第4話:ひまわりの詩
数年後。
かつての廃墟は、世界で最も美しい植物園として蘇っていた。
その中心には、一体の錆びたロボットの像が、当時のままの姿で安置されている。
人々はその像を「太陽の庭師」と呼んだ。
彼の腕の間からは、今も変わらず、黄金色のひまわりが咲き誇っている。
ハルカは、その庭園を管理する責任者として、日々、新しい芽に水をやっている。
彼女の手元には、あの日のエムの心臓を解析して作られた、新しい環境浄化システムがある。エムの献身は、今や一つの庭を越え、地球全体を癒すための技術として広がっていた。
「おはよう、エム」
ハルカは、錆びた金属の肩を優しく叩く。
風が吹くと、ひまわりがカサカサと音を立てる。それはまるで、エムが照れくさそうに笑っている声のように聞こえた。
第一章の、命を懸けた魚。
第二章の、声を捧げた青年。
第三章の、心臓を埋めた鋼鉄。
この博物誌に記された彼らは、形は違えど、皆同じ光を放っていた。
自分を使い果たし、誰かの「明日」を孵化させること。
その愛の形は、種となり、歌となり、太陽となって、この世界をいつまでも温め続けるだろう。
ハルカは空を見上げた。
雲一つない青空の下で、数え切れないほどのひまわりが、一斉に風に揺れている。
その一輪一輪が、かつて誰かが捧げた「献身」の証のように、誇らしく輝いていた。
(第三章:鋼鉄の心臓と、ひまわりの約束・完)




