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魔王降臨

「えぇ……マーセナリーちゃん、もうオレには同じような人種にしか見えないんだけど」


 困惑した表情を浮かべている男木おぎに、フェリカが解説を始める。


「男木さん。私は《プリナイ》の紹介をする時に、昨今のアイドル声優人気を受けて作られたって言ったでしょ? かつての声優は表にあまり出て来なかったのだけど、今は容姿にも優れた声優を起用することによって、その声優のファンを作品のファンに取り込もうとする手法が確立されているの。そして、ほとんどアイドル同然の声優メインのライブやイベントも多く行われている。だから、純粋にアニメキャラが好きな人と、アニメキャラよりもむしろ中の人を応援している人への対処は少し違うわ」


 解説を終えたフェリカの体が再び水に覆われた。そして、次に姿を現した時、彼女は、また別の女性になっていた。先ほどのフェリカがまだ成人していないような少女であったのに対し、今回の女性は明らかに成人しているように見えた。


「そして、西城さいじょうさんというのは、このフェリカを担当している声優さんの名前なのよ。どう? 似てる?」


 その姿を見た太田おおたの体が大きく震える。恐らく、この女性が先ほどの西城さんとやらなのであろう。


「こんな……こんな方法で拙者を試そうなんて甘く見られたでござるな! こんな目の前で変身されなくても、拙者は本物を見極められる! 何度イベントに通い詰めたと思っているんだ! 拙者を甘く見ても良いのは、ペットボトルの水にちょっとしたグッズをつけて千円以上の値段で売りつけるような方法で信者力を試す公式運営ぐらいですぞ! その、三倍は、クオリティを上げて出直せ!」


 太田の剣幕にシュロスの剣客が黙り込んだ。その沈黙の中でリヴィアの剣客の素朴な感想が響いた。


「すごいぼったくりだ……」


 誰もその言葉に返す言葉を持っていなかった。

 無言でシュロスの剣客が外見をフェリカのものに戻した。


「私の能力の弱点が露呈したみたいだね……あんまり接したことのない人は似せられないの。でも、こっちは専門に近いから安定のクオリティだよね?」

「むう。確かにフェリカにゃんのコスプレの方がクオリティが高いでござるな……しかし、偽物だと分かっていれば、心置きなく戦えるでござる!」


 戦闘を再開させた二人に後ろから声を掛ける。


「やっぱりクオリティが高い方がエロいねぇ。そろそろイけるぜ。ちゃんと避けろよ?」


 凄まじい速度で動く男木の右手がチャージの完了を予告していた。

 しかし、シュロスの剣客が待ったをかけた。


「今からあいつらの最大戦力が来る! だから、それを凌いでからじゃないとこちらの攻撃はほとんど通ら……」


 しかし、タイミングを決めるのは男木だ。相手の言葉の途中に無理矢理自分の意見を捻じ込む。


「これはいつまでも溜めてられない。それに、最大戦力に最大戦力をぶつけて何が悪い! 相手の攻撃でチャージを中断される方が面倒だね」

「うっ、確かにそうだね。うん、やっちゃって!」

「男木君、頼んだぞ」

「男木さん……頑張ってください」


 三人の応援に呼応して、男木の持っている剣が肥大化し、輝きを放ち始めた。それに負けじと、セルン軍のボルテージも上がっていく。


「みんなで奏でる笑顔の魔法! 今は小さな囁きだけど! いつかは大きな歌になる! 歌が愛や希望を紡ぎ! 奇跡を起こす魔法になるよ! 魔法少女はいつだって! 限られた時間に在るけれど! 仲間と共に進めるならば! 叶えて見せよう! ノアとみんなの素敵な未来!」


