第一話
記憶に一番残っている色は赤。
でも、一番感じた色は黒だった。
いつしかそんな色を身にまとうのも嫌になってきて、結局は無色になった。
なったつもりでいた。
身体の中では真っ暗闇がグルグルと渦巻いているのに。
向き合ったつもりで、目を逸らしていた。
ああ、またこの夢か。
早く、目覚めてしまいたいな。
この夢からも、こんな自分からも。
「うぅ・・・ん」
ゆっくりと目を開ける。
カーテンの隙間からこぼれる朝日が眩しい。
ベッドから出てカーテンを全開にする。
目の前に広がる都市「ゼウセル」の路上では、まだ朝の6時半だというのにたくさんの車が走っていた。
まだ意識がボンヤリしているのでシャワーを浴びることにしよう。
そう思ったところで、テーブル上の携帯型タブレット端末「iPed」がメールを受信しているのに気付いた。
メールの送り主は綾瀬マリ。
メールの内容は
『入学おめでとう、轟奏くん。君が楽しくてためになる学園生活を送ることを願っています。』
というものだった。
「綾瀬マリ」とは、俺が『ゼウセル学園』へ入学する段取りをしてくれた人で、『ゼウセル学園』の理事長だ。
なぜ俺が学園に入学するのに理事長の助けを必要としたのかは・・・また後ほど。
ちなみに、彼女は俺の住まいであるこのマンションも提供してくれた。
メールを見たあとシャワーを浴びて朝食をとり、学園の制服を着た。
今からマンションをでても入学式には大分早い時間に学園に着いてしまうが、
「まあ、いっか。」
そうポツリと呟いてマンションを出た。
学園生活への不安を胸に抱いて学園への道を歩く。
こういう時はどんな感情を抱くのが普通なのだろうか。
少なくとも今の俺の心の中には希望なんて色は存在していなかった。