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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

休校日

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 う~ん、休みというのはいいねえ。

 休み、お金、良い相手。

 これらのいずれも欲しくない、などとのたまうやつがいるなら、そいつは修行者か相当な意地っ張りだろうな。

 どれも、あってくれたならば精神の安定に、おおいに貢献してくれるものだ。世の中、休みを楽しみに働く人だって、大勢いるわけだしな。

「そんなの、建設的じゃないじゃんか!」という意見もごもっともだが、大変さなんていうのは、当人の絶対評価で決まるもの。

 命の洗濯を心待ちにする。その幸せを大事にしていきたいものさ。


 しかし、事前に決まっていた休みならば、まだいい。

 それが臨時の休みだった場合は、いささか気をつけたほうがいいかもな。

 ラッキー! とその時間を堪能しきるのもいいが、休みに入る前と後で、なにか変化したところがないか、気を張っていくのも大切な可能性がある。

 私のむかしの話なんだが、聞いてみないか?


 中学校に通っていたとき。

 学校全体が、急な休みを通達してきたことがある。

 寒くなり始め、インフルエンザでちらほら学級閉鎖も出ていた頃合いだったからねえ。

 よもや私の学年も……と考えていたところに、この報せだった。


 しかし、インフルエンザの流行が原因ならば、そうとはっきり連絡しそうなもの。

 それが今回は、連絡網を通じて「休校である」という旨だけが伝わり、中身がはっきりしていなかった。

 子供たちにとって、どのような理由があろうと、学校が休みというのはうれしいもので、知ったとたんに大喜びで、友達と遊ぶ約束をする子も多かったという。

 インフルエンザのときのように、自宅待機を推奨されていなかったからねえ。


 私はお声がかからなかったのもあるが、ひとりでちょっと出かけてみることにした。

 学校の様子を、少し確かめておこうと思ってね。

 こうも急に休みになるからには、なにかしらの重大事が起こったに違いなく、その片鱗をちらりとでも確かめられたらと考えたわけ。

 徒歩10分あまりの通学路を歩き、学校前までやってくる私。

 校門から見るグラウンド、その後ろの校舎は、普段と変わらないたたずまいだった。

 けれど、問題はその裏手にあった。


 体育館を含めて、ぐるりと迂回する格好になる、学校の裏門。

 そこのほど近くにバスケットゴールが設置されているのだけど、向かい合った二つのゴールの中心部の地面に、異様な盛り上がりがあったんだ。

 初見で私は、それをボウリングで使うボールのように思った。

 黒光りをする球体には、うっすらと樹木の年輪を思わせるような、曲線模様がそこかしこに浮かんでいる。

 大半は地面にうずまっていたが、表に出ている顔の部分は、陽の光を反射しただけとは思えない明るさを放っていた。

 確実に、球そのものが光源となっていたんだ。


 そう悟るや、にわかに黒玉は強い光を放った。

 カメラのフラッシュ並み、その光を不意打ちともなれば、目をくらませるなというほうが難しい。

 私もついまなこを閉じてしまい、ごしごしと腕でぬぐった後に、ぱっと見やる。

 そのときにはもう、黒玉の姿はなくなっていた。けれども、埋まっていたあたりの土の色は、周りの色とは確かに違っていてね。

 あそこに玉があったこと。それが隠されるなりしたことを物語っていたんだ。


 いったい、あれは何だったのだろう。

 そう思い、裏門へ回り込むのももどかしく、その場で学校を囲うフェンスをよじ登って、ゴールへ向かおうとしたのだけど。

 ふと、両目で見る景色が、ほんのわずかな間だけ変わった。

 視線はフェンスのてっぺんから、足元を見下ろす形に。そのたまった落ち葉の上を、しゅっと黒みを帯びたヘビが、身をうねらせながら滑っていく光景だったんだよ。


「え?」と、私はよじ登りかけた手を止める。

 もちろん、登り切っていない私に、あのようなアングルでものを見やることなど、できようはずがなかった。

 しかし、登ることを止めた私の目の前で、あのときよぎった黒ヘビと、同じ姿をしたヘビがフェンス越しに姿を見せる。

 葉の上をうねりながら滑っていくさまは、先ほど見て、記憶に残した軌跡にそっくりだったよ。


 デジャブ? と頭をかしげる私。

 しかし、単純な既視感であったなら、ヘビを見下ろすようなあの視点にはならず、このフェンス越しの視点のまま、うねっていく姿勢が見られそうなもの。

 あれは既視感というより、むしろ未来が見えたようだ。

 子供ながらに、そう直感した。

 たいていの子なら面白がるところだろうけど、私はそう察するや、急に鼻水やくしゃみが出始めて、頭痛も覚え始める。

 風邪かな? とこのときはすぐに家へ帰ったんだ。

 それからも注意はしたけれど、家では同様に未来が見えるようなことはなかった。


 だが翌日。

 登校時間の締め間近で、人がいっぱいの教室へ入った私の目に、また別の景色が飛び込んできた。

 窓際で話しているクラスメート二人。その二人の真ん中を入り込むように、野球の硬球が窓を割って飛び込んでくるのを。その破片が二人の顔を傷つけ、痛がる様子を。

 すぐに引き戻された、「今」の私の視界。

 二人の間にある窓。その彼方に黒い点のようなものが見え、どんどん大きくなっていくのを私は認めた。


「危ない!」


 二人に駆け寄って、割って入るような動きをしつつ、窓枠の下へかがみこむ私。

 二人を押しのけ、隠れ終わるまでと、硬球が窓を破って飛び込んでくるのは、ほぼ同時だった。

 二人は傷つかずに済んだものの、私がカッコよかったのはここまで。


 昨日に数倍する頭痛に襲われ、鼻から噴き出す鼻血を見ながら、私はぶっ倒れた。

 少し意識を失い、気づいたときには保健室のベッドに寝かされていたよ。

 ほどなく現れた保健の先生は、体調の心配こそしてくれたが、その次に「昨日、この学校の近くまで来たか?」と問いただしてきたよ。


 素直に答えると、先生はこの状態、私の頭が知恵熱を起こしたためだと説明してくれた。

 私の見た黒い玉。

 先生たちにも詳しいことは分からないが、あれが発するなにかに「あてられる」と、短時間だが未来が見えるらしいんだ。

 が、どちらかというと科学的なプロセス。

 おそらくだが、と先生が前置いたうえで話してくれたのは、自分が目にするすべての原子、分子の存在と動きの把握。それに自らの知識や記憶をまぶした「未来予測」ともいうべき計算が、脳内で行えるようになるのだと。

 本人の理解が追い付かないほどの高速計算に、人の脳は耐えきれない。

 酷使された細胞がどっと疲れ、こうしてダウンしてしまうわけだ。

 できるならば、目を閉じていればそのうち回復すると、先生は話す。

 脳自体がもう計算をこりごりに思い、予測をやめてしまうからだという。


 例の玉はもうないだろう、とも先生が話してくれた通り、あの土の色が変わった場所を後で入念に確認しても、なにも見つからなかったんだよ。

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