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【現代ファンタジー 味】カタチ

 内見で見た時よりも古びてる気がする。


 僕は大学進学を機に大学近くのこの寮に住むことになったのだが、ルームメイトは一人もいない。


 二階建ての古民家を寮として貸し出しているそうだが、最近できた学生マンションや寮に入居者を取られてしまったらしい。


 誰もいないこの古びた寮は、他人と関わるのが苦手な僕にとっては優良物件だ。


 住み始めて一週間が過ぎた頃、異変を感じるようになった。


 座敷でテレビを見ていると、どこからか猫の鳴き声がする。はじめは、野良猫が庭に入ってきたのだと思い、見に行ったけど、見つからなかった。


 鳴き声は家の中からしているように感じた。


 その存在が確信に変わったのは、テレビを見ながらウトウトしていた時だった。

 夕方の再放送のドラマを見ていると、心地よい春風とあたたかな陽ざしで、つい目を瞑っていた。


 テレビの音が遠ざかり、眠りに入りそうになってくると、突然、右頬を舐められた感触があった。

 はじめは気の所為だと思っていた。でも、その感触は右頬からあご、鼻下と動いていった。


 僕はついに勘違いではないと思い、目を開けた。

 目を開けるとその感触は無くなっていた。でも、その犯人は近くにいるはずだ。すかさず周りを見渡す。


 しかし、そこには何も変わらない寂れた座敷がいつものように佇んでいた。


 呆然とする僕に春の風が運んできたのは、またあの鳴き声だった。聞き慣れたあの声だ。


 声の主は僕の右後ろにいるようだ。それは、身体を起こして、両手を後ろについている僕の右手に何度も身体をこすり始めた。


 自分に起こっていることが信じられなかった。何も無い空間に、たしかに小さく拍動する子猫がいる。


 ゆっくりとその空間に左手を伸ばす。途中までスムーズに進んでいた左手がやわらかなものに当たる。その時、小さな鳴き声が聞こえた。


 驚いて手を離してしまった僕に続けろと言わんばかりに鳴く子猫。それに促されて、もう一度その場所を触る。


 毛並みに合わせて撫でると、子猫はゴロゴロと喉を鳴らした。


 しばらく撫でていると子猫は満足したのかどこかに行ってしまった。


 それから大学が始まり、友達はつくれてないけど、忙しい日々を送れてる。


 夕暮れ時、今日も大学の帰り道をとぼとぼ歩く。

 道脇には野良猫がベンチの下でくつろいでいる。


 そういえば、もうご飯が切れそうなんだった。


 僕は子猫のご飯のことを思い出すと、商店街の方へ進路を変えた。






 ※この拙作は、乙一 先生の『しあわせは子猫のかたち』という名作から影響を受けたものです。

理性が最も好きな小説なので、リスペクトを込めて書き上げたのですが、不快に思われた方がいましたら申し訳ございません。

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