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写真をSNSに上げたがるJKと引きこもり中学生とアニメの真似をする痛いJC

大体サブタイトルだけで内容が分かる回となっております。

 ミチモリの熱い挨拶の後、見鶴が控えめに立ち上がった。


「私は安藤見鶴あんどう みつる。高校二年生だよ。名前の漢字は見学の見に動物の鶴だよ。武器は……もう多分みんな見たよね。ナーシーちゃんが“けんかく”さんを呼ぼうとしたって聞いて、多分私の名前を音読みしたときに“けんかく”って読めるから召喚されたんだと思う。SNSでたまに使ってたし。学校行こうと準備してた時に呼ばれちゃった。友達とかには今頃どう思われてるかな……まあ、みんなよろしくね」


 見鶴の召喚士の女性も立ち上がる。リヴィア組は二人とも温和な雰囲気を纏っている。


「ナーシーと申します。大体のことは見鶴さんが説明してくださいましたね。今日、見鶴さんが覚醒して、ようやく周りに召喚士だと堂々と言えます。やっぱり見鶴さんを召喚して正解でした。感激です」


 見鶴が涙を浮かべているナーシーの頭を撫で、肩を寄せ合って座った。見鶴も少しもらい泣きしていた。

 その光景を微笑ましく眺めている女性が立ち上がる。今までの戦場では全然違う姿をしていたため、賽子だいすはその女性がシュロス国の剣客であることに気付けていなかった。


「私は黒菱兎くろびし うさぎ。大学二年。まあ、アニメ系の趣味だよ。あの日は授業入れてなかったから特に日常には支障をきたしてないんじゃない? 武器作ったり変装したりするのが得意かな。でも全然知らない人に成りすますのは無理。水魔術も少しは使えるよ。よろしくね」


 今までの剣客の挨拶と比べれば、やけにあっさりしていた。しかし、最低限の情報は揃っている。あまりプライベートを語りたくないだけなのだろう。隣のタメアキがアイコンタクトで黒菱に何かを確認して立ち上がった。


「俺はタメアキです。召喚魔術への適正だけでここに立っている感じの凡人ですけど、出来る限りのことはしていきたいっす。今だから告白しますけど、美少女呼べば彼女出来るかな、とか思っていて申し訳ありませんでした!」


 いっそ清々しい下心であった。太田おおたが同情するような視線を向けて何度か頷いている。

 数秒後に、ゆるゆると賽子が立ち上がった。若干嫌そうな顔をしつつも、平時よりも少しだけ声を大きくして、


香戸賽子こうど だいすだ。引きこもり。中三。好きなゲームはFPS系。俺は剣を持ってないんだけど、コイツは持っている。それと、魔力が続く限りコイツは復活できる」


 賽子だいすがマウスとキーボードに手を置くと、アバターが出現して剣を一振りした。

 黒菱が何かに気付いたように声を上げた。


「ねぇ、香戸くん。君の剣は多分、そのキーボードだよ。何たってキーボードは和風に言えば“けん”盤だからね」


 他の数人からも同意の声が聞こえて来た。今までそんなことを考えたことも無かった賽子だいすは、特に反対する理由もないので皆の意見を肯定しておく。


「あぁ……いや、英語あんまり勉強してないから気付かなかったわ。多分それが合ってると思う。あと、視力と聴力が強化されている。んで、朝ゲームしてた時に呼ばれた。学校から修学旅行ぐらい来いと言われてたが……あれは放っておいても別にいいんじゃね?」


 賽子だいすと入れ替わるようにメアリが立ち上がった。


「メアリと申します。私は、絶対に負けない剣客さんを呼ぼうとしたんです」


 メアリの言葉に賽子だいすが顔を伏せた。確かに、本体を狙われない限り賽子だいすが本質的に負けることはないだろう。だが、他の剣客と戦った時に感じた火力不足、そして、三代目魔王との戦いで無力感を味わっていた。

