あなたと結婚してあげる。嬉しいでしょう。と、元婚約者に言われました。貴方となんてお断りします
「レイド。わたくし、今度、お誕生日なの。薔薇の花を1000本、届けて下さらない?勿論、誕生日プレゼントは別に貰うわ。とても楽しみにしているわね」
婚約者クラウディーナの言葉に、またかと、レイドはうんざりした。
王立学園に通うレイド・ジュヘル公爵令息。歳は18歳。
金の髪に青い瞳のレイドは、自分の容姿には自信がある。
婚約者のクラウディーナ・ハレス公爵令嬢との仲は良好だ。
先行き、ハレス公爵家に婿入りすることが決まっている。
同い年のクラウディーナは、贅沢好きで、我儘な令嬢だが、なんとか機嫌を取ってやってきた。
自分の将来の為に。
ジュヘル公爵家は兄が継ぐことになっている。
今日もクラウディーナの機嫌を取って、くたくたに疲れていた。
王立学園の授業が終わり、クラウディーナの手を取り、馬車までエスコートする。
クラウディーナはにこやかに、
「有難う。貴方はとても気が利くわ。お父様に貴方の事を良く言っておくから」
「くれぐれもハレス公爵によろしく頼むよ」
クラウディーナは美しい。金の髪に青い瞳の彼女と自分とは絵になる程、似合いだと思っている。
クラウディーナは我儘だ。街に馬車で出かけた時は、
「指輪が欲しいわ。プレゼントして頂戴」
貴族御用達の店に連れて行かれて、指輪をプレゼントするはめになった。
とても高いエメラルドの指輪だ。
クラウディーナはハレス公爵家の一人娘だから、とてもとても我儘なのだ。
エメラルドの指輪だけではなく色々と強請られた。
全て婚約者との交流資金だといって父に頼んで出して貰った。
父はとても節約家で必要経費しか認めない男だ。
だが、ハレス公爵家に婿に行く話が壊れてしまって、困るのはレイドなので、いつも父に頼んで色々とお金を出して貰った。
公爵令嬢だから仕方ない。
でも、母はクラウディーナ程、お金を使わないぞ。
そして、誕生日に薔薇の花を1000本、欲しいとか、別に誕生日プレゼントを用意しろとか、本当に物を欲しがるクラウディーナに疲れを感じていた。
婿入りしたらしたで、仕事はレイドが全てやることになり、クラウディーナは贅沢をしながら好きなだけ遊び呆けるのだろう。
ハレス公爵家に婿入りしたい。
ハレス公爵になりたい。
でもでもでも、これで本当に良いのだろうか?
こんな女を妻にして私は幸せになれるのだろうか?
婚約を解消する?
公爵家同士の婚約だ。
贅沢だというだけで、婚約解消を申し入れたら、向こうは慰謝料を請求して来るだろう。
仕方ないので、誕生日プレゼントは、金と銀と宝石をあしらった豪華な髪飾りと千本の薔薇の花を贈る事にした。
誕生日パーティは、王都のハレス公爵家の屋敷の庭で行われるという。
王立学園のクラウディーナと同じクラスの生徒達や、ハレス公爵家の派閥の家の人達が招待されていた。
豪華な深紅のドレスで着飾ったクラウディーナ。千本の薔薇の花を届けたら、その花で庭が飾られていた。
プレゼントした髪飾りもクラウディーナの金の髪に飾られている。
エスコートしようとした。
だが、自分の前に背の高い黒髪の見かけない男性がクラウディーナにすっと手を差し出してエスコートしたのだ。
誰だ?知らない男だぞ。クラウディーナをエスコートするのは自分のはずだ。
その男は自己紹介をパーティ会場の招待客にした。
「私はアルド帝国のヘンリー皇太子だ。この度、クラウディーナ嬢の誕生日パーティに招待されたのだ。噂以上に美しいクラウディーナ。どうだ?帝国に来ないか?私の妃になって欲しい」
「まぁ、ヘンリー様の妃に?未来の帝国の皇妃に?」
「ああ、君のような美しい女性が私の隣に並び立ったらどんなに素晴らしい事か」
レイドは慌てた。
ハレス公爵家に婿に来るのは自分だ。
クラウディーナがハレス公爵家を出てしまったら、どうなるんだ?
