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戦場レ●プ! 史上最強の納刀術を身につけた男!

我ながらサブタイトルがアレ過ぎる……。今回もよろしくお願いいたします。

「おい、あれはどこの輩だ?」


 賽子だいすがメアリに尋ねる。メアリが賽子の前に出現している画面を通して確認している間に別の方向から返答が返ってきた。


「我はあのような軍勢は知らぬ」


 どうやらアバターを通して発せられた言葉に向日葵ひまわりが答えたようである。


「なるほど。黒淵虚月くろぶち こげつは全知全能的な能力ではない、と。メモメモ」

「フッ、設定を広げ過ぎるとリアリティが無くなるからな……って、設定とかそんなの無いです! ……全知全能は我の管轄外ってだけのことよ」

「こっちで召喚士に聞いていたことにお前が勝手に反応しただけだ。まあ謝罪代わりに、あれはヤマト国の軍だってことを教えてやろう」

「ふむ安直過ぎるネーミングではないか……そして、あのガタイの良いおっさんがヤマト国の剣客に違いないだろうな」


 その、やたら和風な名前について、メアリから解説が入る。


「ヤマト国は、ほかの六か国に比べてかなり新しい極東の国なのです。以前、剣客様が呼ばれてから、剣客様の出身地に憧れを抱いた一族が建てた国ですね。ここ数年は王女が重病のために積極的に戦争を仕掛けていなかったので今回も最後まで遭わないと思っていたのですが……」


 最後の一か国よりも前にこの戦場に到着したわけである。

 剣客以外の一般兵たちも一時的に休戦状態になってヤマト国の出方を窺っていた。

 ハイランド軍も同様で、いつの間にか再び合流していたシュロス・リヴィア連合軍との戦闘が落ち着きつつある。


 塚原つかはらや、相対しているシュロス軍一般兵に扮したシュロスの剣客、リヴィアの剣客と思われるゆとり系少女も剣を下ろしてヤマト軍を見据えていた。

 大勢の視線が集まる先で、剣客と思しき短髪の男の後ろから小柄な女性が現れた。


 その女性が現れたと同時に、兵士たちの間からどよめきが起こる。

 賽子を含め、剣客たちは誰もその意味を理解出来ていなかったが、少なくともその動揺の声は、単に戦場に美人が現れたから、という意味では無さそうに思えた。

 動揺を隠すこともなく、メアリがその女性についての情報を賽子に伝える。


「あ、あれは間違いなくヤマト国の女王ミミコ様です! 病気を治せる医者を輩出した国と同盟を組むと公表したものの、どこの国の名医が挑んでも治せなかったほどの重病を患っていたはずなのに……あんなに元気に……」


