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その構え……マズいですよ!

 感想でご指摘いただいたので、今回以降、特殊な読みである「賽子」には極力毎回ルビを振るようにしました。これまで読者の皆様方にお手数おかけしまして誠に申し訳ありませんでした。これ以外にも毎回ルビが必要と感じる箇所があれば遠慮なくお申し付けください。

 ということで、今回以降もよろしくお願いいたします。。


 相手は全くの無防備であるが、向日葵ひまわりは恐怖が先行して攻撃することが出来なかった。

 男木おぎがのんびりと立ち上がりながら、串刺しにしていたアバターの死体を、焼き鳥の串から鶏肉を分ける要領で外す。

 そして、その数秒後に消え去る予定であった死体に一瞥をくれることもなく、向日葵に向けて歩き始めた。


 一歩男木が近付くごとに、一歩向日葵が後退る。

 だが、体格による歩幅の差で段々と距離が縮められていった。


 男木の間合いに向日葵が確実に入った時、男木の背後に音もなく現れたアバターが剣を振りかぶる。

 絶対に殺した、と二人は思ったが、その切っ先は男木のチンコに受け止められていた。


「なに……何故気付けた……?」


 震える声で尋ねる賽子だいすに、男木が鼻をすんすんと鳴らしながら答える。


「最後は匂いだね。オスの匂い。でも、その前からかなり予想出来たのが幸いだったね」


 二人が、わけがわからないよと言わんばかりに黙り込む。

 すると、男木は種明かしのための質問を始めた。


「オレが一番最初にした自己紹介、覚えているか?」

「? ヤマト国のオリハルコン、男木優介おぎ ゆうすけ……だっけ?」


 賽子だいすの答えは正解ではなかったようだ。惜しい惜しい、と返される。


「あ? じゃあ、あの女が何人、男が何人とかいう……戦歴ってやつの方? 細かい人数覚えてないけど」


 今度の答えは正解だったようで、男木が指を鳴らした。


「そう。女が三千七百四十二人、男が七百二十五人ってやつ。こっちに来てからの記録更新分はまだ足してないけどな。……つまりよぉ、それだけの経験があれば、ケツにチンコぶち込んで本物の人間か別の何かかぐらいの区別が付かないわけがないってことさ」


 予想の斜め上を行く、十八歳未満でなくてもまさに別次元の答えに、二人は呆然としていた。


「な、なるほど。それが貴様の剣の真骨頂か。鞘に収める時が真骨頂などと珍妙極まることを言っていたと思えば、男相手でも可能であったとはな! そして、刺されば死を免れ得ないとは恐ろしきものよ……いや、本当に生理的に無理なんで早くしまってください。お願いします」


