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ヘイゼルは、生まれながらに自らの生まれた意味を理解していた。自分が王族の第一子として生を受けたこと。いずれは王になると期待されていること。
王子として養育されながら、どこに出しても恥ずかしくないようにと、教養だけでなくマナーや礼儀など、早期教育も施され、既に3歳頃には、幼いながらも王族らしい風格というものを纏うようになっていた。
ただ、ヘイゼルや王家にとって誤算だったのが、幼い身体には身に余るほどの魔力を生まれながらに有していた、ということであった。この世界には、確かに魔術というものは存在していたが、しかしそれは一部の特別な者のみで、その存在を認知されてはいたものの、一般的に魔術の類が浸透していたわけではない。
ヘイゼルの両親にあたる国王夫妻も、魔力を有してはいなかった。王家において、今まで魔力持ちの子が生まれた前例もない。
しかし、ヘイゼルの母である王妃ミリッツァの祖母にあたる、ハイデッガー侯爵夫人シェリールがかなりの魔力持ちであったので、ヘイゼルはその流れを受け継いだものと考えられている。
魔力持ちは少量ならば特別な学習を経ることで、それをコントロールすることは本来可能だ。が、それも少量ならばの話である。残念ながら、ヘイゼルは曽祖母シェリール並み、いやそれ以上の魔力を有して生まれてきてしまった。
そのために、ヘイゼルは生まれた頃より多すぎる魔力により、何度も高熱を出し倒れた。無事に生まれてきたことが奇跡だと言われたほどに、何度も生死の境を彷徨った。常に何か重いものを背負わされているかのように、多すぎる魔力はヘイゼルの身体を苛んでいた。
それでもヘイゼルは身体の自由が利く少ない時間も使って、将来王となるため、幼いながらも厳しい教育に熱心に励み、すぐにでもヘイゼルの小さな身体の中で暴走してしまいそうな魔力をコントロールする訓練も受けた。
けれども、原因は不明だが、ヘイゼルが成長すればするほどに、年々ヘイゼルの魔力の量はどんどん増えていった。ヘイゼルの努力も虚しく、ヘイゼルが3歳を数える前には、コントロールすることも全くできないまま、常に高熱にうかされ、寝台から起きれ上がない日々が続いた。
その当時、ヘイゼルの他にきょうだいはおらず、ヘイゼルは唯一の王子だった。それにもかかわず、花が枯れ落ちるように今にも儚くなろうとしている。国王夫妻はヘイゼルのことをとても愛していた。たとえ、どんなことをしてもヘイゼルを生かしたいと思っていた。
そして、今にも魔力に食われかけ、死にかけているヘイゼルを生かすためにとられた策というのが、異世界にヘイゼルを逃がす、ということだったのだ。
ここで、重要になって来るのが、実は王妃ミリッツァには、かなり年の離れた兄がいた、ということである。ミリッツァの実家であるハイデッガー侯爵家が厳重に隠匿していたので、世間はもちろん王家、また末娘であるミリッツァも知らなかったことだったのだが、実はこの兄は、シェリールに継ぐかなりの魔力持ちで、過去、ヘイゼルと同じ道を辿っていた。
魔力の暴走を防ぐため、密かに異世界にて、その身を隠していた人物である。そのまま異世界に居着いてしまったので、その存在を知る者はごくわずかになってしまっているのだが。
実は彼こそが、異世界・日本におけるヘイゼル……北浦一の父親である。サイカが、はじめの父として認識していた人物は、正確にはヘイゼルの伯父にあたるのだ。
異世界では、どういうわけか魔力は全く効力をなさない。存在が消えているわけではなく、確かに身の内に存在はしているのだが、しかし少なくとも暴走する危険性はなく、魔力量が安定し、コントロールできるようになるまで、異世界に身を隠すというが、ヘイゼルのためには最善の策であった。
シェリールによって、ハイデッガー侯爵家内では異世界の存在は、公然の秘密となっていた。というのも、実はシェリールは元々異世界出身であったことに起因するのだが……。
とにかく、シェリールによって送り出され、その後も異世界で定住していた伯父の元に、3歳を数える頃、ヘイゼルは送り出され、それ以降16歳になるまで、13年間異世界・日本に身を寄せていた。
そしてその場所でヘイゼルは、孤独だった自分を救ってくれた、また後に何よりも大切な存在となるサイカと出会ったのであった。