【恋愛 味】あの曲
記憶は五感との結び付きが強いらしい。記憶を無くした人を思い出の場所に連れて行ったり、好きだった曲を聞かせたりすると記憶を取り戻すというのをテレビで見たことがある。
カーナビの時計は20時前を表示している。この調子だと待ち合わせ時間に間に合いそうだ。
オーディオに合わせてハンドルを握った右手の人差し指がリズムを刻む。
赤信号に捕まるとオーディオが切り替わり、俺の趣味じゃないピアノ演奏が流れる。
俺はこの曲をよく知ってる。女性アーティストが歌い始める前に記憶が蘇る。
「あー!これ私の好きな曲だ!プレイリストにいれてくれたの!?」
信号が青に変わっても巡り巡る俺の記憶。
「そこ曲がったらもうつくよ」
助手席から彼女の声が聞こえる。
「ねぇ、香水変えた?」
そういえばこの香水、あいつ好きだったな。
曲が流れる間、俺の記憶はどんどん鮮明になっていった。
目的地に着くとハザードをたく。時刻は20時ピッタリ。予定通りだ。
あの曲はもう終わりに差し掛かっている。
コンコンとウインドウを叩く音がする。
俺は手を挙げるとカーナビのボタンを押す。
彼女はドアを開けて座席に座るとシートベルトをつけた。
ギターの演奏が始まると、彼女は驚いた顔をする。
「あ!これ!うちの好きな曲じゃん!?」
ハザードを消し、ギアをDにいれる。アクセルを踏み、俺たちは夜の街に消える。