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日が暮れてゆく街中で

新しく住むアパートが決まったので

今住んでいる家の整理をしていたときのこと。

一冊の日記が出てきたんだ。

日記って言っても、日記帳ってよりかは

ただの大学ノートにラフに思い出を書いたもの。

少し色褪せた青。

俺、何書いてたっけな、と思い開いてみると

そこに書かれていたのは2年も付き合った

彼女との思い出だったのだ。

その彼女とはもう高3の夏に別れてしまったので

もう10年も前の話である。

俺は今さっきまで必死にやっていた片付けの手を

ピタりと止めて、日記を夢中に読みだした。


僕が高2になったとき、彼女と付き合い始めた。

彼女の名前は冬美。

とても無邪気で明るくて笑顔が可愛い子だった。

やっぱり最初はお互い緊張が勝っていた。

学校でも、照れ臭くてなかなか会話が続かない。

俺が「おはよう!」って声かけても

冬美は「お、おはよ、!」とやっぱ照れている。

カップルって最初こんな感じなんだなと思った。

付き合ってから2週間くらいは、ただ毎日学校の

休み時間とか放課後に会話するくらいだった。

だけど彼氏側である俺が動かないと、この恋は

平凡なまま終わってしまうなと思った。

付き合い始めて3週間目のとき、俺は冬美を放課後

誰もいなくなった教室に呼び出した。

「ごめんね!急に!」

「いやいや、全然大丈夫だよ!」

「そう?ならよかった!しかし、クラスが違うって辛いよね。」

「だよね、冬美もマサトと一緒がよかったな。」

「本当そうだよな。」

「うん、あ、てか私に話って何?」

「ああ、それはね。今日放課後暇かなって。」

「私?今日?放課後めっちゃ暇だよ!」

「それならよかった!ほら付き合ってなんだかんだでもう3週間経つからさ、放課後帰り道にあるドンキでちょこっと遊んでから帰らない?って」

「大賛成!私そういうのずっと待ってたのよ!今から行きましょう!」

と、ついに俺は冬美と初デートをすることに。


初デートは学校の帰り道にあるドンキホーテだった。

服屋もゲーセンもフードコートもあったので

ドンキだけで色々楽しめた初デートだった。

甘いバナナクレープを笑顔で頬張る冬美の

あの笑顔を、今でもたまに思い出して

切なさに浸ってしまうときもある。

そしてその時、俺はバイトをしていて結構

お金には余裕があったんだ。

だから彼女に服を一着買ってやったんだ。

そして夜飯もフードコートで彼女にKFCを

大量に奢ってやったんだ。

彼女がチキンを頬張るときの笑顔さえも

まだ思い出せるくらい、初デートの記憶って

恐ろしいほど、濃いものなんだ。

理不尽な校則がにじみ出ているような制服を着て

ふたり、肩寄せ手を繋ぎながら歩き回った店内。

今よく思えば、青春していたなと感じる。


初デートの後からふたりは活発的になっていった。

もちろん、デートの楽しさを知ったからだ。

冬美と俺は、ほぼ毎日放課後学校周辺の街を

歩き回った。いたる店を見つけては入った。

ドンキホーテはもちろん、カラオケやGEO

数々の飲食店、そしてコンビニでアイスを買ったり

冬場はおでんを買ったりして、食べながら帰った。

幸せだった。

毎回のように彼女は俺に微笑んでいた。

きっと彼女も幸せだったのだろう。


その他のデートの思い出といえば3つある。

まず夏休みに行った花火大会。

冬美は俺の着物姿に見とれ

俺は冬美の着物姿に見惚れていた。

たくさん並ぶバラエティ豊かな屋台たち。

熱い熱いと言いながら唐揚げを頬張ったり

かき氷にいろんなシロップをまとめてかけたり

射的や輪投げなどで楽しんだりした。

そんなときこんな会話を冬美とした。

「ねぇ、人が多いからはぐれないでね?」

「大丈夫、彼氏たるもの彼女を見失ってはいけないんだ。どれだけ人の密度が高くなっても、必ず冬美を見つけて手を繋いで歩くと約束するよ。」