 そのミミコは親しげに剣客と思われる男の腕に抱きついている。


「つまり、もうどことも同盟を組む気はないって意思表示のために来たのか?」

「まあ……それもあるでしょうが……」


 彼らの背後には大規模な軍隊がいる。宣伝だけならこんな事をせずに外交担当の人材を派遣すればいいだけだ。

 まだ続くと思われた沈黙を破ったのは、塚原の声であった。


「何者だ! 名を名乗れ!」


 これが賽子や向日葵ならば無駄な茶番が繰り広げられるところだったが、相手のおっさんは簡単に応じた。


「オレは、≪ヤマト国のオリハルコン≫と謳われた男木優介おぎ ゆうすけだ!」


 賽子、塚原、リヴィアのゆとり系少女は平然と聞き流していたが、シュロスの剣客と向日葵は、男木の放ったある言葉に顔を顰めた。


「ヤマト国のオリハルコンだって……?」


 両者の呟きを聞き取れた賽子だったが、声量に乏しいため、男木本人ではなく向日葵の方に声を掛ける。


「何だお前? 知ってるのか?」


 唐突に話題を振られた向日葵は顔を少し赤らめてぶんぶんと首を左右に振った。


「や、奴のことなど全く知らぬ。あと、オリハルコンはよくロールプレイングゲームに出て来る希少な金属の名前だ!」


 何故か慌てたように早口で説明した向日葵の言葉に適当に相槌を打って視線を戻す。

 男木の自己紹介は続く。


「これまでの戦歴は、女が三千七百四十二人、男が七百二十五人である! いざ尋常に勝負といこうではないか!」


 男木の言葉に、戦場が静まり返った。

 大多数の者は完全にドン引きしている。だが、この手のことに意外と疎かった賽子とリヴィアの剣客だけは首を傾げていた。


「何アイツ? 歴戦の殺し屋なの? いや、ゲーム内でのキル数だったら絶対俺の方が勝ってるけどね。しかし、そんなに女を殺すゲームなんてあるか?」


 賽子の言葉に応える声はない。

 その代わりと言うべきか、ヤマト軍の人垣が割れて、何かが軍の後方から運ばれてきた。


 それは、キングサイズのベッドであった。


 すぐさま数人の使用人らしき人がベッドメイキングを始める。

 ラスター軍も賽子のために簡素な机と椅子を運搬していたが、それにもまして異様な光景であった。

 ベッドに座った男木が色んな意味で剣客たちを誘うような視線を送る。

 その視線を受けて五人によるアイコンタクト会議が始まったが、一瞬で結論が出たようで、全員が先ほど戦っていた相手と向かい合った。

 つまり、見なかったことにしようというわけである。


「ククク……恐らく奴はあの固有結界内だけで力を発揮するタイプであろう」

「いや、あのどう見てもただのベッドにしか見えないベッドを固有結界とか言って無理矢理カッコよくしようとするのやめよう?」


 二、三撃打ち合って崩されていた調子を取り戻していく。

 たまに、あのおっさん今何しているんだろう、とチラチラ確認していたが、基本的にミミコ王女とベッドの上で仲良く談笑していた。

 ヤマト軍兵士はその光景に何の疑問も持っていないのか、口を挟むことはない。

 段々と男木の方を確認する回数が減り、目の前の戦いに集中し始めた時、男木の無駄にイケメンな声が戦場に響いた。


「あっちは爺さん相手に二対一、そしてあっちは同年代の男女の一騎打ちか……爺さんに加勢するのもやぶさかではないが、あの爺さんなら意外と何とかなりそうだからあっちの派手な髪のお嬢さんに加勢してあげよう!」


 明確に自分たちについて言及していることに気付いた賽子と向日葵が男木の方を見る。

 宣言通り、馬に跨ってこちらに向かってきている。

 それに追従して、ヤマト軍もラスター軍とミスルム軍の戦闘地帯に向かって移動を始めた。

 ヤマト軍が到着するよりも前から戦闘を続けていて疲弊している両軍が今攻撃されれば、呆気なく戦線が崩壊するであろう。

 要するに、ヤマト軍が漁夫の利を得る形となる可能性が非常に高い状況であった。

 向日葵と賽子が同時に顔を見合わせる。


「おい、貴様……」

「全部言わなくても分かってるっての。俺はあんな変なオッサンにだけ美味い思いをさせてやるほど甘くねぇ」


 そう言ってヤマト軍の方に向けて歩を進める二人。

 両軍の混戦地帯に二人が近付くと、状況を察した兵士たちが戦闘を次々に止めてゆく。

 その後、迫り来るヤマト軍に向けて陣形を整え始めた。

 その光景が一番よく見えるのはヤマト軍であった。しかし、二対一になったことを理解しても進軍スピードが緩むことは無かった。

 そして、馬から降りた男木が徒歩で二人に近付いていく。


「どういうことだい、お嬢ちゃん? オレは君の手助けをすると宣言したつもりだったが、もしかして聞こえなかったのか?」

「我に手助けなど不要!」


 キッパリと言い切った向日葵に苦笑して、賽子の方を見る。


「じゃあ君、おじさんと同盟を組まないか?」

「笑わせるな。数分前に明らかな敵対宣言をしたやつを信用するほどお人好しじゃないんだ」


 男木が困ったように肩を竦める。


「とりあえず君たちの名前を聞こうか。オレだけ名乗ったんじゃ不公平でしょ?」

香戸こうど賽子だ。以上」

「我のことはマーセナリーと呼ぶが良い」


 そんな話聞いたことないぞ、と賽子が向日葵の方を見る。


「あー、おじさん頭良くないからさ、そのマーセナリーって名前の意味とか教えてくれると助かるなぁ」

「傭兵という意味だ。この状況に相応しいだろう? もう話すことはないな」


 最低限のマナーは守った、と言わんばかりに剣を構える向日葵。続いて賽子も剣を構える。

 丸腰の男木は苦笑しながら頭を掻いた。


「あらら、キッズに嫌われちゃったねぇ」


 賽子が最後に残った良心を振り絞って男木に軽く忠告する。


「おいおい、得物は無くていいのか? 無いなら一方的にボコるまでだけど」


 男木が呆れたように溜め息をついた。


「うちの召喚士が言っていたけどね、剣客は剣を持った者が選ばれるそうだよ。だから、剣客であるオレが丸腰に見えるうちは君たちもまだまだお子様だねぇ」


 お子様扱いが禁忌に等しい厨二病患者と、同級生をチンパン呼ばわりするニートにとってその挑発は効果覿面だった。


「我を子ども扱いして生きていられると思うな!」

「死ね、おっさん!」


 二人が同時に踏み込むと、男木の右手が動く。相手の腕が予想外の方向――具体的に言うと、ズボンの方に動いたのを見て二人が足を止めた。


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