「この部屋重い」と言い始めるFPSゲーマーは、どこに行っても大体同じことを言う
ここ数話は、登場人物の設定のおさらい的な回です。文字数の割に登場人物が多いので……。
タメアキが小声で話しかけて来るのは賽子への配慮なのだろうが、この距離で小声を言っても聞こえていることは明らかだった。そのため、メアリは努めて普通の音量で返す。
「これが普通なんです。賽子さんは向こうの世界でも一人でご飯を食べていたため、むしろ他人と一緒に食べることが苦手で、召喚後も基本的に最初の一回以外は基本的に一人で食べてましたね。でも、ちょっと面白いんですよ。ドアの前にご飯置いておくといつの間にか空の容器がドアの前に置かれてるところとか……」
若干引き気味のタメアキ。近くで声が聞こえていたらしい黒菱も苦笑いを浮かべている。
そこに純粋で盛大なリアクションがぶちまけられた。
「それ、ガチの引きこもりやんけ! 我と戦っている時に身分を偽るための嘘かと思っていたぞ、フハハハハハッ! おい、引きこもりー! フハハハハハッ!」
向日葵の遠慮のない言葉が部屋中に響いた。遠くに座っていた人たちも何事かと向日葵たちの方を見た。瞬時にして部屋に静寂が訪れる。
相変わらず、機械的にご飯を口に運んでいた賽子は、ふと脳内である光景を思い出した。
それは賽子が普段ゲームをともにしているメンバーとともに初めてのオフ会を開いた時の事。
賽子たち数人が未成年と分かって、当初居酒屋で開く予定がファミレスになり、全員集まった時、リアルとゲーム内の差に苛まれて中々会話を始められなかった時に、メンバーの一人が言い放った一言。
「何か……この部屋重くね?」
これは彼の口癖だった。キルされる度に自室の通信速度を疑う姿勢が示された言葉。
この言葉を皮切りに、みんながゲーム内とほぼ同じテンションで騒ぎ始めたわけである。……ドッタンバッタン大騒ぎし過ぎて最終的に出禁になったが。
不意に呟かれた賽子の言葉を受けて皆が行動を再開させていく。
「すまん。やっぱりこれ多いわ。後頼む」
賽子が差し出した分を、少し嬉しそうにメアリが食べ始めた。
全員が食べ終わったところで、食器類が片付けられていく。その後、塚原が立ち上がり、
「では、明日の決戦に備えて、各々について理解を深めていこうではないか。所詮ワシらは一期一会の存在よ。一時期は殺し合いをしていたが、今となっては敵同士でもあるまいし、遠慮なく自身の能力などについて語って欲しい」
塚原の言葉に見鶴が首を傾げた。
「一期一会? 連絡先の交換とかしないの?」
「あー、私は充電切れ。多分あなたの雷魔術で充電できるかもしれないし、充電出来たら連絡先を交換するでしょうけど、他の人はどうでしょうね。連絡先交換という単語自体にトラウマを持ってそうな人までいるし……」
黒菱が視線を向けた先には体を小刻みに震わせている太田の姿がいた。
次に黒菱と見鶴の二人が視線を移すと、男木が肩を竦めた。
「オレ? 身一つでこっち呼ばれたからなぁ。連絡先うろ覚えだしガキと会ったら通報案件だぞ。最近の世の中よぉ」
さらに視線を移す。
「我も所持品にスマホはないぞ。そして連絡先は基本的に超長いもの作るから覚えてないぞ」
「何で超長いもの作っちゃうのよ……」
「デバイスやアプリが進化して、別に覚えていなくてもよくなったからだ! 進化の代償よな」
また視線を動かす。
「おいおい、俺がスマホ持ってると思った? 基本家から出ないから必要ないんだわ、これが。ババアもスマホの話なんざ欠片も出さねぇ……ってか、そもそもまともに話とかしないし」
そして塚原に視線が戻る。
「別に家の電話ぐらい教えても構わんが、老い先短いジジイの連絡先など使わんじゃろう」
六人の反応を受けて、見鶴は少し寂しそうに唸ったが、すぐに発想を切り替えた。
「あっ……そっかー。じゃあ、後で写真撮ろうね。私、この世界の写真をいっぱい撮っているんだ。元の世界に帰っても写真が残っているかどうかはわかんない。ネットに繋がらないからSNSにもアップ出来ない。でもね、癖だし、好きなんだ。写真を撮ると記憶により一層残るんだよ」