ハレス公爵はヘンリー皇太子に、
「クラウディーナは一人娘です。我がハレス公爵家を婿を取って継ぐ立場です」
ヘンリー皇太子は、
「養子を取ればよいではないか。帝国へ来れば金銀財宝思うがままぞ。着飾って私を楽しませておくれ」
クラウディーナは目を輝かせて、
「お父様お母様。わたくし、ヘンリー皇太子殿下と結婚するわ。この家を出ていきます」
ハレス公爵が、
「それは困るっ。クラウディーナ。考え直しておくれ」
ハレス公爵夫人も、
「そうよ。貴方が帝国へ行ったら寂しいわ」
クラウディーナはヘンリー皇太子を見つめ、幸せそうに、
「わたくしの幸せは帝国にあります。ですから‥‥‥」
初めてこちらを見るクラウディーナ。
「貴方とは婚約解消するわ。レイド。今まで有難う」
そう言われてしまった。
自分の将来は真っ暗になった。
今更、婿入り先を新たに探す?もう18歳。目ぼしい婿入り先は残っているのだろうか?
華やかなハレス公爵としての未来は?
今まで耐え忍んで来たのは、自分の将来の為だったのに。
涙が零れる。
しかし、ぐっとクラウディーナの方を見つめ、
「解りました。詳細は父と話し合って下さい。どうかお幸せに。クラウディーナ」
「有難う。レイド」
悲しかった。ジュヘル公爵家に戻ると、事の次第を父母に話した。
父は怒りまくって、
「慰謝料を請求せねばな。向こうの都合での婚約解消だ。うちの息子に落ち度はない」
母もレイドに向かって、
「探しましょう。貴方の婿入り先を。よい所をわたくしが探すから。ね?」
有難かった。
すぐにクラウディーナはヘンリー皇太子と共に隣国へ行ったと聞いた。
ヘンリー皇太子はクラウディーナと婚約を結んだとの事。
悲しかったが仕方ない。
父母は必死に婿入り先を探してくれているようだ。
なかなか見つからない。
そんな中、ハレス公爵家に再び呼ばれた。
「私の姪のジュテリア・マセル伯爵令嬢。歳は18歳。ジュテリアを私の養女に迎えて、ハレス公爵家を継がせようと思っている。ジュテリアと婚約を結んで貰えないだろうか」
レイドにとって、ハレス公爵になれるチャンスが再び巡ってきたのだ。
父母に了解を取るまでもなく、レイドは、
「よろしくお願いします。ジュテリア嬢と婚約を結びたいと思っております」
ジュテリアと後日、会った。
ハレス公爵家のテラスで。
黒髪黒目のジュテリアはまっすぐにこちらを見つめて来て、
「貴方にとってもわたくしにとっても大きなチャンスが巡って来たわ。わたくしは綺麗でないし、家を出て、王宮勤めをするしかないと思っていた。だから今まで婚約者はいなかった。でも、大きなチャンスが巡って来たわ。ハレス公爵夫人。悪くないじゃない。貴方だってハレス公爵になりたいんでしょう。だったら手を組みましょう。これは契約よ。貴方とわたくしの契約結婚。お互いに高みに登る為の契約結婚よ」
レイドはおかしく思えた。
「面白い事をいう。貴族の結婚に愛だの恋だのは入らないとは思うけれども。悪くないな。君とは契約と割り切って、結婚するのも悪くない」
「子供はどうするの?白い結婚にするのかしら。わたくしとしては子は欲しいわね。公爵夫人としての立場を万全にするためにも。貴方がわたくしに種をくれないのなら、他で貰うわ。だって、わたくしの血が大事なんですもの」
「おや、言うね。勿論、婿に入るからには、しっかりと種付けをさせてもらうよ。私だって自分の子は欲しい」
「種付けですって。まぁ、貴方って堂々と言うのね」
「いや、先に言ったのは君だろう?」
二人して笑った。こんな楽しい令嬢となら、先行き、楽しい未来になりそうだ。
そう思えた。
王立学園を卒業後、すぐに二人は結婚した。
ハレス公爵家に二人して住み、ハレス公爵から色々とレイドは教わっている最中だ。
ジュテリアも公爵夫人に可愛がられて、未来の公爵夫人として勉強している。
ジュテリアと一緒にいると毎日楽しい。
ジュテリアは必要なもの以外、買わないし、かなりしっかりしている令嬢だ。
物をズケズケ言ってくるのも楽しかった。
「さぁ子作りしましょう」
「普通、そういう事は言わないぞ。妻はもっとおしとやかな物だけどな」
「いいじゃない。貴方とわたくしは契約で結婚したのですもの」