 男の重低音ボイスが大多数を占める中、いくつか女性の声も聞こえて来た。

 セルン軍のエフはともかく、他の声が妙なところから聞こえるな、と賽子だいすが声の主を探すと、すぐに見つかった。シュロスの剣客と向日葵ひまわりである。


「こいつらガチのファンかよ……やれ、おっさん! サクッとぶちかませ!」


 セルン軍全体の士気が高まり、全てのセルン兵が持っていた武器に光が宿る。これを放置するとどんな事が起きるか分からない。

 男木のチャージが間に合ったことは幸運であり、聖水斬を出し惜しみせずに使うべきと判断した男木の直感は正しかった。


 チャンスの女神は前髪を掴んで放すな、という話は有名であるが、この男の場合、チャンスの女神が完全に禿げていても下半身で繋ぎ止められるのではないか、と益体もない事を考えた向日葵は、迷いを吹き飛ばすために大声でエールを送った。


「ぶち込め! エフとか言う女の処女膜までぶち破って見せろ!」

「良いこと言ってくれるじゃないの……よっしゃ! 届け! オレの――聖水斬!」


 真っ白な光の束が眼前の賽子だいすをも巻き込んでセルン軍へと迫る。

 対するセルン軍は、聖水斬が地面を抉っていく轟音にも負けない声を上げながら一斉に剣を振り下ろした。


らん彩花さいか、サファイア、フェリカ、穂波ほなみそら、ディアナ、みう、舞香まいか――九人揃って、魔法少女系アイドル、ノアでーすっ!」


 男性器から迸った熱の奔流と、心の底から湧き上がったアイドルへの熱い愛情の発露が激突するという、この世のカオスを煮詰めた先にあるような光景にも終焉が訪れた。




 爆風と光が収まっていく。

 エフの歌すらも止んで、音一つしない戦場に、音もなく賽子だいすのアバターがリスポーンした。


 賽子だいすの画面に爆心地の様子が映し出される。

 煙が晴れた先には、数人の見知らぬ人影が立っていた。

 その後ろに見える太田たちセルン軍にはあまり被害が出ていないようだった。

 爆心地に突然現れた人影数名は完全に衣服が破れていて、両手を使って局部を隠していた。

 男が四人、女が一人という構成の団体は、社会的には致命傷を負っていながらも、命に別状はないようだった。かなり出血している者もいるようだが、それ以上に体力があるらしい。いや、一部の男に至っては人間と言うより、人型のモンスターと形容した方が正しい。


 剣客もその他の兵士たちも彼らに掛ける言葉を持っていなかった。

 その中心にいた比較的若い男がぼやく。


「あっ、ぼくの魔王がビッグ魔王になって手から零れ落ちちゃう……ていうか、これ何? ぼくが久しぶりに覚醒出来たから下界に行こうってなったらこれだよ? いっぱい連れて来た部下たちがみんなどこかに行っているんだけど、みんなどこに行っちゃったのかな?」


 遠い目をして語る優男に、下半身が馬のモンスターが遠慮がちに話しかけた。


「三代目様、恐らく彼らは我らの盾となってしまったのではないでしょうか」

「えぇ……惜しい戦力を失ったなぁ。でも、四天王のみんなが無事だからまだ良かったよ」


 あの人たち誰、と賽子だいすがメアリに視線で問いかける。

 メアリだけでなく、他の護衛の人たちも首を横に振ったのを見て、謎の会話を繰り広げる団体に賽子だいすが声を掛ける。


「あのさぁ、あんたたち誰? 戦争の邪魔だからどこか邪魔にならないところに避難してもらわないと巻き添え喰らって死んじゃうよ? これ、俺の最後に残された良心だから」


 賽子だいすの言葉に、ようやく彼らが周りの状況を認識する。

 そして、三代目と呼ばれていた優男が代表して挨拶を始めた。


「ぼくが千年前に魔王の位を受け継いだ三代目魔王さ。そしてここにいる四人が四天王だね。デュラくん、ミノさん、サキュちゃんにデュランダルくんだよ」


 三代目魔王の紹介を受けて、矢の刺さった頭を抱えた落ち武者風の男、二足歩行の牛頭の男、グラマラスな体型で蝙蝠のような翼の生えた女性、下半身が馬――つまりケンタウロスがそれぞれ礼儀正しく挨拶をした。


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