微笑みながらスマホを撫でる。
その様子を見て、話題が元に戻った。
「そういうわけで、あんまり深い個人情報は言わなくてもいいから、名前とか特技、剣客としての特性、あと、何か言いたいことがあれば何でも言ってくれ」
塚原が視線を一周させた。大体の人が何を言うべきか思案している。
このままでは沈黙だけが続く。そう判断した塚原は自ら切り出した。
「それでは主催であるワシらから始めよう。ワシは塚原武。昔から持っていた仕込み杖が得物じゃな。数か月経ったら八十一歳になるな。剣道八段。剣客召喚のおかげで視力とスピードが上がったのう。日課のランニング中、田んぼに妙なものが現れ、様子を見ようとしたらこうなっておったわい」
一礼した塚原に暖かい拍手が送られた。その後、塚原に促されて少年が立ち上がった。
「ボクの名前はライトと申します。十歳です。よろしくお願いします」
簡素な挨拶で済ませようとしたライトに、塚原が何かを促した。
「ほれ、あの話もしてやれ。どうせ減るものでもないじゃろう?」
ライトは少し照れたように笑って、
「魔法力と適正だけで選ばれちゃったから、召喚の時には文献の剣客という文字が読めなくて、けんきゃくって言っちゃったんだ……。おかげで健脚な塚原さんが呼ばれちゃったんだよ」
周囲から笑い声が起きる。だが、それはライトを嘲るものではなく、ライトを微笑ましく思う温かい笑いであった。
塚原が左右に目を向ける。左にはまだまだ自己紹介のセリフを考えているであろう向日葵、右にはどうにでもなれという気配を滲ませる太田がいた。
塚原に肩を叩かれて太田が立ち上がる。
「せ、拙者は太田声佛でござる。まあ、最後に到着して大体のことは皆さんお察しだと思いますが、拙者《プリナイ》ファンでフェリカにゃん推し――さらに言うと声優の西城さん推しなのですが、このオタク業界的には拙者如きはまだまだオタクではござりませんので。や、漏れのモタクと化したことのNASA」
オタク特有の早口でそこまで一息で言い切り、
「能力はそうですな……拙者の武器であるペンライト――通称キンブレの色が変えられること、拙者が所謂魔法使いの条件を満たしているから、全属性の魔術が使えるようですな。夕方のライブの準備をしている時に呼ばれましたな……チケットの競争率高かったのでダメージが……ま、まあこれからよろしくお願いしますぅぅぅぅ……」
太田が声をしぼませながらしゃがみ込むと、エフが立ち上がった。
「私はエフ。昔は前線で戦ってたけど、魔術適正もあったみたいで今は召喚士よ。異世界のアニメって文化も素敵ね。よろしく。付け加えることがあるとすれば……そうね、大量に剣を持った人を呼ぼうとしたらこうなったわね」
簡潔なエフの挨拶に続いて、男木が立ち上がった。
「オレは男木優介だ。多分オレの自己紹介聞いていないのって太田くんだけだよね? 普段は、その辺の少年少女の健全な教育のために言わない方が良いようなビデオに出て生活してる。火属性の魔法も出来るけど、回復も出来るぜ。……そういや俺は特に何もしていない時に呼ばれたな。基本全裸で寝ているから、その時に呼ばれなくて助かったぜ。他のことは大体あの戦闘の時に言ったと思うから……ちょっと太田くん耳貸して」
戦場ではあれだけ大きな声で叫んでいたのに、太田にひっそり耳打ちする。その間に召喚士の男が立ち上がった。男木に負けず劣らずガッシリした体格で少し浅黒い肌をしている。
「俺はミチモリ。伝説的金属、オリハルコンのような剣客を求めていたら優介さんを召喚出来ました。ヤマト国は優介さんに世話になりっぱなしで頭が上がりません。優介さんを――いや、剣客の皆さんを全力でサポートするのでよろしくお願いします」
「もしかして男木氏の仕事……ブフォッ!」
ミチモリの挨拶が終わったと同時に、太田の吹き出す声が部屋に響いた。
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