 言葉の最後の方は完全に素に戻っていた。


「そうだぞー。セクハラで訴えるぞー」


 訴訟などほぼ不可能だと自覚しているので棒読みである。

 そんな二人を見つつ、男木は斜め後ろに飛び退いた。

 向日葵が本来の力を出し切れていないとは言え、流石に前後を挟まれた状態で戦うのは困難なのだろう。


 男木が、今まで右手一本で握っていた剣を両手で持つ。

 構えが変わったことを見て、二人とも緊張感を取り戻し、剣を構えなおした。

 左手で柄の先を握り、右手を左手と鍔の間で何度も往復させる。


「は……?」

「おい、その構え冗談だろ?」


 男木の剣に刻まれた刻印が光り、剣が次第に肥大化していく。

 だが、二人とも相手の大技と思われるものを無防備に受けようという意思は欠片もなかった。

 とにかく男木の右手の動きを止めるべく、攻撃を仕掛けていく。

 対する男木は、アバターの繰り出す剣を器用に捌き、アバターを巻き込むことさえ厭わない範囲で撃ち込まれる向日葵の闇魔術も最小限のダメージで乗り切っていた。


 男木の右手を止めることが叶わないまま、男木、賽子だいす、向日葵が一直線に並んだ。

 その機会を逃すことなく、一気に剣が振り下ろされる。

 限界まで魔力を溜め込んだ男木の剣先から、白い光の奔流が放たれた。


「滾れ! 聖水斬ッ!」


 振りかぶった動作を見た瞬間から横への回避行動を開始していた二人だが、かなり攻撃範囲が広かったため、アバターの半身が消し飛んだ。


「すっげぇ白くなってる。はっきりわかるんだね」


 男木が聖水斬の跡を見ながらポツリと呟いた。

 回避とともに魔力による防御も重ねていた向日葵も、何とか立ってはいるが、ゴスロリ服が半分ほどボロボロになっていた。


「ふぅ……」


 大技の反動か、男木が大きくため息をつく。

 その背中に振り下ろされたアバターの剣が、すんでのところで受け止められた。

 ただ、極太長大を誇っていた男木の剣は、何故か短刀ほどのサイズになっていた。

 リーチの差を生かしてアバターが攻め込む。


「いやあ、中々に厄介な能力だ。賽子だいす君とはどうやら相性が悪いらしい。……あぁ、身体の相性的な意味も含めて、ね?」

「うるせぇ、こっちもタダで便利な能力を使っていると思うな」


 事実、賽子だいすの体力は既に限界に近付いていた。

 先ほども、もう少し早くリスポーンさせていれば勝率が高まっていたはずであったが、メアリの持ってきていたクソ不味い魔力回復材に頼らざるを得ない状況となっていて、喉に流し込むまでのタイムラグが生じていた。


 そして、いくら高価で効能が素晴らしいと認められているものであっても、ここがゲームの世界では無い限り――アイテムを使えば体力や魔力が数字として短時間に、何度も、アイテムがある限り回復していく世界では無い限り、その効果には限界があった。

 飲めば飲むだけ魔力が回復するわけでなく、そもそも魔力を支えている体力の方も限界に近付いていた。


 賽子だいすの言葉の声の調子を受け取り、立ったまま男木を睨み続けている向日葵の様子も確認して、男木が頷いた。


「二対一で最初はどうなるかと思っていたが、この勝負、オレの勝ちみたいだね」


 一方的な勝利宣言に、煽り耐性が低いゲーマーニート中学生と、自尊心だけで地面に立っていた厨二病患者がキレ始める。

 自分たちが劣勢に置かれているのは直感的に理解していたが、それでも何かに抵抗せずにはいられない性分だった。


「あ? 自分から相性悪いとか言いながら何だその余裕は? その剣見る限り、おっさんも魔力切れだろ?」

「萎びた早漏ペニスに何か出来るとでも……?」


 向日葵の言葉の一部に賽子が何かを言いかけたが、男木の笑い声を聞いて動きを止めた。


「なるほど。君たちはこういう言葉を教わったことはあるかな? 人を見掛けで判断するな、という言葉を。どうも君たちはコレが魔力によって動いている剣で、オレは先ほどの一撃で魔力切れを起こしたと勘違いされているらしい……」


 そう言って、短刀サイズに変化していた剣を何度か叩きながら向日葵を凝視する。


「コイツはそんな複雑なものじゃないさ。これはオレの逸物で、目の前に服が破れかけた煽情的な美少女がいる。となれば答えは一つだろう?」


 その言葉とともに剣が肥大化し、最初に男木が構えた時と同じ形状に戻った。


「あ? つまり?」


 状況についていけていない賽子に対し、向日葵は青ざめた顔で後退った。


「その剣は、魔力ではなく……貴様の性欲で動いていると言うのか……!」

「魔力も少しは関係しているらしいけどね」


 その問答によってようやく理解が追いついたらしい。


「つまり、ガチで手に負えないレベルの変態じゃねーか!」

「まあそう言うことだ。んじゃ、サクッと終わらせますかね。あっちもほとんど決着がついている感じだし?」


 男木の視線を追うと、三人の剣客の様子が見えた。

 塚原つかはらが全く疲労を感じさせないような姿で直立しており、その前に一般シュロス兵に偽装している剣客が片膝をついていて、その肩をリヴィアのゆとり系剣客が支えている。

 どう見ても塚原の圧勝である。


「はぁ……この雑魚二人を潰してあのクソジジイも潰さにゃならんのか……面倒な仕事だ」

「ククク……この二匹の羽虫を叩き潰して再びあの翁に闇の煉獄を見せねばならぬ……それこそが闇を背負う者の宿命よ」


 自分たちの現状を全く省みない姿に、男木は呆気にとられていたが、いぶし銀の笑みを見せた。


「ん? おい、お前ら本当に自分の立場を分かってねぇんだな。……堕としがいがあるからオレは好きだけどね、そういうの」


 男木が再びチャージを始めると同時に、賽子だいすと向日葵が二手に分かれて踏み込む。

 向日葵も今回は流石に剣が穢れるなどと言っていられなくなったのだろう。

 ダブル前衛にどう対処すべきかと、男木が左右に素早く視線を動かした時、戦場に大きな鐘の音が響いた。


 二人の剣を何とか一発ずつ凌ぎ、男木が左手で制するように訴える。

 賽子だいすと向日葵は、いつでも殺せるポジションで剣を止めた。

 塚原たちも一時的に停戦状態になったのか、賽子だいすたちと同じ方向を見上げている。

 普通の兵士たちも異変に気付いて手を止め始めた。


 戦場よりも少し高くなっている場所に、その集団は居た。そう、最後の客である。


感想や評価をいただけると励みになります。次回もよろしくお願いいたします。

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