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拙者、厄介ではござらんので

 猛スピードで迫るセルン軍に一番近いのはヤマト軍であり、次いで賽子だいすたち三人、ミスルム軍、ラスター軍、となっている。恐らく残りの三か国まで一気にセルン軍が到達することはないだろう。

 男木おぎが土煙を上げる集団を睨みながら、


「俺には自軍を守る役目がある。だからその間にどっちか一人になるまで潰し合っていてくれや」


 と言いながら歩き始めた。その背中に賽子だいすたちが声を掛ける。


「あ? そんなこと言いながらオタク集団と同盟組まれちゃ困るからな。監視させてもらうぞ。あと、アンタも、マーなんとか……言いにくいから黒淵虚月くろぶち こげつでいい? おっさんには隠してたみたいだけど。まあ、とにかくそこの厨二病も塚原つかはらの爺さんも、よくわからんシュロスの剣客も、リヴィアのゆとり系剣客も、あのデブオタメガネも俺が倒すって言ってるだろ?」

「ククク……我がかの脳筋集団とキモオタを打ち滅ぼして、女神ミューズの如き歌声の女を手中に収めようではないか。その次の獲物が貴様らというだけのことよ」


 二人とも大言壮語にも等しいことを口走っているが、根底では男木を好敵手と認め、手助けしようとしているのだろう。

 ……ただ、新たな敵と戦いたいだけの戦闘狂である可能性や、適当に戦いながら男木に負担を擦り付けつつ休憩しようと企んでいる可能性も否定できなかったが。

 セルン軍を迎え撃つために移動を始めようとした三人に、背後から声が掛けられる。


「それ、ボクも参加していいかな? 今日の所はセルン軍を退けて、ボクらの勝負はまた後日仕切り直しってことでいいだろう? あと、《魔法少女プリティ☆ナイン》の劇場版は透明の星が流れているような感じのデザインだよ」


