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天空のマーギアー  作者: 才原たつき
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少女と樹木と魔術師


 空中都市「ステイラ」に行く方法はいくつかある。

最も一般的な方法は「飛空艇」に乗ることだろう。飛空艇のエアポートからは大小様々な飛空艇が飛び交っている。その方法の容易さと値段の手頃さから、多くの人々がこの方法でステイラを目指す。

 その次に一般的なのは「飛竜」を用いた方法だ。飛空艇と比べれば値段も高く、また自分で飛竜を乗りこなす必要があるためやや面倒な方法でもあるが、空を駆ける感覚を求めて飛竜に乗る人々も少なくない。最近では多くの飛竜宿ができ、この方法も手頃になりつつある。

 そしてもう一つ、ステイラで一般的に行われる方法がある。

それが「移動魔術」だ。

各地に設置されたマジックポートからは、慣れてしまえばそこから一瞬で世界各地のマジックポートへ飛ぶことができる。多くの魔術師はマジックポートから訪れるのが普通だった。

 この「ステイラ」の呼び名は「空中都市」だが、その国の成り立ちから別の名で呼ばれることも多い。その名も、「魔術都市」。ここステイラは、魔術と魔術師が多く集まる都市だった。

 ステイラはその名の通り「空中都市」だ。空に浮かぶ巨大な浮島の上に街ができ、人々はそこで生活をしている。数百万にも及ぶ人口を乗せているステイラだが、その浮力の源は地中深くに眠る巨大なクリスタルだ。実際はまだまだ不明な点が多いのだが、クリスタルの研究のため魔術師と科学者が今現在も調査を続けている。

 そんなステイラは多くの魔術師ギルドや魔法堂、魔法屋も集まっている。名の知れたギルドや店はほとんどステイラに集まっていることが多く、その中でもかなりの注目を集めるギルドがステイラの西町に存在していた。

 一番人口の多い中央街からやや外れ、灰色の背の低いビルが立ち並ぶ西の町。その中に、大きく看板の掲げられた店がある。小洒落た文字で書かれているのは店名、「Noche」。一見ただの酒屋に見えるそこは、ステイラ一と名高いギルド、「カワセミ団」のアジトだった。

 やや立て付けの悪い扉につけられた、古びた金色のベル。そのベルが店内に涼やかな音を響かせる。それと同時に開いたドアに、誰ともなく言った。

 さあ今日も、新しいクエストがやってきた。













 扉を開けて、少年はその口を半分ほど開けてぽかんとしていた。擦り切れてボロボロになっている古びたジャケットとズボン。それにサイズの合わない大きなハンチング帽を被った少年は瞬きをして、もう一度目の前の光景を見た。

 意を決して扉を開けたのだ。有名な魔術師ギルド「カワセミ団」は変わり者が多く集まるギルドだと聞いていたため、幼い少年は怖くて仕方がなかった。きっとおっかない強面の大きな男がたくさんいて、扉を開けた瞬間一斉に睨まれて、魔術や呪いでカエルにされてしまうのでは、と。

 だが、そこにあった光景は想像と大きくかけ離れたものだった。店の中に並んでいるのは、よく磨かれた飴色の丸いテーブル。そこには老若男女様々な人々が座り、まだ太陽が真上に昇る昼間だというのに大きなジョッキに入った酒を飲み交わしている。中にはティーカップを片手に、細工品のように綺麗なケーキを食べている人もいた。そこには恐ろしい空気など何一つない。どこにでもある普通の酒場の風景だ。

 ベルの音に気づいた一人の男が、少年の元に歩み寄った。黒っぽいスーツを着ているが、光の角度でブラウンに見える。左目にはモノクルが光っており、その奥の瞳は優しげな色が浮かんでいた。男は少年の目線に合わせるように屈むと、少年の瞳を覗き込む。そして、

「どうかしましたか?」

と見た目通りの優しい声で言った。

「あの、その」

 戸惑ったように少年は視線を彷徨わせる。緊張の糸が完全に切れてしまった。頭の中でしっかりと組み立てていたシミュレーションが音を立てて崩れ落ちる。言うはずだったセリフを口の中で転がしながら、少年は男から一歩下がった。

「依頼ですか?」

 優しい笑みで聞かれ、少年はこくこくと首振り人形のように数度頷いた。目深に被ったハンチング帽が揺れる。男は「わかりました」と言うと立ち上がり、そっとその手を少年に差し伸べた。

「こちらへどうぞ」

 数度瞬きをして、少年は恐る恐るその手を取る。男は歩幅を合わせるようにゆっくりと歩いて、店内のカウンターへと少年を誘導した。

「依頼だそうです」

 そう言って、男はカウンターにいる別の男に笑いかける。その男も手を引いてくれた男と同じくらいの優男だった。カウンターの男はにっこりと笑うと、よく磨かれた透明なコップをカウンターに置く。コップを通した透明な光が、カウンターに落ちた。

