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俺ん家っ?  作者: kazu
3/6

ここは…… 戦場だ!  後編

 そして、当日。

 早朝5時に、山の麓の林の前に集合した誠二達五人と、幸子と友理奈と裕子。合計八人の勇士の姿があった。誠二を含む五人は、ジーパンにトレーナーとベストといった、普段着に近い服装だったが、幸子を含む三人は…… 完全に場違いだった。なんと、真っ白の特攻服だったのである。まあ、特攻服…… 戦争に近いのは近いが、真っ白…… では、余りにも目立って相手に見つかり易いのだ。

「サチっ、他に着る物は無かったのかよ」

「なんだよ、煩っせえなぁ…… 俺達は、戦争と言ったら、やっぱ、これだろうがよ」

 確かに、幸子の言い分にも一理あるのだ。暴走族の集会と言う時は、暴走族にとっては戦争の様な物だ。何時、何処で、どんなチームが、喧嘩を吹っかけて来るか解らない。暴走族の軍服は、特攻服だったのである。しかし…… 真っ白とあっては…… 。

 だが、誠二の方が頼んだ事だ。五人は、仕方なく認可した。そうこうしていると、相手のチームが姿を現した。

「康っ、遅くなってごめんな」

「ああ、いいよ。言われた通り八人…… 用意したから、早く始めようぜ」

 何処となく不安げな返事をした康彦が友人と会話をしていると、相手チームのメンバーが何やらざわめいていた。 どうも幸子達を見て何やら言っている様子だ。誠二達は、やはり特攻服の事で文句を言っているとばかり思っていたのだが、実は…… 幸子達の可愛さに相手チームが話しているのだった。

「おいおい、あの子可愛くねぇ」

「おお、髪の毛の長い娘だろ。だけど、あのショートの髪金の娘も中々だぜ」

「俺は、一番後ろに居る娘だな。この勝負の後で、ナンパしようかな」

「そうしたいのは山々だけど…… あの恰好、どう見ても族だよ」

「関係ないだろうが」

 相手のメンバーは、三人を完全に気に入っている様子だ。それを見ていた誠二が、康彦に早く始める様に指示をしていた。眼で合図を送る誠二を見た康彦が、

「おお、わかった」

 と言いながら相手のメンバーの所に向かうと、お互いがルールの確認を始めた。


 ルールはこうだった。

 双方が左右に分かれ、林に入って行く。そして、どちらかが全滅するまでの戦いだ。0距離の発砲は完全に禁止。火薬を使っても、怪我をしない程度であればOK。身体と頭にペイント弾が当たった場合は、一発で死亡。足や腕、肩や腰では、三発で死亡となった。地雷は煙幕を用いる事で、もちろん一回で死亡。ラインの罠は、音で知らせる。こう言った、ルール説明の後、16人は散らばった。

 

 戦争が、始まったのだ。


 始まると同時に、相手チームは、いきなり英語をしゃべり始めていた。『ROCK‘N ROOL』の掛け声とともに、全員がリロードをしながら、林の中に消えて行った。

 一方、林の中を走る誠二軍は、練習の成果なのか動きに無駄が無い。低い枝の上を、難なく超えて行く足取りの後を、ちぎれた葉っぱが宙を舞う。後方から走ってくる幸子の率いる三人は、枝を越える仕草や、草を掻き分けるところなど、やはり女の子…… 小さな可愛い声を発している。その度に誠二が口に指を当てる。静かにしないと、相手に居場所が解ってしまうのだ。そんな誠二の行動に、始めは我慢していた幸子軍だったが、等々、怒鳴り声を上げてしまった。

