七人はどういう集まりなんだっけ?
ここから数話ほど戦闘から離れてのんびりした雰囲気の話が続きますがご容赦ください。
魔王たちの姿が消えたことを見届けた見鶴はその場にへたり込んだ。
すぐに黒菱が駆け寄る。
「見鶴、大丈夫? さっきはありがとね」
黒菱が感謝の言葉を掛けると、他の剣客たちも次々に感謝の意を示した。
向日葵や賽子はストレートな言葉を使わなかったが、見鶴にはきちんと伝わったようだった。
やがて塚原が会話を切り出した。
「各国の代表者を呼びなさい。ワシらは協力すべきであって、ここはハイランド領である。ならばワシらが諸君らをもてなさなければならないじゃろう」
その言葉に各々が軍の中枢部に戻って行く。
アバターを消した賽子は、椅子にもたれかかりながら先ほどの戦闘を振り返って呟いた。
「俺チンカスに……俺チンカスだった……」
メアリにもその言葉の意味がなんとなく分かったが、敢えてそれに触れなかった。
最も最前線から離れた場所にいた賽子たちが集合場所に到着する頃には、残りの全員が集まっていた。かなり前線で戦っていたレイも無事だったようである。
その後、塚原の提案で剣客とその召喚士たちだけ別の場所で集まることになった。
近くにあった街の最も大きい宿屋の一室に全員がそれぞれリラックスした状態で車座に座る。
「当然と言えば当然だが、ワシらは明日の決戦の戦力の要じゃ。ありがたいことに相手が明日の正午に時間を指定してくれたおかげで、安心して向こうの世界に近い居住環境を提供できた。何日も野宿をしていた者もおるじゃろう。しっかり体を休めて欲しい」
塚原はこの部屋にいる全員の顔を見て、
「明日ワシらは明らかに協力せねば勝ち目はない。ここらでひとつ、親睦を深めておこうではないか。ただ……諸君らの中に、先に風呂に入っておきたいと言う者はおるかね?」
意見を聞く側の塚原、万年引きこもりの賽子、多少の汗は気にしない太田の三人以外が手を挙げた。召喚士は剣客たちの意見を優先する姿勢を見せている。
「では、先に風呂にしよう。風呂が終わったら食事だ。いいね?」
ぞろぞろと大浴場に向けて歩いて行く。当然のことだが、男湯と女湯に分かれていた。
「あー、昔は修学旅行とかの時に向こうに行こうとして何度も怒られたなぁ」
体に染み入る湯の温かさに浸りながら大きく息をついた男木。ここには男木、塚原、太田、賽子の四人に加えて、召喚士の青年二人と少年一人が入っている。
逆に、女湯には剣客三人と召喚士四人が入っていることになる。
その空間の中で、男木と塚原はゆったりと風呂を楽しんでいたが、賽子と太田は召喚士三人よりも肩身狭そうに隅っこに縮こまっていた。無論、二人並んで、ではなく対極の隅っこだ。
「爺さん意外と鍛えてるな……うちのビール腹の親父にも見習ってもらいたいもんだぜ」
「そう言う男木君は……何か体を使った仕事をしているみたいだ。綺麗に鍛えられておる。ライトも精進して鍛えればこのように強い大人になれるぞ」
「うん。ボク頑張るよ!」
塚原と男木の鍛えられた体を見て、ハイランドの召喚士らしき年端も行かない少年が目を輝かせていた。
残りの二人の召喚士も近くで和やかな表情を浮かべている。
早めに出てしまおうかなと動いた太田に男木が声を掛ける。
「太田くん。お腹は少し出てるけど、腕や足は意外と鍛えられてるみたいじゃないか。オレはそんなに詳しくないけど、最近のオタクってのは意外と元気だな。あんな動きを何時間も続けるんだろ? 何にせよ、一つのものに打ち込む姿勢は嫌いじゃないぜ」
「ど、どうもです。まあ、あれだけ動けていたのは召喚による体力向上のおかげでもありますが、最近のオタクは意外と痩せている人も多いですよ。オタクの敷居が低くなって色んな人が気軽に参入しているし、何せグッズ類は高いので食費を減らした結果痩せる人たちもいますね。ほら、ちょうど彼みたいに」
太田が指差した場所には腕を組んで目を閉じている賽子の姿があった。こちらは普段から全く運動をせず、食事も多くは食べないので、かなりの痩せ型である。
当の賽子は、今日の疲れからか、湯船に入って数分も経たないうちに眠気に襲われていた。
目を閉じると召喚によって強化された聴力によって自然に遠くの音声まで耳に届いた。
その音には無論、かつて男木が求めた楽園の音声も含まれていた。
「黒菱さん、スタイル良いですね……」
「まあ、体が資本なところはあるからね。大丈夫だって。体型が全てじゃないし、どんな体型にも一定の需要はあるのよ」
