも何で……?」

「あのクソ魔王にムカついたからだよ! そして、俺はムカついた奴を黙らせる方法を知っている。それだけだ」

「く、くれぐれも身体に気を付けて頑張ってください……」


 まだ何か言おうとしていたメアリの肩をレイが叩く。メアリは渋々と口を閉ざした。

 代わりにレイが相変わらずのイケメンボイスで語り掛ける。


賽子だいすくん、俺は君が何をしようとしているのかは知らないし、止めようとは思わない。だが、一刻も早く向かう必要があるだろう? 馬を最高速で飛ばす。君は後ろに乗れ」

「……助かる」


 保険のために魔王城から離れていた分の距離を一気に詰めていく。最短距離を突っ込むために、前方にいた人垣にレイが怒号を叫ぶ。

 人垣が割れて、五分と経たない内に魔王城の中にまで馬で乗り込んだ。

 馬から飛び降りて、バランスを崩しかけていた賽子だいすに、レイが声を掛けた。


「無茶をするな、と俺は言わない。だから勝て。勝ってこの世界を救ってくれ……頼む」


 賽子だいすは振り返ることもなく手をひらひらさせて魔王の部屋に入って行った。



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