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俺ん家っ?  作者: kazu
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三種三様

 整理整頓された部屋、と言うよりも、余分な物が無い部屋の中。壁には、アニメのポスターが数枚貼られている。

二つのカラーボックスには、貼られているポスターのフュギアが飾られ、その横にはデスクトップのパソコンが一台。それも、極太タワーの高スペック仕様になっている。モニターも、フルカラークリアータイプで21インチの液晶だ。まさしく、ゲーム仕様。それもFPSだろう。あとは…… 中央にミニコタツとシングルベッドが置いてあるくらいだ。

 ああ…… それと、入り口のところに、今流行っている音感ゲームのキャラクターの等身大パネルが置いてある。

 むむっ…… その横には…… エアーガンのライフルが…… 5丁並べられている。衣類は何処だ…… 見渡してみると…… 壁に備え付けのクローゼットの扉が部屋の奥に見える。恐らく、その中も整頓されているだろう

 そんな部屋の中では、一人の男性がミニコタツの上で、ラップトップのパソコンを使ってネットで何かやっている。ほほう…… これも結構、高スペックの様だ。

 イヤーホンをした男性の、手に持っているマウスが素早く動く。キーボードを叩くスピードも速く正確だ。かなり使い慣れている様子だな。まあ、そりゃそうだ。真昼間から部屋に籠って使っているのだから、それも、毎日の事だ。

 そんな部屋に、外から聞こえてくる犬の吠える声がこだまする。それも、相当近くからだ。

 始めは、気にせずにパソコンを弄っている男性だったが、しばしば窓の外が気になり始めていた。

「うるっさいな……」

男は、時期に止む事を祈りつつ、再びパソコンに向かった。しかし、一向に止まない。それどころか、段々と吠え方が激しくなってきている。

「サスケの奴っ!」

男がマウスから手を放すと、徐にライフルを取り出す。もう、我慢にも限界が来た様子だ。何せ、こう言った事は日常茶飯事の事だったからだ。

 男は、トリガーを引いて弾の入ったマガジンを装着し、高倍率のスコープを取り付けてる。そして、少しだけ窓を開けると、ライフルのスコープから外を覗き込む。前方には、他所の方を向いて吠え捲くるサスケの姿が映っている。

「あの野郎…… 一体、何に向かって吠えているのだ?」

男は、覗いているスコープを、サスケの目線の延長方向に移動させていく。

 そこには…… 。

 サスケの餌を、取り上げた挙句に、それを貪る…… 野良猫の姿だった。

「くううっ…… あいつが、原因だったのか…… 。待っていろよ、サスケ。俺が葬ってやる」

 男の銃が、野良猫に向けられる。その後、ゆっくりと引き金に指が掛けられた。次第に男の息遣いが荒くなってきた。何も知らない前方の野良猫は、サスケを威嚇しながら、略奪した餌を満足げに食っている。

 そして…… 男の指に力が入った。

 何かの抜ける様な、軽いプラスチックが擦れる音とともに、銃弾が発射された。その弾は、目標の野良猫に向かって、一直線に飛んで行った。

 突然、野良猫が宙に舞う。転がる様に仰け反ると、立ち止って辺りを見渡していた。

 男が、ニヤリと笑うと、もう一発、銃弾が放たれた。すると、再び野良猫が後ろに転がると、一目散に逃げ出していた。

 二発目は、野良猫の額に、見事命中していたのだ。スコープをサスケに向けると、男の行動を全て見ていたかの様に、舌を出してこちらを見ていた。

 ドヤ顔の男は、スコープ越しにサスケを見ながら親指を立てると、ゆっくりと窓を閉めた。そして、平和になった部屋の中で、再びパソコンに向かっていたのである。

 この男の名前は、『香取総一郎』。この家の長男で、十九歳。

 高校を卒業したものの、働く意欲が無いと言うか…… まあ、学生の頃から引き籠り気味だったこともあって、就職はしていない。

 とにかく、一日中、部屋の中でパソコンを弄っている、俗にいう『ニート』なのだ。


 玄関では大きな物音がしたかと思うと、物を放り投げた音とともに、勢いよく階段を駆け上がってくる足音が家中に響き渡る。そして、激しく扉を閉める音がした。暫くすると、再び激しく扉が閉まると、さっきの足音が廊下から階段へと駆け巡る。そして台所に向かったかと思うと、引出しの中を弄る音がした。何やら棚の上の瓶から金属音も聞こえてくる。どうも小銭の音の様だ。

