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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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【BL】異世界に三度呼ばれた俺の話

作者: 志子

 俺はこことは違う……所謂異世界というところに三回行ったことがある。


 はは、「こいつ何言ってやがる? 電波野郎か?」って目をしてるな。俺もそんなこと言われたらお前と同じ事を思う。なら言うなって? 確かにな。……なんつーか、俺なりのケジメ? っていうか……。どうせお前暇だろ? ずっとここにボケっと座ってるし。まぁ、俺のでけぇ独り言だと思って聞き流せ。


 ある日俺は異世界のとある王国に呼ばれた。いきなり足元が光ったかと思うと、次の瞬間にはだだっ広い神殿のような場所にいて、周りには司祭みたいな? 真っ白な服を着た奴らとローブに杖を持ったいかにも魔法使いって奴らと、あと中世ヨーロッパの貴族っぽい奴らが居たんだ。


 そいつらを見て俺は理解した。俺は何かしらの理由で召喚されたってな。ネット小説でそれ系の小説を読んでいたからな。知らねぇ? んー……世界の危機を救うため特別な力をもった……所謂救世主って奴を異世界から召喚して自分たちの世界を救って貰うっていう物語とか読んだことあるか? ……あ? 世界の危機を見ず知らずの人間に託すなどそいつらは馬鹿なのかって? ………くくく。確かにな。まぁそれはあくまでも物語での話だ。俺はそれをガチで体験したけどな。


 ただそいつらが望んだ救世主とらは男の俺でなく聖女と呼ばれる少女だったんだ。


 いかにもインテリっぽい男……宰相ってやつから話を聞けば、自分の国には聖女伝説とやらがあってこの国がかつて危機に陥った時、異世界から少女がやってきて聖なる力で国に漂う邪気を払い、結界を張り魔物の侵入を止めたという。それだけではなく少女の力は病気や傷を一瞬で治したらしい。


 んで、国を救った聖女はその国の王子様に見染められ、結婚して幸せに暮らしたとさ。めでたし、めでたし。


 ん? 聖女は自分の国に帰ろうと思わなかったのかって? さあそれは流石に知らねぇなぁ。そもそもその召喚は一方通行で強制的な片道切符だ。………つまりだ。帰りたくても帰る方法がないんだよ。


 じゃあ、なんで俺がここにいるのかって? ははっ 簡単な話さ。俺の力がチートだったんだよ。


 例えばだ。聖女が邪気のある場所に自ら赴いてそれを払うのに対し、俺は一歩もその場から動かず柏を打つように手を叩いて国全体にあった邪気を一瞬で払った。


 聖女が何日も祈りを捧げて王都に結界を張ったのに対し、俺はその場で手を叩いて一瞬で強力な結界を僻地のほうまで張り巡らせた。


 聖女が怪我人や病人に直接会って治すのに対して、俺はその場で手を叩いて僻地の人間含む国全員の病気や怪我を一瞬で治した。


 その三つを同時にやったんだよ。余りにも一瞬で終わっちまったから、そいつらは俺を疑ったが、調べていくうちに嘘じゃないと分かってさ……くくく。そん時のそいつらの顔といったら……はぁ、今思い出しても笑える。


 チート過ぎる力を持った俺を他国にやりたくないその国はあれこれと俺に仕掛けてきた。金に酒に女。まぁ余りにも明け透け過ぎて逆に萎えたな。お偉いさん方にこれ以上不愉快なことしやがったら結界消すぞって脅したさ。


 そっから比較的平和だったな。んで折角異世界に来たんだからと魔法使いたちが住んでいる塔にちょくちょく遊びに行って魔法の本を読み漁ったり、魔道具を作ったり……。まぁそのお陰で帰る方法を見つけた……というか作り出すことができたわけだが。


 んで、人目を盗んでこっちに帰って来たわけ。ん? 呼び戻されなかったのかって? はは、呼び出すのに相当の魔力を要するらしくて、一回使うと暫く使えなくなるらしい。


 あっちにいたのは五年ぐらいか? 色々あったけど、一番記憶に残っているのはあのクソガキのことだ。


 そのクソガキって言うのはその国の王子様だったんだよ。年は五歳だったっけ? 癇癪持ちのクソガキ。たった一人の子どもだからって国王夫妻に甘やかされ、周りに諫める人間もいない。偏食しまくりで菓子ばっかり食ってるからぶくぶく太って、口癖は「首だ! 首だ!」だ。


