勇者VS大魔王
俺をスカウトする時、勇者はユーマと名乗った。俺も、前世の名前をもじってサージと名乗った。
あの日からずっと、俺とユーマの2人だけの冒険は続いていた。
周りの冒険者たちからは、無謀だとか考え直した方がいいとか散々な言われようだったが、ユーマの意思は変わらなかった。
俺をスカウトしてからは、仲間になりたいと言ってくる冒険者もいなくなっていた。元々ユーマは今までソロで冒険していたせいか、特に気にしていないようだったが。
俺も、勇者に認められた事で自信が出てきて、冒険を頑張っている。
ユーマの剣が赤く輝いた。
「ヒートブレードッ!」
激しく振り下ろされたユーマの剣が、背中からゴリラのような腕が生えたサイのように大きいイノシシの首をはねた。
「フンゴーッ!」
断末魔をあげて、怪物は倒れた。石造りの廊下が一瞬だが大きく揺れた。
ここは、大魔王の城の最深部。ついにユーマは大魔王のいる広間の前の扉を守る、七将軍の最後の将を倒したのだ。
ちなみに俺は、
「曲がれ!」
ユーマが戦っている間、ずっとスプーンに念を込めていた。ユーマが言うには、俺がスプーンを曲げている間は力がみなぎるらしい。
はたから見たら、俺が何もしてないように見えるのはわかってる。しょっちゅう言われてるし。
「おーい、曲がったぞ」
「よくやったサージ」
俺が投げたスプーンを受け止めると、ユーマは背中のリュックサックにしまった。あいつも曲がったスプーンをコレクションしてるらしいが、もう何十キロもしてるリュックをよく背負っていられるな。
剣を鞘に納めたユーマは、大きな扉の前で身構えた。
「ロックナックル!」
ユーマが拳を頭上に振り上げると灰色に変色した。これは、地属性の技だ。
この世界には、地水火風の4つの属性のスキルがある。勇者ユーマは、すべての属性を使いこなしていた。地属性のスキルで石のように固くなったユーマの拳が、一撃で扉を破壊した。
いよいよ、最後の戦いだ!
◇
再び剣を手にして、ユーマは広間の奥にある玉座に向かって走り出した。俺もスプーンを握りながら後に続く。
巨大な石柱が並ぶ謁見の場を駆け抜けると、何段も高くなっている台の上で黒い玉座に座っている男がいた。間違いない、あいつが大魔王だ。
「勇者よ、よくここまで来たな。だが、そこから先は進むことは出来ないぞ。一歩たりともな」
「そんなことはない、オールエレメンタルアタッークッ!」
ユーマの剣が、続いて盾と鎧が光り出した。
全身を金色に輝かせて、ユーマは突進した。途中で見えない壁のような物に当たって前に進めなくなっても、ユーマは激しく石の床を蹴り続けて大魔王に向かって突進しようとしていた。
前にユーマから聞いた話によると、大魔王を守る障壁は全属性を使った合体攻撃で破壊出来ると神殿に保管されていた石板に書かれていたそうだ。通常はそれぞれの属性を持った冒険者たちが力を合わせて発動させるのだが、ユーマは一人で出来るのだ。
「うおおおおーーっ!」
必死の形相で壁を突き抜けようとするユーマと対照的に、大魔王は平然としていた。
「愚かな、このクリアアーウォールは、全属性でも破壊できない。いや、全属性と言うのが間違いだ。正しくは……」
「曲がれっ!」
俺は、いつものようにスプーンに念を込めた。手の中のスプーンが反り返る。
ユーマの眼前の空間に、小さいヒビが浮かび上がった。
「なんだと!?」
大魔王の顔から、余裕が消えた。彼にとって、ありえない事が起きているのだろう。
「そこだーっ!」
ユーマがヒビに向かって剣を突き立てると、見えない壁がヒビだらけになって砕け散った。
「くそっ、どういう事だ!」
大魔王は、両手に大剣と盾を出現させて立ち上がった。全高は3mはあろうかと言う長身だ。
見えない壁を破壊しても勢いが衰えないユーマは、大魔王に切りかかった。
俺は、次のスプーンに念を込めていた。
「曲がれ!」
2本目のスプーンが曲がった時、ユーマの輝く剣が大魔王の盾を砕いた。
「何っ?}