 その時、玄関が開いた音がした。

「さっちゃんっ! 帰っていたの?」

 どうも、母親が買い物から帰ってきたようだ。そして、娘の名前を呼んでいる。

 そう、さっきから家中を掻き回していたのは、さっちゃんこと『香取幸子』。

 十七歳になる長女で、総一郎の妹である。

「あら、さっちゃん。何やっているの……」

「うるせえな、クソババアッ! 銭…… 銭くれよ」

「ああ、はいこれね。今日の小遣いです。ところで、今日も遅くなるの?」

「関係ぇねえだろう。ほんと、うざいんだよっ!」

 幸子はそう言って、母親からお金を奪うと、玄関から飛び出していった。外からは、改造したバイクの爆音が遠のいて行った。

 幸子は、名門の進学校を首席で入学していた。幼い頃から何故か天才的な頭脳を持っていた幸子は、小学校の時には、既に高校性クラスの問題を難なく解いていた程だった。その為か、中学三年生の時は大学生並みの頭脳を持っていた幸子は、クラスの中でも浮いた存在となっていたのだ。友達も出来ずに、毎日が一人ぼっちだった。高校に行けば、それも、同じ様なレベルの所に進学すれば友達が出来ると思った幸子だったが、高校に行っても学年トップどころか、そこの学校のトップの成績だった事で、やはり周りから敬遠されていたのだ。

 存在感を失った事で思い悩んだ幸子は、不良になれば友達が出来ると思ったのか、高1の夏休みから夜遊びを始めるようになった。ゲームセンター通いから始まった夜遊びは、そこで知り合った仲間の影響から、暴走族へと発展していった。そして今では、その暴走族のリーダーまでなってしまったのである。

 母親の『香取久美子』も、そんな幸子の事を心配していたが、如何してよいか解らないまま、毎日を過ごしていた。

 幸子が所属している暴走族は『鬼姫』と言う名前の、レディースチームだった。構成員8名と少人数だったが、幸子を含む仲間達の根性は、周りを圧倒させるものがあったのだ。その為に、他のチームとも同盟関係にあった。

 この日も、夜の街を暴走する為に、幸子は仲間達の所に向かったのだ。

そんな幸子だったが、母親の久美子は本当の幸子の心を知っていた。そして、最後まで幸子の事を信じているのだ。

 家を飛び出した幸子は、仲間の典子の所に行っていた。

「のりこっ、今来たよ」

「総長。結構早かったですね。今夜も、走り入れるんでしょ……」

「うん、そうだよ。仲間、集めといて……」

「はいっ、わかりました。これでも飲んで、そこに座っていて下さいよ」

「うん、ありがとう」

 幸子と典子の会話を聞く度に、やはり、恰好は粋がっていても、心の中は少女のままだなって思う。


 香取家では、幸子が散らかしていった台所の棚を久美子が片付けている。床に落ちたハサミや栓抜き等を引出しにしまうと、食卓に置かれた小銭入りの瓶を、元在った棚に戻している。その小銭の瓶は、中学生になった幸子が毎日のお小遣いを貯めていたものだった。今は辞めていた幸子だったが、代わりに久美子が毎日百円ずつ瓶の中に入れていたのだ。その瓶を手にした久美子は、中身を見ながら微笑んでいた。

 瓶の中からは、全額持ち出してはいなかったのだ。今日の使う分だけを、持ち出していた。

 そこへ、再び玄関の方が騒がしくなった。

「ただいまっ! おおっ、腹減ったぁ…… 母さんっ、居るんでしょ」

「誠二さんっ! おかえりなさい。ちょっと待っててね、ここ、片付けたら何か作ってあげっるわね」

「うん、それじゃ、部屋に居るから…… 出来上がったら呼んでくれるっ」

「はぁい、解ったわ」

 何処となく甘えん坊の子と、過保護の母親の様な会話が家中にこだました。その後、靴を脱ぎ捨てる音とともに、階段を駆け登る足音が響く。台所から出て来た久美子は、誠二が去った後の靴を揃えると、再び台所に入っておやつのホットケーキを焼いている。

 

 部屋に入った誠二。そう『香取誠二』は、ここの次男で十八歳になる。先程出掛けて行った幸子の兄でもある。性格は…… まあ、極普通の高校三年生。成績も中の下といったところだ。運動神経も、然程良くはない。ただ…… 如いて言えば、好奇心が旺盛なところだ。

 それは、趣味に出ている。出ていると言っても、全てが中途半端な部分が多いが……。

 兄の総一郎の影響か、アニメのフュギア収集やモデルガンを持っていたり、妹の幸子の影響なのか、バイクに興味を持ったりと様々だ。その他にも、ラジコンカーやテレビゲームと言った物までやっていた。しかし…… さっきも言ったが、全てが中途半端。

 フュギアは景品の安物、モデルガンは、一応はエアーガンだが、短銃を一丁だけ持っている。ラジコンも走れるぐらいのパーツが揃っているだけで、余り乞ってはいない。バイクも、古いスクーターを知り合いに安く譲ってもらった物だ。一応、大型バイクは欲しがってはいるが、高校卒業して社会人になった時に購入しようと思っている。