 男は一度カウンターの奥に消えると、その手に小さな瓶を持って戻ってきた。ウイスキーにでも入れるような、大きく砕かれた氷をコップに落とす。そこに鮮やかなオレンジ色の液体を注ぐと、少年の目の前にそっと滑らせた。

 手を引いてくれた男が椅子を引いて、座るように促す。カウンターの男はにっこりと少年に笑いかけた。

「お話を伺いましょう」

 その言葉に、少年ははっとしたように男を見る。自分の頭がようやく出る程のカウンターに駆け寄ると、その端に手をかけ、足の爪先で立ち上がって男を見た。

「あの、頼みがあるんです!」

 少年は、真っ直ぐにカウンターの男を見て言う。

「お父さんを、助けてほしいんですっ」

 カウンターの男は、その瞳をどこかで見たことがあるような気がした。



 ステイラから森を超えて南下すれば、スピーリョの町がある。トマトが名産の南の町は、魔術よりは農業が盛んだ。そこに、少年とその両親は住んでいた。

 近くの小さな学校で教師をする父親と、酒場で歌手をしている優しい母親との幸せな日々。それが音を立てて崩れ落ちたのは、今からほんの数日前のことだった。

 ギルドといってもその規模や性質は様々だ。カワセミ団のように便利屋のようなことをしているギルドもあれば、集団で小さな町を荒らし回り、破壊と殺戮の限りを尽くす者たちもいる。その日スピーリョを襲ったのは、後者だった。

ギルド・「ワーウルフ」と呼ばれる者たちは、一晩で美しい石畳の町を炎に沈め灰にしてしまった。闇に沈んだ世界の中、赤く燃え盛る炎が見える。飛び交うのは悲鳴と怒号、そして下卑た笑い声だった。

 母親に手を引かれ少年は町の外へと繋がる道を走る。その行く手を遮ったのは、血で真っ赤に染まった剣を持つ大柄の男だった。

 剣が振り下ろされる瞬間を少年は鮮明に覚えている。赤い闇の中、銀色の光が一瞬目の前に瞬いた。周りを埋め尽くす闇の赤よりもなお濃い、紅色の靄が飛び散っていく。

 少年の枝切れみたいな腕を、男の大きな手が掴む。痛いほどの力で引かれて、銀色の刃を振り上げて。

 その瞬間に少年と男の間に割って入ったのは、少年がよく知っている人だった。金属と金属のぶつかり合う鋭い音が響く。腕を掴む手を叩き折り男から少年を引き剥がすその人は、少年の父親だった。

 闇の中、迸る銀色の光。鋭い音。笑い声と、怒鳴り声。その全てが少年の頭の中で溶け混ざり、交差する。

 永遠にも近い一秒間の中、少年は黒い闇色の光を見た。それが魔術だと理解するまで、少し時間を要した。その光を父親が受けた瞬間、父親の腕から緑色の芽が顔を出したのだ。

 呪術の類だと、幼い少年にもすぐわかった。父親の体が、瞬く間に変化していく。父親が、木になってしまう。

『ステイラへ行け!』

 父親が叫ぶ。急速に木へと変化していく父親を、少年は涙の浮かぶ瞳で見ていた。

『ステイラの、カワセミ団へ行け! きっと助けてくれるから!』


『逃げろ! 走れ!』


 その言葉に、少年は弾かれたように走り出した。転びそうになりながら、足をもつれさせながら、少年はただひたすらに地を駆けた。

 泣きたかった。それ以上に怖かった。でもそれ以上に悲しかった。

 誰か、自分ではなくて。

 父親を助けて欲しかった。



 溶けた氷が、オレンジジュースを薄めていく。汗をかいたグラスの透明な水滴が、コースターの上にぽたりと落ちた。

 足がつかないほど高い椅子に座った少年は、膝の上でぎゅっと両手を強く握る。指先が血の気を失い、白くなるほど握ったその手は、痛ましいほどに小さかった。

「……助けて、欲しいんです」

 耳に痛いほどの静寂の中、幼い声が響く。しっかりとした輪郭を描くその声は、かすかに震えていた。

「お父さんはまだ、死んでないですよね? きっと、助かりますよね? だからっ」

 泣きそうな瞳で、カウンター越しの男に言う。必死に涙を溢れさせまいとさせている少年は、ぐっと奥歯を噛んでうつむいた。

「……ユグドラシルの呪術だな」

 呟くような声が聞こえた。はっとして声の聞こえた方向を見る。そこには、黒いコートを羽織った男がいた。その容姿に、少年は思わず息を飲む。冴えた月のような銀色の髪が縁取る顔立ちは整っていて、白い肌に夜明け前の空のようなコバルトブルーの双眸が映えている。男はカウンターに歩み寄ると、カウンターに腰を預けて立った。

