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剣客の中には、体育で「二人組作って~」と言われたら余ってしまう人が三人ぐらいいるけど、結局誰が一人になってしまったのか。

 雑魚敵が減ると、四天王の面々が歩み寄ってくる。


「魔王様……即興でやるからスペース不足になるのです。ですが、勇者でもをまとめて潰すには好都合!」

「仲間を気にしてあまり全力が出せないところだったが、これで心置きなく戦える!」

「基本、四天王ってバラバラに出て来るものですが、こっちの方がやりやすいですね。魔王様はここまで考えてこのサイズの城をお創りになられたのでしょうか……!」

「魔王様……見ていてください、我々の勝利を!」


 口々に決意の言葉を叫ぶ四天王とは対照的に、剣客側には若干弛緩したムードが漂っていた。

 数だけで見れば、魔王軍の九割以上をこの短時間で削ったので無理もない。


「誰が誰を殺るー? 俺はあの落ち武者な。弱そうだし」


 一番早く発言して、一番弱そうな獲物を掻っ攫っていくという賽子だいすの無遠慮さと狡猾さ。

 続いて、太田おおたがサキュバスを指名する。


「せ、拙者は、あの、ありえんバブみが深い女性がいいでござる」

「太田くんが何言ったのか通訳して欲しいけど、オレもあの姉ちゃんで。この辺がセクシー……エロイっ!」


 男木おぎが自身の腰周りを指差しながら笑う。女性陣は白けた視線を向けつつ、自分たちの希望の対戦相手を指名し始める。

 三代目魔王に扮した黒菱くろびしがミノタウロスを指名。


「太田さんの言葉を適当に訳すと……甘えたくなるほど素晴らしい外見の女性、という意味だよ。それはともかく、ぼくは牛さんを担当しようか」

「じゃあ、私もうさぎさんと同じで牛さん!」


 残り物には福がある、と言うより、余った相手を引き受けようという寛大さで後半まで発言を控えていた塚原つかはらがケンタウロスを指名する。


「ワシは馬人間……たしか、ディープインパクトじゃったっかのう? ともかくアレを担当しよう」


 残り物には福がある、と言うより、誰が相手でも秒殺出来るという尊大さで最後まで発言を控えていた向日葵ひまわりもケンタウロスを指名した。

 ミスルム国所属の人間とハイランド国所属の人間が協力しあうなんて、この世界の人々からすれば考えられないことだろうが、剣客たちはそういうことを全く意識していなかった。完全に忘れているとも言う。


「ククク……我もケンタウロスを担当しよう。あと、奴の名はもっとカッコいい――ダイワスカーレット……とかいう名前ではなかったか?」


 記憶があやふやな二人の訂正に回る男木。


「よし。担当が決まったな。ついでに、あの馬の名はデュランダルだ。爺さんはともかく、向日葵ちゃん、それ昨日出てなかった名前なんだけど……」

「向日葵ではない! 我のことは黒淵虚月くろぶち こげつと呼べ!」


 こんな時でもいつもの指摘は欠かさない向日葵に、男木が苦笑する。

 結果的に賽子だいすだけが単騎で四天王を相手にすることになった。事前に打ち合わせていたわけではなかったが、賽子だいすはこれを好都合と捉えた。

 昨日の戦いで、魔王に対して賽子のアバターが全く通用していなかったことを考えると、賽子だいすが他人に貢献するための方法は、他人に雑魚敵戦であまり負担を掛けさせないことぐらいしかなかったからである。