 部屋の中は、そんな誠二の性格が諸に浮き出ている。漫画の本やプラモデルなどが、無造作に置かれているカラーボックス。さっき言った安物のフュギアが所狭しと並べられた勉強机。余り、参考書などは置いていないのが現状だ。その横にあるサブデスクには、兄の物とは比較にならない、ただ、インターネットが出来ればいい程度のパソコンが一台。それも、ノートパソコンだ。窓際にはシングルベッドが置かれ、朝からそのままの状態になっている、乱れた布団の上には、学生服が大雑把に脱ぎ捨てられている。因みに、布団の下には、アダルト本とアダルトのDVDが隠されている。ノートパソコンは、その為にも活躍しているのだ。そして床には、脱ぎ捨てられた洋服が散らばっている。普段は、母親の久美子が誠二の居ない時に、その洋服を持ち出し毎日洗濯をしている。その為か、誠二のコレクションであるアダルト本などの存在は、全て久美子にばれていた。

 そんな誠二が部屋の中で寛いでいると、階段の下から久美子の声が耳に届く。

「誠二さん、おやつのホットケーキが出来ましたよ。早く降りてらっしゃい」

「うん、わかった。今から降りて行くよ」

 そう言った誠二は、お腹を摩りながら、部屋を出て行った。階段で、下からおやつを持って登ってくる久美子と擦れ違う。

「それ、お兄ちゃんの分? お母さんも大変だね」

「総一郎さんも、きっとお腹を空かしていると思うから、作ってきたのよ。誠二さんの分は、食卓の上に置いてありますから……」

「はい、ありがとう。それじゃ、先に食べてるね」

「いいですよ。お母さんも後で頂くから」

二人は、普段よりも少し小さめの声で、他愛もない会話をした。久美子は総一郎の部屋の前に、ホットケーキの皿とコーヒーの入ったカップを置くと、

「総一郎さん、おやつのホットケーキをここに置いておきますね。冷めないうちに召し上がって下さい。食べ終わった頃に、また、取りに来ますから…… ここに置いといて下さいね」

そう言って、部屋の扉の方に何度も振り向きながら階段を降りて行く。その後、久美子が台所に入った音が階段に微かに響いたと思うと、総一郎の部屋の扉が開いて静かにおやつの入った皿とカップが部屋に運ばれた。


その日の夕方、仕事を終えた父親が帰宅した。名前を『香取政隆』と言った。

長年働いてきた鉄工所では、課長と言う管理職まで出世していたが、昨今の不景気の煽りの為に、数年前と比べると帰宅時間が早くなってきていた。長女の幸子が高校に入学と同時に購入した家も、その煽りのせいで毎月のローンが家計に響く。

「ただいま、先に風呂に入るよ」

「おかえりなさい。丁度いい具合の湯加減になっていると思いますから、どうぞ入って下さい。その間に、夕食の方を温めておきますね」

「ああ、頼む」

 政隆が玄関に入るのと同時に、久美子が出迎えていた。そして、全てを準備していた事で何の違和感も感じないまま、政隆が風呂に向かう。

 リビングでは、父親の帰りを待つ誠二の姿があった。ソファーに座って粗末なバラエティー番組を観ながら、愛想笑いにも似た様な凡笑に耽っている。そこへ入浴を済ました政隆が、バスタオルで頭を拭きながらリビングに入ってきた。

「ああ…… お帰りなさい、お父さん」

 テレビから眼を離さずに、扉の音だけを聞いて話をする誠二の言葉に、

「おお、帰っていたのか。ただいま。それじゃ、飯にするかな」

 そう言いながら、頭を拭いていたバスタオルを、食卓の椅子の背凭れに掛けると、徐に椅子に座る政隆だった。そこへ、テレビの方に顔を向けたまま、誠二が食卓に来ると、

「もう、テレビばかり観ていないで、早く座りなさい」

と、久美子が夕食のおかずを食卓の上に並べながら誠二に向かって言った。

「ああ、ごめん」

 誠二が椅子に座ると、支度を済ませた久美子も椅子に座った。

「それじゃ、食べましょうか」

 家族三人…… の夕食。

 政隆の箸が食膳に進む前に、吐息にも似た小さな声が口から発せられる。

「総一郎と幸子は…… 」

「……」

「何時もの事か…… 」

「はい…… 総一郎さんは、部屋で食べると言っていましたから、先程、持っていきました。幸子さんは、今日はいらないと言って出掛けたままです」

「本当に…… 性の無い奴等だな」

「まあまあ、あの子達にはそれなりの考えがあるのでしょうから……」

 そう言って食事を済ます久美子だった。それを黙って見ている政隆が、ゆっくりと食事をしている。二人の前では、テレビを気にしながら食事をしている誠二だった。



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