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異世界から助っ人として呼ばれたみたいだけど、俺も含めて全員場違い過ぎる!

お待たせしました。次話から徐々にファンタジーバトル路線に戻ります。

「本来なら、これから細かい作戦会議などに移るべきじゃろうが、今回はシンプルに行こう。死ぬな。勝て。君の為せることを為せ……こんなものかね」

「いいんじゃないか? おじさん、あんまり頭良くないからね、分かりやすい方がいいんだよ」


 他の面々からも同意の声が上がる。


「本日と明日では少し勝手が違ってくるじゃろう。相手も力を蓄えて来るだろうし、四天王以外のモンスターも総動員してくるじゃろうからな」

「そういう下級モンスターはボクたちに任せてよ。塚原つかはらさんたちは魔王さんたちに集中して。それがきっとボクらに出来る唯一のことだから」


 ライトが明るく語り掛ける。


「で、でもみんなを危険な目に遭わせるわけには……」


 俯いて呟いた見鶴みつるの手をナーシーが優しく握った。


「私たちは今までだって何度も戦場に身を置いて来ました。危険じゃない戦場なんてどこにもありませんし、戦争に参加している時点で危険な目に遭うことは皆、覚悟しているのです」

「で、でも……」


 なおも食い下がる見鶴にどう返答しようかとナーシーが口を噤んだことによって起きた静寂。

 その間隙をついて、賽子だいすの口から零れた言葉が部屋に響いた。


「どうせ、ここに来ている連中は何を言っても止まんねぇよ。自分たちのお国のために選ばれた剣客様だけが戦っているのを黙って見届けられるようなお行儀の良い連中じゃないのさ。……その剣客様が、俺らの世界で言ってみれば、中学校にもまともに行けねぇニートや、どうしようもない不治の厨二病患者、三十路迎えたアイドル声優オタク、何かよくわからんけどロクな仕事はしてなさそうなおっさん、大学とか言う人生の夏休み真っ只中でアニメキャラに成り切っている遊び人とかいう、社会のクソを集めたオールスター集団であっても、な。……隠居ジジイと普通の高校生はこっち側に来るなよ」


 散々な言われようだったが、向日葵ひまわり太田おおた男木おぎは誇らしそうな表情で頷いていた。黒菱くろびしも最初は納得しきれないような表情をしていたが、何かを割り切って微笑んだ。

 自分以外の人が誰も言葉を発していなかったことと、その場の全員の視線が自分に集まっていることに気付いて、賽子だいすはメアリの方を見た。

 メアリも笑顔で頷いた。


「はい。賽子だいすさんは全然社会性がないし、召喚された時は、その首に吊り下げている変なものと下着以外何も身に着けていない変態さんで、剣の一つもまともに振れていませんでしたが、今は私たちの大事な剣客様です。その剣客様のお役に立てられないというのは……私たちにとって本当に悔やむべきことなのです」


 賽子だいすが肩を竦めて溜め息をつく。そのやり取りを受けて、ナーシーが改めて見鶴の手を握った。見鶴がその手を握り返す。


「ごめんなさい。私、みんなの気持ちを考えることが出来なかった。……私もナーシーさんたちのことを頼りにしている。今までだって何度も支えてくれていたんだから。でも、絶対に無理はしないでね」


 見鶴とナーシーが手を取り合っている間に、黒菱が賽子だいすに話しかけた。


「あなた、やけに現地人っぽい服装をしていると思ったら、服がなかったのね。それと……本当に目が良いのね」

「……は?」

「社会のクソオールスターズに私を入れた事よ。でも、大学生と遊び人はイコールでは結べないから、すぐにそう考えるのはやめた方が良いわ。大学生が遊んでばかりのように見えるのは授業システムとかも加担していることだから……じゃあね」


 それだけ言って、黒菱は元の席に戻った。

 その忠告は、大学以前に、高校にすら行く気がない賽子だいすにはほとんど関係ないことだった。

 賽子だいすには大学生の知り合いなど一人しかいなかった。だが、確かに同じ大学生でも一括りに社会のクソとは言えないな、と考えた。……浪人と留年を繰り返した末に二十四歳になった今でも大学二年生をやっているゲーム仲間に比べれば、黒菱は遥かにまともに見えたのである。

 塚原が手を叩くと、自然にそちらへ視線が集まった。


「今日はかなり疲れているじゃろう。それに、明日の決戦に向けて英気を養うためにも、早めに寝るべきじゃ。一人一部屋使えるようにしているが、集団でも寝られる部屋を男女一部屋ずつ用意させておる。ここから先は個人の自由にするが良い。部屋を案内させよう」


 大部屋を出ると、男女別々に部屋の案内がなされた。

 賽子だいすが男性用の大部屋から個室に移動しようとした時、


「すいません、ちょっとだけ話を聞いてもらえませんか」


 と、タメアキに呼び止められた。


「本当にちょっとだけ。……さっき黒菱さんはあまり多くを語りませんでした。その意思を尊重して、俺もぼかした言葉を使いましたが、あの人は、皆さんが思うほど強くありません。詳しくは言えませんが、どうかあの人を支えてあげてください」


 深々と頭を下げたタメアキに、多くの者は驚いていた。

 賽子だいすは、要件が終わったと判断して、興味無さげに部屋から出て行った。


「社会のクソオールスターズねぇ……」


 そう呟いた賽子だいすを、他の人たちは黙って見送った。

 翌朝、賽子だいすは珍しく、早めに目を覚ました。緊張して眠れなかったと言うより、風呂の前後で少し寝ていたことが影響していたようである。

 手短に準備を済ませ、外の空気を吸いに行ったところ、外から帰って来たらしき塚原と出会った。まだ日の出前であった。


「爺さん、何やってんの? 一人だけ夜襲に備えて警戒か?」

「いいや。ただの日課のランニングじゃよ。年を取ると自然に朝早く目覚めてしまうものでな……。何にしても良い朝だ。おはよう、賽子だいす君」


 挨拶が返ってくる事に元からそこまで期待していなかったのかもしれないが、賽子だいすが呻き声のような挨拶を返す前に宿屋の中へ戻って行った。

 特にすることもなかったので、賽子だいすは個室の中でマウスとキーボードを弄んで時間を潰す。

 朝日の光で窓の外が明るくなり、さらに少し時間が経つと、ドアがノックされた。

 こちらの世界に来てから何度か経験していた事だったので、ノックした相手の見当はついていた。


「どうした、メアリ」


 ドア越しに声が返ってくる。


「あっ、もう起きていらっしゃったのですね。おはようございます。朝食の準備が出来たそうです。部屋までお持ちしましょうか?」

「ああ、そうだな……いや、待った。食べに行く」


 鍵を開けて、扉から顔を出した賽子だいすに、メアリが珍しいものを見るような視線を向けていた。


「昨日の経験から、ハイランドの飯は多いことが予想される。どうせ食い切れん」


 少し早口で呟いた賽子だいすに、メアリが明るく笑いかける。


「はい! 残ったものは私が処理しますので安心して召し上がってください!」


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