驚きながらも大魔王は、大剣を振り下ろした。ユーマは盾で受け止めようとする。
「曲がれ!」
俺が3本目のスプーンを曲げてた時、大魔王の剣も盾を破壊できずに刀身を折ってしまった。
大魔王が、愕然とした顔をしていた。
「なぜだ! 話が違うぞ!」
大魔王が両腕を高々と上げると、みるみるうちに巨大化し、どす黒い色の龍に姿を変えた。丸太のような二本足と恐ろしく尖ったカギ爪を持った両腕に、20m上にあろうかという天井に届くほどの巨体だ。
「ウインドフライ!」
ユーマは風をまとって宙に跳びあがった。
「これでトドメだーっ!」
「曲がれ!」
俺が4本目のスプーンが曲げていると、ユーマは爪を立てて襲い掛かる龍の右手を突き破ってそのまま首を切り裂いた。
「グイオオオオーー!」
断末魔をあげて、龍は床に倒れた。広間全体が激しく震動した。
◇
大魔王が供給していた魔力が途切れて崩れ出した城の中を、俺たちは駆け抜けた。
こんな時でも、ユーマはスプーンのコレクションを捨てなかった。俺がいればいくらでもまた集められるのに、えらく大事にしてるな。
どこまでも続く暗い廊下の先に、ようやく光がさしているのが見えてきた。
「出口だ、急いでサージ!」
そう言って振り返ったとたん、ユーマは何かに激突した。広間にあったのと同じ、見えない壁だ。こいつは、大魔王の魔力で作られたわけではなかったのか。
ユーマのオールエレメンタルアタックは、1日に何度も使える技ではない。それどころか今までの戦いで、ユーマが今日使えるスキルは使い果たしてしまっていた。何の属性も付与されていない剣で、ユーマは見えない壁を何度も切りつけた。
俺も何とかしなければとユーマの横に並んでナイフを懐から出して曲がったスプーンと持ち替えた瞬間、ユーマの頭上の天井が崩れ出した。
「危ない!」
俺はナイフもスプーンも投げ捨てて、ユーマにタックルをした。ユーマが直前までいた場所に、人の頭位の大きさの岩がいくつも落ちてきた。
「助かったよ、サージ。おい、あれを見ろ」
岩の一つが、壁のあるはずの場所を転がって、スプーンを下敷きにしていた。
「見えない壁がなくなっている。やったなユーマ!」
俺たちは、出口に向かって駆け出した。
遠くからは出口に見えたが、実際は壁の亀裂だった。それでも、ここから脱出するしかないのは明らかだった。
「わーーーっ!」
「うおーーーーっ!」
どっちがどっちの叫び声だったのかも判らないくらいに必死で亀裂から飛び出すと、ほぼ同時に出口が崩れた。まさしく間一髪の脱出劇だった。
後ろから城が崩壊する轟音が聞こえたが、俺たちは振り向く暇もなく荒野を走り続けた。
もう、何も背後から聞こえないくらい遠くまで逃げると、俺たちは椅子の代わりになりそうな岩を見付けて座り込んだ。
「はあはあはあ、ついにやったんだな。ユーマ」
「そうだよ、サージ。俺たちの勝利だ」
俺に向かって笑顔を見せると、ユーマは岩から立ち上がった。
「ステータス!」
ユーマの前に、ステータス画面が表示された。
冒険者レベルやスキルが表示されたウインドウの上に、何か子画面らしいものが浮き上がっている。
『大魔王は討伐されました
ここからは、フリーモードになります
キャラメイキングを1レベルからやり直しますか? YES/NO』
うすうす感じてはいたが、やはりここはゲームの世界だったか。
とはいえ、なんだこの質問は? 折角、大魔王をほとんど一人で倒せるほど成長したのに、今更1レベルからやり直すわけがないだろう。
ところが、驚くべき事にユーマは『YES』を即座にタッチしたのだ。
「バカなことはやめるんだ!」
俺の叫びを無視して、『本当にやり直しますか?』のメッッセージもユーマはYESをタッチした。
ユーマの体が、眩いばかりに光り出した。
「ユーマっ!」
輝きが数秒ほどでおさまると、そこにユーマはいなかった。
かわりにそこに立っていたのは、懐かしい少女だった。
「な、なんでお前が……?」
「あは、やっとここに来れたあ!」
好美が、俺に向かって微笑んだ。




