迷子少女とサボり少年
いつからだったんだろう
高校1年生の七夕の夜。君とアイツが初めて出逢った時に君が俺に見せた表情を見てから目が離せなくて、気になっていた。
君と会うまでの俺は変化のない毎日に飽きてて、刺激を求めて色んな《女》と遊んでた。でも、あの時の君に貰った刺激は凄かった。今までのどの《女》とは違って、傍にいるだけで満たされた。
だけど自分の気持ちに蓋をして気付かないように無意識にしてしまっていて
この感情に気づいた時には遅くて
君に恋をしたと自覚した瞬間、失恋したんだ
「あの、学校への道を教えてくれませんか??」
髪はボサボサ、新品の制服は昨日の雨のせいで土がドロドロだったせいで汚れていた。
不安と恐怖を瞳に揺らして必死に泣く事を我慢していた彼女……栗山 伊織と、俺 川崎 優斗との最初の出逢いは高校の入学式の日、森の廃屋だった。
4月 入学式
ブーブーブーブー
さっきから鳴りっぱなしのスマホのバイブ音を無視して俺は森の廃屋でサボっていた。
「……新入生代表なんて面倒臭いんだよ。なんで俺がしなきゃいけないんだ」
早朝に学校から電話が来て何事かと思ったら
『今回、首席で合格なさった川崎 優斗さんですね?』
事務的な声が淡々と今日の事を知らせてきて一気に面倒臭くなったのだ。
俺が受験した《森園学園》は名前の通り森にあり、通行手段が不便なため完全寮制度の高校である。何故森に設立されたかというと昔天体観測をする企業が使っていた施設をリフォームして作られたかららしい。本当かどうかは不明だがその名残で屋上に大きな展望台が1台設置されているらしい。天体観測として使われていた場所だから当然星が綺麗に見ることができる。俺は自分の趣味にピッタリだと直感で感じ取ったからここを選んだ。
新入生代表の挨拶なんて面倒臭いことをしなきゃいけない事になって渋々高校に行くため森を歩いていたら、この廃屋を見つけてサボることにした。
廃屋といっても内装はボロボロじゃなく綺麗で、置いてある椅子や机、ベットは使える物ばかりであるため全然苦痛を感じない。電気が無いからちょっと薄暗いだけだった。木製のベットに寝転がり学校から鳴り続けるケータイをベットから投げ捨て、寝たり、ゴロゴロしたりして時間を潰していた。
「ん〜でもそろそろ入学式も終わるよな??そろそろ高校行くか〜」
(……つまらない)
毎日に刺激が無さ過ぎてつまらない。
大きくのびをしながらあくびをした。
ベットから起き上がりテーブルに置いてあるスクールバッグを肩にかけた。
ドアノブに手をかけようとしたその時、反対側から誰かがドアノブを回した。
(誰だ??)
不審に思いドアから距離をとる。ドアの隙間から《女》が部屋をのぞき込むようにゆっくりとドアを開けた。
「……わぁっ!人がいる!?」
女はお化けでも見たかのような目をしていた。そりゃそうか。誰だってこんな廃屋に人がいるだなんて考えないよな。
(というかこの女、なんでこんなに汚いんだよ。見た目からして俺と同じ新入生だろ?制服泥だらけだし髪ボッサボサ。え?女って高校に入る時ある程度オシャレ身につけて高校デビューするんじゃないのかよ)
「あ、……あの……もしかして森園学園の方ですか??」
俺が無言で考え事をしていたら、女は空気に耐えられなくなったのか涙目になりながら尋ねてきた。いや、とって喰うわけじゃないのになんで怯えてるんだよ。というかなんでこんな時間にここにいるんだ?見た目によらず不良なのかこの女は
(女って優しくするとめんどくさい事になるんだよな〜どうしよっかな)
「そうかもね」
俺は適当に女の質問に答えた。冷たくしすぎると多分女は泣く。かといって優しくして恋されちゃこっちが迷惑。小、中学校の時みたいに女同士のドロドロしたものを見せられるのはもう勘弁なんだよ。この微妙な加減が重要。
「あの……もし良ければ……」
急に女は顔を赤くしてモジモジしだした。
(え、まさかの一目惚れ?いや、そんな訳ないよね?俺が君にかけた言葉『そうかもね』onlyだよ?流石に無いのね?ね?ね?)
「あの、学校への道を教えてくれませんか??」
…………は?
「えへへ……お恥ずかしながら、迷子になってしまいまして……」
「……………………ブッ!!」
ヤバい
「ちょっ……!!どうして笑うんですか!!」
この《女》は
「お腹抱えて笑うって!!失礼ですよ!!」
「お前、頭イカレてんだろ」
「…………はいぃい!!!?」
「高校まで一本道なのにどうやったら迷子になるんだ?」
「しょうがないじゃないですか!!森のクマさんと遭遇しちゃったんですから!」
「クマぁ!?こんな森にいるわけないだろww!!見間違いに決まってんだろ!」
「いや!でも確かにクマだったんですよ!!」
「そんな危険な森に高校が設立されるわけないだろ!!考えろよ」
「……確かに」
「…………ギャハハハ!!やめてくれ!!笑い過ぎて呼吸ができん!!」
「そんな!落ち着いて深呼吸してください!!ほら……ヒーヒーフー!!」
「子ども産めってか」
なんなんだこの《女》
「あっ!つい焦って!!」
他の《女》と全然違う
「……それで、案内してくれるのでしょうか……??」
甘えた高い声、中学生のくせにケバイ化粧、校則違反なのに堂々と付けてた匂いのキッツイ甘ったるい香水、優しくすれば勘違いして勝手に告白してきて振れば泣き出す。今まで見たことあるどの《女》たちと違う
「……めんどくさいけどしょうがない。ほら、ぼさっとしてないで行くぞ」
渇いてた心が、初対面でまだ出逢って数分しか経ってないのに満たされていく。
「あっ、待ってください……!!」
(クスッ)
何なんだろう。この気持ちは?
その頃、森園学園では
シーンと静まり返る体育館。縦横綺麗に配置されたパイプ椅子に座る新入生達。
その中でも一際美しい女に1人の教師が頭を下げていた。
「ごめんなさいね〜でもお願い!!式が始まらなくなっちゃうのよ!!これ以上時間延ばせられないし……ケータイも出てくれないの!」
顔を真っ青にして必死に両手を顔の前に合わせて懇願する教師と、パイプ椅子に優雅に膝を組み冷えきった空気をまとう女生徒
「お願い!!天野 つかささん!!」
「…………そんなに必死に言わなくなってやります。なので原稿を私に下さい」
腰まで伸びる綺麗な黒髪のストレートを耳にかけながら応えた。
(……はぁ。全く、新入生代表者が逃亡って何考えてるのよ。本当に頭良いのかしら?逆に頭のネジぶっ飛んでるじゃない)
30分遅れの入学式がたった今始まった。