「対象者を木に変える呪術だ。少々厄介だが、解けないこともない」

「それじゃっ」

 少年が期待のこもる声で言う。その声に答えたのは、また別の男だった。

「大丈夫、安心して。君のお父さんは、きっと助けるから」

 そっと、頭に手を置かれる。その優しい手つきに視線を上げれば、やや癖の強い星屑のような銀色の髪が目に入った。

「俺はフレット。フレット・ヒューズ。カワセミ団のリーダー代理だ」

 優しく笑って、男……フレットは言う。そして、くるりと少年の後ろを振り返った。何気なくその視線を追って、少年はようやく気づいた。

 あれだけ騒がしくしていた面々が、静かにこちらを見ていた。話をするのに夢中で気づかなかったのだ、周りが妙に静かになっていることに。

「……やろう、みんな」

 フレットが言う。その言葉に、黒いコートの男がカウンターから腰を離し立ち上がった。椅子に座っていた面々も一斉に立ち上がる。そして、フレットを見た。

 フレットは少年を見る。そして、にっこりと笑った。

「その依頼、引き受けた」

 その言葉を皮切りに、一斉に人々が動き出す。動きながら、人々は少年に声をかけ続けていた。

「任せとけ」「よく無事だったな」「あとは俺たちに任せろ」「もう大丈夫だよ」「頑張ったな」

「お前の父親は必ず助ける」

 ハンチング帽の上から、コートの男が少年の頭を撫でる。感情を欠いた表情が少年を見下ろすも、その表情にはたしかに、優しさが浮かんでいた。

「だから、もう我慢しなくていい」

 優しい声だった。その瞬間、少年の双眸からガラス玉のような涙がこぼれ出す。

 その嗚咽は、再び動き出した人々の雑踏に隠れ、聞こえなかった。




































「ワーウルフは未だスピーリョにとどまっているみたいだね」

 癖のある黒髪の男……カイルが言う。カイルは広げられた地図を見下ろすと、どこか難しそうな顔をした。

「となると、やはりギルド一つを相手にすると考えた方がいいな」

「そうだね。……まあ、政府から許可は出たんだろ?」

 フレットの言葉に、カイルが言う。投げかけられた問いに答えたのはフレットではなく、その後ろにいた金髪金目の男、ラークだった。

「軍からの協力要請はもう出ていたからな。ハミルトンがすでに依頼を持ち込み済みだった。……好きに暴れて良いそうだ」

 穏やかな口調の裏に、冷たい刃のようなものが隠れている。そのことに気づいているのはそばにいたフレットと、付き合いの長いコートの男――ジェイクくらいだろう。

「なら、『スマラクト』を出した方がいいかな」

 カウンターの男、リカードが言う。その言葉にフレットが頷いて「お願いします」と返した。リカードも頷きを返す。

「……策は決まったか」

 壁に背を預けて立っていたジェイクが、フレットの背中に声をかける。フレットは「ああ」と返すと、ジェイクを手招きして地図の近くに呼んだ。

「まず、スマラクトで俺たちはスピーリョに向かう。その途中の森で、ジェイクとディールは降りてくれ」

 地図の一部分、森を指差しながらフレットは言う。ジェイクが疑問を投げかける前に、フレットはそばにいた少年――名はエレンというらしい――に声をかけた。

「たしか、お父さんが木にされたのはここでいいんだよね?」

 町の北端、森に限りなく近い場所を指差して、フレットは言う。エレンは頷くと、「そこです」としっかりした口調で言った。

「なるほど、みなさんが暴れている隙に、僕とジェイクさんはエレンくんのお父さんにかけられた呪術を解いて助け出すと。そういう作戦ですね」

 ブラウンのスーツの男――ディールの言葉に、フレットは「その通りだ」と頷く。ジェイクは地図に視線を落としながら、「シンプルだな」と小さく呟くように言った。

「複雑な作戦よりはわかりやすくていい。決められた行動は少ない方が動きやすいだろ?」

 フレットが言う。ジェイクは「そうだな」と頷くと、フレットの隣にいるエレンに視線を移した。

「そいつはどうするんだ」

 フレットはジェイクの視線を追ってから、「エレンくんか」と確認するように言う。ジェイクが頷いたのを見てから、フレットはエレンを見て。

「……どうしたい?」

 問う。エレンはフレットを見上げたあと、少し迷いながらも、言った。

「……連れてってください」

 ジェイクがエレンを見る。エレンはそのコバルトブルーの瞳をしっかりと見つめた。

「邪魔にならないようにします。だから」

 言葉を続ける前に、ジェイクが再びハンチング帽の上からぐりぐりと頭を撫でた。思わず身を竦めるエレンを、感情の見えない瞳が見つめた。

「……決まったなら行こう。時間が経てば解きにくくなる」