 四天王の前に、それぞれが立ちふさがる。


「何だ? 俺の敵はガキ一人か? 甘く見られたな。後悔しても知らんぞ」

「ハッ、落ち武者が甘く見られるのは当然だろ? お前はもう死んでいるんだからな!」


 賽子だいすはデュラハンと軽く言葉を交わして、戦闘に突入していく。


 他の面々も、次々に戦闘を始めていく。


「ちょっ、ちょっとアンタたち気持ち悪いんだけど!」


 改造したペンライトを持ってサキュバスににじり寄る太田と、ズボンのチャックをじわじわと下ろし始める男木。

 赤面しながらも、サキュバスは目を閉じたり、逸らしたりすることは無い。それが命取りになることを知っているからだ。

 熱い視線を一点に受けながら、男木が自身の剣を引き抜いた。もちろん、パンツから。

 それを見たサキュバスが露骨に嫌そうな顔をする。


「いいねぇ。アンタはいい女だから、オレも全力でいける!」


 静かに、しかし力強く脈動する男木の剣が、得も言われぬ威圧感を放っていた。


「な、何が勇者よ! 変態ばっかりじゃない!」


 サキュバスが叫びながら魔術を乱発していく隣で、いつもの電子音が鳴った。どうやらキリがサキュバスの言葉を拾ったらしい。


「いいえ、見鶴みつるさんは変態ではありません」

「私は、ってことは……じゃあ、他の人は?」

「そうですね。塚原さんも変態ではないでしょう。他の剣客さんたちはまあ、プライバシーに関わるのであまり詳しくは言いませんが……お察しください」


 何度かキリとやり取りをしている見鶴に、ミノタウロスが憐れむように声を掛けた。


「人間とは汚い生き物だ。我々四天王のように清廉潔白でなければならぬ」


 すぐさま電子音が鳴った。


「いいえ。三代目魔王様はノーマルですが、四天王の皆さんは変態です。デュラハンは父がいない反動でマザコンですし、サキュバスはボーイズラブ好きという種族としての欠陥を抱え、ケンタウロスのデュランダルはドMで、あなたはロリコン。どうですか? 非の打ち所がない変態集団でしょう。納得がいかないならあなたの隠しているエロ本のタイトル・作者名・出版年月日・購入日時・同時に購入した商品・その商品を購入した他のモンスターが同時に買っている商品・その本があなたの部屋のどこに隠されているのかという情報等まで一冊ずつゆっくり丁寧に解説してあげましょう」

「え……怖……やめて」


 ミノタウロスが打ち震えている中、キリの放った言葉が様々な場所に飛び火していた。


「良い事聞いたぜ! 今こそ、この言葉が真の意味で使える! ファック! ファッキンマザーファッカー!」


 賽子だいすがお馴染みのセリフを叫び、太田が落ち込んだ様子でサキュバスに尋ねる。


「えっ、サキュバス氏、腐っているのでござるか? メイトでホモ漁りが日課でござるか?」


 太田はテンションだだ下がりであったが、男木は飄々とした声音でサキュバスに語り掛けていた。


「オレはそういうビデオにも何度か出たことがあるから、抵抗はないぜ。その辺の四天王の誰かのケツ引っ叩いて来たら目の前で見せてやろうじゃねぇか。と言う訳で、オレと絡みたい人、出演したい人を募集しております!」


 ほとんど嚙み合っていない二人の発言にサキュバスがたじろぐ。


「ひっ……変態二人組では全く妄想が捗らない……!」


 未だ戦闘らしき戦闘に入り切れていないミノタウロスたちの横では、ケンタウロスと向日葵、塚原コンビの戦いが始まっていた。

 間違いなくこの場で最も速い攻防が繰り広げられており、残像まで見えている。

 向日葵の放った闇魔術が外れて、城の壁の一角を破壊した。


 二対一が不利であると見たデュランダルが、決戦の日に全く似合わない清々しい青空へ飛び立った。

 背中からは羽が生えており、魔王が作った深淵よりも深い堀を悠々と飛び越していく。

 塚原はすぐに正門の方から迎撃に走って行ったが、向日葵は壁の大穴の前に仁王立ちして空の彼方のデュランダルを睨んでいた。


「羽で空を翔けるとは面妖な人面馬め……! だが、誰も我が飛べないとは言っておらぬ! 開け! 封印されし我がディバインブラックアイ! リミットブレイク!」


 カラーコンタクトで作られたオッドアイの、コンタクトが入っていない黒の右目が光を放つ。


「出でよ! 我が漆黒の堕天使の翼!」


 向日葵の声に応じて、背中から一つの黒い翼が生えて来た。そのまま翼の運動や物理法則など関係なく、空を突っ切って行った。


 その横で、黒菱と見鶴もミノタウロスとの戦闘を本格化させようとしていた。


「さっきロリコンって言われてたけど、君の中ではどこまでがロリ扱いされるのかな?」


 魔王の姿をした黒菱が淡々とした口調で尋ねる。


「普通に十代前半まで……と言いたいが、人間の何倍もの時を生きているから二十代前半までぐらいかな?」

「な、何倍も生きているのに倍にも広がってない気がする……!」


 見鶴が反射的に自身を守るように体を抱きかかえた。またしても淡々と黒菱が呟く。


「うーん、ロリコン失格だね。それじゃあ、ぼくらも始めようか」


 黒菱が剣を構える。ミノタウロスも渋々ながら剣を構えた。


「魔王様を切るわけには……いや、アレはまやかしだ。しかし……」


 逡巡の結果、ミノタウロスは大きく息を吐いた。

 魔力が集まったかと思えば、赤黒くなったミノタウロスの体が膨張していく。最後の理性を振り絞って、野太い声を上げた。


「迷いを断ち切るにはこれしか、ない!」

「あっ、あのバカやらかしたわね!」


 サキュバスが意識的にミノタウロスと距離を取る。


 それに従って、壁際で戦っていたデュラハンと賽子だいすにしわ寄せがくる。

 若干戦闘領域が狭くなったところで、デュラハンが背中に提げていた弓と矢筒、自分の首を自らの後方に投げた。

 生首からデュラハンの体が生えて、弓に矢をつがえる。要するに、刀と弓の二つを同時に行うための秘策であった。


 これで賽子だいすとデュラハンの戦いは一対二になり、賽子にとって数的には不利になっていたが、それでも賽子だいすの余裕の笑みは崩れない。……そもそもアバターは完全に無表情だったのだが。

 眉一つ動かさないアバターに対してデュラハンが身震いしつつも、二人同時に襲い掛かった。


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