「…。ありがと!」

お互い照れながら会場を歩いていた。

そしてついに花火が上がる。

赤青黄緑紫など、色彩豊かな花火の光が

ふたりの顔を鮮やかに照らしていた。

今でも夏になり、汗をかいて過ごしていると

この花火大会の記憶が鮮明によみがえる。


2つめはクリスマスデート。

付き合って8ヶ月も経っていたので

もうこのデートはお互い緊張はなかった。

イルミネーションを見にわざわざ隣町まで行った。

電車の中はカップルと家族とで埋め尽くされていた。

俺は吊り革と冬美の手を掴みながら

だんだん近づくイルミネーションの光を車窓から

眺めていた。

花火よりさらにカラフルな色がふたりを照らす。

雪だるま、サンタクロース、トナカイなど

今にも動き出しそうなくらいリアルに光っていた。

そしてふたりはそのイルミネーション会場にあった

飲食店に入り、フライドチキンとコーラを頼み

「聖なる夜に、乾杯」と、当時は意味も知らずに

そんなことを言いながらコーラで乾杯し

フライドチキンで冷えた体を温めながら

コーラで胃袋にチキンを流し込んでいた。

そして雪のように白く光ったベンチに腰かけ

プレゼントをお互いに渡した。

冬美が俺にくれたのは手編みの赤いマフラー。

俺が冬美にあげたのは、ずっと欲しがっていた化粧品

「今夜は俺が冬美のサンタクロースさ。」

というと、冬美は照れた顔を手で隠し笑った。

雪のようにふたりの絆も順調に積もっていった。


3つ目はふたりの最後のデート。

県内に大きな遊園地があったのでそこに行った。

その遊園地のマスコットキャラクターに抱きつき

無邪気な笑顔で撮った彼女の写真を思い出す。

ジェットコースターでスリルを楽しみ

迷路でふたりの絆を確かめ合ったり

お化け屋敷でふたり絶叫しながらさまよったり

休憩がてら、ハンバーガーやフランクフルトを買い

食べながら次何乗ろうか話し合ったりした。

そして閉園ギリギリまでその遊園地を楽しんだ。

くたくたに疲れた重い足を運んで駅まで行き

電車に揺られ、なんとか無事に帰宅した。


以上が思い出深い冬美とのデートだ。

そしてその遊園地のデート後から徐々にふたりは

性格が合わなくなってきてしまった。

些細なことで喧嘩したり、言い合いしたり

お互いのマイナス面を嫌味らしく言ったり

その関係は、日々エスカレートしていった。

なぜだろう、やはり付き合いたてと言うものは

お互いあまり何も知らない状態だからお互いを

尊重し合い、関係を深めていっていたけど。

お互いのことがよくわかってくるようになると

「尊重」という概念が薄れて、いずれは消え。

ふたりともギスギスした関係になったのだと思う。

もし新しい恋をするならば、お互いを尊重し合う

付き合いたての気持ちを忘れずにしていきたい。


そして高校の卒業式が終わったとき。

俺たちは別れた。

2年という交際期間に幕を閉じたのだ。

もちろん楽しいこともたくさんあった。

後悔はしていないのだが、もっと冬美を大切に

してあげれば良かったとはたまに思う。

別れてから冬美とも1度も会っていない。

もうお互い28か。

結婚したのだろうか、それとも俺みたいに

恋愛に飽き飽きして、ずっと1人だったのか。

それはわからないが、元気で無邪気に笑って

日々、暮らしていることを祈るばかりだ。


俺は日記を閉じ、部屋の片付けを再開した。

ちょうどカーテンから夕焼けの光が差し込んだ。

確か、別れたあの日俺はなかなか家に帰れず

ひとり公園で泣いてから帰ったりもした。

もしかしたら冬美も同じ思いだったのだろうか。

日が暮れてゆく街中で、冬美は泣いたのか。


そんな虚しさと切なさと若干のぬくもりを

抱えながら、俺は部屋の片付けを終わらせていった。


































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