 エレンの頭から手を離して、ジェイクは言う。くるりと踵を返すと、振り返らずに、

「お前も準備をしておけ。……来るんだろう?」

 はっと、エレンは顔をあげる。そして力強く頷いた。

「はい!」

 黒いコートが去っていく。散っていく面々を見ながら、エレンはぎゅっと胸のあたりを強く掴んだ。

 待ってて、お父さん。今行くから。きっと助けるから。

 少年のポケットの中で、何かが淡く光り輝いた。





 飛空艇「スマラクト」は中型の飛空挺だ。その機体は青空のような青。だがまばゆい太陽の光の前では、それは美しい翠色へと姿を変える。故に、その飛空艇には宝石の名がついていた。

 スピーリョには飛空艇で一時間ほどかかる。その時間を、エレンはもどかしそうに過ごしていた。座っては立ち上がり、立ち上がっては座り、椅子の周りをうろうろと歩いてはまた座る。その繰り返しだ。

「少し落ち着いたらどうだ」

 立ち上がったエレンに声がかけられる。はっとして後ろを見ると、ジェイクがエレンを見つめていた。

「ばたばたしても、着く時間が早くなるわけでもない。少し落ち着いてろ」

 言われて、エレンは素直に座る。それでもまだ落ち着いていないことに、ジェイクは気づいていた。ため息をついて、その右手に持っていたものをエレンに差し出す。甘い香りのするそれは、マグカップに入ったココアだった。

「飲んで落ち着け。……あと30分ほどで着く」

 ジェイクを見上げて、そのまま視線をココアに移す。甘く湯気を立てるココアを見ると、エレンはそっとマグカップに口をつけた。

 椅子を引く音に顔を上げれば、ジェイクが近くの椅子に腰掛けたのが目に入った。そのままポケットに入っていた文庫本を読み出す。布製のブックカバーで包まれた本は、タイトルがわからない。顔をずらして中を覗こうとすると、ジェイクと視線がぶつかった。

「……これか?」

 本を軽く振って、ジェイクは言う。エレンは頷くと、マグカップをテーブルに置いた。

「何を読んでるのかなって……あっ」

 言いかけて、エレンは口を閉ざす。ジェイクを見ると、慌てた様子で再び口を開いた。

「ごめんなさい、読書の邪魔をしちゃって」

「いや、いい」

 間髪を開けずに、ジェイクは言う。栞を挟んで本を閉じると、ジェイクはそっとブックカバーを本から外して表紙を見せた。

 本のタイトルは、「ニール・ポピットの冒険記」 エレンの口が「あ」の形に開かれた。

「知ってるのか?」

 ジェイクの言葉に、エレンが頷く。エレンはその瞳を輝かせたままジェイクを見た。

「これ、妖精の」

「ああ。手記だ」

 そう言って、ジェイクはカバーを完全に本から外す。古びて赤茶けた本のページに、エレンは目を奪われていた。

 妖精が書いた書物は、数十年前の思想弾圧により多くが焼かれてしまった。そのため圧倒的に数が少なく、どんな古本屋を覗いても滅多にお目にかかれない。

 中でもこの「ニール・ポピットの冒険記」は人気が高く、レア物として名が高かった。読書家ならば喉から手が出るほど欲しがる一冊だ。

「読んでみたいなって思ってたんです。お母さんが大好きだって」

 テーブルに置かれた本を、そっと手に取る。古い本特有の、甘い香りが漂った。擦り切れてボロボロになったその本は、随分大切にされていることがわかる。ボロボロでも、どこも破れたりしていない。

「……読むか」

 その言葉に、思わずエレンはジェイクを見上げる。ジェイクは本の端から出る栞をそっと引き抜くと、エレンを見た。

「それでも読んで、落ち着いていろ」

 その言葉に、「いいんですか?」と確認を取る言葉すら言えなくなる。少しだけ古びた本を見下ろすと、エレンはジェイクを見上げて言った。

「ありがとう、ございます」

 ジェイクは目線をそらすと、「別にいい」と素っ気無く言う。エレンは破いたりしないようそっとページをめくると、整然と並べられた言葉を目で追った。

 母親がずっと好きだと言っていたのだ。一度だけ読んだことがある、とてもおもしろかったと。

 本の内容は、いつか自分が読んだとき面白いようにと言わなかった。いつか読んだら、一緒にお話しようねと。その本を今、読んでいる。

 ぽたりと、本のページに水滴が落ちた。いけない、本が汚れてしまう。だが水滴は次々と落ち、ページに染みを作っていく。

 静かな嗚咽を、ジェイクはただ隣で聞いていた。






 決行は夜になった。月明かりを

雲が隠す。果てしなく黒い闇の中、青い鳥は雲を切って進んでいた。

「ここから、降りるんですか?」

 遥か真下にある森を見て、エレンが言う。その言葉に、ジェイクがさも当然の如く「ああ、そうだ」と頷いた。エレンの表情が目に見えてわかるほど不安げになる。その様子に、ディールが苦笑した。

