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【ホラー 味】トイレ

 トイレってやっぱり怖い。

 この歳になっても夜トイレに行くのは怖いと感じる。

 でも、小さい時の「怖い」と今の「怖い」は違うんじゃないかと思う。

 小さい時は真っ暗の中に白装束の女の幽霊がいて、トイレに行く俺を追っかけてきたり、便器から出てきたり、用を足して振り返ると立ってたりすると思っていた。

 でも、大人になると、幽霊より人や虫が怖くなる。

 ドアを開けるとゴキブリがいるんじゃないかって思ったり、トイレの明かりを消し忘れてると、一人暮らしの部屋に誰か入り込んでるんじゃないかって思ったりする。

 怖さって歳をとると変わっていくんだろう。他人が怖い、世間が怖い、税金が怖い。

 いつしか無責任に生きてた時の怖いという感情を忘れ、責任そのものが怖いと感じるようになる。それが大人になるということなのかもしれない。



   ***



 最後の句点を打つと、投稿のボタンを押す。なんとか今日も時間通りにブログを更新できた。

 集中が切れたのか急に膀胱が緩くなった。気付かないうちにコーヒーを飲みすぎたらしい。

 散らかったものを避け、リビングドアを開ける。真っ暗な短い廊下はいつもより長く感じる。

 間違ってペットボトルの入ったゴミ袋を蹴ってしまわないように進み、トイレのドアノブに手をかける。

 中は湯白色の明かりが力なく光っていた。長年見慣れた光景だ。そう。ずっとずっと長い間見てきた。小さい時から。


え、、、。


 俺の目の前には古びた実家のトイレがあった。今はもう壊されて、無いはずのぼっとん便所だ。母さんの趣味の悪い花柄のスリッパ。壁には薄ピンクの小さなタイルが貼ってある。あの排泄物が混ざった強烈な臭いが鼻をつく。

 戸惑いつつスリッパを履く。便座の前に立っても何も起こらない。結構限界だった俺は、やむなくそのトイレを使うしかなかった。

 何も起きないことに安心しはじめた俺は、ブログのネタになると考えていた。

 書き始めはどうしよう。「信じられない経験をした」とかだろうか。


 後向きでドアの下枠にスリッパのかかとを当て、揃えながら脱ぐ。


 いや、「今起こったことをありのまま話すぜ」とかがいいだろうか。


 そのまま後ろに下がるとフローリングの冷たい感触が伝わってくる。ドアを閉めようとノブに手をかける。ドアが閉まりきる瞬間、俺の左耳に吐息のような女の声が聞こえた。


 「久しぶり」 

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