「煩せんだよっ! しょうが無いだろうが、虫が怖いんだからよ」

「わかった。解ったから、静かに頼むよ」

 誠二は、幸子の大声に身を低くして小声で訴えていた。その時、誠二の額にペイント弾が命中したのである。

 幸子の目の前で…… 誠二が撃たれた。

 いくらゲームとは言え、この様な経験はした事が無い幸子には、余りにリアルな出来事だった。

 幸子の眼に光る物が溢れ出ていた。

「誠二兄ちゃん……」

 幸子が呟いた。すると、いきなり振り向いたかと思うと、背後に向かって、持っていた銃を乱射したのである。それも、罵声を発しながら、

「てめえら、ぶっ殺っすぞぉっ! こらぁっ!」

 その勢いは、周りに居た仲間達が振り返るほどの凄まじいものがあった。幸子の乱射は、誠二を撃った敵のメンバーが見えなくなるまで続いていた。

 普段は喧嘩の絶えない兄妹だが、この様な出来事を目の当たりにした幸子は、完全に我を失っていた。頬を伝う涙が、そんな幸子の思いを物語っていたのだ。

 その時、誠二が手を上げた。

「はーい。俺は死にました。今から、戻りまーす」

 それを見た幸子は、キョトンとした顔で我に返った。そして集合場所に戻る誠二を見ながら、

「ああ、そうか。ゲームか…… びびったぁ」

 と言うと、周りを気にせずに森の中に入って行った。

 ゲームが再開された。

 誠二軍は、やはり素人の集まり。その後、康彦が撃たれ、あれだけ勝気だった敦も撃たれてしまった。だが、こちらも負けてはいない。幸子と裕子で挟み撃ちをした結果、相手チームの二人を撃破。そして、昌也が同士討ちと、中々の対決振りだった。

「大ちゃん、相手は残り5人でしょ」

「ああ、こっちは四人になってしまった。ここから、慎重に行動しないとな……」

 大樹と友理奈が、林の中で一緒に居た。どうも二人は好意を持っていた様子だった。二人とも幼馴染だった事もあり、中学の時から気にしていた仲だ。そんな二人だったが、その後の出来事で友理奈が変わった。

 一瞬の出来事だった。木の影からゆっくりと出した大樹の頭に、ペイント弾が命中したのだ。

「あうっ!」

 声を発した大樹は、その場で倒れてしまった。ヘルメットを被っているので痛みはほとんど無いが、撃たれた振動は頭に伝わる。その為に驚いて倒れてしまったのだ。だが、友理奈は違っていた。さっきの幸子と同じ状況だった。いや、もっと激しい動揺に駆られていたのである。

「だ、大ちゃん…… しっかり…… ねえ、しっかりしてよ大ちゃん……」

 完全に興奮状態の友理奈。涙を流しながら大樹の上に覆い被さっている。

「ちょっ…… ちょっと、重いよ友理奈…… お、俺は大丈夫だよ」

「ほ、本当に…… 本当に大丈夫…… よかったぁ」

 ほっと胸を撫で下ろす友理奈だったが、次の瞬間。

「あの野郎っ! ぶっ殺―すっ!」

 そう言って、撃った奴の方に向かって行った。そして相手を見つけると、ライフルを乱射する友理奈だった。

「てめえかぁっ! そこでじっとしてろぉ」

 女の子とは思えない言葉使いで進む友理奈だったが、相手を見事に撃破したのだ。

「やったーっ! 大ちゃん、仇を討ったよ」

 そう言って燥いでいる友理奈だったのだ。ところが、その友理奈の肩を、ペイント弾が掠めていった。真っ赤なラインの入った特攻服。友理奈の減点1だ。咄嗟に友理奈は、身体を屈めて身を低くした。

「おお、やべえぇ。死ぬところだったよ」

 それを見ていた大樹は、手を上げて陣地に戻って行った。残りは相手チームが四人、こちらはと言うと、ど素人の幸子軍が三人。それも友理奈の減点1ときている。完全にやばい状況になっていたのである。