「飛び降りるわけじゃありませんよ。魔術を使って降りるんです。エレンくんは僕が一緒に支えるので、しっかり掴まって落ちないようにしてくださいね」

 言って、ディールはエレンの手を取る。ジェイクは黒いコートの裾を翻すと、迷いなく飛空艇から飛び降りた。

 一瞬、息を飲む。だが容赦なくディールは言った。

「行きますよ」

「えっ」

 心の準備をする間もなく、体が宙に投げ出される。一瞬、突風が体を包むのを感じた。重力により体が地面へと引き付けられる。だが次の瞬間、その重力に逆らうように、自分の体は宙に浮いていた。

「このまま下に降ります。ゆっくり降りるので、安心してくださいね」

 安心しろと、言われても。

 エレンは視線を下に下げた。真っ暗闇の中でも相当高い場所だとわかる。いくら体が浮いているからといって、怖くないわけではない。

 ぎゅっと、ディールにしがみつく。ディールはその体を優しく抱き――――少しだけ、違和感を感じたような気がした。

 暖かく柔らかい体を、優しく抱く。何か、どこか違う気がする。だがその違いがわからないまま、地面がすぐそこまで近づいていた。

「そろそろ地面なので、離しますね」

 そっと、ディールはエレンの体を離す。覆い茂る木々の合間を抜け、空よりもなお濃い闇の中に足をつけた。

 虫の鳴く声が聞こえる。低いこの鳴き声は、フクロウだろうか。夜の森というのは想像よりもはるかに恐ろしく、不気味だ。思わず握ったままだったディールの手を、さらに強く握り締める。ディールはそっと微笑むと、安心させるよう落ち着いた口調で言った。

「大丈夫ですよ」

 その言葉に、エレンはゆっくりと頷く。「行くぞ」というジェイクの短い言葉に、二人はやや遅いスピードで歩き出した。



 町の広場の上空に、青い鳥が見える。鳥が羽ばたく轟音に、町にいる人々……ワーウルフの面々がぞろぞろとやってきて、一斉に上を見上げていた。

「だいぶ集まってきてるね」

 上空から見下ろし、カイルは言った。ざわざわと、ざわめきが上空まで聞こえてきた。

「そろそろいいだろうな」

 ラークも下を見下ろしながら、言う。フレットは頷くと、躊躇いなくその体を宙に投げ出した。他の面々もそれに続く。ぐんぐんと近づいてくる地面。その地面が足に着く直前に、ふわりとフレットの体が浮き衝撃を吸収した。ラークの魔術だ。

 戸惑った瞳がいくつもフレットを見ている。フレットはその瞳を睨みつけると、大振りの剣――カトラスを抜いた。

「……ギルド、ワーウルフだな」

 低い声。その声に、誰も答える者はいない。だが、それでもフレットは続けた。

「俺たちはカワセミ団。依頼により、お前たちを」


「潰させてもらう」


 強い決意と感情のこもった瞳。

 その瞳が一瞬深い青に見えたのは、気のせいだろうか。











 森を抜けるまでそう時間は要さなかった。ほんの数十分のあと、すぐに森は開けた。

 民家が立ち並ぶ、ごく普通の町。だがその家のほとんどは焼け焦げ真っ黒になっている。よく見知ったはずの町の無残な姿に、エレンは奥歯を噛んだ。

「ここからどう行けばいいか、わかるか」

 ジェイクの問いに、エレンは頷く。そっと足を踏み出すと、「こっちです」とディールの手を引いて歩き出した。ジェイクもそのあとに続く。

 静かな町に、三人の足音だけが響く。いくつめかの角を曲がったとき、それは目に入った。

 平屋の建物の屋根に届かないほど小さな、若木のような木。道の真ん中に生えているそれに、エレンは見覚えがあった。

「お父さん……っ」

 思わず、呟く。その呟きに、ジェイクの表情が険しくなった。

「……術式に入る。ディールは見張ってろ」

 ディールは頷くと、エレンの肩に手を置く。ジェイクはその様子を見てから、腰の金具に固定された魔術書を取り、開いた。

 …………遠くの方で、騒音が響き始める。どうやら戦闘が始まったようだ。遠くで響く、怒号。それに慄いたように一歩下がれば、ディールの優しい手がその肩を叩いた。上を見上げる。モノクルの奥から、優しい瞳がこちらを見ていた。

 耳に、低いテノールの詠唱が聞こえた。朗々としたその声は、古い世界の言葉を紡ぐ。

 魔術の詠唱は、人間の言葉で唱えたのでは長々しくなってしまう。そのため、魔術詠唱は古代語であるレグノス語で行うのが普通だった。それでも、呪術解除の詠唱ともなれば長くなる。

