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俺ん家っ?  作者: kazu
6/6

神が恋をする 前篇

その日は、朝早くからパソコンの前に座っていた総一郎だった。

 何時もとは別人の様に、キーボードを叩く速さが尋常ではなかった。その上、額には汗が流れていた。

 総一郎が装着していたヘッドホンからは、

「ガイア殿、すいません。やられてしまいました」

「ガイア総帥。申し訳御座いません」

 等の声が轟いていた。その声を聞く度に、総一郎の身体がピクリと反応していた。そして、

「こ、こんな奴が、い、居たのかよ」

 と呟いていた。

「初めて見ますよ。こんなに上手いゲーマーは」

「他のサイトでも、こんな奴は存在しませんでした」

「俺達のチームの者達が、これ程あしらわれるなんて」

 総一郎の言葉の後も、止む事が無い驚愕の言葉だった。

 パソコンの画面上には、建物の陰に隠れる特殊部隊の姿があった。

 総一郎は、FPSのゲームの真っ最中だったのだ。

 世界中でも人気の高いFPS。操作するのは、一人の武装兵である。それも、自分の操作がそのままキャラクターに伝わる。その上、自分の目線での画面の動きで、使う武器によって働きも変わって来るのだ。

例えばポイントマン。連射速度や弾丸数が多い機関銃を装着し、敵を攻める動きも迅速だ。前線に出て、素早く動いて敵を撃つ。そのかわり、攻撃力は少し劣る。次にライフルマン。ポイントマンで使う機関銃よりも連射弾丸数は下がるが、威力は強くなる。射程距離も伸びる事で、ポイントマンが攻め込んだ後に、敵を拡散して撃ち取る。最後にスナイパーだ。文字通り陰に隠れて、遠くの標的を討つ事が先決である。その上、スコープ上から敵を察知せねばいけない為に、隠れている所がばれてしまえば危険となる。しかし、一発必中の腕前であれば、向かうところ敵なしである。

総一郎は、主にライフルマンを使った。使用する銃は、もちろんM16A3である。三発連射で敵を撃つ姿は、このゲームの中では、いや、全てのFPSの中で『神』と称されていた。

そんな総一郎が、朝早くから汗を流してゲームをやっていたのだ。

あの、冷静沈着にチームを勝利に導く神が、全てのチームメーカーを失くしていたのだ。

「こ、こんな事って、有かよ」

 そう言いながら、画面のキャラクターを動かしていた。

その時だった。

いきなりキーボードを叩く速さが変わった。

「あ、危ねえ! グ、グレネード!」

 そう叫ぶと、画面で手榴弾を取り出した兵隊が、建物目掛けてそれを投げていた。その瞬間、総一郎が操るキャラのHPが少しだけ下がった。

「な、なんて奴だ。何処から狙ってやがる。俺に当てるとは、何年ぶりだ」

 その攻防を見ていた仲間も、

「ガイアがこれ程焦った姿は、初めて見たぜ。憧れのガイアが」

 と、驚いていた。

「た、弾は何発だ?」

 普段では、自分の弾数など気にも留めていなかった総一郎だったが、この時はそれすら解らなくなっていた。弾数を確認するのは、基本中の基本だからである。もしも弾切れになってしまえば、敵からやられる事は言うまでもない。それを回避するには、やられてしまった敵や仲間が落としていった武器を、相手に気付かれない様に拾って使うのだ。

「あ、あと十五発! マガジンも無くなっている」

 総一郎は追い込まれていた。

 画面を代えて、敵の人数を調べた。すると、敵も一人となっていたのだ。だが、その一人が、途轍もなく手強い相手だった。

 現状では、建物の陰に隠れて動けない総一郎。もしもその場から出て行けば、百発百中の相手にやられる可能性は大だ。しかし、このままじっとしていてもしょうがない。

「賭けるか」

 そう呟いた総一郎は、もう一つ持っていたスモークグレネードを手にした。そして自分の前にそれを投げつけると、煙の中からその場を離れていった。それを逃す筈もない敵。やはり待ち伏せをしていたのだ。