「総長、うちら三人になっちゃいましたよ」

「うん、そうみたいだね。それより、ここで総長はやめて。集会じゃないのよ」

「ああ、サチ。どうも、この服を着ているせいか…… 集会気分なんだよね」

 そこへ、友理奈が合流してきた。

「そうそう、私も集会気分」

「ああ…… 友理奈、撃たれてんじゃん」

「本当だ。大丈夫?」

「ああ、これね。さっきやられた。これで、原点1だよ」

「ああ…… 原点1。なんか、交通違反を犯したみたいじゃん」

「ハハハ…… そうだね」

「ハハハ…… 可笑しい」

 やはり、女の子だ。この様な戦争の時に笑っている。そんな、裕子の足にも、弾が掠めた。

「ふうっ! やべえ、やべえ。ここから、離れようよ」

 そう言いながら周りを見渡す裕子と友理奈。

「そうだね。向うで作戦会議でもしようか」

 幸子の言葉で、三人は低姿勢で移動した。そして、ここから三人娘の猛反撃が始まるのである。

 少し広くなった場所に腰を下ろした三人。そこで、綿密? な作戦会議が開かれた。

 経験も無く、況してや、煙幕弾や照明弾といった道具すら何も持っていない三人に、一体どの様な作戦が為せるのだろうか?

 胸元の襟を揺らしながら、

「暑いね…… 汗びっしょりだよ」

 そう呟く裕子。しかし…… その言葉が、三人を最強にする事となる。

「そうだ。相手のチームの人達って、私達の事を可愛いって言ってたよね」

「うん、言ってた、言ってた。」

「そこでぇ…… 暑いってこともあるし…… 上着を脱いじゃおうよ」

「ええっ、上着を……」

「そうそう、名付けて…… 『お色気作戦』」

「なるほどね、良いかも……」

 そう言って、三人はその場で上着を脱いだ。特攻服の下は、真っ白いサラシを胸まで巻いているだけで、肩口は白い素肌が丸出しになっている。十七歳の乙女の素肌とあって、確かに『お色気作戦』そのままだった。三人は、脱いだ特攻服を腰に巻き付けると、再び相手の陣地に向かった。それも、散れ散れに別れて…… 。連絡は、携帯電話を使っていた。

「サチっ。さっきの相手は、遠くから狙っていたよね。私、木の上から狙ってみるね」

 そう言ったのは、幼い時から木登りが上手な裕子だった。そして裕子が木に登ろうとした時、裕子の頭上に人影が…… 。咄嗟にしゃがんだ裕子が眼にしたのは、スコープから周りを眺めるスナイパーの姿だった。相手はスコープに気を取られていた為に、下に居る裕子の事に気付いていない。

「ククク…… 馬鹿な奴」

 そう言った裕子は、何の躊躇も無く相手を下から撃ちぬいた。見事に命中したペイント弾に依って、一人撃破っ!