 歌うように言葉を唱えるその声を、エレンはただ黙って聞く。とめどなく流れる詠唱。その声に、何かが重なったのを、エレンは確かに聞いた。

「ったく、なんだってんだ」

「カワセミ団つったら、ギルドん中でも有力なアレだろ!? なんだってこんなとこに!」

 下卑た声が、次第に近づいてくる。はっと顔をそちらに向ければ、大柄な男二人がこちらに向かって小走りで駆けてくるのが見えた。

 ディールと顔を合わせる。ディールは一瞬笑みを消した顔でエレンを見ると、安心させるように笑った。

 男たちが、自分たちに気づく。その瞬間、ディールは腰に吊るしていたレイピアを抜いた。エレンの肩から手を引いて、そっと手で制す。下がっていてください。その手は、たしかにそう言っていた。

「こんばんは、こちらはカワセミ団です」

 にこやかな声で、ディールは言う。その言葉の奥に含まれた色には、鋭い刃が隠されていた。

「誠に申し訳ありませんが、邪魔をしないようお願いします」

 低い怒鳴り声を放つ男たち。エレンはその男に、見覚えがあった。

 大柄な男、汚れた服、右手に持った大きな刃。下卑た笑い、声、醜い笑顔。

 振り上げられた剣、銀色の閃光。上がった飛沫の色は淀んだ紅色で。

 思わずディールの服の裾を掴んだ。何かを訴え掛けるように、エレンはディールを見上げる。その訴えを汲み取る前に、男たちが声を上げた。

「おい、あのガキ……」

「ああ、あんとき取り逃したガキじゃねえか!」

 言葉に、ディールの双眸が急激に鋭くなった。エレンの頭を撫でる手の優しさをそのままに、ディールを取り巻く空気が一気に鋭く冷たくなっていく。思わず掴んだ裾を離すと、ディールは足早に二人に近づいた。

「……あなた方が、これを?」

  視線だけで、木にされたエレンの父親を示す。男たちは顔を見合わせると、もう一度ディールを見た。――――下卑た醜い笑顔で。

「ああ、そうさ。あんまり煩いんでよ、木にしてやったのさ」

「殺すよりも木にしちまう方が楽しいんだよな。家族や仲間が木にすがってよ、燃やすと脅すと必死に首を振るんだ。バカだよなあ、ただの木なのによお」

 二つの殺気を、エレンは感じた。男たちはそれに気づかずに、醜い笑い声を上げている。この人たちは気付いていないんだ。そうエレンは思った。この人たちは優しい人たちを、本気で怒らせてしまった――――。

 ディールはもう一本、レイピアを抜いた。二本のレイピアをクロスさせ擦りあげる。その瞬間、闇の中に赤い炎が上がった。

「……成程。あなた方が、この子から両親を奪ったと」

 穏やかな声。だがその声には、明らかな怒りの色が含まれていた。炎を上げるレイピアを構えながら、ディールはその鋭い目つきで言った。

「ご覚悟を、お二方」

 炎がさらに高く燃え上がった。ディールは地を蹴ると、二人に向かって直進する。そして、炎が弧を描き二人を襲った。

 ディールの持つレイピア、「ドゥーエ・フィアンマ」は、魔力を与えれば炎を上げる魔石「炎石」でできている。そのため、少しの火花でもこの刃の前では炎となり襲い来る。

 炎を上げる二本のレイピアが、男たちを襲う。二対一だというのに、その戦力差を感じさせないほど、ディールの動きは軽やかで素早い。細い刃の切っ先が、男の頬を裂いた。

「ちっくしょう、こっちは二人いんだぞ!?」

「わかってる! くっそ!!」

 ディールから離れ、男たちは顔を見合わせる。そしてもう一度前を見たとき、男の一方が、気づいてしまった。

「おい……」

「ああ……わかった」

 男たちの表情に、再び笑みが戻る。一人の男は剣を振り上げると、もう一度ディールに斬りかかった。

 軽々とそれを避け、斬りかかる。だがディールは、はっとして周囲を見る。もう一人が、いない――――。

「こっちを見やがれ!」

 背後から、声を上げる。はっとして背後を見ると、そこには。

「このガキがどうなってもいいのか!」

 太い無骨な腕に、エレンがひと抱えにされている。首を抱えられ、苦しそうに腕を掴んで藻掻いていた。

「はな、してっ離してよっ」

「うるせえガキ! じっとしてろ!」

 剣の柄で、男はエレンの頭を殴る。鈍い音が響き、目深にかぶっていたハンチング帽が、落ちた。

「おい、こりゃ……」

 もうひとりの男が、どこか笑みの含まれた声で言う。エレンを抱えた男も、「ああ」と口元に笑みを浮かべた。

 ハンチング帽が、地面に落ちる。帽子に隠されていた栗色の髪が、ふわりと肩口に落ちた。その髪はやや乱れているが、三つ編みに結われている。怯えた瞳が、ディールを見た。その色は、綺麗なキャラメル色――――。

