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投稿者:変態糞剣客

 二人の顔から冷や汗が滴り落ちる。


「き、貴様……我はてっきり不可視の剣を持っているとばかり……」

「お前……アレだぞ。社会の窓開いてるぞ。社会人ならちゃんと閉じろ。あと、俺みたいに社会に出ないタイプの人間なら猶更閉じろ」


 男木おぎの履いていた青いジーンズのチャックは全開であり、黒いパンツがチラチラと見えていた。

 そこから放たれる妙な威圧感に二人がたじろぐ。

 少し画面を覗いたメアリが顔を顰めて、


「あんな変態、手早く倒してくださいよ。多分ハッタリかましているだけですよ?」


 と囁いたが、賽子だいすの手は依然として動かない。


「ゲーム全般で規格外の動きをする人たちを変態と呼んで称賛することがある……。あの男木とかいう奴もその手合いだろう。そして、実力のある変態ほど手に負えない輩はいない……!」


 膠着状態が続く中で、男木が飄々と語り始める。


「オレの剣は特殊でね。居合いのように抜く時にも力を発揮するが……真骨頂は鞘に収める時なんだよ」


 向日葵ひまわりが頬を上気させ、奥歯を噛み締めているのとは対照的に、賽子は構えを緩めた。


「は? 鞘とか無くね?」


 斬新すぎる剣術の解説が来る前に、賽子が誰一人として鞘を持っていない現在の状況を指摘する。

 すると、男木は何かを心得たように頷いた。


「なるほど。君が童貞だということはよくわかった」


 その言葉を受けて、童貞の意味も良く知らないが、取りあえず相手を煽る時に使う言葉だという程度に了解している賽子はムッとした。


「童貞ィ? 童貞って言う方が童貞だっていつも言われているだろ? アー、ユー、アンダースタンド?」

「おい馬鹿。正解は、貴様が童貞であり、奴は童貞ではなく、そしてDo you understand? だ」


 アバターが相変わらずの無表情のまま押し黙る。

 その様子を見て、男木がやれやれと首を振った。


「そこの少年は第二次性徴を迎えていないのか……? まあいい、マーセナリーちゃんは話が分かっているみたいで嬉しいよ」

「ぐっ……が、学校の成績は良いからな。あと、馴れ馴れしく呼ぶな」

「おい、学校に行けばあいつのセリフの意味分かるのか? 学校凄すぎじゃね?」


 学校に対する誤った認識を抱いた賽子に対して向日葵と男木が不安そうな視線を向けたが、生来のニート根性で跳ね除け、


「それでも俺はあんな動物園にゃ行かねぇ! 剣客ならば相手の技を見て理解する方が速い!」


 これまでの躊躇を全く感じさせない動きでアバターが迫る。

 対する男木は、先ほどと同様にズボンのチャックの深奥――パンツに右手を突っ込んだ。

 ナニかを握り込んだ男木がニヤリと笑い、居合い切りの要領で一閃。


 かなり素早い動きだったが、単純であったため簡単に防御する。

 受け止めた際の衝撃でアバターがじわりと後退したのが画面越しにもわかった。

 男木の得物は、極太の剣だった。居合いに用いるためか、少し先端に向かって反り返っており、その剣には青紫色の魔術刻印のような装飾がなされ、持ち主の体と共鳴して時折生物のように脈打っている。