 三人が振り返ると、塚原たち三人が立っていた。

 無駄に細かいアニメ知識を補足したのはシュロス兵に擬態している剣客だった。


「そういうことじゃ。ワシも混ぜてくれんかね、男木優介おぎ ゆうすけ君。ワシは塚原武つかはら たけし。よろしく」

「わ、私も普通の兵士を相手にするぐらいなら……」


 塚原に続いて、リヴィアの剣客もごく普通の剣を構えて呟いた。

 その三人を見て、男木が深々と頭を下げた。


「願ってもない話だ。協力、感謝する」


 首を切り下ろされる可能性もあったというのに、それすら省みず、数秒間。

 顔を上げて、賽子だいす向日葵ひまわりの方を見る。


「お前らとあのアニメオタクを見ていたら真人間なんて誰もいないのかと思っていたが、ちゃんといるじゃねぇか」

「我は人間という枠には囚われないのだよ!」

「学校行ってないだけで酷い言われようだな!」


 想定内の回答が返ってきたことに溜め息をつき、


「自己紹介をのんびりしている暇はなさそうだ。塚原さん、俺と一緒にあのオタクの相手をお願いします」


 再び騒ぎ始めようとしたキッズ二人を手で制しながら、


「特にこっちのマーセナリーちゃんは深手を負っているみたいだからね」

「ふむ。つまりこの四人には剣客を近づけずに戦えばいいというわけですな?」

「ああ、助かる」


 そのまま最前線まで移動し、ついに戦いの時が訪れる。

 相手の剣客を二人が押さえ、普通の歩兵を他の四人が担当する。

 それでも対応しきれない相手は六か国連合軍が迎え撃つ。


「ワシは塚原武と申す者だ。君、名を名乗りなさい」

「拙者は太田声佛おおた せいぶでござる。ところで、向こうの美少女二人のお名前とか聞けませんかね?」

「駄目だ。お前の相手は塚原さんとオレ――男木優介が請け負うって話になっているんだ」

「もしかして拙者だけハブられてない? ちょっと酷くない?」


 そう言いながらも、太田は器用に両手に持った合計八本のペンライトで二人の攻撃を捌いていく。


「ふむ。明らかな劣勢と見えても怯まずに突っ込んできただけはあるな……では」

塚原が、賽子だいすでも姿を捉えるのに苦労したスピードで太田の背後から襲い掛かる。

「むっ……」


 斬りかかろうとした塚原はすぐに距離を取った。

 先ほどまで塚原がいた場所は、火属性の魔術によって燃え上がっていた。


「魔術による自動防御とは面妖な……」


 太田の近くにいたセルン軍兵士数人が、塚原の異常なスピードに気付く。


「太田さん、俺らも加勢します!」


 太田の側面、背後をガッチリと固める。勿論、互いの武器が干渉しあわない程度の距離を保っていた。


「火属性ならオレが。ヤマト軍は火属性がウリなもんで、耐性も少しはあるぜ?」


 男木と太田が撃ち合う時、太田の持っていたペンライトの中の、青いペンライトが強く光を放った。

 炎を纏った男木の剣と、水を纏った太田のペンライトがぶつかる。

 一本一本に水属性の魔術を纏っていた太田の一撃が、男木の剣を軽く弾き、手数の多さで男木を攻めるが、二対一故、塚原に止められた。


「慣れないことはするもんじゃないな……あの調子じゃ全属性の魔術が使えてもおかしくない」


 男木が剣に纏わせていた炎を消した。

 その頃、賽子だいすたちも予想外の苦戦を強いられていた。

 レイたち相手に簡単に勝てた経験から、この世界の普通の兵士など何人いても相手ではないと思っていた賽子だいすだったが、一人に剣を防御され、数人から攻撃されるという状況に陥っていた。まだ何とか回避することは出来るが、意外にも剣が速い。

 魔術に敏感な向日葵がすぐに原因に気付く。


「こいつら……あの歌によって能力が強化されている!」


 シュロスの剣客が毒づいた。


「はあ? ゲームの世界じゃないのに、どうして歌で強化されてんの?」


 その問いに答えられる者は居なかった。

 代わりに、一番奥で戦っていたリヴィアの剣客から疑問の声が発せられた。


「このアニメ、何曲あるんですか?」


 正直、曲数が少なくてもリピートすればいいだけの話なので不毛と言えば不毛な質問である。

 しかし、最初の曲から既に何曲も違う曲を聞いていたので、オープニングとエンディングの二種類とあとちょっとぐらいだろうと思っている人が疑問を抱くのも当然の流れであった。

 シュロスの剣客と向日葵が口を開くよりも早く、太田が二人と戦いながらも懇切丁寧な解説を始めた。


「《魔法少女プリティ☆ナイン》は現在百を超える楽曲があり、現在絶賛配信中の《魔法少女プリティ☆ナイン! マジカルガールフェスティバル》をプレイしていただければ八割方は聞くことが出来ますぞ。そして拙者がこの世界でエフたそに暗記していただいたのは約四十曲でござるな」

「それって四、五時間ぐらいライブ出来るじゃないか!」


 シュロスの剣客が声を震わせながら叫んだ。

 彼らはセルン軍を甘く見過ぎていた。

 剣客が召喚されてここに来るまで、全員が約四十曲の歌と演奏とオタ芸の練習に明け暮れていたなどと誰が予想できただろうか。


「おいおいクレイジーだな。つーか、クレイジーと言えば、魔法少女ってタイトルについているのに何で百曲以上もあるんだよ。おかしいだろ。音楽メインのアニメじゃなさそうなタイトルなのによぉ」


「ククク……これだからにわかは……《魔法少女プリティ☆ナイン》は元々アイドルオーディションの会場が異世界から現れた魔物に襲われ、会場にいた数多の女子高生の中から選ばれた九人の女子が魔法少女となり敵と戦いつつ、オーディションにも合格したのでアイドルユニット、ノアを結成して活動するという伝統的な魔法少女モノに現代的エッセンスを加えた革命的作品なのだ! 敵が、そこな豚のような厄介なファンを模しているのも面白いと思います!」


「拙者は厄介ではござらん! ちゃんとルールとマナーを守ってますぞ。でも、豚

呼ばわりは少し嬉しいでござるな。この業界ではご褒美ですので」


 向日葵の暴言すら悦びに変えて見せた太田に、男木と塚原が警戒を強めた。

 向日葵の言葉を受けて、シュロスの剣客が賽子とリヴィアの剣客を見ながらつぶやく。


「革命的とか言うけどね、日曜朝の魔法少女モノとはコンセプトの時点で違うから当然でしょ。昨今のアイドル声優人気を受けて、まず声優を決めてからキャラを決めたらしいよ。声優ありきの制作なんてどうなの、と思うけど……面白いからこれ以上は言わない。でも、大人の都合満載の、売れるべくして売れた作品と頭の片隅に置いて見ると少し見方が変わるんじゃない?」


「然り。故に我は、現代的エッセンスと婉曲な表現を用いたのだ! さあ、我らの懇切丁寧な解説を聞いた今こそが新規参入のチャンス!」


 アニメ視聴組がリヴィアの剣客にサムズアップする。しかし、


「え……多分、見ないかも……?」


 リヴィアの剣客にやんわりと断られ、アニメ視聴組の三人が肩を落とした。


「若者の文化は難しいのう……」

「オレにも分かんないですよ、世代が違うとここまで違うかってスピードで社会が変わってるってことだけは分かりますが」


 明らかに話題についていけていない男二人が苦笑いを浮かべつつ語り合う。

 ……男木と太田が実はほとんど同い年であるとは、誰も予想出来ていなかったが。

 二人は苦笑いを消し去ると、構えを変えた。


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