 こいつが次期国王なんて、この国大丈夫か? ってマジで思ったわ。


 俺とあいつの出会いも最悪だった。……くくく。今思うとあれは実に可愛らしい虚勢だった。俺はあいつに教育指導ってやつをしてやった。上の連中に咎められたら他の国にとんずらすればいいし。まぁ、俺がいなくなったら大変だから連中は俺に強く言えなかったみたいだったけどな。……ってか最後には俺に丸投げしやがったんだぞ? あいつら。


 ……俺にとってあいつは年の離れた弟みたいなもんだった。こっちに戻る時、あいつだけには別れを言った。あいつは情けないくらい泣いていた。痩せて折角イケメンになったのに……いや、イケメンは泣いてもイケメンだったわ。腹立つ。顔に思いっきり「行くな」って書いてあったけど、俺を引き留めることはしなかった。あいつも大きくなるにつれて召喚に対して疑問を抱くようになっていた。


 ……まあ、結界は最低でも五百年は持つだろうし、今後聖女を呼ぶことにならないように色々魔道具を作って魔法使いたちに託したし、あいつも王子としての自覚をしっかりもったから国として大丈夫だと、そう思った。………思ったんだけどなぁ。


 まさかまた呼ばれるとは思わなかった。しかも呼んだのはあの王子だった。十六歳になっていた王子はイケメン度が増していた。笑うと後光が差す。眩しっ! ってかお前、召喚に対して疑問を抱いていたくせに、なにやってるんだよ。


 王子は俺に相談したいことがあって呼んだらしい。おい。まぁ、帰り方は知っているので王子の相談に乗ることにした。あと魔法使いの連中に「殿下とのお話が終わったら、絶対、必ず、塔に来てください、いいですね?」と何度も念を押された。連中の目がマジで恐かった。黙って消えたのがまずかったらしい。


 んで、王子のプライベートルームでお茶と菓子を食いながら、王子の話を聞くことにした。王子は真面目な顔でこう言ったんだ。「真実の愛とはなんだ?」 と。……危うくお茶を吹き出すところだった。まさか王子からその台詞を聞くとはなっ!


 ん? 真実の愛とは? ……まぁ。おい、おいな。王子の話では自分が通っている貴族学校で一学年下の女子生徒によく声をかけられるとのこと。小柄でピンクの髪をした可愛らしい子で、もともとは平民だったが、母親が男爵家の当主と再婚して自分も貴族になったという。

 

 そして最近、その男爵令嬢と自分の側近候補たちが一緒にいるところをよく見かけると。彼ら曰く彼女は天真爛漫で心が癒されるとのこと。


 おい、しかめっ面になっているぞ? 王子はその男爵令嬢から自分の婚約者と側近候補の婚約者たちから「これだから平民は」と見下され、陰湿なイジメを受けていると相談をうけたと。


 王子は婚約者である公爵令嬢につけている影に確認をとった。王族と王族の一員になる者には必ず王の影がついている。俺も前来た時、自分に影がついていたことに気付いてた。なんせ俺の力はチートですからね。サーチは得意だ。ふふん。


 確認したところ彼女はイジメなどしておらず、寧ろ貴族なら当たり前のルール……例えば、婚約者がいる殿方にむやみやたらに近づいたり、身体に触れるのは淑女としてはしたないこと。下の者が許可もなく上の者に声をかけるのはよくないことを、その都度男爵令嬢に伝えていたらしい。


 しかしその男爵令嬢は「平民ではあたりまえだった」とか「私が平民だから」とか「学園は身分なくみんな平等だって」とか言って泣くらしい。挙句の果てには側近候補たちから「彼女をイジメるな」とか「彼女は貴族になったばかりだ」だとか目くじらを立てられる始末。