「こりゃチビだが……女だ!」

 焦げた臭いと、未だ色濃い血の臭いが混ざる風が、エレンと名乗った少女の髪を揺らした。

「おいガキ、てめえ女だったのか?」

「たしかこいつ、魔女の子供じゃねえのか? おい、高く売れるじゃねえかよ」

 ディールに圧されていたことも忘れたかのように、男たちは掘り出し物を見つけたと嬉しそうに笑い声を上げる。離すまいと、男は少女の首をぐっと強く押さえた。

「おい! 誰も動くんじゃねえぞ! そこの男!」

 男は木の近くで詠唱を続けていたジェイクを指差して言う。少女の頬に剣を近づけると、男は笑った。

「こいつがどうなってもいいのか? 詠唱をやめろ!」

 小さく舌打ちし、ジェイクは本を閉じる。苦々しげな表情で、ディールはそれを瞳に映した。

 男たちがじりじりと下がって、姿を消そうとしている。少女は必死に身を乗り出すと、叫んだ。

「お父さんを!」

 少女らしい、高く澄んだ声。そのキャラメル色の瞳には、恐怖の色がたしかに浮かんでいた。

「お父さんを助けてください! あたしは、あたしはどうなってもいいから!!」

 悲痛な叫びが、鼓膜を打つ。自分の心は恐怖で押しつぶされそうなのに、それでも父親を案じる。自分の身に降りかかる恐怖よりも、父親を、家族を失ってしまう恐怖。

 お父さんを、助けて――――。

「……ダメです」

 ディールが、諭すような声で言う。少女の瞳に一瞬、絶望の色が差す。だが次の瞬間、ディールが発した言葉は。

「諦めてはダメです。僕たちは助けます、お父さんも、そして」


「君も、必ず」


 ジェイクの足元が光り始めた。地面にくっきりと現れたのは、魔術陣。

「なっ……」

 男が声を上げる。何が起こったのかわからない、こいつは詠唱をやめていたはずだ。その疑問に答えるようにジェイクは言った。

「魔術演算くらい知っているはずだろう? それとも、学校で習わなかったか?」

 魔術にはいくつかの方法がある。一つは最も一般的な方法、魔術詠唱だ。だがもう一つ、やや高度だが慣れれば詠唱するよりも圧倒的なスピードで魔術を発動できる方法がある。それが魔術演算。魔力の値や魔術式を組立て、計算していく方法だ。詠唱をやめた瞬間、ジェイクは咄嗟に魔術演算に切り替えていたのだ。

「くっ、くそ!」

「ガキがどうなっても知らねえぞ!」

 負け惜しみのように声を上げる。だがその声に、何かが重なった。

 夜を引き裂くような、声。高く高く響くそれは、遠吠え。

 次の瞬間、僅かにできたジェイクの影から漆黒の犬が飛び出していた。痩せた、だが大きな犬は、男たちに牙を向け襲いかかる。悲鳴を上げ、思わず男は少女から手を離した。

 その瞬間、光り輝いていた魔法陣がさらに強く光を発し始めた。木が、闇の中で鮮やかに光り輝いている。その光は徐々に強くなり、闇を昼間のように明るく照らし始める。そして。

