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新しい冒険

 大魔王が倒されて、一か月が経過していた。

 好美と暮らすことになったサージが、これって結婚したようなものだよなあとか、エレメンタルウォリアーなんて買ったおぼえのないゲームなんだけど攻略本がある位なんだからある事はあるんだろうなとか、物思いにふけっていた頃、王都では頭を抱えている人たちがいた。

 何しろ、大魔王が倒されたのに肝心の勇者が名乗りをあげなかったのだ。

 本来のゲームなら、キャラメイキングをした時点で好美が世界を救った勇者だと人々が認識を上書きするはずだったのだが、好美自身が勇者であることを隠していたせいで勇者は行方不明になっていた。

 魔物たちが弱体化しているから大魔王が倒されたのは確かだが、本当に世界が平和になったという保証がないのだ。

 好美にしてみれば、フリーモードになっても冒険も戦いも続いてて、別に平和になってないのに勝利宣言する意味はないと無責任に思っていた。


        ◇ 


 国王フリデレックは、久しぶりにスーサン姫が自室から出てきたことを喜んだ。

「長らく心配をおかけしました」

 そう言って姫は玉座の父王にお辞儀をした。

「元気になって何よりだ。スーサン」

 スーサンはユ-マを慕っていたが、勇者ユーマはその気がなかった。ユーマの人格が少女だとは知らなかった国王は、まあ勇者とはいえ平民だから彼は分をわきまえていたんだろうとしか思っていなかった。だから勇者に対してはその辺は恨んでいなかった。

 しかし、ずっと音沙汰がないのはいただけない。勇者には従者もいたらしいが、彼の事もよくわかっていない。

 こうなると大魔王と相打ちになったという噂も信ぴょう性をおびてくると思っていた。

 勇者が行方不明になってスーサンはずっと落ち込んでいたが、時間をかけて元気を取り戻した。

 王には他に子がなく王妃はとっくに病死しており、二人しかいない王族が久しぶりにそろったのだ。王にはやろうと考えていた事があった。

 それは勿論、新しい勇者を決めるための武闘大会とかではない。

「勇者が戻らない以上、大魔王討伐を宣言するのは余の役目だ」

 王は勝利宣言とそれに伴う祝賀会を行うことに決めた。


        ◇


 今日も村にある酒場で俺はスプーンを曲げていた。

「曲がれ!」

 俺がスプーンを曲げるのを好美が目を輝かせてみている。いつもの後掲の筈だった。

 あいつも一緒にいる以外は。

「ちくしょーっ! なぜ曲がるーっ!?」

 青いコートを着たボサボサ髪の男が、俺の目の前にいた。

 こいつの名前はハン・スロット。錬金術師だ。アイテム作成イベントで出てくるキャラで、ゲームでは名前がなかったしどの町や村でも同じ顔だったと好美は言っていた。

「こいつは、ギガントアーマー同じ合金でできてるんだぞ! ビッグライノスの突撃でも耐えられるのに、どうして曲がるんだ?」

 先週、俺が曲げられない金属のスプーンはないと酒場で言っていたのを聞きつけて、彼は鋼鉄製のスプーンを三日前に持ってきたのだ。

 それを難なく俺が曲げたら、今度は合金製のスプーンを持ってきた。懲りない奴だとは思うが、曲げられたら飯をおごってもらえるので付き合っている。

「次はアリスタンで勝負するからな! 絶対に見つけてやる!」

 金貨をテーブルに置いたスロットは、立ち上がって店から出て行った。

「いや、アレって勇者じゃなきゃ手に入らない金属でしょ」

 その勇者をやめた好美がとぼけた顔で呟いた。

 実はアリスタン製の鎧も持ってるが、人前で見せる物ではないので死蔵していたりする。アリスタンの材料も余っているが、スロットに売って作らせたスプーンを俺が曲げるっていうのも気の毒な気がする。

 そもそも金属しか曲げられないので木の串を芯に通せば済むことなのだが、そこは錬金術師のプライドが許さないようだった。


        ◇


 今日からwの俺達の仕事は、街に行く旅人の護衛だ。

「て、お前なのかよ」

 依頼人はスロットだった。

 何でも、街では祝賀会とかいうでっかいお祭りがあるので、全国各地から様々な商品が売られているらしい。

 どうやら、アリスタンを探しに行くらしい。まだ諦めていなかったんだな。

 アリスタンは頑丈な金属なだけあって精製時の形状から変えられないので、ユーマの鎧を好美のサイズに作り直したりとか出来ない。当然スプーンを作ったらずっとスプーンのままなので素材の価格を考えると勿体ないことこの上ない。

 それだけ本気という事なのだろうか。

 まあ、仕事は仕事だから引き受けるけど。

 好美が攻略本にないイベントだって言ってたので、冒険と無関係な祭りも楽しみだし。

 こうして、俺達三人は街へと往復一ケ月の旅をすることになった。


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