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決戦の朝

じわじわとバトル路線に戻しております。次回からは戦闘も始める予定です。

 昨日、夕食を食べた部屋と同じ部屋には、ミスルム組以外の面々が揃っていた。

 降りかかる挨拶に、賽子だいすが小さく会釈して、メアリが丁寧に応対していく。

 二人が昨日と同じ場所に着席した時、アイリスが向日葵ひまわりの手を引っ張って部屋に入って来た。

 向日葵は眠たそうに欠伸をして目を擦っていた。


「うにゅ……あと五分……」

「向日葵……その言葉を繰り返しながら結局五時間延長したことを私は忘れていませんよ?」

「む……では仕方あるまい。しかし、闇魔術の使い手が早寝早起きなんて、設定としておかしいだろう?」

「それはそれ、これはこれです。規則正しい生活でなければ成長出来ませんよ」

「ぐっ……一理ある。あと、我のことはマーセナリーと……」


 いつもと同じセリフを言いかけた向日葵の口にスプーンが押し込まれた。意外にも、その後数分間は行儀よく食べていた。


「そう言えば、うさぎさん。昨日の夜に何か作っていたよね? アレ何?」

「まだ完成していないわ。正午までには完成するから、その時のお楽しみよ」


 見鶴みつる黒菱くろびしの話につられて、


「何か作ってたと言えば、太田おおたくんも朝から何かやってたよね?」

「うむ。拙者は武器のメンテナンスと改造ですな。普段は厄介扱いされて嫌われる故にあまり使えないものがあるのですが、ここでは遠慮なくやらせてもらいますぞ」


 やはり、会話をあまりしていないのは賽子だいすとメアリぐらいであった。

 他人がおかわりの分まで食べ切ろうとしている時に、


「ギブ。残りは頼んだ」


 メアリは、やはり笑顔でその朝食を受け取った。その様子を見ていた向日葵が、


「どうしたのだ、貴様。恐怖で食事が喉を通らないのか?」

「うるせぇ、半分ぐらいは食っただろ。朝からそれだけ大量に食える方がおかしい。そっちこそ、そんなに大量に食べて最後の晩餐のつもりか?」

「ククク……頭のよさそうな言葉をドヤ顔で使うから無知がバレるぞ。これは晩餐ではなく朝餉だ!」

「は? 朝……げ? げ、はゲームのげ? それともゲロのげ?」

「馬鹿に言っても欠片も伝わらなかった! そして食事中に汚い話をやめろ!」


 互いに煽り合って眠気を飛ばしつつ士気を高めていく。


「なあ、塚原つかはらの爺さんや。この戦いに勝つ自信はあるか? オレは結局どうなろうが構わんような人間だが、あっちには希望に溢れるガキどもがいるからな」


 男木おぎの質問に、塚原が動じることもなく淡々と答える。


「ワシからすればお主もガキ同然よ。いざとなれば老い先短いジジイに任せるがいい。所詮、戦争の時にくたばれなかった死にぞこない。友に会える日が今日になるかもう少し先になるか程度の違いしかない。婆さんも数年前に逝ってしまったし、他の家族も偶に会いに来る程度。ここが死に場所となっても悔いはない」


 弱気な発言を始めた二人の会話に、太田が自ら割り込んだ。


「貴殿らには、向こうの世界に未練はないのでござるか? 拙者には命に代えても応援したい推しがいますぞ。少ないながらもオタ友達がネット上にいる。だから、拙者はまだ死ぬわけにはいきませぬ。だが、仲間が死んだとなれば推しを気持ちよく応援出来ぬ故、貴殿らにも軽々しく命を散らしてほしくはないのですぞ!」

「はっは。あんたの為に死ぬなって? 最近のオタクは自分勝手が過ぎるなぁ……。しかし、オレは一言も死にたいなんぞとは言ってない。未練がない事と死にたいって事を単純に結び付けられても困る。ただまあ、誰かのために死ねるだけの覚悟があるのは爺さんだけだろうね。やっぱり塚原さんは精神的な強さが違うわ」


 男木と太田の視線が塚原の方を向いた。会話の流れを察したライトが塚原の手を握る。


「お願い、塚原さん。軽率に死ぬなんて言わないで!」


 その眼差しを受けて、塚原は観念したかのように頭を掻いた。


「そうじゃったのう。ワシが士気を下げるようなことを言うべきではなかった。訂正する。ワシは死ぬ気なぞ無いし、誰一人として死なせる気もない」


 同時刻、見鶴が黒菱に、


「私、やっぱり怖いんだ。確かに昨日は互角に戦えたけど、でも今日はどうなるか分からない」

「大丈夫。あなたのそういう気持ちが普通なの。あの辺が頭おかしいだけ。みんなで支え合えば勝てないことは無いわ」


 黒菱があの辺として指差したのは、無論、賽子だいすたちの方向だった。

 賽子だいすは大きな溜め息をつき、


「辛気臭ぇなあ、全員あの世とか言う安全地帯から見学する気か? ……大歓迎だ!」

「ククク……貴様には荷が重い。我が貴様を倒して魔王も倒す! そして、その様を地獄の底から見上げるが良い」


 向日葵も便乗して無謀なことを叫んでいた。とても短い付き合いだったが、彼らが彼らなりに気を使っているのだと年上の剣客五人は理解した。

 ほとんどの人が朝食を済ませると、塚原が行動を促す。


「では、各自最終調整に入ってくれ。絶対に誰一人欠けることなく勝利を掴み取ろう」


 塚原の言葉に少し緊張感の欠けた声が上がる。一部の人のタイミングは合っていなかったし、そもそもそこまで大きくない声だったが、決戦への熱意は十分だった。

 各自がそれぞれの場所で準備を始める。召喚士たちも、軍の幹部に集合時間などを伝えに行った。賽子だいすや塚原のように、特に準備を必要としていない者もいたが、他の人たちは基本的に武器の手入れなどを行っていた。

 正午の三十分前には到着出来るようにスケジュールが組まれてある。


 移動開始時刻になって、個室から全員が集まってくる。

 賽子だいす、向日葵、見鶴、男木、塚原は昨日と全く同じ装備。見鶴の手には既に剣と化したスマホと自撮り棒が握られていた。


 逆に、向日葵と男木はまだ剣を持っていない。戦闘の直前で見せることに意義を感じているのだろう。太田はやたら大きなカバンを背負っていた。そのカバンには同じキャラがプリントされた缶バッジやぬいぐるみ、キーホルダーなどが大量についていて、鎖かたびらのように見える。さらに、ペンライトを軍人の弾薬ベルトのように大量に身体に巻き付けていた。


 そして、最後の黒菱は、昨日見た三代目魔王と全く同じ格好をしていた。手に持っている剣も、昨日見た物と同じであった。


「どうかな。ぼくは先代との約束を守る良い子に見えるかい?」


 魔王と全く同じの爽やかボイスではにかんだ。雰囲気まで似せてきている。


「それは……乱戦になった時はどうすればいいの? クオリティ高いから間違えてしまうかも」


 見鶴の純粋な疑問に、黒菱が儚げな笑みを浮かべて小さく答える。その笑みは、三代目魔王もやっていると言われれば信じ切れるものだった。


「ぼくの左手首を見るといい。こんな良い子にはあってはならないものがあるんだ。これだけは、ぼくの能力でも隠せないんだよ……」


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