 総一郎が駆けだした足元に、敵の放った弾丸が弾いた。それを回避して、直ぐ傍の階段を登る総一郎は、建物の反対から姿を現した。

 走る最中には、飛んできた弾道を見て敵の位置を確認していた。そして、総一郎の銃口が敵を捕らえた。それは敵も同じだった。

 双方が睨みあう中、総一郎が連射ボタンを押した。

「ガ、ガイア!」

 仲間達が叫んだ。

 次の瞬間……。

 画面上には、敵が痙攣をして倒れる場面が映っていた。そして、パソコンからの『よくやった。敵は全滅だ』とのメッセージが流れた。

「ふう」

 溜息を漏らした総一郎。

 総一郎のチームが勝ったのだ。

「さすがガイアだ」

「やりましたね」

「それでこそ、わがリーダーです」

 仲間からの、総一郎を賛嘆する声が響いた。

 その時、画面上にメッセージが映った。

『あ、あの…… 私をチームメイトにして下さい』

 とのチャットメールだった。

「ガ、ガイアさん。どうしますか?」

「これほどの腕前を持つ奴なんか、何処を探してもいませんよ」

「相手と話をするだけでも、それだけの価値はありますね」

 メールを見たチームメイトからは、そんな声が聞こえてきた。

「そ、そうですね。話だけでもしますか」

 そう言うと、総一郎は返信メールを送った。

『我々のチームに入りたいという事ですが、今まではどこかのチームに所属していたのでは?』

『いいえ。単独でやっていました。あなたの噂はよく聞いていましたし、尊敬していました。早くお逢いして、同じチームに入れて欲しかったのです』

 相手の返事に、総一郎は悩んでいた。

総一郎のチームは、全員で六人だった。それも、FPS界では敵なしの強者ばかりだったのだ。そんなチームに入りたがるものは、今までに存在しなかった。このチームで対戦する時に、自分が足手まといになってしまうと考える者達ばかりだったのだ。それが、こうして憧れていた事を明かしてまで入りたがっている。

このFPS界で、総一郎のチームに悪戯心で迫って来る者なども居ない筈だ。

「リーダー、ここはスカイプで面接した方が……」

 仲間がそう言った。

スカイプを使うという事は、相手にスカイプIDを教える事なのだ。即ち、殆どが相手を認めた事になるのである。

「そ、そうですね」

 そう呟いた総一郎は、

『スカイプ、できますか?』

 という内容のメールを送った。

『はい』

 と素早く返って来た。それを見た総一郎は、自分のゲーム用に使っているメールアドレスを書いて送信した。ゲーム用とは、ゲームのIDを取得する為のアドレスの事で、無料で手に入るメアドの事だ。それも、滅多に使わないメアドだった。

 そのメアドに、直ぐに受信されたメール。そのメールを編集して、スカイプのIDを返信した。

その数分後に、スカイプを使って話しかける声が聞こえてきた。

 それも…… 女性の声だったのだ。

「は、初めまして…… ガイア、さんですか?」

 その声は若い女の子の声だった。それも、聞くだけで可愛いという様相が思い浮かぶほどの声だった。

「か、可愛い声」

 仲間の一人がそう呟いた。その言葉に我に返った総一郎だった。

 これまでに、女の子と会話をするのは数年ぶりの事だったのだ。

話すとすれば、言葉遣いの悪い妹のサチと話をするくらいだったのだ。

「は、初めまして…… わ、私が…… り、リーダーの、ガイアです」

 途切れ途切れの言葉に、

「リーダー、しっかりして下さい。ゲームの中では凄い存在なんですが、こんな時はからっきしダメなんだから」

 と呆れる仲間だった。

「ど、どうか、チームに入れて下さい。お、お願しますから」

 萌え萌えの声で発される言葉。その言葉を聞く度に、身体をピクピクと反応させる総一郎だった。そして、

「は、はい」

 と総一郎が答えると、

「やった! 念願のガイアのチームに入れたんだ。あ、有難う御座いますぅ」

 と、さらに萌え萌えのアニメ声に変わっていく女の子の声だった。

「あ、あのう…… お名前は?」

 総一郎が問い掛けると、

「あ、ああ。まだ、名前を言っていませんでしたね。かおり、じゃなくって、メデューサです。ギリシャ神話に出て来るゴーゴン三姉妹の『メデューサ』です」

 と答えた。すると、

「カッケ―。メデューサだってさ」

「宜しく、メデューサさん」

「名前はおっかないけど、声がめっちゃ可愛いからいいや。宜しく」

 チームメイトの喜ぶ声が聞こえてくると、

「よ、宜しくお願いします」

 と、メデューサも喜んでいた。それも、何処となく泣いている様な声だった。それ程嬉しかったのだ。

「それじゃ、俺は、おや、ぼ、僕はこれっで」

 総一郎がそう言うと、

「リーダー、もう止めちゃうの」

「可愛い娘が仲間になったっていうのに、意味わかんないし」

「まあいいじゃないかよ。リーダーが今日は止めるって言ってんだからさ、俺達で新入りの娘とやろうぜ」

 仲間達がそんな会話を始めた。その会話を聞きながら、顔を顰める総一郎だった。総一郎も、その娘と一緒にゲームをやりたかったのだ。だが、あんな事を言ってしまって、後には引けない状況になっていた。後悔先に立たずとは、この状態の事を言うのだと思う総一郎だったのだ。

 だが、

「わ、私もこれで……」

 メデューサがそう言った。その言葉を聞き逃さなかった総一郎は、

「今日の夜十時に、再び戻ってきます」

 そう告げると、

「私も……」

 そう言ったメデューサだった。

「しょうがねえな。お目当てがガイアさんだったら」

「そうだな。俺達の憧れのガイアさん目的なら、俺らは退くしかないだろう」

「くう、ガイアさんがうらやましい」

 仲間達はそう言ってその場から消えていったのである。

 それを聞いた総一郎の顔は、もちろんニヤケていた。そして、総一郎もゲーム内から消えていった。

 総一郎は、暫くパソコンの画面を見ていた。そして、

「たしか…… かおりって言っていたよな」

 そう呟いた。

 総一郎は聞き逃してはいなかったのだ。メデューサが言った名前である『かおり』という名前を。


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