各地の召喚模様
今日は19時頃に第3話を投稿予定する予定です。よろしくお願い致します。
メアリが魔法陣を描き、ダイスがゲームをやっている時、他の場所でも剣客召喚の儀式が勧められていた。
ある場所では、慈愛に満ちた女性が唯一無二の技を持つ剣客を求め、魔法陣に手をかざす。
「……神よ、我が願いを叶え給え……」
ある場所では、剣を持った女性が異世界から剣を輸入するために多くの剣を持った剣客を求め、高らかに詠い上げる。
「……我が願いはただ勝利のみ……」
また、ある場所では、この世界の最高ランクの装備――オリハルコンと同等以上の剣を持った剣客を求める男が言葉を紡ぐ。
「……勝利の暁には我々の信仰の証を捧げましょう……」
ある国の女性召喚士は、ただひたすらに剣客を求め、跪いていた。
「……魔を絶ち、太平の世をもたらす者……」
ある国の男性召喚士は、女性を呼んでワンチャン付き合おうという下心を必死に隠しながら、声を張り上げる。
「……我らは汝に全てを託し、汝の全てを受け入れよう……」
そして、ある国ではメアリよりもさらに年若い少年が、
「……偉大なる剣……きゃく(?)よ、我らの呼び声に応え、かの地より降臨せよ!」
詠唱を噛んだものの、何事も無かったかのように最後まで詠唱を終わらせた。
異世界で剣客召喚が行われている頃、現代日本のある場所では、1人の少女が昨日見たアニメの召喚シーンに憧れて早朝からそのシーンの再現を試みていた。
「……汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に……っ!?」
しかし、何かが上手く行き過ぎている気がする。具体的に言えば、魔法陣が光っていて、風まで放っているという点だ。
邪念を振り払いながら、最後の詠唱を叫んだ直後、少女は魔法陣に呑み込まれた。
目を開け、そこが異世界であるということに気付いた瞬間、少女は騎士のように膝を立て、頑張って暗記した詠唱よりも遥かに簡単な言葉を紡いだ。
「問おう。貴女が私のマスターか」
また、ある場所では、魔法少女っぽいデザインのキャラが描かれたTシャツを着たメガネの男が、アニメのライブイベントに備えて大量のサイリウムなどを準備していた。ほどなくして、部屋に異変が起きていることを悟る。
「部屋の中に、魔法陣がある……入ってみよう」
しかし、一度足を踏み入れると、容易には出られなくなった。そのことに気付いて男は焦る。
「あっ、この魔法陣……深いッ!」
そして部屋のポスターに向かって助けを求め始めた。
「助けて、ノア! 助けて、フェリカたん! 助けて、西城たん!」
しかし、そんな叫びが誰かに通じることなど無く、魔法陣から出て来る光と風が激しさを増していき、断末魔の叫びだけを部屋に残して男を呑みこんだ。
「この魔法陣……深いから……深いッ!」
ある場所では、普通に寝ている男が目覚めるよりも早く静かに異世界へと召喚された。
全裸だったが、近くに丸めてあった服も一緒に消えて行った。
ある場所では、親を送り出した女子高生が自分の登校準備をしながら朝食を食べていた。
唐突にリビングに魔法陣が出現しても、その女子はスマホに夢中で気付くのが遅れている。
「今日の朝ご飯を≪グラム≫に上げて……っと。ん? 何だろう、アレ? お父さんの趣味なのかな……それともお母さんの趣味なのかな? 後で訊いてみよう」
いつもの癖で取りあえず魔法陣の写真を撮ったが、逆光になっていて上手く撮れなかった。
「うーん、どうしようかな……って、うわっ!」
シールか何かだと思って触ろうとしたら、いきなり魔法陣の中心に引きずり込まれた。全力で抗っているが、文化系部活所属の女子の力で抜け出せるほど甘くはない。
「どうしよう。学校に休みの電話入れた方が良いかな? 取りあえずLINEで友達に……」
メッセージを友達に送る前に、彼女は光に包まれて消えて行った。
さらに別の場所でも、部屋に現れた魔法陣の写真を撮っている女性がいた。