「ククク……我は絶賛成長期の中学校二年生だからな! 未来への期待値が違うのだよ!」
「ちょっと、高校生の私にはもう希望がないようなこと言わないでくださいよ!」
「あっ、そうだ。メアリちゃん。あの夜……」
その辺で賽子の意識が途切れかけたが、塚原によって起こされた。
「香戸君、風呂の中で寝ると体調を崩すかもしれない。早めに出た方が良い」
「ん? ああ、そうですね」
髪や体を洗い終えた賽子は早々と風呂場をあとにした。用意されていた部屋着に着替えて最初に座った場所に座りなおす。そう言えば男木のチンコ、さっきはちゃんと付いてたなー、アレ、マジで着脱式なのかなー等とどうでもいいことを考えていたら、意識が夢の世界に半分ほど浸っていた。
半分寝たような状態で座っていると、男性陣が帰って来て、その後、さらに時間を置いて見鶴と召喚士四人、向日葵、黒菱の順に帰って来た。
賽子がメアリに起こされた時には、目の前に夕食が置かれていた。
周りの人々の反応は様々だ。自分が呼ばれた国とは少し食文化が違うのだろうか。はしゃいでいる人も多く、見鶴に至ってはスマホで写真を撮っていた。
「多い……人も、飯も……」
かなり小さな声で呟かれた声はメアリだけに聞こえた。
「はいはい。残したら食べてあげますけど、出来るだけ自分で食べてくださいね。明日のエネルギーを補給しなければなりませんので」
食事中もほとんどの人たちは会話をしていたが、賽子とメアリは黙って食べていた。彼らにとっては、それが普通であった。
「ククク……我に再び贄を差し出すことを認めよう……!」
「すいませーん。この子におかわりください。もう、ほっぺたにご飯粒がついてますよ、向日葵ちゃん」
「マ、マスター! 我のことは向日葵と呼ばずにマーセナリーか黒淵虚月と呼べと何度も言っているだろ!」
「はいはい。ちゃんと私のことをアイリスと呼んでくれたらね」
賽子たちの左隣に座っていたミスルム組が和気あいあいと会話している。
右隣はシュロス組である。今までに見たことのない茶髪の女性と、先ほど賽子と同じ風呂に入っていた男の召喚士が座っていた。恐らくその姿が黒菱の本来の姿なのだろう。
黒菱はさらに右隣にいる見鶴たちリヴィア組と談笑している。リヴィアは女性の召喚士らしく、剣客女子二人に混じって話している。シュロスの男召喚士もその中に何度か声を掛けていたが、かなりスルー気味で、傍から見ていると可哀想ですらあった。
リヴィア組の隣では、男木と男の召喚士が仲良く酒を酌み交わしながら談笑していた。男同士気が合うのかもしれない。
そのヤマト組の横には太田とエフの二人がご飯を食べていた。何やらアニメの話で盛り上がっているらしい。それにしても、剣の腕っぷしが強くてタイマンでも負け無し、風魔術の適性が高く召喚魔法まで担当し、歌唱力はプロ並みで異文化の話題が中心でも対話を続けるコミュニケーション能力の高さまで有しているとか万能すぎるだろ、と賽子は心の中で毒づいた。
太田たちセルン組と向日葵たちミスルム組に挟まれているのが塚原とライトのハイランド組であった。お爺さんと少年という最も年の差が離れた二人組だが、祖父と孫のような関係で親しく話している。
つまり、あまり会話に参加できていないのは、女子多めの空間から蹴り出されそうになりながら必死にしがみつこうとしている黒菱の召喚士と、賽子・メアリのラスター組であった。
女子多めの会話に参加することを半ば諦めたシュロスの召喚士が隣のメアリに声を掛けた。
「んーと、ラスターの高名な土魔術師、メアリさんですよね? 絶対知らないと思うけど、俺の名前はタメアキ。水魔術の適正はあんまりなかったけど、召喚魔術の適正はあったみたいなんだ。こんなご時世じゃなきゃ俺も今頃はこういう場所の従業員として働いてたんだろうなぁ……とか思っちゃうよ」
タメアキがヤマト組にご飯のおかわりを運んでいる宿屋の従業員を眺めた。彼はメアリのことを知っているが、メアリはタメアキを知らない。それは、召喚魔術以外の魔術に対する適正の差を表していた。メアリはラスター軍の中でも通常の土魔術適正にも優れていたため、他国に名前が知れ渡っていたのである。
「ま、まだまだベテランの皆さんには色んなことで敵いませんよ……」
年上から羨望の眼差しを受けて、メアリは少し照れながら応対する。
そこでタメアキが話題を変え、小声で尋ねた。
「……でさ、剣客さんとあんまり話してないっぽいけど、もしかして仲悪い? 何かあった?」
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