「サチッ、一人倒したよ」

「OK! 残りは、私らと一緒で三人だね。頑張ろう」

 そう言っていると、スナイパーを撃った事で居場所が見付かった裕子が、敵に撃たれてしまった。

「あちゃあぁ、ごめん。撃たれたよ」

 そう言って手を上げる裕子。丁度、その側に隠れていた友理奈が立ち上がると、裕子を撃った敵を撃破した。それで、2対2となった。

 中々のいい勝負が展開する。しかし、相手チームの残りは、全国の4位と8位のメンバーだった。陣地に居た誠二達が、その事で話をしていた。

「あーあ、これで、終わりか…… 今まで運が良かったのだよ」

「そうだな。全国レベルのチームに、これだけ戦ったんだからな。それだけでも凄い事だぜ」

 男性陣がそう言うと、側に居た裕子が怒りはじめた。

「な、何言っているの。サチと友理奈は、そこいらの女とは根性が違うのよ。総長と特攻隊長をなめんなよな」

 気合の入った裕子の言葉に、男性陣は言葉を失っていた。それは、その状況を見ていた相手のメンバーも同じだった。

 その頃、幸子と友理奈は一緒に行動していた。

「何処に隠れているんだろうね」

「相手は、迷彩服に草の付いたヘルメットだからね。ズルいよね」

 そう言っていると、前方の木の枝が揺れるのが見えた。すかさず、身を縮める二人。

 目線の先には、二人を捜す敵の影が…… 。その事を確認した幸子と友理奈は、低姿勢のまま二手に別れていった。敵から片時も眼を離さない二人。友理奈が相手をロックオンした。その時、横から銃弾が飛んできた。思いも依らない機関銃の連射は、草を掻き分けながら低姿勢で走る友理奈を襲う。それに気を取られた幸子は、さっきまで目の前にいた敵を見失ってしまった。だが、幸子の前方には友理奈を襲った敵が見えていた。敵は幸子に気付いていない様子だ。最高のチャンスを迎えた幸子だった。だが、そうは問屋が卸さない。

 見失った敵が、無防備の状態で横を見ている幸子を狙っていたのだ。それも奴はスナイパー。その指先がライフルの引き金を握る。そして、敵の銃弾が幸子を仕留めようと飛んできた。その瞬間、咄嗟にその状況に気付いた幸子だったが、時既に遅かった。

「……!」

 幸子は、思わず目を瞑っていた。すると……

 幸子の横から、白い影が飛んできたのである。それは友理奈だった。自分を盾に幸子を守った友理奈。しかし、その腹部には、真っ赤なペイント弾が命中していた。

「そ、総長…… 私の…… 事は…… 心配……」

 友理奈はそう言って、力尽きるのだった。

「いい加減、重いんだけど……」

「ああ、ごめんね。それよりも、私の芝居、上手だったでしょ。ね、ねえってば……」

「もう、知らない……」

 頻りに謝る友理奈を他所に、一人残った幸子は林の中に入って行った。その後、スナイパーが自分を狙っている事に気付いた幸子は、片方の手を胸に当てていた。そう…… 胸元のサラシを少し下げて、相手に見せていたのだ。所謂、色気作戦! 

 相手のスナイパーにとっては、スコープによってアップになった幸子の胸元だ。その後は言うまでも無く、動けないまま幸子の餌食となってしまったのだ。

「これで、残りは一人っと……」

 最後の聖戦となった幸子と残った敵。それも全国4位の強者と言う事で、林の中も静まり返る。隙を見せれば、確実に撃たれてしまう。幸子は、周りに目を配りながらゆっくりと移動していた。

 すると、又もや前方の木の枝が揺れている。その事に気付いた幸子が、その方向に眼をやった。

 その時である。

 思いも依らない方向から、機関銃の弾が飛んできたのだ。敵は、細い釣り糸を使って擬似の揺れを作っていたのだ。恐るべし、全国4位。その場を回避しようと草むらに飛び込む幸子だったが、足と腕に銃弾が命中している。あと一発…… どこかに命中すれば、誠二軍の敗退となってしまうのだ。

 幸子の額に汗が滲む。

 恐らく、敵も同じ状況だろう。そう思った幸子は、一か八かの賭けに出る。

 目の前に転がっていた大きな石を前方に投げると、反対方向に逃げる幸子。すると敵は、その作戦い乗っかって石の方に向かって乱射し始めていた。その行動で敵の位置が解った幸子は、足音を忍ばせながら敵に近付く。そして敵が射程距離に入ったのを確認すると、銃口を相手に向けて狙いを定める。幸子が手にしているライフルは、総一郎が一番大事にしている『M16A3』だ。幸子の心臓の鼓動が…… 頭上まで響く。

 今までに感じた事の無い緊張感と集中力の中、幸子の指が引鉄を触る。

 その時、相手が幸子に気付いた。そして次の瞬間……。

 森の中で、同時に銃声が響いた。

 幸子の胸に、痛みが走る。

 そして、敵の身体には…… 。肩口を掠めた、赤いライン。

 その瞬間、誠二軍の負けが決まった。



 数日後……。

 いつもの様に家を出る誠二と幸子。

「気を付けて行って来いよ」

「ああ、解っているよ。この馬鹿っ!」

 相変わらず口の悪い幸子だったが、

「誠二兄ちゃんも、気を付けてね」

 と小声で言う幸子だった。



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