「ええ?まだ契約なのかい?私は別に契約で結婚したとは思っていない。君の事が好きだから。普通に結婚したでいいじゃないか」
「いえいえ、契約よ。契約。でないと。わたくしみたいな女が貴方に愛されていると思えないんですもの」
「え?今、君の事を好きだと言ったけど」
「わたくしのどこが好きなのよ」
「物をズケズケという所」
「勿論、他に人の前では言いません。公爵夫人になったら、おしとやかに、でも、時には強かに振舞うわ」
「そうだね。まぁそれが公爵夫人の在り方だね」
「で?子作りするの?子供はいないとまずいわ」
「あああ、勿論、するよ。当然じゃないか」
本当に可愛くて愛しいジュテリア。昔の婚約者、クラウディーナの事なんてすっかり忘れていたのに。
あの女が帰って来た。
クラウディーナがとある日、突然、帰って来たのだ。
ハレス公爵夫妻は喜んで出迎えた。
「やはり我が家が恋しくなったのか?クラウディーナ」
ハレス公爵が言えば、クラウディーナは、
「騙されたのよ。わたくし、婚約者にはなったけれども、ヘンリー皇太子は他にも婚約を結んだ女性が何人もいて。贅沢させてくれればいいと思ったの。でも、わたくしは一人ぼっちで。周りの女性達から馬鹿にされて。結局、ヘンリー皇太子とは結婚出来なかったわ。愛妾ならどうかって。馬鹿にして。だから戻って来たの。わたくしがハレス公爵家を継ぐわ。あら?レイド。貴方いたのね。わたくしがあなたと結婚してあげる。嬉しいでしょう。あれだけわたくしの事を愛していたのだから」
レイドはハレス公爵に聞いた。
「私はジュテリアと結婚しています。貴方となんてお断りします。絶対に嫌です。
どうするんです?義父上、義母上」
ジュテリアがレイドの傍に来て、手をぎゅっと握った。
ハレス公爵はクラウディーナに、
「我が公爵家はレイドとジュテリアに継いで貰う。クラウディーナには別に家を与えてだな。私の資産から‥‥‥可愛い可愛い娘だから生活だけは困らないように」
クラウディーナは怒りまくった。
「ここはわたくしの家よ。お母様、そうでしょう?」
ハレス公爵夫人は、
「でも、貴方は隣国へ行ってしまったわ。そこで、貴方の公爵家を継ぐという権利は失われたの。貴方を嫁に出そうにも貰ってくれる家もないでしょう。生活には困らないようにするから。ね?クラウディーナ」
「だったら、わたくし、ここに住むわ。ここはわたくしの家よ」
レイドははっきりとクラウディーナに、
「ここはいずれ、私とジュテリアの家になります。貴方には出て行って貰う事になります。ジュテリアは正式にハレス公爵家の養女になっており、私は婿入りしております。貴方が出て行った時点でこのハレス公爵家に住むという権利も失われております」
「わたくしは実の娘よ。娘っ」
レイドははっきり言ってやった。
「私が嫌なのです。貴方と一緒に住むことが。貴方は私の妻ではない。ずっといられたら困ります」
ハレス公爵は、咳ばらいをして、
「そうだな。これはけじめだな。クラウディーナには別宅を用意しよう。そこで過ごすがいい」
「嫌よ。ねぇ。本当はわたくしの事を愛しているんでしょう。わたくしの方がジュテリアより綺麗よ。プレゼントだって沢山くれたじゃない」
レイドはジュテリアの手を取って、
「私が愛しているのはジュテリアです。貴方ではない」
ジュテリアは涙を流して、
「嬉しい。ああ、ご報告が。わたくしお腹に赤ちゃんが」
ハレス公爵が、はっきりとクラウディーナに、
「という訳だ。公爵家の娘として生まれたからには、クラウディーナ、解っておくれ。お前がちゃんと生活できるように、支援するから。お前は愛する私の娘だ」
クラウディーナは泣きながら、部屋を出て行った。
レイドは毎日幸せだ。
愛しいジュテリアのお腹には新しい命が育っている。
クラウディーナは別邸での生活が嫌でたまらないらしく、ハレス公爵に文句を言ってあまりにも我儘なので、修道院へ送られた。
あれだけ可愛がっていた愛娘を修道院へ送らざる得ないハレス公爵夫妻は辛かっただろうと、レイドは思った。
「あら、お腹が動いたわ」
「私達の子が、元気で何よりだな」
過去の事なんでどうでもいい。
ただ今は愛しい妻との幸せを満喫するレイドであった。