 後日婚約者に聞いたら、彼女曰く最近巷で話題の娯楽小説が原因ではないかと……。そういって渡された小説の内容は高位貴族の嫡男と平民の少女がひょんなことで出会い惹かれ合い、あらゆる困難を乗り越えて結ばれるという身分を超えた愛の物語だった。それを読んだ王子はその中に出てきた「真実の愛」という単語が頭から離れなくなったと。


 王子は婚約者や王国夫妻、宰相や魔法使いたちに聞いたが、自分が納得できる言葉を得ることができなかった。困り果てた王子に魔法使いが俺を呼んで聞けば? と提案して俺を呼んだと。あとでその魔法使いをぶん殴った。まさか魔力増幅の魔道具を作り出してたとは……。そしてあいつらは俺に丸投げしやがった。俺だって王子が納得できるような言葉を言えるわけがない。なんも思い浮かばずもう苦し紛れに言ったわ。言いながらお前ハッズ!と自分で突っ込んだよ。なんでもないような顔で言うのは大変だったぞ。まじで。王子は一瞬ポカンとした後、「それがあなたの考える真実の愛か……」と一応? なんとなく? 納得してくれたみたいだった。


 ついでにその男爵令嬢について俺は王子に助言しておいた。まあ、あれだ。男爵令嬢はスパイで重要人物に近づいて情報を得ようとしているかもしれない。彼らにも影を付けて様子を伺えと。あと俺が映像と録音が出来る小型の魔道具を作ってそいつらに渡した。それで録画しろと。


 まぁ、暫くして男爵令嬢とその側近候補は自爆。彼らは肉体関係を持っていた。おっふん。そいつらの処遇は俺に関係ないことなので知らん。


 後日、王子の婚約者である公爵令嬢に呼ばれ、例の件でお礼を言われた。彼女は未来の国母に相応しい気品と知性を持ち合わせていた。ますますこの国は安泰だ。彼女は俺に言った、「愛はなくとも情はある」と。十六歳の少女の目に宿る覚悟。俺は彼女に最上級の祝福を与えてやった。祝福を感じ取った彼女の驚いた顔は年相応だった。


 その後、暫く王子とその婚約者、魔法使い、そしてなぜか宰相に振り回された。あのインテリ眼鏡、こき使いやがって。……で、こっちに戻ってきた。


 ………三度目の時、あいつはベッドに横たわる老人になっていた。国王になって、王妃と力を合わせて国を治めたこと。結界がなくなっても安全に暮らせるよう魔道具の開発に力をいれたこと。………その魔道具が戦争の道具になってしまったこと。五人の子どもに恵まれ、育児にも参加したこと。


 三番目に生まれた長女が留学した学園で高位貴族を侍らず男爵令嬢がいて、卒業パーティで断罪劇を繰り広げるアホどもに正論パンチを食らわしたと。ぶはっ! まさか他の国でもそんなことあったのかよ。


 子ども達も成人し、結婚して沢山の孫に囲まれたこと。長男に席を譲った後は離宮で王妃と晩年を過ごしたこと。………そして昨年、王妃は静かに息を引き取ったこと。


 王妃は俺が与えた祝福のせいで女神の審判と呼ばれていたという。王妃を前にすると罪を告白してしまうとか。そんな祝福を与えた覚えはないぞ。恐らくだが王妃の真っ直ぐな心根と俺の祝福が合体して新たな祝福が生れたんじゃぁ……。


 そいつは俺と会話ができて満足したのか静かに息を引き取った。


 ………一時間。こっちの世界でたった一時間の出来事だった。


 あいつは最後に言った。「あなたが言った真実の愛を信じる」と……。




 俺は小さく息を吐き出し隣を見ると、黒髪に黒目をした男子高校生が静かに涙を流していた。


 髪の色も目の色も全然違うが面影のある顔立ちだ。そいつは口を開いた。


「……かつて、あなたは僕に言いました」






 真実の愛なら来世でも会えると。






<異世界に三度呼ばれた俺の話ー真実の愛は来世でー>




王妃も生まれ変わって、かつて自分に仕えてくれた女騎士と再会して愛を育んでいるとか……( *´艸`)

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