 そんな賽子だいすの様子には気付くこともなく、メアリは挨拶を続ける。


「皆さんを頑張って支援しますのでよろしくお願いします」


 メアリが座ると、すぐさま向日葵が立ち上がった。


「そなたたちの盟約に応じて我も真名を明かすことにしよう。我が名は……」


 明後日の方向を見ながらそこまで言って、ふと真顔になる。その後、声のトーンを落として、


「わ、わたしの名前は、佐藤向日葵さとう ひまわり……です。普通の名前なのであんまり好きじゃないです」


 隣に座っていたアイリスが立ち上がって抱きしめる。見鶴も駆け寄って、向日葵の耳元で励ましの言葉を囁いていた。

 一分ほどして、向日葵が厨二病的アイデンティティを取り戻した。


「ええい、貴様ら放せ! 全くお節介な輩どもだ……。我はあの名前が好かぬ。特に、佐藤とかいう鬼ごっこで虐殺されても仕方がないようなモブ臭溢れる名字が好かぬ! 故に、この世界では我を、黒淵虚月と呼ぶが良い。闇の神に愛されたもうた我が深淵なる闇は、普段傘の形に偽装されている愛刀、月隠に宿りて真の実力を発揮する。さらに、我のディバインブラックアイを解放すれば一時的に魔力のリミットブレイクが可能だ」


 全て対面で見て来た賽子だいすは興味無さげにその辺を見つめ、男木おぎは太田に通訳を頼んでいた。

 黒菱は見ていられない、と言った感じに視線を外していたが、塚原つかはらと見鶴は割と真剣に聞いていた。


「ククク……皆の者が召喚された時の状況について語っているようであるから我も話すか」

 そして、今までの他人の自己紹介の長さを遥かに超える回想が始まった。



 簡単に説明するとこうである。

 某アニメ作品に感動した向日葵は、剣客召喚が行われる前日、自室に人類史に残るような偉大な人物を召喚するための魔法陣的なものを作っていた。午前二時になってから召喚の儀式を執り行おうと計画していたが、完全に寝落ちしていた向日葵は、早朝の登校前に済ませることにした。


「素に銀と鉄。礎に契約の大公」


 言葉を発した瞬間、部屋に何かの揺らぎがあった。

 それを感じ取った向日葵は内心ガッツポーズを決め、今まで受けて来たテスト勉強よりも必死で覚えたその文章を暗唱し始めた。

 部屋で見えない何かが確実に蠢く気配を感じながら、ついでに腕に貼ってあった専用の紋章のステッカーも脈動しているのを感じていた。


 意識して呼吸を行い、心拍数をコントロールする。今こそ平常心が大切だ。そのまま、詠唱は後半に差し掛かった。


 このあたりで、床に描いていた魔法陣が光を放ち始める。

 完全に締め切った部屋の中で、妙な風が部屋のカーテンを揺らし、頬を撫で、これが夢などではなく、現実であると実感した。それにつられて、親にこのことを知られたらどうしようか、などと些末なことが脳裏をかすめたが、鋼の意思でシャットアウト。


 まだ普段は親が起きていない時間にも関わらず、腹の底から声を振り絞る。そうでなくては、この風に呑み込まれる気がしたからだ。苦悶の声混じりに詠唱を続けていく。

 光と風が増す中、最後は悲鳴にも似た声を絶叫した。


「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」


 そして風と光の奔流が収まった時、向日葵は、自分が別世界にいて、何かの魔法陣の中心に立っていることに気付いた。そして目の前には多くの魔術師然とした人々。

 ならば、言うべきセリフは一つ。さっきの長文と比べれば、遥かに覚えやすい、あの言葉。

 恭しく跪きながら目の前に立つ女性に一つの問いを投げかける。


「問おう。あなたが私のマスターか」



 向日葵がその記憶を語り始めて三十秒も経たない間に、黒菱と太田は完全に流れが分かってしまったらしい。あまり話の流れを掴めなかった男木が太田に尋ねる。


「ちょっとよく分からない単語が多くてイマイチ掴み切れなかった。もう少し簡単にならないか?」

「要するに、黒淵氏がアニメの真似をしようとしたら、半分現実になってたけど呼ぶ側から呼ばれる側になっていたでござるの巻って感じですな」

「なるほど。それだけのことをあんなに長く語れるのも一種の才能と呼ぶべきか……」


 長時間にわたる向日葵の自分語りがようやく終わった。

 満足気な表情を浮かべた向日葵がアイリスの手を引く。アイリスが周りを確認すると、塚原たちが微笑んで頷いた。


「私はアイリス。この子の召喚士です。願い通り、唯一無二の技を持つ剣客が私の呼び声に応えてくれて良かったわ」


 アイリスが向日葵を優しく包み込む。数秒間、なされるがままになっていたが、


「ククク……我もマスターの魔術師としての技量は信用している。我が剣に誓って勝利を約束しよう」

 と柔らかく微笑んだ。


 全ての人の基本的な情報が出揃ったところで、主導権が再び塚原に戻ってくる。


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