 鋭い金属音を聞いた。

 光が収まり、再び世界に闇が戻る。地面に尻餅をついた少女の前に、誰かが立っていた。

 大きくて広い背中。それは、ずっと少女が見ていたものだった。少し白髪の混じった髪も、目に馴染んだもので。

「悪い、エレナ。……辛かったな」

 右手に持った刀で、その影は男を制す。雲の切れ間から覗いた月が、青い光でその影を照らした。

 深海のウルトラマリンが、男を睨みつけている。白刃が月の光を受け、きらりと光った。

「お父さん……っ」

 思わず、少女は呼ぶ。その姿は、よく見知った姿。自分の――――父親。

「元カワセミ団団員、ロイド・K・ストックリーだな」

 本を閉じながら、ジェイクは言う。腰の金具に本を戻し、ジェイクは代わりに銀色に光る拳銃を手に取った。

「政府軍から許可は出ている。……好きに暴れていい、生死は問わないそうだ」

 男……ロイドはジェイクを一瞬見ると、小さく頷く。そして、思いっきり男を蹴り飛ばした。

「立て」

 醜く尻餅をつく男を、憎悪の混じった瞳で睨めつける。白刃の切っ先を、男に向けた。

「俺の妻を殺し、娘に手をかけた罪……償ってもらう」

 低い声で、ロイドは言う。

 銀色の光が、空に飛び散った。













「本当にご協力ありがとうございました」

 東の空が、赤色に輝いている。昇りかけた太陽を背に、その男は言った。

「本当に助かりました。なんせ、こちらも随分対処に困っていたもので」

 黒髪が揺れる。身にまとうのは、ダークグレーの軍服、政府軍の軍服だ。男は黒縁眼鏡を中指の腹でくっと上げた。

 政府軍の飛空艇に、ぞろぞろと男たちが連行されていく。その中には――――少女、エレナとその母親を襲った男の姿があった。

「いいのか、これで」

 連行される様を見つめていたロイドに、ジェイクはぽつりと言った。瑠璃色の瞳が、揺れる。ジェイクはその視線の先を追いながら、つい先程の出来事を思い出していた。





 銀色の刃は、男のすぐ隣の地面に突き刺さっただけだった。恐怖に失神した男が、ぐたりと倒れる。ロイドは奥歯を噛むと、刃を地面から引き抜いた。

「……子供の前で、人殺すわけにはいかねえよ」

 低い声。ロイドは刀を鞘に戻すと、ジェイクを振り返った。

「……エレナを助けてくれて、感謝する。お前は……」

「カワセミ団だ」

 淡々と、ジェイクは言う。驚いたように目を見開いたロイドに、ジェイクは続けた。

「お前が出て行ったあとに入ったから、わからないだろうがな。……政府軍の依頼とお前の娘の依頼により、ここに来た。内容はワーウルフの殲滅。そして、お前にかけられた呪術を解き、お前を助けることだ」

 ジェイクは放心しているもう一人の男に歩み寄ると、短く詠唱する。ふらりと男は倒れると、意識を失った。眠りの魔術だ。

「殺さないなら、こいつらは政府軍に引き渡す。それでいいか」

 ジェイクの声を、真っ直ぐにロイドは受け止める。

 そして、たしかに頷いた。







「いいんだ、これで」

 空に飛び立つ政府軍の飛空挺を見ながら、ロイドは言う。そしてジェイクを見て、へにゃりと笑った。

「どんなに憎くても、殺したくても……俺はあいつの、親だから」

 その視線の先には、エレナの姿があった。疲れ果ててしまったのか、ベンチに座って寝てしまっている。その肩には、黒に見えるブラウンのジャケットがかけられていた。

「……なあ」

 ロイドはジェイクをちらりと見ると、声をかける。かすかに首をかしげたジェイクに、ロイドはどこか複雑そうに笑った。

「町、こんな風になっちまったし。住む場所も仕事もねえし……また、カワセミ団に戻っちゃダメかな」

 数度瞬きをしてから、ジェイクはため息を吐く。前髪を軽く掻き上げると、

「それは俺じゃなくて、リーダー代理に聞いてくれ」

 そう言って、ジェイクはカワセミ団の飛空挺へと歩んでいく。だがすぐにぴたりと立ち止まると、

「……別に、俺は構わないがな」

 ロイドはぱちくりと瞬きして、ジェイクを見る。ジェイクは足早に飛空挺へと歩いて行ってしまった。

 ロイドはその背中を見送ったあと、もう一度エレナに視線を移す。

 そして、リーダー代理を探すべく、きょろきょろとあたりを見回しながら歩き出した。



















「こんにちは!」

 金色のベルが鳴り響く。その瞬間、店内にいた全員がそちらを見た。

「エレナちゃん! それに……」

 フレットは扉の前にいる少女から、視線を斜め上にずらす。そこには、どこか複雑そうに笑ったロイドの姿があった。

「ロイドさんも。いらっしゃい」

 翡翠色の瞳が微笑む。ロイドは照れくさそうに「おう」と笑うと、エレナの手を引きカウンターへと近づいた。

「やっぱり、君の子供だったんだ」

 カウンターにいた男、リカードがロイドを見て笑う。透明なグラスにオレンジジュースを注ぎながら、リカードは少し前のことを思い出した。

 キャラメル色の瞳、帽子からこぼれた栗色の髪。どこかで見たことがあるような気がしたのだ。ロイドに似ていないから気づかなかった。この子は、ロイドの奥さん――――マリアによく似ていたのだ。

「それで、カワセミ団に戻ってくるのか」

「ああ。……だいぶ体が鈍ってるけどな」

 苦笑して言うロイドに、リカードは笑みをこぼした。

「ああ、そうだ。エレナさん、モンブランがあるんです。食べませんか?」

 そばにいたディールが言う。エレナは「食べる!」と頷いてから、思い出したように言った。

「ディールさん、ジェイクさん、あのね!」


「あたしもカワセミ団に入る!」


 世界が静止したかに思われた。

 あれだけ騒がしかった面々が、言葉を無くす。ジェイクですらその表情を変え、読んでいた本から視線を外した。


 後にリカードは語る。

 その時のロイドの表情は、傑作だったと。


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