ツッコミ教師と冷酷女帝
「バカッ!!!!!!!」
森園学園1年C組に新米女子教師の叫び声が入学式後に行われたホームルームの時間に校舎中に響いた。
黒板の前に染めた茶髪でワックスでこだわったかのようにセットされている髪型。校則なんて少しも怖くないわ〜な男が1人。
地毛で茶髪のショートボブの髪型。毛先がクルッと癖っ毛でカールされていてビクビクする度に揺れている。捕食寸前のウサギのように目をうるうる泣き目になり怯えている女が1人。立たされていた。他人事のように思いたいけど……その2人は間違いなく私たちだった。
「全く!!何を考えてるの!!」
「ご……ごめんなさい!!」
「……さーせん」
本来ならこの時間は胸をドキドキさせながら初々しいクラスメイトたちによる自己紹介タイムが始まるはずだった。実際出席番号1番から5番目の人までは、顔を真っ赤にして緊張しながら初対面の皆の前で発表していた。が、6番目の人が自己紹介をしようとした時森園高校始まって以来の異例の問題児2人が教室に入ってきて中断して、急遽《ドキッ☆恥ずかしいから見ないで欲しいな!初対面の皆の目の前、黒板の前に立たされて教師様からのお説教タイム♪》のコーナーが始まってしまった。
私、栗山 伊織と森で出逢った川崎 優斗はまだ名前すら分からない教師にかれこれ10分も皆の前で公開処刑の刑をされた。(しかも皆とも初対面(泣))
「いや、本当はホームルームの始まりと同時に《いおりんちゃん》と前のドアからカッコよく登場しようとしたんだよ?でもさ、まさか本当だと思ってなかったからさ……本当に熊が出たなんて。廃屋から学校行く途中で遭遇するまで信じてなかった」
いおりんちゃんって私のことかな
「《この近辺は熊がたまに出没するため入学式に来る際は必ず森のふもとにいる森園学園の教員と、新入生とで集まり団体行動をしますので時間厳守でお願いします》って!あれほど書類に!太文字で!二十線引いて!そこだけ赤文字カラーで!強調して書いてあったでしょ!!!何危険な事をしてるの!!」
「ごめんなさい……!!寝坊してしまいました!!」
(高校生活が楽しみすぎて寝れなかったなんて恥ずかしくて言えないよ)
「だって俺が行った時誰もいなかったんだもん」
「川崎君は新入生代表で皆より早く来なきゃ行けなかったからでしょ!?というか居たからね!?逆に何処から森に入ったの!?」
「……代表の挨拶サボりたくて見つかりたくなかったから」
「それ君が悪いから!意図的じゃんッ!!おかげで前代未聞の事態になったからね!?」
この先生…ツッコミのプロかな
先生は教室の1番後ろの席の窓側に座ってコチラを睨んでいる生徒を指差しながら叫んだ。
「新入生代表が失踪しちゃったから!代わりに2位だった天野 つかささんが挨拶やってくれたんだからね!?」
「ごめんってば〜許して☆」
やめた方がいいよ川崎君。天野さんの目見てみて?初対面の人に向けていい目じゃないよ。明日の日の出を拝めなくなる前に土下座しようよ!?
「つかっちゃんね!美人の顔は見たら忘れないから俺の脳内永久保存したからね☆」
「………………人間なの?」
皆さん。今の囁き声聞こえましたか?
『人間なの?』ですって。日常会話じゃまず聞かない文章ですよね。あ、彼女の目線レーザーが変わった!さっきと違って凄く可哀想な目をしている!!そんな目で見ないであげて!!
「あのっ!天野さん!川崎君こう言ってるけど多分反省してるから……!!私からも、本当にごめんなさい!」
「………………………………」
《私にはそうは見えないわ》
あ、とうとう視線で言ってきたよ(汗)絶対零度の冷たすぎる視線が余すことなく川崎君に注がれてるのに本人には効いてないの!?無効なの!?効果無いの!?
「……ふぅ、とりあえず……なんだかんだ言って無事だったから良かったわ。二人とも」
ツッコミ過ぎて疲れた先生は頭をかきながらため息をこぼした。
「でも、本当に危険なことしたって自覚してね?特に栗山さん。女の子なんだから森を1人で行動したりしちゃダメよ?」
「はい……ごめんなさい……」
先生から放たれるオーラが優しいものとなりギャーギャー騒がしかった教室の雰囲気が一気に暖かくなった。
「とりあえず反省文を放課後までに提出してね。あと……席は二人とも一番後の……あ、ちょうど天野さんの隣の席二つだから3人仲良くしてね」
「嘘よ…………」
前言撤回
先生の一言により1番後ろの窓側に佇んでいる女帝から物凄い冷ややかな目で射抜かれた。
・*:..。o○☼*゜・*:..。o○☼*゜・*:..。o○☼*゜
ホームルームも終わり今日は解散。皆カバンの中に配布されたプリントを入れて寮に向かうためゾロゾロと教室から出ていった。
「…………反省文って『ごめんなさい。もうしません』だけじゃ終わらないんですね」
「あったりまえだよいおりんちゃん。中学で書かされた反省文の数は数知れず……この反省文プロフェッショナルが伝授してあげよう」
「そんなプロになってたまりますかッ!アホなこと言ってないで早く書きますよ!もうこの教室私達しかいないんですから!」
教室の後ろの席。窓側から二つ目の席に私が、三つ目の席に川崎君。私達は反省文を書くため《新生活!新しい人脈作りだ!ドッキドキ☆友達作りイベント!》を放棄して泣く泣く白紙の用紙に向かいペンを動かしていた。
「はぁ……高校の最初でこんな事になるなんて……友達できるか不安だな……」
「ん?何言ってんの、いおりんちゃん」
「…………あの、さっきから気になってたんですけど、何なんですか“いおりんちゃん”って」
「あだ名だよ。あだ名。気に入ってくれた?」
「…………ネーミングセンス0なんですね」
「友達に向かってそりゃないよ〜傷ついた〜」
私は川崎君の言葉にビックリして持っていたシャーペンを落としてしまった。
「友達……って」
「ん?そうそう。友達。」
ダルそうに答えながら落ちたシャーペンを拾ってくれて、私の机に置いてくれた。
「俺達、もう友達だろ。だから心配する必要ナーシ!な?」
友達…………
「……エヘヘ」
「んん??何、急に笑い出して。気持ち悪いぞ〜」
「ううん。嬉しくて。友達できて良かった〜。エヘヘへ」
私は嬉しさのあまり頬を緩めてニヤけた。
「………………」
川崎君が私の顔をジッと見つめてきた。
「ん?私の顔に何かついてる?」
「いや、何でもない」
心無しか顔を少しだけ赤らめて反省文に視線を戻した。
「……変な女」
ボソリと小さく呟いた川崎君の声は私の耳には届かなかった