「これ編集でどうにか良い感じの写真にならないかな……? いや、そもそも何で抜けられないの? どうせ抜けられないならコスプレしておけばよかったのに……はぁ、嫌になっちゃうなぁ」
そう言うと、彼女は懐からおもむろにナイフを取り出し、何の躊躇もなく、
「えいっ」
さらにある場所では、お婆さんが三途の川に洗濯に行っているタイプのお爺さんが山にランニングに行っていました。お爺さんが山で早朝ランキングをしていると、自分の田んぼで何かが光っていることに気付きました。
「うちの田んぼに……なんじゃアレ? ちょっと様子を見てみるかの」
その数分後、お爺さんは誰にも見られることなく田んぼから魔法陣ごと姿を消してしまいました。
ダイスは眩しさに耐えきれず、目の前を腕で防御した。もちろん片手ではパソコンを押さえていた。
吹き荒れていた風が凪ぎ、無機質なブルーライト的な光が柔らかな光に取って代わられたことを感じ、目を開けた。それと同時に、何か二つの物体が落ちる音が鳴る。
石畳の上に落ちたものには見覚えがあった。
「これは……マウスとキーボードか。何でこんなところに」
拾い上げるために体を屈めようとした時、
「動くな!」
鋭い声が様々な方向から聞こえ、目を動かしただけでも数人の屈強な男たちが剣を構えているのが見えた。そして、一番近くに唖然とした表情のまま固まっている少女がいることも。
その少女を守るように金髪碧眼のイケメンが進み出る。
「おい、変質者。名を名乗れ」
「あ? 全然展開についていけないんだけど。変質者? 俺が?」
「うむ。下着一枚でうろつく者を変質者と呼ばずに何と呼ぶのかね」
ゲームの途中に部屋着を脱いでから制服を着る間もなくこのような状況になってしまったので服が無いのは当然であった。
「……いきなりこんな事に巻き込まれたからしょうがないだろ。で、名前だっけ? 俺は香戸賽子だ。服が無いのは着替えの途中だったからだ。で、ここどこ? あんたら誰? 俺の命より大事なパソコンは?」
「そう一度に聞かれても返答に困るな。しかし、この発言の内容に合わせて見たこともない道具を所持しているとなれば……恐らく剣客様であるのだろう。変質者扱いをしてしまった非礼をお詫びします。大変申し訳ありませんでした、賽子様」
その金髪碧眼イケメンが跪くと、他の男たちも一斉に跪いた。
「おいおい、賽子様って何だよ。自分で言うのもアレだが、パンツ一丁のやつなんて変質者以外の何物でもないぞ」
イケメンは爽やかスマイルを崩さず、
「パンツだけなら紛うこと無き変質者ですが、頭にも何か着用されているようでしたので。……ここで立ち話をするわけにはいかないのでまずは部屋にご案内しましょう」
「頭? あっ、ヘッドセットもあるのか」
今まで最も頭を地面に近づけていた少女が賽子の前に進み出る。
「ここからは私、メアリが引き継ぎます。賽子様、ではこちらに」
「とりあえずさぁ、その賽子様っての止めない? そういう呼ばれ方をされたことが無いから正直鬱陶しい。何なら変態呼ばわりでも構わん」
困惑したような表情でメアリが呼び直した。
「……で、では、賽子さん」
「うん。まあそれでもいいや。他の皆さんも様付けするなよ」
大きなゲストルームに入ると、すぐに数名の使用人らしき人物が賽子に服を着せていく。
自分で服を買った経験のない賽子にも肌触りだけで上質なものであると直感的に理解できるような代物だった。自然に笑みがこぼれる。
「何が起こっているのか欠片も理解できないが、ものすごく丁寧に扱われていることだけは分かる。パソコンが無いことだけが大変悔やまれるぜ……。待ってろ、夢のニートライフッ!」
賽子が河川敷で叫ぶようなノリで将来の抱負を叫んでいる様子を、メアリは呆然と眺めていた。やっぱりハズレを引いてしまったのだろう、という思いがメアリの脳裏に焼きついて離れなかった。
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