「剣と言うよりも、むしろ棒だな。鉄の塊と呼んでもいいぐらいだ……つーかこれ、どこから出て来たんだよ!」

「どこも何も、ココだが?」


 男木が自信満々にズボンのチャックの中を指差す。

 数秒経ってようやく、


「ん……? まさかこれ……お前の……」


 視線の合った男木が自身に満ちた表情で大きく頷いた。



「お前のチンコかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」



 普段は声が小さい賽子だったが、この様々な感情が入り混じった叫び声は戦場によく響いた。

 多くの者が何事かと手を止めて視線を向けた。

 ヤマト軍兵士が、ああアレね、最初は驚くよね、という感じに慣れた様子で戦闘を再開させる。

 賽子が耳を塞いでいた向日葵に声を掛ける。


「おい、学校に行けばあのネタが予想出来たのか? やっぱり学校はクソだ、ってはっきりわかるんだね」

「五月蠅い! 男子中学生と言えば、あのような下ネタを見境なく叫んでいる生き物であろう! 世間を知れ、ピュアニート童貞引き篭もり!」


 二人がまた低レベルな口喧嘩を始めたのを見て、男木が大きく咳払いをした。


「オレさぁ、一応良識のある社会人だからね、君たちの細かい事情を知りすぎると同情して殺せなくなるんだよ。だから無駄口叩かずにパパッとやって終わりにしようや」

「甘いな、おっさん! 俺は相手が誰であろうと問答無用でやれるぜ」

「ククク……我も慈悲など持たぬ……」


 男木が考えられない、と言った風に首を振る。


「いやぁ、これもアレかね。ジェネレーションギャップってやつかね? それとも不景気の影響か? 若者の人情離れっつーかドライな効率主義社会……いや、やっぱゆとり化だな」


 その言葉とともに、二対一の戦いが始まった。


「残念だったな、おっさん! 俺たちは余裕の脱ゆとり世代だぜ!」

「その通り! 教科書も絶対我の世代の方が分厚いに決まっておるわ! 死ね、円周率が三だと教えられた真のゆとり老害め! 真のゆとりは自らがゆとり世代であることに気付けぬ! またしても真理を見てしまった……!」

「あー、若く見て貰えるのはありがたいが、それより前の世代ですまないね」


 絶対にこちらの世界の人々には理解できないことで罵り合いながら、剣をぶつけ合う。

 別にチンコと撃ち合おうが魔力で構成されたアバターなので何の躊躇もない賽子が前衛を担当し、剣が穢れる事を嫌った向日葵が闇魔術によって後衛を担当する。

 時折、闇魔術が体を掠めていくが、数秒後には傷跡が消えていく。


「貴様……回復出来るのか?」

「ははっ、一番得意なのは他人を癒すことだけどね。ミミコ王女がその最たる例さ」

「ああ、不治の病と思われてたと聞いたな。本業は医者か?」


 男木が明るく笑って、向日葵の方に目を向けた。


「そんなご立派な仕事じゃないよ。マーセナリーちゃん、魔力不足と見える。オレが魔力供給してあげようか?」


 その申し出を、顔を真っ赤にしながら全力で断る。


「き、貴様の魔力供給と言えば絶対にアレだろう! 我は十八歳未満だぞ! 我に乱暴するつもりであろう? エロ同人みたいに!」


 すぐさま賽子が合いの手を入れる。


「通報しました」

「通報って誰にするんだよ……まあ、マーセナリーちゃんが今想像しているようなことをするんだけどね」


 向日葵が小さく悲鳴を上げて体を掻き抱く。

 男木が小さく、


「でも」


 と呟いて、姿勢を極端に低くした。

 そのままアバター目掛けて突進する。

 ステップで避けようとしても、男木の執念が勝っているのか、剣の間合いから抜けることが出来なかった。


 滑空するかのような姿勢から一気にスライディングして極太の剣を突き上げる。

 冷めたような表情のアバターがそのまま地面から浮き上がった。体力が全てなくなったのか、糸が切れた操り人形のように手足から力が抜けて剣が滑り落ちた。

 小柄で小食な痩せ気味引きこもり中学生と雖も、それなりの体重がある賽子の体を再現したアバターは依然として重力に逆らったまま空中に浮き上がっている。

 それを支えているのは男木の極太の剣――要するに男木の男性としてのシンボルであった。


 人体にぶち込めば即死は免れられない……いや、そもそも人体に収まるとは思えない物体が、正確に賽子のアバターの尻の穴を貫いていた。

 スライディング終わりで未だに地面に寝転んだままの男木が、股間のやや下で構えた剣の感触に浸りながら、


「この状態のモノをぶち込むと、相手が死んじゃうから、ちゃんと元のフォルムに戻すので安心してもらいたい」


 と、向日葵に全く安心できないことを語り掛けた。


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