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魔剤?

 空中では既に、向日葵ひまわりとデュランダルによる激しい魔術戦が展開されていた。

 向日葵が放つ追尾型の闇魔術を、板野サーカスもかくや、という軌道を描いて避け続けるデュランダル。さらに、向日葵が直接攻撃するためにデュランダルを追いかけていた。

 そのため、空には複数の黒い軌道と、デュランダルの放つ金色のオーラが尾を引いて出来た軌道が、幼稚園児の落書きのように描かれていた。


 そこに、真昼に空を見上げても分かるような輝きを放って、塚原つかはらが割り込んだ。

 塚原との鍔迫り合いになって、回避が遅れたデュランダルに数発の闇魔術が命中した。

 最小限の被弾で逃れたデュランダルを追いかけようとして、勢い余った残りの闇魔術が塚原に命中する。


「しまった……! 我としたことが、このような初歩的ミスを犯すとは……!」


 動きを止めた向日葵に塚原の鋭い声が届く。


「ワシを気にするな! ワシはこれでもハイランドの剣客……闇を相殺させるための光魔術ぐらい使える」


 魔術的素養の差で、完全なノーダメージとまではいかなかったが、塚原へのダメージは最小限に抑えられていた。それを確認した向日葵が再び追尾型の闇魔術を放ち、デュランダルを追いかけ始める。

 塚原は、向日葵とは別のルートで相手の針路を妨害するように追いかけていく。


「またかっ……!」


 デュランダルが先ほどと同じように、最小限のダメージで乗り切るべく、鍔迫り合いのために剣を振った。だが、塚原はそれに応じず、切っ先を避けて、剣を振り下ろす。

 辛うじてガードに成功したデュランダルだが、またしても闇魔術を受けてしまった。

 今回も最小限のダメージで回避を始めたが、前回と軌道が違ったため、塚原には当たらずにデュランダル目掛けて飛んで行った。


「何故だ……何故あの老人に剣が当たらない!」

「フハハ! そのジジイはしぶといぞ! 何せ、一度見せた剣戟は二度と通じないらしいからな! この我も手を煩わせられたわ!」


 あまり多くを語らない塚原の代わりに、向日葵がネタ晴らしを始める。


「やれやれ、そんなに大したものではないのじゃが……」

「ふん。このレベルの戦いにおいて、相手を死に至らしめるのは単純な攻撃ではな

い。絶望こそが死に至る病である!」

「勉強熱心でよろしい。ワシらもそろそろ決着を付けようかね。城内は着々と試合が終わりつつある模様じゃからのう」


 二人と一体が空中で対峙する。デュランダルは、何を思ったのか、剣を捨てた。


「む。貴様、勝負を放棄するつもりか! このジジイはさて置き、我に貴様を見逃すほどの慈悲はないぞ!」


 デュランダルは静かに首を横に振る。空中に静止したデュランダルが徐々に高密度の魔力を纏い始めた。


「いいや、これが本来の姿である。幼少の時から剣を習ってきたが、私は全く師匠に及ばない残念な弟子だったよ。だが、先代様が私の夢枕に立ち、私に名前を授けてくださった時、この名前について説明してくださったのです。デュランダルは、不滅の刃の意を持つ伝説の聖剣の名前であり、この私がその名前を冠するに足る実力を持っている、と」


 デュランダルが身構えると、体の各パーツが剣のように鋭く変化していった。肘、膝、尻尾、手刀、蹄の先とバリエーションは多い。


「いくら剣を振っても駄目だと痛感したよ。私自身が剣であるならば、剣が剣を振るなどということを何度繰り返しても、滑稽なだけではないか!」


 突進してくるデュランダルを、向日葵が真正面から受け止めた。

 相手の腕を刃で受け止めているが、デュランダルの腕には傷一つ付いていない。


「なるほど。貴様自身が剣になったと言うのならその耐久力にも納得だ。さて、どう対処したものか……」


 どこまでが剣となっていて、どこまでが本来の肉体の部分なのか分からない。換言すれば、傷つけられるような肉体の部分がどれだけ残されているのか分からなくなったのである。

 さらに、剣となっている部分が多く、手数の面でも押されている。

 相変わらず機動力は健在で、顔面目掛けて闇魔術を放っても、軽々と躱され、剣戟も剣と化した部分で的確に処理していく。


「ぐっ……どうするジジイ!」


 尋ねられた塚原は、無言でデュランダルを眺めている。数秒後、


「ところで向日葵君、この剣の奇妙な点はわかるかな?」


 と向日葵に尋ねた。


「奇妙も何も、全身が珍妙過ぎて普通なところが見当たらぬ! いや、ファンタジーなゲームやアニメならこういう存在がいたとしても全く普通で気にならないが……」


 その解答は、どうやら不正解だったようで、塚原は首を横に振った。そして、ヒントを出す。


「例えば、君は最近のコマーシャルを見て、変な飲み物を飲めば翼が授けられると思うかね?」

「何? エナジードリンクの話か? いや、それともアレは雄牛でコイツは馬だという話……でもないな」


 思案するように目を閉じながら、相手の猛攻を捌いていく。

 そして、その眼が見開かれた。


「翼……翼だ! 剣が空を自在に飛ぶことほど奇妙なことがあるわけない!」


 その解答は正解だったようで、ようやく塚原も収めていた剣を抜いた。


「いくらお前さんでも、この高度から落とされれば無事ではあるまい」


 塚原が居合いの要領で一気に距離を詰め、翼を切り落とした。デュランダルの魔力によって構成されていた金色の翼は、剣のような性質を持っていなかったため、簡単に消え去った。

 ただし、魔力で構成されているということは、復活も容易であるということ。


 回転しながら落ちていくデュランダルを追いかけながら、攻撃を捌き、生えて来る翼を断ち切っていく。

 何度もそのやり取りが繰り返され、ついに魔王城を囲うように発生していた深い堀の中に突入した。陽の光も差し込まない地中で魔術による光と闇が輝きを放つ。

 そしてついに、地面の底を知覚した二人が、最大限の力でデュランダルを叩きつけた。


 そのまま追撃を加え、確実に止めを刺す。

 相手の生気が消え去ったことを感じた二人は魔王城に戻った。

 二人が正門から戻って来た時には、既に全員が休憩モードに入っていた。


「二人とも無事だったんですね! 良かった……戦いが終わって空を見上げても二人の姿が見えなかったから心配しました」


 見鶴みつるが二人のもとに駆け寄って、向日葵に抱き着いた。


「ええい、暑苦しいからやめろ!」


 向日葵が見鶴を引き剥がすと、どこからともなく拍手の音が聞こえて来た。恐らく魔王のものだろう。

 そして、部屋の最奥にある扉が開く。


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