勘違い① 過剰接触による責任の確認書(なお本人は無自覚)
※勘違いから始まる、軽めのラブコメ短編です。
※深刻なざまぁや断罪要素はありません。
【確認書】
私、ルクス・アルディエは、
ローゼリア・ランディーネに対し
明確な好意を持ち、
かつ軽率な行動により
彼女に誤解を与えかねない距離感・接触を行ったことを認めます。
なお、これにより発生する社会的責任について義務を放棄した場合――。
「ローザ。なんだこれは?」
彼の執務室。その場で私は自作の書類を突きつけた。
「噂によると、男性の責任逃れが横行していますの」
「ほぉ」
ルクス様が、書類を確認する。
そして、ある1点を指差した。
「ちなみに、ここ。最後の、義務を放棄した場合……の先が書いてないが」
「そこは思いつかなかったんです。でも、ルクス様と一緒に考えればいいと思いまして!」
◇◇◇
ようやく、はた迷惑だった、自称平民(中身は王女)が学園を去り、私は浮ついていた。
真面目だと評判な王子様。
淡白に見えたルクス様があんな事をするなんて――!
あれから姿を見かけると、身体が飛び跳ねる癖がついてしまった。
まともに顔が見られないなんて……。
「本当に罪作りな人だったわ」
――!
声に出てた!?
慌てて、周囲を確認すると、近くに令嬢たちが集まっていた。
どうしたのかしら。
顔見知りばかりだわ。
前回の被害者、『裏切られた女性同盟』の人たちだ。
「皆さま、どうかなさったの?」
「ローゼリア様!実はみんなで反省会をしていまして」
「ええ。やはり男性って……」
「「最低ですわ」」
皆さんの深刻さが伝わってくる。
あんなに、婚活にやる気を出していたのにどうしてかしら。
「あれ、フローラも混じっているの?」
「わたしは、皆さんに相談されちゃってねぇ。悩ましいわ」
「相変わらずフローラはお姉様キャラね。だからかしら?」
私は相談されたことがない。
「そうなんです!口づけまで許してしまったのに、そんな事はしていない、の一点張りで!」
ワッと泣き出してしまうその中の一人。
他の女性からも、非難の声が上がる。
「なんでも謝ればいいと思ってるのですわ!」
「ええ、認めなければ逃げ切れると考えて!」
圧が凄い。
「まぁ〜。皆さま、こういうことなのかしら。証拠がないから、男性は無責任に手を出して逃げる、と?」
フローラの言葉に、その場が静まり返った。
「それですわ!全てそこが原因かもしれません!」
「ええ!あの時に、言い逃れできない状況を作るべきでした」
どんどんヒートアップしていく彼女たち。
――思い当たる。
無責任かどうか知らないけど、ルクス様は口づけしてきたわ。
でも、将来を約束するような言葉は言わなかった。
これは。
「フローラ、どうしましょう!私も騙されているかもしれないわ」
「あらあら。でも、ほら。今、皆さんの答えが出たでしょう?」
頭を撫でながら、フローラが宥めてくれる。
こういう所が好きだ。
「証拠。言い逃れできない、確実な証拠を作るわ」
「えぇ、ローザなら大丈夫。きっと出来るはずよ」
私たちは手を取り合って、頷きあった。
◇◇◇
私は公爵邸に帰って、机に座った。
ペンを取る……が。
「ねぇ、マーサ?契約書ってどう書くのかしら」
「普通は、守るべき条件、破った時の処遇。それに、同意した相手と自分が署名するのが一般的でしょうか」
曖昧だわ。
わからない。
こういう時は――。
「お父様ね!伊達に公爵なんてやっていないはずよ。それらしい契約書類なんてたくさんあるはずだわ!」
「待ってください、流石にそれは……!」
「行くわよ、マーサ!」
肩を落としたマーサと一緒に、お父様の執務室に忍び込む。
書類の束から三枚だけ抜き取って部屋に戻った。
「えーと……。ややこしいわね。甲だとか乙だとか。丸ごと書き写して、部分的に書き換えましょう」
「……お嬢様、それは商業契約書のような気が」
「ん?この契約を破った場合の処遇……。これは二人の問題よね。空白にしておきましょう。マーサ、何か言った?」
「いえ……。大丈夫、いくらかマシです。ええ」
私は二枚目を書き写していく。
「うーん、土地?土地ねぇ……。王子にも私にも必要なさそうだけど。まぁ、一応あっても困らないわよね……」
何が役に立つかわからない世の中だ。
「えーと、外交??外交はまずい気がするわ……。でも、決定打として持っていても無駄にはならないかもしれないわ」
「……外交」
マーサが視界の隅で頭を抱えている。
「……出来たわ!これで完璧な言質を取ってみせるわよ」
私は、渾身の出来の契約書を上に掲げた。
◇◇◇
「ルクス様、これを見てください!」
私は、執務室に突撃した。
既に顔パスだ。
外の兵士も買収済で、ウィンクしてくれる。
「なんだこれは?『過剰接触による責任?』」
「ええ!」
私は、机に手をついて力説した。
「噂では、簡単に女性に手を出して逃げる男性が多いと聞きました。ですから、これです。ルクス様にも、責任を負ってもらおうと!」
「うわ~……。ローゼリア嬢。それはわざわざ罠にかかりに行く獲物みたいな……」
「サイラス。黙ってろ」
意識していなかったが、ルクス様の後ろにはサイラスが控えていた。まぁ、補佐官だし当然か。
「どうですか。怖気づきました?」
(これで逃げ道を塞ぎましたわ)
ルクス様は、フッと笑ってペンを手に取った。
「ここの、罰則規定はどうする?」
「もちろん、逃げられないように責任を負わせる条項を入れますわ」
「じゃあ、これでいいな」
サラサラと彼の手が動いていく。
さすが。
書類慣れしている。
「よし、これで完璧だ。三枚とも署名したぞ。俺が約束を破ったら一生責任を取る」
(よし!皆さま、フローラ。やりましたわ。ルクス様に逃げられない首輪をつけられました!)
「うわー……これは。どっちにしても逃げられないね」
サイラスの声は、勝利に酔いしれていた私に届かなかった。
◇◇◇
月の光りが照らす部屋。
明かりはすでに消えている。
静かな静寂の中、彼は一枚の紙を取り上げる。
外交用の契約書を引用したらしい、ローザ直筆の書類を眺めた。
ルクスの口元には自然と笑みが溢れた。
「相変わらず可愛いな、ローザは」
【完】




